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ep.15

「下がっておれ!」


バッシシは僕たちを後ろに突き飛ばした。

半透明だった魔物はゆっくりと腕を広げ、まるで闇を集めているかのように、その姿はみるみるうちに黒くなってきた。


バッシシは僕とライハルトに結界を張ってくれた。

赤黒いオーラが魔物のまわりをぐるぐる回っている。

バッシシは今まで見たこともないすごい魔法を使っているように見えた。

黒い魔物はもの凄い速さの黒い何かをバッシシに向けて飛ばしてくる。

バッシシは風魔法を上手く使って避けながらも攻撃を繰り出している。

しかしその攻撃のすべてが黒い魔物の闇に飲まれていくように消えていった。


バッシシに攻撃が当たっていないとはいえ、こちらの攻撃も効いているようには見えない。

消耗戦になったらまずい気がする。


僕たちは安全な結界の中で応援することしかできなかった。

『ねぇ、ケイタくん。あの魔物、泣いているように見えない?』

カナさんに言われて魔物の顔を見ると確かに黒い涙が流れているように見える。


“ た す け て ”


僕の頭の中に直接響いたような気がした。

(助けてって言ってる?あの魔物が?)


バッシシの動きが悪くなってきた。

逃げながら攻撃し続けている。

相手は疲れる様子もない。


“ た す け て ”


僕に助けを求めるのは誰?

僕は魔物をみつめた。

魔物の真っ黒な闇の中に一人の男性の姿が見えた。

「カザミレン?」

僕がそう言うと魔物はピクッとして一瞬動きが止まった。


「カザミレンじゃと?!そんなバケモノにわしが勝てるわけないわ!!おまえら!逃げろ!!」

バッシシは竜巻のような大きな渦を出し、魔物の動きを止めていた。


「バッシシ様!そんな!!」

ライハルトは悲痛な声を出した。

(逃げる?でも助けてって…)


「早く逃げろ!もうわしじゃ抑えきれん!」

ライハルトは泣きそうになりながらバッシシさんの元に向かった。

「僕も戦う!ケイタはカナを連れて逃げろ!」

6歳の子供が僕に逃げろと盾になりに行った。

なんだこれ、こんなことあっていいのか?


魔物を睨みつけるとうっすら見えている男性が黒い魔物を押さえ込もうと抱きついているように見えた。


(助けたい!!)


僕は本能でそう思ってしまった。

そして無意識に両手を天に向けていた。


「僕が助ける!!!」


真っ暗な部屋が光に包まれた。

バッシシとライハルトがビックリした顔でこちらを見ているのが見えた。

黒い魔物は…見えない。

(やった?のか?)


2人がこちらに駆けつけてくるのがスローモーションのように見えた。

黒い魔物はぐるぐる回る光に包まれ、この世の物とは思えない悲鳴をあげている。

そして粉々になったかと思うとサラサラと消えていった。


消えたあとにはあの男性が立っていた。

“ありがとう 勇敢な人たちよ”

そう言ってニコリと笑うと僕の方にやって来て頭を撫でた。


“やっと天国に行けそうです あなたのおかげだ”


「カザミ…レン?」

僕がやっとのことでそれだけ言うと男性は小さく頷いて僕に小さな箱を渡した。


“時が来た ありがとう”


そう言うと男性は光に包まれたまま天へと昇っていった。


────


僕が目を覚ますと心配した顔のバッシシとライハルトと目が合った。

2人ともボロボロで汚い格好をしていた。

「2人ともボロボロだね。」

僕がそう言うとライハルトは猫パンチをしてきた。

「バカケイタ!死んだかと思ったじゃないか!!」


バッシシは安心したかのように立ち上がり、自分に杖を向けた。

土埃だらけだった姿は一瞬できれいになった。

「カナよ、コーヒーを淹れてくれんかの。」

『はい!すぐに!』

カナさんも心配してくれていたようで泣いた跡があった。


────


僕がキラキラを出したあと、僕には男性が見えたし、声も聞こえた。

しかしみんなにはそれが見えなかったし聞こえなかったのだという。

だから僕は見えない何かと話をしているように見えたそうだ。

「ケイタ、頭おかしくなったかと思ったよ。お迎えが来ちゃったのかなってさ!」

「ごめんよ。あの魔法を使って魔力が切れたみたいだ。」

「息もしてなくて、本当に死んだかと思ったよ!!」

「えぇ?!僕、死んでたのかな?!」

「呼吸が浅すぎて止まったように見えただけじゃろう。カナよ、コーヒーに合う菓子はないかな?」

『昨日焼いたクッキーがありますよ!』

バッシシはいつものようにティータイムを楽しんでいた。

しかしその表情は疲れきっていて、引きつっているように見えた。

カップを持つ手は少し震えていた。

きっとすごく心配してくれたのだろう。


「それでケイタよ、その手の中の箱はなんじゃ?」

僕は小さな箱を握りしめていた。

『接ぎ木細工みたいね!きれいな箱!』

日本の工芸品にこういうものがあるのを知っていた。

パズルのようになっていて、開けるのが大変なやつもある。

「開かないや。正しい手順で何かをしないと開かない仕掛けになってるようです。」

カザミレンはパズルやこういう物が好きだったんだな。


「ボスを倒したのに宝箱はなくてその小さい箱だけかよ!」

ライハルトは不服そうだった。

「そこらにに落ちてる宝石でも拾っていけばよかろう。」

よく見ると足元にはキラキラ光る石がたくさん落ちていた。

『ライちゃん!全部拾って!!』

カナさんの目も輝いていた。

「任せろ!」


部屋の隅に魔法陣ができていた。

「転移の魔法陣じゃろう。この遺跡を作った者は本当にすごい魔法使いじゃ。」


この暗い場所で、邪悪なものに支配されて、どれくらいの時間をここで過ごしたのだろうか。


(風見蓮さん、安らかにお眠りください)

「お疲れ様でした。」

僕は帰る前にこっそり黙祷を捧げた。


────


魔法陣を踏むと、遺跡の入口から少し離れた場所に転移した。

僕たちは賑わう人たちを横目にまっすぐバッシシの転移のドアへと向かった。

みんな疲れていて口数は少なかった。


帰るとバッシシはすぐにお風呂に入れてくれた。

土埃だらけの汚い僕とライハルトにはありがたかった。

『洗濯するわね!新しい服を買ったから、着替えてね!サイズはよくわからなかったけど、主人と同じくらいの背丈だから主人のサイズで買ったのよ。合わなかったら買い直すから言ってちょうだいね!』

「カナさん、そんなことまでありがとうございます。大事に着ます。」

うふふと言ってカナさんは嬉しそうにしていた。


風呂上がりに着た新しい服は僕にピッタリだった。

カナさんには子供がいない。

僕に旦那さんを重ねているのか、子供がいたら、と思っているのか。

どっちにしても少し悲しい。


────


『ケイタくん!レベルが100を超えたわよ!!』

僕のMPはバッシシさんとほぼ同じになっていた。

「バッシシさん、僕そろそろ…」

「行ってみるかの?」

「はい!」

バッシシは髭を撫でながらにこやかに僕を見た。

「ジジィは疲れとるでな、2、3日休みをくれんか?」

「はい!もちろんです!」

バッシシの疲れが取れたら北の荒れ地に向かうことになった。

ライハルトに伝えると真面目な顔になって、「やっとかよ。」と、つぶやいた。


よく見るとライハルトは大きくなっていた。

まだ子猫といえば子猫だが、体がしっかりしたように見える。

猫の成長は早いのだろう。

(中身は6歳の子供なのにな)

僕はあの時、僕に逃げろと言ったライハルトのことを思い出した。

「お前は本当に勇敢な猫だな!」

僕はライハルトを捕まえてグリグリと撫でた。

「なんだよ!離せよっ!!僕は猫なんかじゃないってば!!」

『まぁまぁ、仲がいいわね!美味しそうなチョコレートを買ったのよ、みんなで食べましょう!』

「よきかなよきかな。カナよ、コーヒーを淹れてくれんかの。」

『淹れたてですよ。』

カナさんはみんなに飲み物とチョコレートを出してくれた。

(この人にいつも支えられてきたな)

「カナさん、いつも本当にありがとうございます。」

僕は丁寧にお礼をして頭を下げた。

『なによ?そんなにチョコレートが嬉しかった?頑張ったご褒美よ〜!私も食べちゃおっと。』

カナさんはそう言いながら少し照れていた。

ライハルトは口のまわりにチョコをたくさんつけて、「カナ!おかわり!」とテーブルを叩いた。

「カナよ、わしももう一粒もらえんかの?」

『はいはい、たくさんありますよ。』


優しい時間が流れていた。

昨日あんなことがあったのに、この人たちは愚痴も泣き言も言わない。

怖かったはずなのに、今は何も言わずに笑っている。

なんて強い人たちなんだろう。


僕はこの人たちが好きだ。


人間に興味のなかった僕だったけど、今は自信を持って言える。

僕はこの人たちの笑顔を守るためならなんでもできる気がする。


この人たちは、この世界で唯一の、僕の愛すべき家族だ。


────



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