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ep.19

太陽の光が僕のキラキラに反射して、それはそれはきれいな光景だった。


「ケイタ…あなた何者なの?これは…私の住んでいた木よ!すごいわ!そのままだわ!見て!」

大きな木には大きな窪みがあった。

リスの巣でもありそうなそのスペースはルイの寝床にピッタリだろう。


地面にあった大きな窪みは立派な湖になり、辺り一面緑に覆われ、花が咲いた。

見える範囲のほとんどが美しい土地に生まれ変わった。

『素敵ね、こんなところに家を建ててもらえるなんて。』

僕たちはルイを見た。

ルイは頭をポリポリと掻いていた。

僕たちはルイに期待の眼差しを向ける。


「ごめんなさい!!できません!だって木が足りないもの!家を作るのにここに生えている木じゃ足りないでしょ?私の大切なこの大きな木を切れって言うの?無理無理!無理でした!はい、ごめんなさい!」


ルイはそう開き直るように一気にまくし立てると、ひゅーっと下に落ちていった。

そしていつものようにシクシク泣いた。

「だってもっとたくさん木が生えていると思ったんだもん…こんなに荒れてるなんて思わなかったんだもん…ウソをつきたかったわけじゃないもん…」

ルイはシクシク泣きながらブツブツと独り言を言っていた。


「しかたないのぉ。」

バッシシは魔法で一本の木から若い枝を何本も取った。

それを地面に植えて何か呪文を唱えた。


草むらは一瞬で森になった。

ルイはビクッとして起き上がった。

「バッシシ、あなた、何者なの?天才なの???」

ルイの表情は明るくなり、嬉しそうに飛びまわった。

「いかにも。わしは天才、大魔法使いバッシシじゃ。」

バッシシはドヤ顔で胸を張ってそう言った。


「これだけあれば、小さな家なら建てられそうね!大きな家がいいなら少しずつ増築すればいいし。では建てましょう!みんなの力で!」

ルイは僕たちにも手伝わせるようだ。

「どんな家がいいの?」

僕はそう聞かれて困った。

僕に家を建てる夢なんてなかった。


「カナさんはどんな家がいいと思いますか?」

『えっ?私?』

カナさんはもじもじしながら『笑わないでね』と言ってあるものを見せてくれた。

『これね、私が小さい頃に夢中になって集めていたおもちゃなの。』

そこには動物の姿の人形と三角屋根の家に木製の家具が置かれていた。


『稼いだお金でね、懐かしくて…ちょっと無駄遣いしちゃった。』

カナさんは申し訳なさそうにそう言った。

「カナさんが稼いだお金で何を買おうと誰も何も言いませんよ!」

『かわいいわね!でも私には少しサイズが小さいみたいよ、カナ。』

ルイはいつの間にかスマホの中にいて、おもちゃの家の中のベッドに横になっていた。

確かにルイのサイズではない。

『こんな感じがいいのね?すごくわかりやすいわ!』

ルイはそう言うとこちらに戻ってきて、森の上を飛びまわった。


森の木は一瞬で丸太に変わり、湖の近くの平地に次々と飛んでいった。

丸太は溝がつけられ、上手く組み合わさり、あっという間に三角屋根のログハウスが出来上がった。


僕たちは呆気にとられ、パチパチと拍手をした。

ルイはすごい能力の持ち主だ。

「まだ外側しかないわよ。床板をはったり、窓をつけたり、やることはたくさんあるのよ。みんなも手伝いなさい。」

ルイはあっという間に丸太を板材にした。

「ちなみにガラスは私じゃ作れないわよ?」

『それなら窓は私が!遺跡で拾ったお宝がとんでもない値段で売れたから資金はたくさんあるのよ。』

カナさんは通販サイトで窓枠付きの断熱効果の高い窓を買ってきた。

(そんなものまで売ってるとは)

様々な大きさがあり、大きなものはベランダ用にした。

ルイは上手に壁をくり抜いて窓をはめ込んだ。

湖側につけたベランダには素敵なウッドデッキを作ってくれた。


ルイが並べてくれた床材を僕とバッシシで釘打ちした。

この世界の家は日本と違って靴を脱がないでそのまま上がるタイプだ。

僕にはそれがどうにも違和感がある。

それをみんなに言うと靴を脱ぐ?と首を傾げていたが、「ケイタの家だから」と玄関を作ることに同意してくれた。

ルイにそう伝えるとカナさんと相談して玄関に一段低い土間を作り、下駄箱も作ってくれた。


それからカナさんはふかふかの絨毯を買ってくれた。

落ち着いたグリーン色の絨毯は見ているだけで癒やし効果がありそうだ。

最初は首を傾げていたバッシシとライハルトだったが、一度絨毯の上に転がると、「これはいい」と喜んだ。


ソファやローテーブルなどの家具もカナさんがどんどん用意してくれた。

『私の趣味でいいのかしら?』

と言いながらすごく楽しそうだったので、僕は「僕にはセンスがないのでお任せしたい」とカナさんに一任した。


そして僕たちの家はとりあえず完成した。

まだ広間しかないけれど、それでも立派な家だった。


「疲れたわね。カナ、何か美味しい物を食べさせてよ。」

ルイはカナさんの料理の虜になっていた。

食事のたびにライハルトとの死闘が繰り広げられる。

まだダイニングテーブルがないのでみんなでソファのところにあるテーブルで座って食べた。

初めて食べるうどんにみんなは喜んでいた。

僕も出汁のきいた汁が懐かしくて、ついおかわりまでしてしまった。


「これないかんなぁ。」

バッシシは食後に絨毯の上でゴロゴロしながらそう言った。

「いいでしょう。この感じ。」

僕も隣でゴロンと横になった。

このまま昼寝とかしたら最高だろうな。


「ダメよ。夜までにベッドルームを作らないと。」


────


バッシシはエンドレスで木を植えて成長させた。

僕はルイが作ってくれた木材でダイニングテーブルを作ることにした。

太い幹の1枚板の板材だ。

(買うと高そうだな)

カナさんがそういうの憧れるわ〜というので僕はチャレンジしているわけである。


スマホで仕組みを確認し、長さを測り板を切り、素人の僕にはとても大変な作業だった。


────


そして日が暮れてきた頃、三角屋根のログハウスは増築され、渡り廊下で繋がる円形の居室の棟ができた。

「面白い造りじゃな。」

(オモリにあるバッシシの家も相当面白い造りだけど)

2階建てになっていて、ドアは6個あった。

「私とペグちゃんは1階の真ん中にするわね!」

ルイはどうやらここで一緒に住むつもりのようだ。

「僕は上がいい!」

ライハルトは2階の真ん中を選んだ。

「ジジィは階段はパスじゃ。」

バッシシが1階の右手を選んだので僕はその上を選んだ。


『ベッドや家具は私が揃えるわね!』

カナさんは楽しそうにサイトを見ていた。

「あの、資金は大丈夫ですか?」

『えぇ、あの、実は家を一軒建てるくらいの資金は貯まってるのよ。』

「えぇ???」

遺跡でみつけた宝物や宝石は本物だったらしい。

『錆びていた盃とかね、あれ、純金だったのよ。ほら、今すごく金が高く売れるでしょ?それにポーションもたくさん作れたから。えへへ。』

カナさんは本当にやり手だ。


でき上がった部屋に次々と家具を入れていく。

『いいわねぇ!新しいお家って!』

カナさんが羨ましそうにそう言うと、

「カナはどの部屋にする?上?下?」とルイが聞いた。

『私はそっちに住めないから…』

カナさんの表情が曇った。


「なぜ?こっちに来ればいいじゃない。」


ルイはそう言うとスマホをちょこんと叩いた。

ドシンと音がして、そこには。


そこにはカナさんがいた。


「えぇぇぇ?????」


─────


ダイニングテーブルをみんなで囲んでいる。


「あはは、なんだか変な感じよね。お化粧ちゃんとしておけばよかったわ。」

カナさんは思っていたよりも小柄で生で見てもよく笑う人だった。


まだキッチンがないので晩ごはんは外で僕が作った。

「何かの肉を焼いたやつと、何かの野菜のグリルです。」

串に刺して焼いただけの料理だった。

ここに来た当初はこんな食事ばかりだったっけ。

「不思議よね!こっちに来た途端すごくお腹が空いたのよ!」

カナさんは終始上機嫌だった。


「ねぇ、ルイ。前にさ、カナさんに仲間?って言ってたよね?あれってどういう意味だったの?」

「ん?カナが守人に見えたから、そう聞いただけだよ。」

「私が?」

「そう、ここにいるみんなを守っているのがカナに見えたの。」

「私はただのお金好きのおばさんよー。」

(間違ってはいない)

「でもその通りだよ。カナさんはいつだってみんなのことを守ってくれていたよ。本当にありがとう。こうして一緒にご飯が食べられて本当に嬉しいです。」


カナさんは僕がそう言うと泣きだしてしまった。

「ススが目に入ったのかしら。嫌だわ。」

そう言ってごまかしていたけれど。


きっと自分だけスマホの中にいて、どうして私だけと何度も思っただろう。

僕たちがピンチでも見ていることしかできない自分を恨んだりもしたかもしれない。


楽しい食事だった。

料理はイマイチだったし、家はまだ完成とはいかないけど。


僕はいつの間にか自分の気持ちを言葉にすることができるようになっていた。

これってすごいことだし、大切なことだ。

【言葉は伝えないともったいない】

僕の母親が言っていた言葉だ。


僕は不意にそれを思い出して、深く後悔をした。

もう僕には父さんにも母さんにも姉さんにも、何一つ伝えられないんだ。


僕はもう泣かないと決めた。

今の運命を受け止めて前を向くと決めた。

だけど、どうしても許せないんだ。

悔しくて、腹が立つ。

過ぎたことは変えられない。

そんなことはわかっている。

でも僕にはあの世界での未来もないんだ。


満天の星空を仰ぎながら、僕は子供のように泣いてしまった。

バッシシを見て父親を思い出し、ルイを見て姉さんを思い出す。

そしてなによりカナさんが目の前にいて、母さんとは全く似ていないのに、どうしても母さんを思い出してしまうんだ。


みんな僕が急に泣き出したから驚いていた。

でも何も聞かずにただ側にいてくれた。


優しい人たち。

優しい世界。


僕はこの後悔を一生背負っていく。

世界は違うけれど、二度とこんな思いはしたくない。


父さん、母さん、姉さん、僕は生きているよ。

今度はちゃんと、死にたいなんて思わずに。

だから悲しまないでほしい。

こんな僕のために心を傷めないでほしい。


神様がいるなら、僕は祈る。

僕の家族が幸せでいられるように。


あの世界の家族と、この世界の家族も。


────

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