ep.14
「砂漠に遺跡があるそうじゃ。行ってみるかの?」
洞窟の遺跡を攻略してから2日後、バッシシが街で遺跡の話を聞いてきた。
なんでも最近みつかったばかりの遺跡だという。
王都から西に向かうと砂漠がある。
バッシシの転移のドアもその砂漠に通じている。
「遺跡があるなんて気がつきませんでしたね。」
何度も行っている場所なので僕は不思議に思った。
「なんでも砂漠の下には何があるのかと調べようとした変な男がいるみたいでな。そこに入口があったんじゃと。」
確かに僕たちは砂漠を掘ったりしていない。
変わったことを考える人もいたもんだ。
────
砂漠は冒険者たちで賑わっていた。
まだ誰もみつけていないお宝があるかもしれないと人々がやってくる。
「しばらくは魔物も狩れないのぉ。」
バッシシも初めて入る遺跡に興味津々でキョロキョロしながら歩いた。
壁は砂を固めたような色だった。
強度は大丈夫なのだろうか。
時々ハリネズミのような魔物が出た。
ライハルトよりも小さくて、なんだかかわいい顔をしている。
僕たちが倒すべきはもっと大きな強そうな魔物だ。
ライハルトを先頭にサクサク進んでいった。
まだ人がたくさんいて、どこかの観光地のようになっている。
「どこかに階段とかないかの?」
迷路のような通路を進む。
スマホの地図には歩いた場所しか出てこない。
どういう仕組みなのかわからないけど、この地図は地上の地図とは違うもののようだ。
『地図を埋めていくなんてゲームみたいよね。』
(カナさんもそういうゲームに興味があったのかな)
地図上に明らかに怪しい空間をみつけた。
「ここに何かあると思います。」
僕たちはその空間の壁を調べた。
指がやっと入るような隙間があって何かに触れると壁が動いた。
中に階段があった。
僕たちが階段まで行くと壁は元に戻った。
「この遺跡、所々に魔法の痕跡があるのぉ。気をつけて進むべきかもしれん。」
バッシシはライハルトに向かってそう言ったが、ライハルトは気にせずにどんどん進んでいった。
「何かあるよ!」
そこには小さな泉があった。
円形の部屋の真ん中にぽっかり穴が開いて水が溜まっている。
部屋には他に何もない。
壁や天井にも何もないように見える。
「行き止まりかのぉ?戻るか。」
バッシシは階段の方へ向かった。
僕の目に泉に何か光るものがうつった。
「バッシシさん!ちょっと待ってください。」
僕は腕まくりをして泉に腕を突っ込んだ。
ぐるぐるかき回してみたが何もない。
「何かあるのか?」
ライハルトも泉を覗きこんだ。
「底なのかな?何か光るものが見えるんだよ。」
「本当だ。何かあるように見えるね。」
「ほほぉ!確かに確かに。これはアレだな。行くぞ。」
バッシシはそう言うと杖で自分をちょんと突くと泉の中にドボンと入って行った。
「えぇー?!」
僕が驚いていると、「泳ぐのか!任せろ!」とライハルトも中に入って行った。
僕は泳げないわけではないが潜水は得意ではない。
バッシシもライハルトも浮かんでこない。
僕はスマホをポケットに入れた。
息を大きく吸って泉に飛び込んだ。
────
泳ぐ間もなくどこかに落ちた。
「いてて…ここは?」
天井を見ると泉が見える。
「ケイタ!ビショビショだな!」
ライハルトもビショビショだった。
バッシシだけが濡れていない。
きっと濡れないように飛び込む前に何か魔法をかけたんだろう。
「この泉、浮いてますよね?何か見えない壁があるんでしょうか?」
「わからん。水のトンネルになっておる。ここを作った者は面白い魔法を使うのぉ。」
僕はポカンと天井に浮かぶ不思議な泉を眺めた。
スマホは無事だった。
僕のスマホは防水仕様だったけど、壊れないか心配だった。
バッシシが温風を出して僕たちを乾かしてくれた。
『ちょうどいいからここでお昼にしましょう。』
カナさんは今日はサンドイッチを作ってくれた。
「カナ!ツナマヨだね!」
ライハルトはサンドイッチになってもツナマヨが好きなようだ。
「おぬしらの国の食べ物は本当にうまいのぉ。店でも開いたら人気になるぞい。」
それは僕も思ったことがある。
しかしカナさんだけがあちらの食材を手に入れられるとわかったら、悪い奴らに狙われかねない。
それは絶対に避けないといけない。
────
食事を終えた僕たちは先に進むことにした。
相変わらず砂色の壁が続く。
何かに吸い込まれていくような気持ちになる。
アルマジロのような魔物が出てきた。
僕たちは倒しながらサクサクと進んでいく。
この遺跡は変わった仕掛けが多い。
パズルのような石版を組み合わせるものや、所定の場所にある物を置くと動く仕掛けがあった。
まるで脱出ゲームのようだった。
「ケイタ、よくわかるのぉ?」
「あ、前の世界で似たようなものを見たことがあって。」
「へぇー。結構過酷な世界で生きてたんだな。」
ライハルトはパズルを見ながら同情するようにそう言った。
(ある意味、過酷な世界ではあったけど多分意味が違うな)
謎解きは難しかったが魔物は強くなかった。
これではレベル上げの意味があまりない。
カナさんの力も借りて僕たちはその脱出ゲームのような仕掛けを次々と説いていった。
そして大きな扉の前に出た。
────
鍵穴はないようだ。
しかし扉には不自然な四角い溝がある。
ここに何かをはめろと言うのだろうか。
部屋は照明がついていて明るい。
しかしこの部屋にも何かがあるようには見えない。
あるのは四角い石が所々に転がっているだけだ。
「また行き止まりじゃのぉ。わしは疲れたから少し休むわい。」
バッシシはそう言ってカナさんにコーヒーを淹れてもらうことにしたようだ。
「もっとガオーッて出てきた魔物をバーンって倒してバババーって扉が開けば楽なのになぁ。なんだよこの石ころ。変な記号が書いてるよ。」
ライハルトはそう言って石ころを蹴った。
転がってきた石を拾い上げて驚いた。
そこには紛れもなく【な】というひらがなが書かれていたのである。
僕は他の石も拾い上げた。
今度は【み】と書かれている。
「ライハルト!この石を集めてくれないか!」
「何か閃いたのか!任せろ!」
僕は集めた石をカナさんに見せた。
『ケイタくん、これって…ひらがなよね?』
「はい、どう見てもそれにしか見えません。」
ここに僕たち以外の日本人が居たということだろう。
同じようにやって来たのか。
どこかにいるのなら、ぜひ会ってみたい。
「集めたぞ!いっぱいあったぞ!」
どの石にもひらがなが1文字刻まれていた。
50音全てあるわけではないが、濁音や半濁音もある。
扉の溝から考えると4文字か5文字だろう。
僕はカナさんの知恵を借りることにした。
「何か言葉を作ると思うのですが。」
『何かしらねぇ?【ありがとう】とかどうかしら?』
カナさんらしい答えで僕はなんとなくほっこりした。
扉に【ありがとう】をはめ込んでみた。
「5文字で間違いなさそうですが、答えは違うみたいですね。」
それから片っ端から単語を作りはめていった。
ライハルトは飽きてバッシシの膝の上で寝てしまった。
「こういう時に呪文みたいなのありませんでしたっけ?ひらけ!みたいなやつ。」
『【ひらけごま】だわ!それよ!』
「それだ!」
僕は文字を探してはめ込んだ。
扉はガガガガと大きな音を立てて上に上がっていった。
すぐに閉まりそうな雰囲気がする。
「バッシシさん!急いで向こう側へ行きましょう!」
「あい、わかった!」
バッシシさんは僕の腕を掴み風魔法で隣の部屋に移動した。
その瞬間扉はドンッと降りてきた。
「危なかったな!さすがバッシシ様!」
バッシシの魔法がなかったら通り抜ける前に閉じていたかもしれない。
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扉の先は神殿のような大理石で作られていた。
天井は高く、彫刻が施されている。
壁には大きな絵画が飾られていた。
『美しい場所ね。』
カナさんはこういうのが好きなようだ。
「ここでボスと戦うのかな?!出てこい!次は僕の番だぞ!」
暇を持て余していたライハルトが部屋の真ん中でぴょんぴょん跳んでいる。
しかし何も起きない。
壁には日本語が刻まれていた。
【どうあがいても 国には帰れなかった どんな魔法が使えても 私には必要なかった これが読める君へ どうかこの世界で 生きる意味を みつけてくれ 風見 蓮】
僕が読み上げていると隣でバッシシが首を傾げていた。
「見たことのない文字じゃな。しかしその名前は聞いたことがあるぞ。かつて魔王を倒したと言われている大魔法使いのカザミレンじゃ。」
僕がここに来るずっと前に同じようにここに来た日本人がいたんだ。
この話しぶりではもう死んでしまったのだろう。
(生きる意味を みつけてくれ)
彼は生きる意味をみつけられなかったのだろうか。
文字が刻まれている壁の下に【45度にひねろ】と書いている。
どういう意味だろうか。
よく見るとガシャポンのレバーのようなものがある。
僕はそれを45度ひねってみた。
すると床が揺れだした。
僕は反射的に壁から離れた。
壁が上がっているように見えたが、僕たちが落ちていた。
床ごと下に落下している。
ドシンと大きく揺れて止まった。
上を見ると天井は見えなくなっていて暗闇になっている。
「これはどういうことでしょう?」
「わからん。どういう魔法がかかっとるんじゃ?興味深い。」
バッシシは感心したようにまわりを見渡した。
「何か来る!!」
ライハルトのポヤポヤした毛が急に逆立った。
まるで静電気を近づけたときのようだ。
それはゆっくりと現れた。
半透明のそれは人の形をしていた。
俯いて、悲しそうな感じがした。
僕たちは戦闘態勢を取った。
凄まじい殺気を感じる。
それはじろりとこちらを見た。
真っ黒な目は光を通さないような深さを感じさせた。
こいつは強い。
僕たちは負けてしまうかもしれない。
僕の中の何かがそう叫んでいた。
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