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ep.10

真っ青に広がっていた空から急に雨が降ってきた。

僕は起き上がり、泣いてぐしゃぐしゃになった顔を腕で拭いた。


「雨季に突入したかのぉ。」

バッシシは杖を振って辺りの水滴を払ってくれた。

僕たちのまわりはドーム状に見えない壁で囲まれたようだった。

カナさんはふかふかのタオルを買ってくれた。

僕は雨なのか涙なのかわからないビシャビシャの顔をそれで拭いた。

タオルはほんのりいいにおいがした。

洗濯仕立てのいいにおい。

僕はまた母親のことを思い出して涙が出てきた。


『バッシシさん、手伝ってもらえますか?』

カナさんは僕が泣いている間に料理をしてくれていたみたいだった。

バッシシは近くにあった木を切り倒し、簡易的なテーブルと椅子を作ってしまった。

僕はまだタオルで顔を拭いていた。


あっという間に何もなかったところが素敵なランチ会場になっていた。

バッシシは僕に温風をあててくれた。

温かくて、涙も乾いただろう。

「ありがとうございます。」

テーブルの上には白いご飯と肉じゃがと豚汁があった。

『今日のお昼は和食にしてみました!』

カナさんは元気にそう言うと自分の分も用意していた。

「これは変わった料理じゃな!いただくとしよう。」

「いただきます。」

僕はその美味しさにビックリした。

久しぶりの和食ということもあるし、カナさんは料理がとても上手だということもわかった。


僕の母親は料理があまり得意ではなかった。

また母親を思い出したが今度は泣かなかった。

もう泣くのは終わりだ。


僕には目の前に僕の世界があるんだから。


────


バッシシは食後の食器を魔法で簡単に洗ってしまった。

魔法とはなんて便利なのだろうか。

「ケイタよ、そういえばおぬし、光の特性持ちだと言っておったな。」

「あぁ、僕も忘れてました。確かに光を選んだはずです。」

最近はレベルアップの声もうるさいので消していた。


「わしにも光の魔法は使えん。だから教えることはできんが、魔法の基礎は教えることができる。」

「本当ですか?!ぜひ教えてください!」

「よかろう。」


バッシシはコーヒーの木から少し離れた場所に僕を連れてきた。

雨はすっかり止んでいたが曇り空だった。

「基本的に魔法とは想像力じゃ。想像することで体内にある魔力を具現化するんじゃ。」

そう言ってバッシシは小さな火の玉を出した。

「おぬしなら火ではなく光の玉を作れるじゃろう。」

(想像力、イメージか)

僕は光の玉が体の中から出てくるイメージをした。


体が熱くなるのがわかる。

両手の間に何か温かいものが存在しているのがわかる。


「光の玉…」


次の瞬間、両手の間に光り輝く何かが現れた。

「おぉ!できたのぉ!」

「バッシシさん!これ!どうしたらいいですか?!」

「わからん。それが何なのか、どうなるのか。」

「えぇ?!どうしよう!!だんだん大きくなってきました!!」

光の玉はどんどん大きくなり、今にも破裂しそうだった。

「ふむ、危険なものならいけん。空に飛ばせ。」

「空に?!」

僕は光の玉を上空めがけて投げ飛ばした。

光の玉はすごい速さで飛んでいき、消えていった。

「ふう、なんだったんでしょうね。」

「わからん。わしも光魔法なんて久しぶりに見たからのぉ。」

上空からドカーンという音が聞こえてきた。

地震でも起きたかのように地面が少し揺れた。

黒く曇っていた空はまるで丸く穴を開けたかのように僕らの上空だけ晴れた。


「今のって?!」

「ケイタよ、この世界を破滅させに来たのかね?」

「えぇ?!そんなわけないじゃないですか!!!」

バッシシは笑いながら「まいったまいった」と言った。

「ケイタよ、その魔法、コントロールできぬようなら封印せねばならんな。あまりにも危険すぎる。」

僕はうんうんと頷いた。

「よかろう。わしも暇じゃ。おぬしの特訓につき合ってやろう。その代わり昼はカナのご飯を食わせてもらえるかな?」

僕とバッシシはスマホの中のカナさんをみつめた。

『もちろんいいですよ!お任せください!』

カナさんは嬉しそうにそう言ってくれた。


────


転移のドアからバッシシの家に帰ってきた。

ライハルトの件もあるし、しばらくここに住みなさいとバッシシは言ってくれた。

僕はありがたく好意に甘えることにした。


バッシシはカナさんから紙やインクを仕入れて貴族に売りに行った。

その収入でご飯の材料を買い、僕たちに振る舞ってくれる、という生活が始まった。


時間ができるとバッシシはいろんなドアを開けていろんな場所に連れて行ってくれた。

転移の魔法がかかったドアはたくさんあり、いろんな場所へと通じている。

天井のドアはコーヒーの木に何かがあってはいけないとバッシシは僕が行くことを禁じた。

その代わりに何もない砂漠のような場所や、岩だらけの場所などに連れて行ってくれて、あの光の玉をコントロールする修行につき合ってくれた。


────


何度もうまく扱えずに空にアレを投げ飛ばした。

上空に鳥やドラゴンが飛んでいないことを祈った。


ライハルトの件はまだ解決していないようだ。

城からはなんの通達もない。


僕は毎日バッシシさんと特訓をした。

光の玉は大きさや強さをコントロールできるようになってきた。

光の玉を出しては、それを消すという、それを疲れるまで続けた。

「アチッ」

僕は集中力が切れてしまい、光の玉を消し損なって火傷をしてしまった。


「おっ、治癒魔法を試してみんしゃい。」

バッシシはまだやったことのない治癒魔法を自分の体で試せと言っている。

失敗したら大怪我をするのではないか。


「なぁに、ちゃんとできるはずじゃ。しっかり治癒するイメージを頭に作るんじゃ。」

僕は言われたとおりに細胞が新しくなるような活性化するようなそんなイメージをした。


「おぉ!痛くない!成功したみたいです!!」

僕がそう言うとバッシシは「そうかな」と言って僕の手を見て笑っていた。

僕の手の甲にはモジャモジャと毛が生えていた。

まるでゴリラかチンパンジーの手だった。

「えぇ?!なにこれ!!」


その日はどうやっても手のモジャモジャは消せず、カナさんも『あら、かわいいじゃない』と言いながら笑っていた。

「剃ればいいんだよ!」と僕が言うと、「それを治すのも訓練じゃよ。」と言われた。

僕の手は治癒魔法がうまくいくまでこのモジャモジャのままだ。


右手だけモジャモジャのまま3日が過ぎた。

毛は長くなったり短くなったりしたけれど消えることはなかった。

『人間の毛って弱いところに生えるとか言うわよね?そこだけ弱ってるってことじゃないの?』

とカナさんに言われて僕は気がついた。

(手の甲の皮を強化すればいいのかもしれない)


早速僕は僕の手の甲は弱くない、毛なんて必要ない、とイメージしてみた。

すると見事に毛はスルスルと抜け落ちた。

毛の生えてた部分は心なしか皮が厚くなったように感じる。


「おぉ、解決したかね。」

「はい!なんとかなりました!」

僕が嬉しそうに次は何を特訓しますかと聞こうとしたら、

「今日は城から呼ばれておる。特訓は休みじゃ。」

と言われた。

僕は少し残念に思った。

自主練するにも家の中じゃ危ないかもしれないし、一人で転移のドアをくぐる気はない。

『街のお店を見に行きたいわ!』

スマホに結界をかけてもらってから街に行ってないことに気がついた。

つまりカナさんは街中をちゃんと見ていないということだ。

「そうですね!何かいいものがあれば買いましょう!」

『いいわね!』


────


女性は総じて買い物が好きな生き物なのかもしれない。

僕の母と姉もよく2人でショッピングに出かけていた。

買うあてのないものをぶらぶら見て回るなんて、僕からすると苦痛だった。

しかし今はそんなことを言っていられない。

僕はカナさんの足となり、行きたい場所へお連れしないといけない。

娯楽の少ない彼女を楽しませられる数少ないチャンスかもしれない。

僕はできるだけカナさんに店の中が見えるようにスマホを傾けた。

カナさんは目を輝かせて楽しんでいた。

織物を売る店でカナさんは『素敵なショールね!』と言ったので1枚買うことにした。

『無駄遣いじゃないかしら?』と言うので、「カナさんが稼いだお金ですよ!たまには使ってくださいよ!」と言うとカナさんは泣きそうな顔になった。

僕がオロオロしているとショールを羽織って見せてくれた。

『素敵な柄よね!ケイタくんありがとう!』

と笑顔になった。

「いや、だからカナさんの稼いだお金ですって!」

『でも嬉しいのよ!』

カナさんが嬉しそうで僕も嬉しかった。


そしてその日はいろんな店を巡り、知らないものを食べ、まるでデートのような1日を過ごした。

(人から見ると僕一人なんだけどね)


────


家の前でバッシシさんを待っていると腕の中にライハルトがいた。

「あれ?!なんで?!」

「うむ。まずは家に入ろうか。」


家に入るとライハルトは弾丸のように喋りまくった。

「父上にはがっかりしました!僕はもう皇子でもなんでもないです!王族なんてクソ食らえ!」

荒れているライハルトにカナさんはココアをいれてくれた。

おとなしく飲んでいるすきにバッシシさんが状況を教えてくれた。


「城ではこの子猫がライハルトであると認定するところまではいったんじゃ。しかしどうやっても人間の姿に戻すことができなかったようでな。今までと同じように皇子として暮らすことは許されなかったんじゃ。猫の姿で学校に行くわけにもいかんでな。何よりも王が、息子が猫になっただなんて事実を公表したくないと言い出したんじゃ。ライハルトの母親は正妻じゃないからのぉ。意見してもなかなか通らんのよ。それで結局は母親の元で猫として暮らそうという話に落ち着いたんじゃが…」

「僕がそんなことを望むわけないだろう!ふざけやがって!!」

ライハルトは毛を逆立てて怒っている。

それがなんとも可愛くて、僕は思わず頭を撫でてしまった。

「な!なんだよ!!ケイタ!!」

「あ、ごめん。つい。ライハルト、おかえり。」

『ライちゃんおかえりなさい!寂しかったのよ!!』

ライハルトは怒りをどうしていいかわからなくなったみたいでまたココアを飲んだ。

「ただいま。」

そう言うとライハルトの目からは大きな涙がポロポロとこぼれた。

僕は何も言わずに頭を撫でた。


きっとずっと泣くのを我慢していたんだね。

(かっこいいぞ、ライハルト!)

ライハルトはしばらく泣いて、いつの間にか眠ってしまった。

こんな小さな体で大人たちに囲まれて、きっと、とても不安だったろう。

バッシシさんは客間にライハルト用の小さなベッドを用意してくれた。

僕はそっとライハルトを寝かせた。

『本当にかわいいわよね、ライちゃん』

カナさんはいつもの可愛いものを見る目になっていた。

「はい。本当に。」


そして僕たちは、いつものメンバーに戻ったのだった。


────

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