コミュ障の首塚さんは雑談ができない
近年世間を騒がせていた新型コロナウイルスもようやく落ち着き、外出自粛を求められることもなくなった。
それはとてもよいことのはずだが、私のようなコミュ障女にとってはそうでもない。「飲み会」という悪しき文化が復活してしまったからだ。
会社の同僚たちと飲みに行くなど苦行でしかない。なぜ仕事が終わった後にまで、あの人たちの顔を見なければならないのか。
とはいえ毎回断っていると、人間関係に支障をきたしてしまう。そう思って今回は久しぶりに飲み会に参加したのだが――、
やっぱり来るんじゃなかった。
私は激しく後悔していた。
飲み会の参加者は20人ほど。薄暗い店内で3つのテーブルに分かれて席についている。
私のいるテーブルでは6人の男女が飲み食いしていて、かなり話がはずんでいた。私以外の5人は。
私は顔を伏せ、1人でスマホをいじっている。スマホは手持ち無沙汰を解消するには便利な道具だ。しかしどうしても周囲の目は気になる。
時刻を確認すると、まだ19時だ。3時間の飲み放題コースなので、あと2時間はこの状態が続くことになる。
長すぎる。私はお酒が飲めないので、素面の状態で無為な時間に耐えねばならない。ああ、早く帰りたい。
でも帰ったとしても、飲み会で上手く立ち回れなかったことを思い出して、自己嫌悪で落ち込むことになるのは目に見えている。つらい。
私はお手洗いに行くため、黙って席を立った。私がいなくなっても気に留める者はいないだろう。
酔っぱらいたちの間を縫って足早に移動する。トイレに入ると、そこは喧騒の店内とは別世界のように静かだった。
一番奥の個室に入って扉を閉め、便座に腰を下ろす。1人になれたことでようやく心がなごみ、ハアッと深いため息をついた。
私は人と話をするのが苦手だ。特に雑談が絶望的にできない。
自分がコミュ障であることを実感したのは社会人になってからだ。
学生時代はコミュニケーションが得意だった、というわけではない。昔から空気が読めずにズレた発言をして、顰蹙を買うことは多かった。
たとえば友達から「首塚さんの髪ってサラサラだね」と言われたことがあった。
それに対する私の返答がこうだ。
「別に」
無表情のままボソッと、そう答えたのである。その瞬間、場の空気が冷えた。それで自分が間違った答え方をしたことに気付いた。
私は決して傲慢な人間ではないし、不機嫌だったわけでもない。
髪を褒められて嬉しい、いやどう考えてもお世辞だろう、それでもお礼は言わなきゃ、照れて見せた方がいいだろうか。心の中で様々な思考が渦巻いた。
でもその思考をうまく言語化できない。早く何かを言わなければとあせったあげく、出てきた言葉が「別に」だったのである。
そのような空気を読めない発言が何度もあり、私はそのたびに自己嫌悪に陥った。
言うんじゃなかった、あー言えばよかった。帰宅後はすぐにベッドに入って1人反省会を開き、その日の会話について後悔した。
それで終わりではない。翌日以降も同じことを思い出して何度も後悔した。嫌な記憶ほどいつまでも残るものだ。
そんなコミュ障の私でもいじめられたりハブられたりしなかったのは、幸運にも良い友人にめぐまれたことと、学力がクラスで一番だったからだろう。容姿についても……まあ自分で言うのは恥ずかしいが、上等な部類だったと思う。
優秀な人間がズレた発言をすると、ギャップによって「天然」とか「面白い人」とか好意的に扱われることがあるのだ。男子などは私のことを「供花様」と呼んでひやかしていた。
そんなこんなで学生時代はなんとかなっていたのだが、社会人になるとコミュ障を許容する空気は薄くなる。
多くの人が関わり合う仕事で円滑なコミュニケーションが取れないと、他人に迷惑をかけることになるからだ。面白い人などと好意的に扱ってはもらえない。
私は非常識な発言を繰り返し、恥をかいた。知らずに他人の心を傷つけてしまったこともあったはずだ。
そんな経験を何度もするにおよび、私は自衛策として、できるだけしゃべらないことにした。余計なことを言って自分や他人を傷つけるよりは、黙っている方がマシだ。
もちろん仕事をするなら、報連相だけはきちんとせねばならない。その場合は相手の反応まで綿密にシミュレーションを行ってから話しかけた。
しかし相手から予想外の反応が返ってくると軽いパニックを起こし、あせっておかしな応答をしてしまう。
するとまたしても自己嫌悪に陥ることになる。
私は会話という当たり前のことができない社会不適合者なのか。もうすぐ30歳になろうというのに、一人前の大人になりきれない子どものままなのか。
きっとそうなのだろう。私以外の者は「言葉を使ったコミュニケーション」という、人間なら当たり前に持っているはずの能力を使いこなしている。
私だけが例外だ。社交の場である飲み会で黙々と食べ物を口に運び、1人でスマホをいじっていることしかできない。
いっそこのままトイレにこもり続けていたい気分だが、さすがにそんなわけにもいかないだろう。軽く化粧直しをしてからフウッとため息をついて、やかましい店内に戻った。
私の席が、なくなっていた。さっきまで私が座っていた椅子には、同僚の男性社員が座っている。テーブルを渡り歩き、いろんな相手と交流を深めているようだ。
その男が加わったことで、さらに場が盛り上がっていた。私のことなど誰も覚えてはいまい。
「あのう……そこは私の席なんですけど……」
などと指摘して水を差す勇気はない。どうしようかとキョロキョロしていると、誰かが声をかけてくれた。
「おーい! 首塚さん、こっちにおいでよ!」
助かった、と思って声がした方に顔を向けると、ウゲッと声が出そうになった。
営業部の寺前雄二だ。仕事上の接点がないので、あまり話をしたことはない。
だが苦手な印象だけは持っている。勤務時間中も常に何かをしゃべり続けている男で、その話す内容は愚にもつかないものばかりだ。
巧みな話術もユーモアもなく、ただうるさいだけなので、寺前さんにうんざりしているのは私だけではないはずだ。できるだけ関わりたくないタイプの人間である。
とはいえ居場所をつくってもらえたのはありがたい。私はあいまいな笑みを浮かべて寺前さんの隣の席に腰を下ろした。
近くにいる者たちがホッとした表情をしているのは、寺前さんの相手を引き受けてくれる人間が現れたからだろう。誰もがこのおしゃべりな男にうんざりしていた。しかし本人はそれに気づかないのだ。
「いやあ、ずっと首塚さんと話をしてみたいと思ってたんだよ」
心にもないことを、と思ったが、もちろん口には出さない。なんとか笑顔を顔にはりつけ、話を聞く態勢になる。
「今まで一緒に仕事をする機会はなかったから、僕のことはあまり知らないよね? 見ての通りのいいかげんな男だよ。実は先月、ついに40歳になったんだ!」
そう言うと大きく口を開け、ハッハッハッと笑った。何が面白いのかわからない。
「でも独り身で恋人もいない。モテないわけじゃないけど1人の方が楽なんだ。何をするにも自由で、すべての時間とお金を自分のために使えるのは最高だよ!
僕はゴルフが趣味なんだ。意外かな? それなりにお金がかかるけど、一生楽しめるスポーツだからおすすめだよ。ゴルフなんておじさんがやるスポーツだと思ってるかもしれないけど、仕事帰りに1人で打ちっぱなしをやってる女の子も珍しくない。
最近は接待ゴルフなんて言葉はほとんど耳にしなくなったな。みんな気軽にいろんな相手とプレーを楽しんでいて――」
延々と続くゴルフ談議が始まった。私は「ふうん」とか「そうなんですか」とか、気のない相槌を打って聞き流す。寺前さんは気にした様子もなく1人で話し続けている。
普通の人間なら「首塚さんは休日には何をしてるの?」などと、こちらにも話を振ってきそうなものだが、彼はそんなことはしない。
それが私にはありがたい。
「ジャズはいいよ。僕は学生時代はロックばかり聴いてたんだけど、ジャズの魅力を知ってからは古いレコードを集めるほどハマっちゃってね。あ、レコードっていうのは――知ってる? ならいいんだ。一口にジャズといってもいろんなジャンルがあって――」
話題はいつの間にかゴルフからジャズに移っていた。
「歌ありのジャズもいいけど、まずは楽器演奏だけのジャズをおすすめしたいな。首塚さんも一度聞いてみればわかるよ。ジャズの魅力に気付けば、ロックやポップスが幼稚な音楽に思えてくるから」
ジャズファンの中には、まれにロックやポップスを下に見ている人種が存在する。そういう人間がジャズを布教しようとすると、かえって反感を買うことになる。彼は今まで、多くの人間をジャズ嫌いにしてきたことだろう。
でも私は不快な気分にはならなかった。「首塚さんはどんな音楽を聴くの?」などと余計なことを聞いてこないのが嬉しい。
私以外の人間ならば、寺前さんの話をずっと聞いているのは苦痛だろう。彼はひたすら自分の話しかしない。相手に話を振ろうとしないどころか、口をはさむ隙さえ与えないのだ。
私とは異なるタイプのコミュ障と言えるかもしれない。
それなのに、なぜ私は愉快な気分になっているのだろうか?
これまで社交の場でこんなに楽しい時間を過ごしたことはなかった気がする。
ああそうか。会話がないからこそ楽しいんだ。
私は相手の言葉を理解し、それに共感したふりをし、適当な言葉を返すことが苦痛だった。
でも寺前さんは私が黙っていることを気にする様子がない。私が素っ気ない相槌しか打たないにもかかわらず、心から楽しそうに1人でしゃべり続けている。この空気が実に心地よい。
偏見を抱かずに素直に耳を傾ければ、彼の話はそれほどつまらなくはなかった。
1人でしゃべり続ける男と、ひたすら黙っている女。コミュ障の人間同士で妙にかみ合ってしまったようだ。
会はお開きとなり、みんなで店の前に出てきた。
誰もすぐに帰ろうとはせず、だらだらと二次会の相談などをしている。通行人の邪魔になっていることに気付かないのだ。
「首塚さん、この後時間ある?」
寺前さんが声をかけてきた。「僕のお気に入りのジャズバーがあるんだけど、よかったら一緒にどうかな?」
「2人でってことですか?」
「うん、もちろん無理にとは言わないけど」
いつもの私なら当然断っていただろう。それなのについOKしてしまったのは、もう少し彼と一緒にいたいと思ってしまったからだ。
私はジャズバーのカウンター席で、またしても彼の雑談を一方的に聞くことになった。彼は店内に流れるジャズの音に負けないよう、大きな声でしゃべり続けた。
「首塚さんって本当に聞き上手だよね。僕の話をこんなに聞いてくれる人は初めてだよ」
そんなことを言うのはこの人だけだろう。ただ黙っているだけで聞き上手と評価するなら、水槽の熱帯魚だって聞き上手だ。
「寺前さんこそ、とても話し上手だと思います」
正直な感想を述べた。この私を自然な笑顔にさせてくれるのだから、間違いない。
「そう? 楽しんでくれたならよかったけど」
「とても楽しかったです」
そう言ってから、とくに深く考えずに付け加えた。
「ジャズが好きになりました」
それを聞いた寺前さんは子どものように顔をほころばせた。
私にしては珍しく、正しい言葉を選択したようだ。
―――
雄二と結婚してから1年が経った。
仕事は互いに続けている。さすがの彼も、職場で妻を相手にしゃべり続けるほど恥知らずではない。よって帰宅してからが本番だ。
「乱歩の初期の短編は間違いなく傑作だ。だが彼の通俗小説や少年探偵団ものをどう評価すればいいか、僕は昔から悩んでいた。あれは今読むとさすがにつらいものがあるからね。でも最近になって気付いたんだ。あれらの作品群こそが現代のライトノベルの走りではないか、そう考えると乱歩の先進性が――」
食卓の上には雄二がつくった料理の皿が並んでいる。彼は料理だけは自分が担当すると言って譲らなかったのだ。仕事帰りで疲れている時でもまったく手抜きをしないのには、感心を通り越して驚異的だ。
そして食事中、彼は私を相手にしゃべり続ける。よくもまあ、毎日話すネタが尽きないものだ。付き合い始めてからわかったが、彼の趣味の幅は実に広い。
私は黙って話を聞きながら、彼の料理に舌鼓を打っている。そんな時間が本当に心地よい。
私が会話ができない人間であることは、彼に話してあった。大事な話ならば彼はちゃんと聞いてくれる。
「無理に話さなくてもいいよ。僕は気にしないから」
彼は真剣な顔で答えてくれた。「生まれ持った性質はどうしようもないさ。僕も子どものころから、男のくせに口数が多すぎるって注意されてきたんだ」
今は「男は黙って」なんて時代ではないが、それでも無口な男は、無口な女よりは社会的に許容されやすい。だから私も「男に生まれればよかった」なんて思ったこともある。
しかし彼はその考えを否定した。
「男も女も変わらないよ。社会はコミュニケーションが苦手な人間には風当たりが強いんだ。でも僕たち2人の間では、そんなことは気にしなくていい」
「でも一方だけがしゃべり続けて、一方がまったく口をきかない夫婦って、周囲からは異常だと思われるだろうし……」
「誰かに異常だって言われたことがあるの?」
「ないけど」
「だったら気にする必要はないだろう。夫婦の形は夫婦の数だけある。正解なんてないんだ」
私がうまく言い返せずに黙っていると、雄二はさらに続けた。
「僕もよく、他人の心の中を勝手に深読みしてしまうことがある。たとえば取引相手に普段よりも素っ気ない応対をされた時は、自分の言葉のせいで相手を怒らせてしまったかもしれない、と落ち込む」
雄二は他人の反応なんて気にしないと思っていたので、意外な気がした。
「でも、たまたま機嫌が悪い日だったのかもしれないし、次の約束があって慌てていたのかもしれない。他人の考えてることなんて、わかるわけがないんだ。気にするだけ無駄だよ」
やっぱり普通の人は、そういう切り替え方ができるんだよね。私はいつまでも引きずってしまうのに。
と思ったが、それも違うと彼は言う。
「そんな風に理屈ではわかっていても、気にしてしまうのが人間なんだと思う。誰だってそうだし、僕もそうだ」
「そうなの?」
「人とのコミュニケーションはとても難しいんだ。完璧にこなせる人間なんていない」
スッと心が軽くなった気がした。
私だけが人付き合いが下手なわけではない。実はみんな苦労しているのだ。
「そう言われて、気持ちが楽になった」
私は素直に答えた。「他人の考えてることなんてわからないのが普通だよね。今日コンビニに入った時、店員が私に対してだけ『いらっしゃいませ』を言わなかったんだ。ショックだったけど、たまたま忙しかっただけかもしれないよね。私が不審者に見えたからじゃないんだよ、きっと」
雄二は大口を開けてガハハハと笑った。
私も笑った。
私たちの生活は順風満帆だった。
雄二が喉頭がんになるまでは。
―――
幸いにも比較的早期に発見できたため、外科手術によってがんを取り除くことはできた。
しかし声帯を切除することになった。
声を出せなくなったことは、雄二にとっては何よりもつらいことだろう。昔から「寺前はしゃべり続けていないと死ぬ奴だ」などと、人から言われていたらしい。
さすがに死ぬことはないだろうが、彼にとっては生きがいを奪われたに等しい。
時間をかけて練習すれば食道発声ができるようになるらしいが、大きな声は出せないし、以前のように延々としゃべり続けることもできない。
雄二は会社をやめる選択はしなかったが、これまでのように営業の仕事を続けることは難しかった。
会社は彼のことを扱いかねていた。言葉によるコミュニケーションなしに仕事をできる体制が整っていないからといって、会社を責めることもできないだろう。
医師の勧めもあって障害者手帳を取得することになったが、それも彼の自尊心を大きく傷つけた。
私の前では無理をして笑顔をつくっているが、明らかに覇気がなくなった。
家が静かなのが息苦しい。私は沈黙を苦にしない人間だったはずだが、にぎやかな雄二との生活に慣れてしまっていたのだ。
手術が終わってから、もう半年が経っている。
雄二は相変わらず手抜きをせずに毎日料理をつくっているが、豪華な料理が並ぶ食卓で、互いに黙々と食べ物を口に運ぶ時間はいたたまれなかった。何より、彼の心境を想像すると胸が苦しい。
このままではいけない。
彼は私を助けてくれた。コミュ障だと悩む私を笑い飛ばし、居心地のいい時間を与えてくれた。
今度は私が、彼にとって居心地のいい時間を用意してあげたい。
なんとか彼に以前の笑顔を取り戻させたい。
「宇宙人って、いると思う?」
箸をおくと、私は実にくだらないことを問いかけた。
彼は目を丸くしている。私から話題を振って雑談を始めたのは、ひょっとすると初めてかもしれない。
「私はいると思うんだ」
相手の返事を聞かずに話を続けた。彼がいつもしていたように。
「だって地球で知的生命体が誕生したっていう例があるんだよ? この広大な宇宙で、そんな星が地球だけって考える方が無理があると思うんだ。宇宙ってあり得ないくらい広いんだよ? 私、宇宙の広さを想像すると怖くなることがあるの。自分がいかにちっぽけな存在かって考えて。
そうだ、広すぎて怖いといえば、海も怖いよね。太平洋の向こうの水平線を眺めてたら、その先に広がる無限の空間を想像してたまらなく怖い。うーん、わかるかな、この感覚。
ひょっとすると日本海だったらそんな気持ちにはならないのかなあ。すぐ向こうに大陸があるのがわかってるし」
私はどうでもいいことをしゃべり続けた。言葉が自然に出て来て止まらない。そして楽しい。
なぜだろう? 私は雑談は苦手だったはずなのに。
ああ、そうか。
私は会話が苦手だ。それは言葉のキャッチボールができないからだ。相手の言葉に対して的確な言葉を返すことが不得手なのだ。
一方的に話し続けるだけなら、全然苦手ではなかったのだ。
しかし一方的に聞かされる相手はたまったものじゃないだろう。雄二は私とは違うのだ。
私はいったん口を閉ざし、おそるおそる彼の表情をうかがう。
自然な笑顔だった。彼は私の目を見つめてうなずき、グッと親指を立てた。
“いいぞ、もっと君の話を聞かせてくれ”
彼の考えていることが、手に取るように分かった。嬉しくなった私は、さらにどうでもいい話を続ける。
「ううん、日本海だって充分に広いから怖いはずだよね。瀬戸内海はどうだろ? 瀬戸内海で水平線って見えるのかなあ? まあ琵琶湖でさえ見えるらしいから、きっと見えるよね。でもあの辺には小さい島がいっぱいあるから、どうなんだろう?」
ああ、実に中身のない話だ。雑談なんて、内容はどうでもいいのだ。
この日から、私が1人でしゃべり続け、雄二が黙ってそれを聞くという関係が始まった。
彼は私とは違い、本当の意味で聞き上手だった。表情やしぐさで共感を示してくれるので、こちらも気持ちよく話し続けられた。
世間一般的な考え方では、これはいびつなコミュニケーションなのかもしれない。でも私たちは気にしなかった。
夫婦の形は夫婦の数だけあって、正解なんてないのだから。