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雪月花のソード・ワルツ  作者: 桐谷 暁人
第一章
8/20

8話 激闘開幕



 試合開始の合図が出された瞬間、和樹は大剣を構えつつ一言呟く。


「『吼えろ(ブレイズ)』」

 

 一言の詠唱により和樹は己の魔法を発動させた。

 魔装使いが魔装使いと言われる由縁である魔法。魔法には様々な種類があり、全ての魔法において発動には詠唱が必要となる。詠唱することで魔法発動の為に必要な魔力を練り上げて魔方陣を築き魔法は発動されるのだ。詠唱が長ければ長いほど練れる魔力の量も多くなるため、強力な魔法ほど威力は大きくなる。

 和樹もその例にもれず詠唱を行うことで魔法を発動する。

 和樹の全身から紅蓮の燐光が迸りそれはやがて火花へと変わり、大きな揺らめきへと変化して一つの炎が生じる。


「《炎狼纏皮(ウォルブヘジン)》」

 

 全てを焼き尽くす『炎』。それが和樹が有する魔法であり、和樹は詠唱を唱えて炎を全身に纏う。

 

 彼の魔法《炎狼纏皮》。

 

 鍵となる『吼えろ』という一言の詠唱を以て発動される短文詠唱によって発動する魔法。

 体や魔装に焔を纏わせることで身を守る焔の鎧であり、また剣に焔を纏わせ攻撃や移動も補助する和樹の基本戦術の魔法である。彼は四肢に焔を纏わせると獣のように低く身をかがめ、


「行くぞ」

 

 そう呟き纏う炎を爆発させながらその爆風の加速で勢いよく駆け出す。爆風の加速は凄まじく雪華との距離を一気に詰めると、


「ぜぇぇあぁぁぁぁぁぁ‼︎」


 裂帛の雄叫びを上げ炎纏う大剣を彼女めがけ振り下ろす。

 紅蓮纏う火炎の大剣が正眼で刀を構える雪華へと振り下ろされ、爆炎の大華を生む。

 突如としてリングに咲いた紅蓮の炎華。開花に伴う爆風とリングを揺らす衝撃に実況が驚愕に声を張り上げる。


『か、開幕速攻だぁぁぁ!一年九条、容赦のない先制攻撃による爆炎を見舞ったぁぁぁぁあ!!』

「うおぉすげえな九条。流石次席なだけあるなぁ」

「そうね。でも、カズキにとってはあの程度あいさつ代わりなんでしょうね。だって……」

 

 和樹の爆炎の大きさに迅が感心の声を上げ、ヴィーゼが気づきそう呟く。そう、これは挨拶だ。和樹が主席である雪華を見定めようとしたものだ。そして、その結果はーーー


「っっ?」

 

 和樹は燃え盛る爆炎の中で銀の煌めきが瞬いたのに気づく。

 視線を向ければ、爆炎の中から透き通った鏡を思わせる氷の盾を自身の前に展開しつつ、刀を鞘に戻し居合斬りの構えを取っていたのだ。

 和樹は気づいていた。今の挨拶代わりの攻撃を彼女は難なく氷の盾で逸らし凌いだことを。和樹の一撃を凌いだ彼女は、静かな眼差しを和樹に向ける。


「『氷剣抜刀。白き刃を閃かし敵を斬り裂かん』ーーー」

 

 小さく呟いた彼女は鞘から刀を引き抜く。刀と鞘の隙間から白銀の光が溢れーーー



「―――《氷雨乱斬(ひさめらんぎり)》」



 銀閃が閃き和樹の視界に無数の銀の軌跡が生まれて和樹に氷の斬撃が襲い掛かった。


「ツツ!炎よ!」

 

 視界を埋め尽くしてしまうほどの斬撃を前に和樹はとっさに大剣を盾のように構えつつ一言叫び、両足の炎を爆破させながら爆破の勢いのまま後ろへと大きく飛びのいた。

 受け身を取りつつリングを転がった和樹はすぐさま身を起こし大剣を構える。雪華は追撃はっせずに再び刀を正眼で構えつつ目を細める。


「……今のを無傷で躱しますか。流石の反応速度ですね」

「そっちこそ。今のを完全に凌ぐとは。多少の傷は与えられると思ったんだがな……」

「言っても間一髪でしたよ?炎の勢いが思ったよりも強くて少し焦ってしまいました」

 

 軽口を交わしつつも両者はお互いから決して視線を逸さない。既にお互いを強者だと認識している以上、一挙一動に視線を向けていなければこちらがやられると分かっていたからだ。

 そして、軽口を交わしあうと雪華は刀を正眼から自身の顔の高さで水平に構え告げる。


「では、次は私から参ります!」

 

 直後彼女の姿が消えた。

 いや、消えたと錯覚するほどの速度で移動したのだ。

 どこに行ったと視線を巡らせるだけでなく、魔力の感知も併用して気配を探る。

 

(っつ!横っ!)


 感知を始めた瞬間、彼は真横に魔力反応を感知して勢いよく振り向く。振り向いた先には確かに雪華がいて、和樹の腰の高さまでに身を屈ませた彼女は刀を振りぬこうとしていた。

 白刃が煌めき逆袈裟に振り向かれ和樹の脇腹に吸い込まれるように刃が降りぬかれーー。


「……っ」

 

 甲高い金属音が鳴り響き、白刃が止められた。

 白刃を止めたのは、漆黒と赤に彩られた籠手。それは、和樹の魔装の籠手であったのだ。

 大剣での防御が間に合わないと悟るや、和樹は胴体と白刃の間に左手を差し込んで籠手で間一髪防いだのだ。


「…っぶねっ!」


 間一髪受け止めることができ、冷や汗交じりに安堵の息をつく和樹。

 彼は安堵の息をついた直後、左腕を振りぬき強引に白刃を弾く。白刃を押されその勢いで軽やかに後退した雪華に和樹が再び攻めかかった。対する雪華も攻めかかる和樹に前進。


 その刀に白銀の冷気を纏わせて、迫る紅蓮の熱気纏う大剣を迎え撃った。

 熱気と冷気が激突し、周囲に熱波と寒波をまき散らしながら二人は激しく切り結ぶ。

 紅蓮の火炎が雄々しく猛り、大剣が豪快な弧を描き破城鎚の如き剛撃を齎す。

 白銀の氷が凛々しく煌めき、刀が鮮やかな軌跡を描き閃光の如き斬撃を閃かせる。

 大剣という超重量武器と、刀という中量武器。二つの武器はそれぞれの使い手によって巧みに動き、相手を斬らんと幾度となく大気を切り裂き、激しい火花を散らし、二人は紅蓮と白銀を携えてリングを高速で駆け回る。


「はははっ!本当にやるな!挑戦を受けた甲斐があった!!」


 激しく切り結びながら和樹は、口を大きく開けて呵々大笑する。炎を纏い爆撃じみた大剣の剛撃の連打を、雪華は氷を纏った刀でことごとく切り落としていく。凄まじい剣戟の音を響かせながら、雪華は最後に刀を大剣に打ち付け、強引に距離を取って高速で並走しつつ和樹の歓喜に応じるようにほほ笑んだ。


「ええ、私も同じ気持ちです。私の目に狂いはなかった」

 

 自身の予感が正しかったことに笑う雪華に並走する和樹は大剣を振り上げながら返す。


「どうやらお眼鏡に叶ったみたいだな」

「ええそれはもう十分に」

 

 和樹の大剣を真っ向から受け止めるのではなく、斜めに構えて受け流しつつそう答えた雪華は、白刃の突きを見舞う。放たれた突きは和樹の顔面に伸びたものの、首をひねり躱される。


「だが、こんなので満足してもらっちゃ俺が困るな」


 白刃を躱した和樹は、大剣を右腕だけで振るいつつ拳を振り上げ拳撃を見舞った。

 炎纏う拳砲に雪華は氷の盾を生み出すも、接触の瞬間拳の炎が爆発し雪華を盾ごと殴り飛ばした。 


「『吼えろ』っ!!」

「くうっ!」


 殴り飛ばされ後退を余儀なくされる雪華に和樹は爆風の加速を以て容赦のない追撃を行う。一息で彼女の眼前に迫った和樹は大剣の炎を一層強く滾らせながら一閃。

 再び赤い爆炎の大華が咲き、雪華を今度こそ焼き尽くそうとするも、それはまたしても叶わない。


「っつ!」

 

 火花が舞う中、彼は瞠目する。

 自身の眼前で振り下ろした大剣の真横に彼女は立っており、刀の切っ先を和樹へと向けて既に狙いを定めていたのだ。


「ちぃっ!」

「『麗銀の鳥よ。その嘴槍で穿ち貫け』―《凍鶴嘴槍(とうかくしそう)》っっ!」


 舌打ち交じりに咄嗟に防御を取ろうとするも、それよりも早く彼女の突きが和樹の胸部に突き刺さる。氷により太さと鋭さを増した氷の槍は、その名の通り鶴の嘴のように鋭く彼の胸に突き刺さると、お返しといわんばかりに和樹を大きく吹き飛ばす。


「かっ、はっ!?」


 突き刺さった刺突の衝撃に貫かれはされなかったものの肺の中の空気をすべて吐き出され、和樹は大きく吹き飛びリングを転がる。 

 リングを転がる和樹に雪華は魔法による追撃を行う。刀を指揮棒のように振るいながら白銀色の魔方陣を足元に展開した彼女は、自身の背後に氷であるものを造形する。


「『空舞う狩人よ。その爪を以て追い立てなさい』――《氷鷹(ひおう)》」

 

 彼女の言霊に応え出現したのは総数三十羽の鷹だ。

 本物と見まがうほどの精巧に造形された氷鷹は主の命令に従い翼をはばたかせて和樹へと襲い掛かった。遠目からでも明らかなほどの鋭い切れ味を秘めた氷の鉤爪を構え氷鷹の群れは氷の翼をはばたかせ、本物の鷹を軽く凌駕する速度で飛翔する。

 弾丸の如く飛翔する氷鷹を前に和樹は勢いよく駆け出す。

 複雑な軌道を描きながら飛翔する氷鷹は和樹の逃走経路に狙い撃ちで迫り、和樹がかけた直後の地面に突き刺さると、轟音を鳴らしながらリングの地面を粉砕した。


「―――っつ!?マジかっ!?」


 自身の背後の地面が粉砕されたことに和樹はかけながらその破壊力に驚く。

和樹の動きを補足する追尾性がありながら、リングの地面を砕くほどの破壊力。

  いくら魔装を纏って多少の衝撃を緩和出来ようとも直撃することは避けなければと思わざるを得なかった。そして、舞い上がった砂塵の中から白銀の煌めきが見えた直後、砂塵を突き破って依然健在の氷鷹の群れが飛び出てくる。和樹は迫る氷鷹に実に軽い身のこなしで躱しながら迎撃を行う。


「『吼えろ』」


和樹は一言詠唱し再び大剣に焔を一層強く宿す。

言霊に応え猛りを増した焔剣を振るい彼は空を切り迫る氷鷹の群れに金色の目を細めると氷鷹を迎え撃つ。


「炎よ」


 一言と共に彼は焔剣を振るう。

 凄まじい速度で氷鷹に剣を叩きつけ爆砕する。

 爆音が連続で鳴り響き和樹を追撃し周囲を飛び交っていた氷鷹の群れの実に半数が、たったの数秒の間に砕け散り氷の破片を散らす。

 氷の破片が舞う中、和樹は再び爆風の加速で氷鷹の追撃を躱しつつ、大剣の切っ先に赤く燃え渦巻く炎を灯し、大剣を上に掲げ高らかに詠唱を行う。


「『具現するは赤き火矢。纏うは紅蓮の炎。宙を翔け雨の如く降り注ぎ、我が障碍の悉くを焼き払え』―《バースト・ソリフェレア》!!」

 

 刹那放たれたのは、夥しい数の炎の魔弾。

 百をも超える数の紅蓮の火矢がまさしく豪雨となってはなたれ、残りの氷鷹を例外なく爆砕すると、そのまま雪華に降り注いだ。


「っっ!『盾よ顕現――」


 降り注ぐ紅蓮の豪雨に雪華は動揺を明らかにし詠唱を行う。

 その直後、彼女の必死の抵抗をあざ笑うかのように彼女を紅蓮でのみ込んだ。

 風切り音を伴いながら飛来した魔弾は着弾と同時に爆発。爆撃といっても相違ないほどの広範囲攻撃はリングのおよそ半分を呑み込み炎の海へと変える。

 リングだけでなく会場そのものを赤い炎で照らす。

 紅い炎が揺らめき燃え盛る中、和樹は掲げていた大剣を下ろす。

 人間一人に向けるには明らかなオーバーキルでしかない爆撃に観客達が絶句する中、和樹は燃え上がる炎を一切視線を逸らさずに見据える中、彼は気づく。


「……………へえ」

 

 和樹は視線の先に移った光景に目を大きく開き口唇を獰猛に歪め嬉しそうに笑う。

 直後、視線の先では炎の海が割れた。いや、割れたように見えたのは彼女がいた部分を中心に焔が凍らされ火が消えたからだ。

 割れた炎の海の奥。そこには白銀の氷華を自身の周囲に咲かせながらこちらへと歩いてくる雪華の姿があった。

 彼女は凌いでいたのだ。


 魔法『白霜凛華(びゃくそうりんか)』。


 氷の華を咲かせて盾と為す、白宮雪華の防御魔法だ。

 雪華は氷華を携えながら、凛々しさを感じさせる確かな足取りで歩き和樹から少し離れたところで止まる。


「本当に貴方は強いですね。入学して早々あなたのような方と戦えて私は嬉しいです。それに、傷を負うなんて久しぶりですよ」

 

 嬉しそうに笑う彼女の魔装はこれまでの切りあいで多少の斬られている他、一部が炎によって焦げていたのだ。露わになっている素肌にも火傷の跡はあり雪華が少なからず傷を負っていることが明らかだった。


「ああ、俺もだな。白宮さんのような強者とこうして己をぶつけられるのは楽しいな」


 そう返す和樹も体のあちこちに切り傷が出来ていた。赤黒の魔装には体のあちこちから血が垂れ染みを作っていた。

お互いが少なからずダメージを与えていたのだ。しかし、一見すれば痛々しいような傷を負っていても二人の瞳からは戦意が微塵も消えておらず、まだまだ戦闘継続の意志は変わらずだった。


「で、まだまだやれるだろ?これで終わりなわけがないよな」

「ええ、勿論。まだ私の気は済んでいません。もうしばらくお付き合いしていただけませんか?」


 雪華はそう答えると刀を構え白銀の魔力を全身に纏い魔力を爆発的に高める。対する和樹も獰猛に口端を裂き全身に纏う炎をさらに滾らせながら大剣を構える。



「ああ、もっと、踊ろうぜ!」

「ええ!」



 そうして、和樹と雪華は大剣と刀をぶつけ、戦いは第二ラウンドへと移った。



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