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ep.16

『あのね、私、できちゃったみたいなの。』

朝食を食べているとカナさんがいきなりそう言った。

ドラマの中でありそうな、妊娠を告げる若い女性のような言い方だった。

「何ができたんですか?」

『ポーション?ほら、回復薬よ。』

「カナ!すごいな!薬剤師になったのか?」

ポーションは街の薬屋で売っていた。

しかしどれも高価で僕たちは買おうとしたことがない。

傷や熱くらいなら僕の治癒魔法で治せるようになっていた。

『あのね、私の特性に【調合】っていうのが追加されててね。魔物の解体をしてるうちに急に何かが見えてきたのよ。』

カナさんが言うには、急に目の前に画面のようなものが現れてポーションの材料がわかったのだと言う。

持っていたハーブに解体した魔物の肝を使うとそれはできた。

つまり材料が揃った時点でレシピが現れたのだ。


『どうやら魔力回復のポーションなのよ。売ることもできてすごく高価なの!』

カナさんは売りたそうな顔をしている。

「僕のことは気にしないでカナさんの好きにしていいですよ。」

『だめよ!とりあえず北の荒れ地で使うかもしれないから、作れるだけ作っておくわ。でも必要なかったら売るわね!』

(やっぱり売りたそうだ)


「どれくらいの効果があるんですかね?」

『自分で試してみたらね、ランダムなんだけど概ね100くらい回復したわ。』

僕の今のMPは2500くらいだ。

25本の得体のしれない物を飲むと思っただけで胸焼けがしてきた。

できれば使わないで済ませたい。


『解体の特性もついたのよ!楽しいわね〜慣れるとスルスルできて。また他にもレシピが出るかもしれないから、今日は解体に専念させてもらいたいの。お昼ご飯と晩ごはんをケイタくんにお願いしてもいいかしら?言ってくれたら必要な材料は揃えるわ。』

「はい!任せてください!いつも頼りきっててごめんなさい。何かリクエストはありますか?」

『そうね、私は食べなくても問題ないからアレなんだけど。強いて言えば洋食かしら?私が得意なのは和食だから。』

「承知しました!考えてみますね。」

「ケイタ!買い物に行こうぜ!」

「そうだね。」

僕はライハルトと街の店に行くことにした。

バッシシは用事があると言って朝早くから出かけていた。

僕はカナさんにお小遣いをもらって家を出た。

おつかいに行くみたいでなんだか恥ずかしくなった。


────


城下町は今日も賑わっていた。

城のまわりの魔物が減ったとかで、品物もいつもより多く並んで安く売っているらしい。

「僕たちが魔物を狩り尽くしたからからな!僕たちのおかげだよな!」

ライハルトはドヤ顔をしていた。

確かにレベル上げのために魔物がいそうなところは全てまわった気がする。


この国の食べ物はあまり美味しくない。

その中で美味しい物を探して買わないといけない。

「ジューシーな肉はどれかな?ライハルトわかる?」

「僕が小さいときに食べてたものは全て高級品だよ。多分、街の店には売ってないやつだろ。」

そうだった。

ライハルトは皇子だった。


僕の見立てにかかっている。

絶対にカナさんに美味しい物を食べてほしい。

「クセがなくて程よく脂ののった肉が欲しいんですが。」

僕は失敗したくなくて店主に尋ねた。

「それならこれがオススメだよ!臭みもない、霜降り肉だ!」

確かにすごく美味しそうだった。

買おうとしたけど手持ちのお金では足りなかった。

「すみません。お金が足りないので出直します。」


「なんだよ!あの肉、すっごい美味しそうだったのに!」

「本当にお金が足りないんだよ。でも買いたいよね。」

スマホは家に置いてきたのでカナさんにお金をもらうことはできない。

何か売れるものはないか。

僕はポケットの中を探した。

買い物リストを書いたメモ帳と鉛筆が入っていた。

これを売ったとしてもたいしたお金にはならないだろう。


僕はあることを思いついた。

実は僕には特技があったのだ。


────


店がたくさん並ぶ通りに大きな噴水があった。

僕はそこに座り、ライハルトに動くなと言って絵を描いた。

そう、僕は絵が得意だった。

美術の先生に才能がもったいないとよく言われていた。

「なぁ、つまんないんだけど!」

僕はサラサラと描いたライハルトの絵を見せた。

「かわいいだろ?」

「なんだよ!猫じゃないかよ!僕は猫じゃないって言ってるだろうっ!」

僕は怒るライハルトの絵を何枚か描いた。

それをハンカチを広げた上に置いた。


一人の少女が近寄ってきた。

「これ、なあに?」

「似顔絵って言うんだよ。1枚銅貨5枚で描くよ。」

相場がわからないので金額は適当に言った。

あの肉を買うには20枚は描かないといけないが。

それも売れないと意味がない。

この世界の人が似顔絵に興味を示すかどうかだ。


「私の顔をこうしてくれるの?」

「そうだよ。」

少女は母親を呼びに行った。

「まぁ、これは紙?!珍しいわね。」

少女は銅貨5枚をよこせと母親にせがんだ。

「仕方ないわね。」

「お兄ちゃん、1枚ください!」

「まいどあり。」

僕は少女を目の前に立たせた。

ほんの3分くらいで完成した。


「はい、どうかな?」

「これが、私?」

少女は母親に見せた。

「まぁ!かわいい私のパディーだわ!素晴らしいわ!ありがとう!」

少女よりも母親が喜んだ。

その声を聞いて他の人も集まってきた。


それからは大忙しだった。

あっという間に行列ができて、僕のメモ帳はあっという間になくなりそうだった。

「すみません。材料がなくなりました。」

僕は枚数を数えて後ろの方の人たちに謝った。

「いつ再開する?ぜひ娘のもほしいのだが。」

僕はリュックにまだノートがあったのを思い出した。

「ライハルト、家に戻って僕の鞄から持ってきてくれるかな?これくらいの大きさの紙の束なんだけど。」

「これの大きいやつだな?任せろ!」

ライハルトは走って行ってくれた。

僕は残り少ないメモ帳に並んでいる人たちの似顔絵を次々と描いた。

(ナイフを持っていてよかった)

鉛筆削りなんて持ってきていない。


メモ帳がなくなりそうになったとき、ライハルトがノートを咥えて持ってきてくれた。

「これだろ?」

「ありがとう!これこれ。」

国語のノートには黒板の板書が書かれていた。

古文なんて勉強してもしかたないって途中からノートを取るのもやめたっけ。


白いページがたくさん残っていた。

「サイズが大きくなったので銅貨7枚でもいいですか?」

「構わんよ!」

僕のまわりは人だかりになっていた。

1時間ほど描き続けただろうか。

ノートもなくなってしまった。

「すみません。閉店です!」

僕はまたお願いしますと頭を下げて謝った。


「ケイタ!肉買えるか?」

「うん。たくさん買えそうだよ。」


────


絵を描くことに夢中になっていて、お昼ご飯のことを忘れていた。

僕は急いで家に帰った。

バッシシはまだ帰ってきていない。

「カナさん!ごめんなさい!昼ごはんも頼まれていたのに、すっかり忘れてしまって。」

『あら、もう3時なのね。私も気がつかなかったわ!何か食べる?』

カナさんはそう言って朝の残りのパンをくれた。

ライハルトも絵の売り子をしてくれて忙しくしていてお腹が空いたのに気がつかなかったそうだ。

「晩ごはんは期待してください。僕とライハルトで稼いだお金でいい肉を買いましたから。」

『あら、お金が足りなかったの?言ってくれたらよかったのに。』

「カナ!ケイタは凄いんだぞ!にがおえってやつであっという間にお金を稼いだんだ!」

ライハルトは試しに描いたライハルトの絵をカナさんに見せた。

『まぁかわいい!!ケイタくん、上手ねぇ!』

僕はなんだか照れて「珍しがって売れただけですよ」と答えた。

僕は仕込みをすると言ってキッチンに移動した。

ライハルトは疲れたようでベッドに潜り込んだ。

カナさんは解体が楽しくてしかたないようですぐに作業に戻っていった。


────


バッシシは夕方になってやっと帰ってきた。

何をしていたのかわからないが疲れた顔をしていた。

「なんだかうまそうなにおいがするのぉ。腹が減って死にそうじゃわい。」


僕はテーブルに次々と料理を並べた。

「何かの肉のステーキと付け合せに何かの野菜のグラッセとソテー。フォカッチャとコーンっぽい野菜のスープになります。デザートにはガトーショコラをご用意してあります。」


カナさんはレストランみたいと喜んでいた。

「いただきます!」

僕はナイフとフォークの使い方を2人に教えた。

ライハルトには難しかったようで僕が切り分けた。

バッシシは器用に使い、美しく食べてくれた。

「これはうまい!なんの肉だって?」

バッシシはおかわりをした。

「何だったかな?エペッパとか言う…」

「ほぉ、珍しい魔物じゃよ。頭が虎で同体が牛、尾の部分に蛇のようなものがついておる。」

僕の知っているキマイラに似ている。

みつけたら食料にしよう。


みんな大喜びで楽しい夕食になった。

バッシシとライハルトは疲れていると早めに寝てしまった。

僕はほとんど表紙だけになったノートを手に取った。

特技がお金になるっていうのは初体験だった。

自分で稼いだという実感があった。

みんなが喜んで、褒めてくれて、笑顔になった。

今までに味わったことのない気持ちだった。


僕は表紙の裏側に絵を描いた。

ライハルトを真ん中に、右側にバッシシ、左側にカナさん、ライハルトの後ろに僕を描いた。


自分の顔はなんとなくしか覚えていないから似ていないかもしれない。

でもみんなの顔は何も見ないで描ける。


みんな笑顔。

僕の日常。


これが、今の僕だ。


────


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