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ep.11

僕たちは目標を失ってしまった。


行くあてもなく、しなくてはいけないこともない。

逆に言えば何をしてもいい自由な身だ。

バッシシはどこに行くか決まるまで家にいていいと言ってくれた。

魔法の特訓にはライハルトも参加するようになった。

ライハルトはかなり筋がいいらしく、バッシシが教えることをすぐに吸収した。

「おぬしが王になればこの国は最強になったかもしれんな。」

「誰が王になんかなるもんか!僕は自分のしたいことをして自分の進みたい道を行くんだ!」

強がっているのは目に見えていた。

それでもライハルトは泣かなくなった。

まだ6歳なのに、なんてしっかりしているのだろうか。

僕は逆に心配になった。

子供は子供らしく、大人に甘えたいときに甘えるべきだ。

かと言ってそのままそう伝えてもバカにされるだろうから言わないけど。


ライハルトは楽しそうに魔法の練習をしている。

僕も頑張っているのだけれど、上達するスピードはかなり遅いようだ。

今は光の玉を別の形に変える練習をしている。

光の矢みたいなのを想像しているが、なかなか格好よくならない。


「おー!ケイタ!光のヘビか?格好いいな!」

「え?うん、そうだろう。」

グニャグニャさせたかったわけではない。

ライハルトは光魔法に憧れがあるみたいで僕のへにゃちょこ魔法も褒めてくれる。

僕なんかよりライハルトが使えたほうが世界に有益だったかもしれない。


────


ライハルトが訓練に加わってから、魔物を狩ることが増えた。

僕は魔物を捌き、解体されたものをカナさんが売ってくれる。

魔物はそのままよりも部位ごとに分けるほうが高く売れるとわかったのだ。

アプリで売ったほうがいいものと、街の店で引き取ってもらうほうがいいものが徐々にわかってきた。

街では僕はハンターと呼ばれるようになった。

毎日のように魔物を持ってくるからだろう。

(実際のハンターは中身が6歳の子猫なんだけどね)


ライハルトが戻って半月が過ぎた頃、バッシシの家に兵士がやってきた。

「王様からの書状でございます!」

兵士はそう言うと僕に手紙を渡していなくなった。

「えっ?僕に??」

僕が開こうとしたらバッシシが横から奪って開いた。


「ライハルトに領地を与えると書いてるぞ。」

ライハルトは見たそうにしているが、「僕には関係ない」と意地を張ってそっぽを向いている。

「すごいじゃないか!領地だなんて。家を建てたり牧場を作ったり、畑だって作れるし、温泉が出るかもしれないよ!」

僕が嬉しそうにそう言うと、「なんだよ、それ。」と言いながらライハルトは書状を読んだ。

「この辺りをおぬしにやると書いてるな。」

バッシシは地図をひろげて見せてくれた。

「なんだよ。北の荒れ地じゃないか。あんな土地、誰も欲しがらないよ!バカにしやがって!」

ライハルトは怒ってベッドに入ってしまった。


「北の荒れ地?」

僕が首を傾げていると、「見てみるか?」とバッシシが開けたことのないドアを開けていた。

僕はバッシシについて行った。


────


北の荒れ地、その名のとおりだと思った。

干からびた土地は所々割れて深く亀裂が入り穴になっている。

植物が育つには少し過酷な土地なのかもしれない。


「これはさすがに、ライハルトも怒りますね。」

「まぁな、見た目はアレじゃが、この土地はどこよりも地下資源が豊富じゃ。燃料になる石炭や金や銀、ミスリルにダイヤモンドまで様々な鉱石が眠っているはずじゃよ。」

「どうしてほったらかしに?」

「この地に棲む主のせいじゃ。大きな蛇でなぁ。闇属性だということもあって並大抵の剣士や魔法使いじゃ歯が立たぬのよ。」

「わぁ、それはきついですね。バッシシさんでも倒せないのですか?」

「うむ。闇属性は特殊でのぉ。普通の属性じゃ相手にならんのよ。しかしここに光魔法を使える者がおるではないか!」

なんだか嫌な予感がした。


「ライハルトのためにケイタが蛇を倒すんじゃ!」


────


僕はバッシシさんに「無理無理!」と言って早々に帰ってきた。

ライハルトはまだヘソを曲げている。

カナさんは僕に無理強いはしない。

だけど無言の圧力を感じる。


バッシシは事あるごとに腕で蛇の真似をして僕を煽ってくる。

僕が何をすべきなのかはわかっている。

僕の魔法で蛇を倒せたらそれはそれは格好いいだろう。


その日、僕は眠ることができなかった。

目を瞑ると見たこともない大蛇が僕に襲いかかってくる。

僕は小さな光の玉を出して眺めた。

キラキラ光ってとてもきれいだ。

(これでバッシシさんでも倒せない蛇を倒せるのかな)


────


ライハルトは一晩寝ても不機嫌だった。書状を燃やそうとしたのでバッシシさんは慌てて隠した。

「ケイタ!森に行こう!」

ライハルトは魔物に八つ当たりをするつもりだ。

「森にまだ魔物は残ってるかなぁ?」

僕は逆撫でしないようにライハルトと森に行くことにした。


王都の近くの森には小さな魔物しかいない。

ライハルトは知った道なのか迷わずに奥へと進んでいく。

そこには小さな池があった。

「もしかしてここって?」

「そう。僕が死んだ場所だよ。」

「美しい場所だね。」


僕たちは黙って池を眺めた。

魔物の気配はない。

ライハルトを食ったとされるトカゲは行方不明らしい。

「魔物はいないみたいだね。帰ろうか?」

僕は薬草のようなものを摘みながらライハルトに話しかけた。


「僕を恐れて逃げたのかもしれないな!」

いつものライハルトに戻っていた。

何か心の整理をするためにこの場所に来たかったのかもしれない。

「バッシシ様に魔物のいそうな場所に連れて行ってもらおう!帰ろうケイタ!」

「そうだね。」


僕たちは森をあとにした。

きっともうこの森に来ることはないだろう。


────


帰るとバッシシはいなかった。

テーブルの上に『でかけてくる。ドアは開けるな。』と書かれた紙があった。

「つまんないの!」

ライハルトはその場にゴロゴロと転がった。


「久しぶりに手の込んだものを作ろうかな!カナさん何か案はありませんか?」

『そうね…イチゴの乗った生クリームのケーキとか…』

「なんだそれ!美味そうだな!僕、畑からイチゴを取ってくるよ!!」

ライハルトは僕の返事も待たずに外に出ていってしまった。

バッシシの畑のイチゴを盗むつもりなのだろう。


「作ったことないですけど、特性もあるし何とかなりますかね?」

『私が手順を教えるわ!』

そう言うとカナさんは必要なものを一式買ってくれた。


ライハルトはたっぷりのイチゴを持ってきた。

「怒られないかな?」

「大丈夫だよ!ケイタがうまいものを作れば怒らないさ!」

(それって不味かったら怒られるってことか)


僕はライハルトの風魔法をうまく使って電動ミキサーの代わりにした。

「うまいぞ!ライハルト!」

美しいメレンゲが泡立ち、生地が完成した。

そして最難関のオーブンを残すところとなった。

「温度が低いと生焼け、高いと焦げる。」

「うん。」

「この数字が180になるように調整するんだ。できるかい?ライハルト。」

「任せろ!火魔法が1番得意なんだよ!」


バッシシの家にあるオーブンは魔法で動くものだった。

それをぶっつけ本番でライハルトにやらせることにしたのである。

失敗したら作り直せばいいやと思っていたが、ライハルトは思ってた以上に優秀だった。


スポンジは美しく膨らみ、甘くていいにおいが部屋の中に充満した。

生クリームもライハルトの助けを借りて美味しそうに泡立てられた。

「食べるのは一瞬だけど作るのは大変だな。」

『作るのも楽しいわよね!』

カナさんは細かくコツを教えてくれる。

きっとスイーツ作りも得意だったのだろう。


そして4時間をかけてケーキは完成した。

デコレーションは魔法ではどうにもならなかったのでちょっと不格好だった。

それでもライハルトが畑から盗んできたイチゴはとても甘くて美味しくて、見栄えも良かった。


そうしているうちにバッシシが帰ってきた。

「わしのイチゴが盗まれたぞ!」

(もうバレていた)


「バッシシ様!ごめんなさい!どうしてもこの料理にバッシシ様のイチゴが必要でした!」

ライハルトはひれ伏して謝った。

それを見てバッシシは何も言えなくなったようで、「なぁに、わしが食べるなら何も問題はない。」

と言葉を濁していた。


カナさんが紅茶を淹れてくれた。

僕とライハルトにはミルクと砂糖たっぷりのロイヤルミルクティにしてくれた。


上手に皿に盛り付けられなくて更に不格好になってしまった。

しかし食べてみるとすごく美味しかった。

誰かと一緒に料理をするなんて、学校の調理実習以来だった。

それも僕は見ているだけで他のメンバーが全部やってくれていた。


こんなに達成感があって、こんなに楽しいなんて知らなかった。

あの時、僕もあの輪の中に入って調理実習を楽しめばよかったのかな。

僕はそんなことをチラッと考えてしまったけど、今が楽しくてすぐに忘れてしまった。


嬉しそうなライハルトを見ているうちに僕の口は勝手にこう言ってたんだ。


「北の荒れ地の蛇は僕が倒すよ。」


ライハルトは驚き、バッシシはうんうんと頷いていた。

カナさんは笑っていたが少し怯えた複雑な表情になっていた。

「今は無理でも、いつかきっと、もうちょっと魔法の特訓をしてから。」

「僕も!ケイタと一緒に蛇を倒す!きっと僕たちなら倒せるよ!」

ライハルトはここ数日で一番いい笑顔になった。


なんだかんだ言ってても、気にしないふりをしていても、ずっと北の荒れ地のことが気になっていたのだろう。


そして僕たちの新しい目標が決まった。


【北の荒れ地の蛇を倒す】


────


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