ep.13
僕がやろうとしていることは今のレベルでは難しいということがわかった。
それからはライハルトと一緒に魔物狩りを主体とした。
光の矢は精度が上がり、急所を狙えるようになった。
バッシシはだんだん大きな魔物が出る場所に連れて行ってくれるようになり、僕もライハルトもレベルの上がり方がよくなった。
しかし数日もすると狩る魔物がいなくなった。
探すのが大変になり、効率も落ちる。
「そうじゃ、遺跡に行ってみるかの。」
「僕知ってるよ!迷路みたいになってて階層があって、クリアするまで出てこれないやつでしょ?!」
ライハルトはなぜか嬉しそうだった。
「だいたいそんな感じじゃ。遺跡は魔物が発生する原因になるものがあると言われている。だから倒しても倒しても時間が経てばまた魔物が出てくると言われておる。」
ゲームでいうダンジョンというやつだろう。
「バッシシさんが一緒なら安心ですが、僕くらいの実力でも大丈夫でしょうか?」
「大丈夫じゃろ。ある程度の冒険者になると挑戦しに行くような軽いものから始めてみよう。昔の王族が魔物に宝を守らせたという噂もあるから、もしかしたら何か出るかもしれん。」
『お宝?!楽しみね!』
カナさんが1番乗り気に見えるのは気のせいだろうか。
僕たちは明日から遺跡に行くことになった。
初心者向けの洞窟タイプの遺跡らしい。
「洞窟ってことは暗いよね。懐中電灯とかあったっけ?」
『そういえばランタンを買った気がするわ。』
カナさんはピンクの部屋を探しに行った。
カナさんは、今は日本家屋っぽい部屋に飽きて、海外の子供向けの自分の分身を操るみたいなアプリをダウンロードした。
それはゲーム内でお金をためて家や家具を買ったりする仮想の生活空間だった。
暇をみつけてはミニゲームなんかをしてポイントを稼いでいた。
そして数日かけてやっと家を建てた。
モダンな造りでシンプルでめちゃくちゃ広い。
家具はまだ買い揃えられてなくて、寝るときは日本家屋に移動している。
そんな感じで今は3軒の家を所有していることになっている。
各々に荷物を置いていて、整理するのも大変だ。
新しい家の一室は魔物がその空間のほとんどを占めている。
僕が解体をサボっているからだ。
そのまま売るのはもったいないそうで、カナさんも解体を練習中だと言っていた。
『あったわ!充電しておくわね。』
「ありがとうございます。他に必要な物ありますかね?寝袋とか、テントとか張れるのかな。」
『テントは無理でも寝袋なら使えるかもしれないわね。必要そうならバッシシ様の分も買うわ。』
僕たちはなんだか遠足前日の小学生のようだった。
リュックにおやつを入れてワクワクしているアレだ。
『荷物は私に任せてケイタくんはそろそろ寝たほうがいいわよ。』
「そうですね。なんだかそわそわしちゃって。」
しばらくベッドで眠れないだろうから今日はゆっくり寝よう。
ライハルトはすでに自分のベッドで眠っていた。
丸くなっててかわいい。
────
朝食を済ませるとバッシシはカナさんに自分の荷物も頼むと言って収納してもらっていた。
中には自分で育てたコーヒー豆もあった。
今では旅のお供になるくらいの必需品になっているようだ。
「えっと、どのドアじゃったかな。しばらく行ってないのでなぁ。」
バッシシは普段使わないドアを片っ端から開けて見ている。
奥の方にあったちょっとボロいドアがお目当てのドアだった。
僕たちはバッシシに続いてドアの向こうへと進んだ。
────
出た先はゴツゴツした岩肌の、どこかの山だった。
少し歩くと洞窟の入口がある。
冒険者なのかトレジャーハンターなのかわからないけどそこそこ賑わっているようだ。
この分ならしばらく進まないと魔物も狩れないかもしれない。
洞窟内は思っていたより明るかった。
人が多いので松明の数も多い。
僕たちはバッシシの案内でサクサクと奥へと進んでいった。
ところどころ階段があり、上がったり下がったりで今何階にいるのか、もうわからなくなった。
進むにつれて人が減ってくる。
人が減ると魔物が増える。
数時間で人がほとんど見あたらない場所まで来ることができた。
「この扉の向こうには魔物がうじゃうじゃいるじゃろう。その前に昼飯にせんか?」
バッシシは通路の真ん中に敷物をひいてくれた。
カナさんはおにぎりと唐揚げと卵焼きという遠足の弁当っぽいものを作ってくれた。
僕はなんだか嬉しくなった。
ライハルトはツナマヨのおにぎりが気に入ったようで晩ごはんもこれがいいと言い張った。
「バッシシさん、気になっていたのですが、転移のドアって他の人に使われたりしないんですか?ここら辺は人がたくさんいるみたいですが。」
「ちゃんと他の人には見えない魔法がかかっとるよ。おぬしらはなぜ見えるのかのぉ?」
(魔法にもいろいろあるんだな)
「そんなの、僕たちがすごいからに決まってる!」
ライハルトはツナマヨおにぎりをおかわりしていた。
────
食事を終えた僕たちは大きな扉を開けた。
中は少し開けているようだった。
僕はランタンを片手に持ち、ゆっくりと前に進んだ。
広いようで奥の方は暗くて見えない。
「目に頼るな。音や振動、息づかい、気配を感じるんじゃ。」
僕は言われたとおりに僕たち以外の何かの気配を感じ取ろうとした。
グルルという声が聞こえた。
狼系の魔物だろう。
複数体いて、ジリジリとこちらに近寄ってきているのがわかる。
ライハルトは即座に雷魔法を放った。
覚えたてて使いたいようだ。
僕も負けじと光の矢を放つ。
倒した魔物はカナさんに収納してもらう。
これを繰り返しながら僕たちは奥へと進んでいく。
途中で休憩をはさみながら進んだ。
バッシシはコーヒーを美味しそうに飲んでいた。
カナさんもバッシシのコーヒーに喜んでいた。
ずっと暗いところにいると目が慣れてくる。
壁に不自然な隙間をみつけた。
調べているうちにどこかで何かが動く音がした。
「おっ?隠し扉が開いたようじゃな?」
僕たちはさっきまで壁だったところに隠し通路をみつけた。
「お宝あるかな!」
ライハルトはルンルンで進んでいく。
ビュンッとどこからか矢が飛んできた。
「ほほぉ。トラップがあるようじゃ。気をつけて進むように。」
そう言われてもライハルトはすべてのトラップを踏んでいく。
ライハルトの素早さがあれば避けれるのかもしれないけど僕は何度も危ない目に遭った。
カナさんが大きな中華鍋を貸してくれた。
矢が中華鍋に当たった。
「カナさんありがとうございます!死ぬところでした!!」
バッシシは結界を張っているとかでこのくらいのトラップは当たらないのだと言って笑っていた。
(僕にも結界が必要なんじゃ)
外ではみかけない人型の魔物も出てきた。
ますますゲームのダンジョンっぽい。
そして宝箱の部屋にたどり着く。
「不用意に開けると宝箱が魔物だったり…」
僕が言う前にライハルトは宝箱を開けていた。
そしてそれは魔物だった。
「早く言ってよ!」
宝箱の魔物はもう燃え上がっていた。
セオリー通りなら何かの仕掛けを動かすと真の宝箱が出てきたりする。
僕は何かないかと部屋を探した。
偽の宝箱が置かれていた台座の下にくぼみがあった。
そこを弄っているとまたどこかで扉の開く音がした。
「やったー!宝箱だ!」
ライハルトはまた警戒もせずに宝箱を開けている。
今回のは本物だったようで金色の短剣が入っていた。
武器としての価値はなさそうだ。
カナさんに収納してもらうと『金?!本物かしら?!』と驚いていた。
金なら円に換算できる。
純金なら100万円以上になるかもと騒いでいた。
僕たちは元の通路に戻り、さらに奥へと進んだ。
急に闘技場のような場所に出た。
「はて?こんな場所あったかのぉ?」
ライハルトがステージのような場所に足を踏み入れると上から大きな音がして大きな何かが落ちてきた。
大きな岩の魔物だった。
ライハルトの雷は効かないようだった。
同様に水も火も効果がない。
僕も光の矢を放ってみたが岩の魔物はそれを避けた。
ゴツいくせに動きが機敏だ。
バッシシも魔法で攻撃しているが効いていないようだった。
高校の科学か物理か忘れたけど、何か習った気がする。
温度差で硬いものが割れるやつ。
(あれ?違ったかな)
僕は勉強する意味もわからなくなっていて、高校に入る頃には授業もまともに聞いていなかったように思う。
生きるために必要なことを教えてくれる授業もあったんだな。
ちゃんと聞いておけばよかった。
さて、温めてから冷やすのか。
冷やしてから温めるのか。
どっちだったかな。
僕は岩の魔物の攻撃を避けながらそんなことを考えていた。
どっちでも繰り返せば同じことか。
「ライハルト!火魔法と氷魔法を順番に繰り返しあててくれないか!」
「どっちも効いてなかったぞ?」
「僕に考えがある。」
「よし!任せろ!」
「わしもライハルトに合わせてやろう。」
僕はあの世界での学びがこの世界で通じるのか少し不安になってきた。
そもそもの構造とかが違うかもしれないし、あれは単なる岩ではなくて魔物だ。
しかしうまくいっているようで岩にヒビが入ってきた。
「ありがとう!割れそうだから少し距離を取って!ヒビめがけて攻撃しよう!」
「了解!」
僕たちは岩の魔物にできたヒビに一斉に魔法を打ち込んだ。
魔物はパカッと割れて動かなくなった。
「これはなんとも興味深い。中はアメジストのようじゃ。」
バッシシがツンツンと杖で突いていた。
『アメジストって宝石の?高く売れるかしら?』
カナさんは喜んで収納していた。
割れたとはいえ、さっきまで動いていた魔物が怖くないのだろうか。
ズズズという轟音が聞こえ、奥から明るい光が見えた。
「クリアしたようじゃな。」
僕たちは光の方へ進んだ。
そこにも宝箱が置いてあり、ライハルトは早速開けていた。
「ガラクタばかりかよー!」
中には錆びた杯や剣など工芸品のようなものが入っていた。
元は立派だったのかもしれないが年月が経つにつれて錆びて風化してしまったのだろう。
「カナさん、目ぼしいものありますか?」
『どうかしらね?錆びてるものも磨けば売れるかもしれないから、とりあえず全部持ち帰りましょう!』
カナさんは錆びた工芸品でも目を輝かせて収納していた。
意外とこういうのが好きなのかもしれない。
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出口はすぐにみつかり、どうやら入口の反対側に出たようだった。
ぐるっと山を回らないとバッシシさんのドアには行けない。
日が沈みかけて空がきれいなオレンジ色になっていた。
僕はカナさんが好きそうだと思い夕日の方にスマホの画面を向けた。
『ありがとう、ケイタくん。きれいな夕日ね。』
カナさんはそれ以上何も言わなかった。
ただ少し悲しそうな顔で夕日を眺めていた。
もしかしたら昔のことを思い出しているのかもしれない。
(余計なことしちゃったかな?!)
僕が心配し始めると、
『今日は奮発してすき焼きよ!早く帰りましょう!』
と、いつものカナさんに戻っていた。
「すきやき?なんだそれ?早く食べたい!バッシシ様!ピューッと飛んで帰ろうよー!」
「ジジィをこき使うんじゃない!まぁ、わしもすきやきが気になるし、ほら、帰るぞ!」
バッシシは僕の腕を掴んで空を飛んだ。
あっという間にドアが見えてきて、僕たちは家に帰ってきた。
カナさんはカセットコンロを買ってくれて、みんなですき焼き鍋を囲んで食べた。
僕にもこうやってすき焼きを喜んで食べていたこともあったな。
いつから僕は家族との食事で笑わなくなってしまったんだろう。
なんてもったいないことをしていたんだろう。
楽しく食べると、こんなにも美味しいのに。
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