一話 親友の氷城
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僕には唯一無二の親友がいた。そいつとはたまたま趣味があって思想が似ていた。僕には同じ学年で一つ下の幼馴染がいて、僕とは違い昔から色んな人に可愛がられ良き友人にも恵まれている対して持病を患い家族へ迷惑をかけたりしている僕には誰も彼へ向けるように笑いかけてはくれなかった。両親も常に僕と彼を比較しちょうど思春期にさしかかった事もあり彼に対する劣等感に悩まされていた。出会ったばかりの僕たちはそれもあり直ぐに仲良くなって行った、意気投合ってやつだ。高校一年生の11月の頃だった。頭の中のエナジードリンクの海で低俗な感情の塊と言わんばかりの断片海賊団達がどんぶらこと希望とか言うサザンクロスを追い求めている様な時期に僕らはある約束をした、二年生に進級したら2人で学級委員をやろうとか言うありふれた、何処か幼いような約束を。あえてこの話にサザンクロスを添えるならおそらくこれがそれにあたるはずだ。そんな希望を胸の日記にしまい込み進級への期待を募らせた。そんな中彼は二年の進級を待たずして転校して行った。理由は進路のためである。うちの学校は学費がかなり高く一部の家庭には負担がかかる、そんな中、予備校に通いたがってた彼は進路への戦略内の一つで転校を決めたらしい、いま振り返って見ると、たいして遊びに行った事もなかったし、ただの4ヶ月の付き合いだった。僕は潔ぎよく彼を送った。ただ一人奈落に落とされた僕は乾いた心で二年へ進級した。別にショックだった訳では無い何処にでもある普通の話だ。大物と勘違いしリールを巻いた結果長靴が釣れた時の釣り人の様な気分だ。ただ僕は目指すものをだけが残り新学期たった一人の約束を果たし、気づけば生徒会副会長になっていた。それでも心は乾いたままだった。それから一年、環境の変化や人間関係の進展で乾ききった心は見違えるように元の青さを取り戻した。生徒会副会長になってからの一年様々な事を学んだ。人間の多様なあり方を、積極的な行動の大切さを、人をまとめる人の責任を、僕は居場所を見つけた仲間が出来た。大切な仲間たちが。今までバカにしていた青い春が何かわかった気がした。そして何より少しアイツを忘れられた。そんな日々の中僕にメールが届いた、そうアイツからだ。これは僕、網代裕太とアイツ、緒野雄大の再会するまでの話だ。
霜が掛かった四時半、最寄りの駅までの道で僕は靴紐を結んでいた。気分は最悪だった。肌寒い道の中ふと、先ほどまで読んでいた、ある小説を思い出した。内容自体はありふれたもので有り、あまり記憶には残らなかった。だが、気になる一節があった。逃避行とは、何かはばかることがあって、世間の目をさけ、住みなれた所を離れて、移り歩いたり、人目につかない所にひそんだりすること。と辞書を引けば出て来るが、恐らくそれは間違いで、多分自分の逃げたい事から逃げたその瞬間から逃避行は始まってるのかもしれない」とある。「へっ、アホらしい」社会に溢れた頭が極彩色の輩が、こう言ったものから影響を受けている事を理解してまた一つくだらない世界の潤滑油のような何かを理解してしまった気がした。こんなものが逃避行だと言うのなら僕のこれも逃避行に入るのだろう、そんな事を考えていると散りのような雪が降って来た。それは昔祖の家に置いてあったスノードームを思い出させるような幻想的な景色だった。凛々と降る雪化粧たちは地面に落ちたら溶けてしまうと言うのにそれを気にする事なく楽しげに踊っている。ふと去年の事を思い出す「去年は雪合戦したんだっけな。」緒野と自分の他にも友達がいた。瀬川練、戸谷美希、日村祐介、古村恵吾の4人だ瀬川はやや口が軽いお調子者で少しチャラかった。戸谷はそんな瀬川に少し焦がれていて、何処に行くにも瀬川の背中を追っていた。瀬川自身もそんな戸谷を気にしていた。日村は真面目で勉強熱心だった。何をやっても勉強の話しに行くが、彼の話を聞いてそれもまた一手だと思うことがあったり。彼は歴史人物で言えばまさにアンデルセンで、勉強や読書の内容を絵本の様に語り聞かせる様に物事を発した。僕と緒川も含めて6人で基本一緒に過ごしていた。何でも彼らにとってはそれが青春だったとか、正直今でも僕自身そうは思えない。僕にとっての青春はその後の話だからだ。瀬川は学年では最初から一部の男女から嫌われていた方だった。確かにチャラくて少し態度がでかい。でも別にそれだけだった。それ以上怖いわけでもなく、暴力的なわけでも無い。普通にいい友達だった、ただただ自分の言葉を正直に出すのが苦手なだけなんだと思う。今でも僕は彼と上手くやってるつもりだ、程よい距離で。多分本当は今も以前のように仲良く出来ていたと思う、あの出来が無ければ。緒野が転校してから、意外にも古村と戸谷が付き合った。告白したのは古村からだったらしい。戸谷によると一週間考えて答えを出したらしい。彼らの恋路に口を挟まないように僕自身はしてたのだが、瀬川が怒り出したのだ。あれだけ自分にアピールを投げかけてきていざ他の男に言い寄られたらそちらに行って、と怒らないはずもなく。そうして緒野が作り上げた氷城にヒビが徐々に入って行ったその後、日村が瀬川に言った。裕太がそそのかした、と。そして僕に言った瀬川が悪いと、僕はあまり瀬川を攻める事が出来なかった。だが瀬川は違った。彼は僕を責めた、お前のせいだと。それに古村と戸谷が反論した。僕はその場全員の愚痴を身の回りに吐いた。必死だった自分が責められるのが怖かった、自分が責められると緒野が巻き込まれてしまう気がした。そうやって乾いてどうでも良いように感じてる自分を隠した。そうしてそれぞれの思いの違いで緒野の作り上げた巨大な氷城はゆっくりと崩壊して行った。それからというもの瀬川の怒りもおさまり古村と戸谷は別れた日村も何も無かったかのように過ごしている。壊れてしまったかに見えた氷城は形を取り戻して行った。ただ僕一人を除いて。そんな時に生徒会長と出会った。誘われるがままに生徒会に入らされた。最初は戸惑った。だが当時、流される側だった僕に抵抗する術は無かった。生徒会はやってみると意外にも楽しかった。多分こんな巻き込まれの一つ一つで僕は心を潤して行ったんだと思う。そう思うと自分が少し情けなくなった。足を進めるたびに、地面は白銀に染まっていった。地面に溶けるはずだった雪達も散りを作り、そして山が出来て行く、「遅延したらまずいな。」急いで最寄りの駅へ走った。