二話 多分幼馴染
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冬の電車と言うのは厄介なもので、家を出た時に着込んだロングコートが雪の積もった道の時とは違い気分を変えたかの如く諸刃の剣となって、車内に流れる暖房と共に僕の体力を削った。全身からアニメーションのような大粒の汗がこれでもかってほど出た「暑い、」その一言に限る、逆にこの状況をその他の言葉で言い表せる物なら教えて欲しいものだ、不本意ながら着込んだ、コートを畳み、空いていた端っこの席に腰掛けた。席のクッションは見た目よりも硬く毎日座られてるだけあって、屈強な戦士の如く勇ましい様なオーラを放っていた「ふぅ」ここまで来るのに十分な逃避行をした感覚になった。だが流石に待ち合わせだ、ここまで来てすっぽかすのも、自分の名誉に欠けるような気がする。なんて事をぼんやり思って居ると、目の前の親子が目に止まる。子供は5歳前後だろうか親は31〜2歳ぐらいだろうか、少し嫌な事を思い出した。何が自分を不愉快にさせるのか、確かな事は分からない。だがおそらく幼馴染の存在が大きいだろう。僕は中学の時からある事が原因で自分の思った事を言うのが苦手だった。自分が言った事が以前の自分と食い違い否定されるのが怖かった。そんな僕とは違い彼には行動力があった。周囲の大人からすると、光る物を持っている彼を、周りの大人達は無意識に優遇して行きそんな彼の姿に僕は、劣等感を抱く日々が続いた。中学生の頃は他にも理由があり、当時僕は学校へ行けていなかった。高校で生徒会に入ってからは、自分は自分、彼は彼、を心掛けた。そうすると心が少し楽になった。自分のやりたい事に手を伸ばせるようになった。「意識しない様に、意識しない様に」そう唱えた日もあった。だがそう長くは続かなかった。彼は引きこもったのだ。彼は人望もあって、友達も多いため学校の人達に聞かれた、「アイツはどうした。体調悪いのか? これ渡しといてくれ。」こんな感じのことを無数の人々に言われた。中には面識の無い人物までいた。あまりの情報量の多さに、頭がおかしくなりそうで徐々に頭痛が激しくなって行った。色々預かり物を受け取った僕は、彼が日常的に人とコミュニケーションをとる量に感心しながらも彼の家に向かった。彼の家に行くと、彼の部屋に鍵が掛かっていた。僕は要件を済ませて帰ろうと思った。だがここで帰るのも冷たいと感じ、少し話そうと彼の母と共に部屋のドアをノックした「僕だ、裕太だ。クラスメイトから預かり物をしてるんだ、それを渡したい。」 しばらく沈黙が続いた。しばらくしてから「良いよなお前は、何も無い癖に楽そうに生きてるじゃん。帰れよ、どうせお前には俺の気持ちは分からないよ」すると彼の母が言った。「お友達にそんな言い方無いじゃない、良い加減に出て来なさい」と大声で怒鳴った。僕は宥めることも出来ずに、帰ることしか出来なかった。「お前には俺の気持ちは分からない。自分には努力する勇気が無い、あんたら人生勝ち組には分からない事だ」そう言った。何度もリピートされる。彼は両親に劣等感を持っていた、そして僕にも。彼の抱えていた劣等感に自分のものを重ねると、自分はただ嫉妬深いだけなのだと実感した。実感したと同時に、果てしなく黒く醜い自己嫌悪に襲われた。あれだけ関係無いと振り切ったはずだった彼への憎しみが僕の心の中に僕の居場所を無くして行く。最近世界からモノクロのように色が無くなった。すべての音がうるさく聞こえる、臭いがしない、そんな感じがした。気づけば僕は上手に笑えなくなった。睡眠時間が平均で四時間を切った。そしてまだ彼は引きこもったままだった。結局週末を迎える前に僕は風邪をひいて寝込んだ。