2話 入学
入学式を終えた和樹達はすぐにそれぞれのクラスに移動した。和樹や迅、そして雪華も所属する一年一組の教室、その教壇には一人の若い男性教師が立っており、それぞれ席に座る新一年生たち視線を巡らせ満面の笑みを浮かべる。
「皆、改めて第一魔装学園へ入学おめでとう。僕がこの一年一組の担任の新崎颯斗だ。これから3年間よろしく。さて、早速この学園の説明をしていこうか」
新崎はそういうと教壇のタッチパネルを操作する。ピッという電子音とともに颯斗の前に大きなホログラムが出現した。出現したホログラムは何かの施設が映し出されている。それは、この学園の全体図だった。学園全体をホログラムに映し出した新崎は入学ガイダンスを始めていく。
「まず、この学園の主な施設の説明をしていこうか。この学園には君達がいる本校舎をはじめとして多くの施設がある。これらの説明をしていこう」
それから、入学ガイダンスは続いていき本校舎や学生寮、各訓練施設の数や場所の配置、演習場など学園の主な施設に関する基本説明などを次々に話していく。しかし、如何せんその内容が多く話も長いため生徒たちの一部が退屈そうにし始め、和樹もその一人であり窓の外の景色に視線を向け始めた。しかし、まるで見計らったかのように新崎はにっと笑みを浮かべると次の話題を切り出した。
「... ... とまあ、学園の主な説明はこのあたりで終わりにして、次は《星桜魔剣武闘祭》につい
て話をしていこうか」
『『『っっ!!︎』』
新崎の呟きに退屈そうにしていた生徒や真面目に話を聞いていた生徒を問わず何人かが反応し目の色を変える。和樹もその一人だ。彼は窓に向けていた視線を新崎に戻しじっと彼を見据えていた。その瞳には並々ならぬ情熱の炎が宿っている。
《星桜魔剣武闘祭》
それは、魔装使いの士官候補生たる彼らにとっては一大イベントであり、日本でも有数の一大イベントなのである。日本に存在する五つの魔装学園からそれぞれ数名の代表者を選出し頂点を競い合い最強を決める武の祭典。シングルとダブルスが存在し、それぞれで優勝すれば日本最強の称号をそれぞれ獲得することができるのだ。
「皆も知っての通り、《星桜魔剣武闘祭》は日本でも有名どころか、世界中からも注目されている一大イベントだ。出るだけでも、実力者だと認識されるし優勝なんてしようものなら名声を手にすることができるほどだ」
新崎は食いついた生徒達の反応を楽しむように、笑いながら話し続ける。
「我が第一魔装学園では代表者はトーナメント式の選抜戦で決めることになっている。シングル、ダブルスともにね。例年通り、最初の一か月はエントリー期間を設けてそれから5 月上旬に選抜戦開始という流れだ。この選抜戦は強制じゃなくて自由参加だから、この一か月間で出場するかどうかを決めれる。不参加を希望する者は端末にある選抜戦参加有無のページで不参加を選択してくれ。ただし、一回押したら変更はできないから慎重にな。そして、シングルも当然だがダブルスに出たいと思っている者は早めにペアを探して訓練をしといたほうがいいだろう。この選抜戦には上級生も参加するからな」
新崎の言う通り、選抜戦は学年別には行われない。学年問わず全員が真っ向からぶつかり合うのだ。三年は勿論二年も自分たち一年に比べれば経験値の差で大きく上回っているはず。だからこそ、一か月というエントリー期間を設けていても早めに決めて選抜戦に備えておけと新崎は言っているのだ。それを聞いて、何人かの生徒が真剣な表情を浮かべる中、和樹は早速脳内でこれからの予定を組み立てていた。
(とにかく、早めにペアを探すに越したことはないよなぁ。誰かいねぇかな。俺と組んでくれ
るやつ)
和樹は勿論《星桜魔剣武闘祭》に出場するつもりだ。それも、シングルとダブルス両方に。
だが、《星桜魔剣武闘祭》において、シングルとダブルス両方出場することは一般的にお勧めで
きない。なぜなら、
「先生― 、シングルとダブルスって両方出ることは可能なんですか?」
迅が手を上げて新崎に質問する。それは生徒の多くが抱えていた疑問でもあった。
「ダブルエントリーか。それは確かに可能だよ。この中でもしたい者がいるのならしてもいい。けど、もしするのなら相応の覚悟をしておくのお勧めするよ」
「何でですか?」
「はっきり言って両方出るのは体力的にも魔力的にも相当きついからね。皆も知っての通り、シングルとダブルスは夏の《星桜魔剣武闘祭》でまとめていっぺんに行われる。選抜戦もそれに伴ってダブルスとシングルも交互に行うように日程が調整される。つまり、ダブルエントリーした者はより多くの試合をこなさなくちゃいけなくなるんだ」
夏の長期休みの期間を利用して行われる《星桜魔剣武闘祭》ではダブルスを先に行い、その翌日からシングルを行うという日程を組んでおり、ダブルエントリーするものは人数によってはかなりの長期間を連続で出場して戦い続けなければいけないからだ。《星桜魔剣武闘祭》に出場するものは例外なく強敵だ。その強敵達と十連戦以上戦い続けなければいけないのだ。それは想像するだけでも厳しいものだとわかってしまう。実際に、生徒達のほとんどがその過酷さを想像して顔を顰める。
ただでさえ、真剣勝負で負傷は勿論のこと、死の危険だってあるという大きなリスクを抱えているのにダブルエントリーしてさらに自分を死地に追い込むような真似はしたくないのだ。そして、彼らの表情からも分かる通り、全員が和樹のように《星桜魔剣武闘祭》に出て己の力を高めたいと思っているわけではない。平穏に卒業して、高給の仕事について平穏に生きれればそれでいいという者達のほうが多いのだ。
だが、そんな彼らに新崎は「確かに... ... 」と続けると真剣な表情を浮かべた。
「負担が大きすぎるからダブルエントリーをするものはそう多くない。ましてや入学したての一年生で選抜戦事態にエントリーした者はここ数年でも数えるほどしか見たことはないし、《星桜魔剣武闘祭》本戦に進めた者は一人もいなかった。どちらか一つに絞って鍛えるのが賢明と考える者が大多数だろう。だけど... ... 困難に挑戦することは決して愚かではないんだ。挑戦したいのなら、好きなように挑戦すればいい。その経験は決して無駄にはならないし、それどころか、かけがえのない財産になるだろう。だから、ダブルエントリーをしたい者は遠慮なく挑むといい」
新崎は最後に笑みを浮かべ、そう締めくくった。彼の背中を押してくれる言葉に、和樹は人知れず笑みを浮かべ闘志を滾らせる。
(上等だ。やってやるよ)
ダブルエントリーするつもりだった和樹は彼の力強い言葉に俄然やる気が湧いてきた。元より負担が大きくなることなど入学前から知っていたことだ。その上で、ダブルエントリーをす
ることを決めたのだ。新崎に言われても、自分が挑もうとしているものの困難さを再認識したに過ぎない。
「《星桜魔剣武祭》に出場したい者はさっき言ったページで参加を選択した後、各担任、この組だと僕のところにきてくれ。参加に必要な紙を書いてもらうから。特に、ダブルスは早めに来るんだよ」
最後にそう注意して、再び満面の笑みを浮かべる。
「入学ガイダンスはこれで終了だ。今日は授業もないからこの後は寮に行って荷解きやルーム
メイトと顔合わせだ。では、これから三年間頑張ってくれ」
こうして、魔装学園最初の行事である入学式は特に何の問題もなく終了した。
▼△▼△▼△
「九条――、この後はどうするよ?」
初日のホームルームを終え新崎が退室した後、生徒達は早くも中・小のグループを作り始め、交流を始めていた。そんな中、迅はグループ形成の流れに乗るわけでもなく、和樹に近づき声をかけたのだ。
「とにかく寮に行って荷解きしたいな。お前は?」
「俺もそうするつもりだけど、顔合わせした後お互いルームメイトを誘って飯食いに行かね?うまそうな店見つけたんだよ」
そう言って迅は端末の画面を見せてくる。そこには調べたのであろう、ハンバーガーショップのホームページが載っており写真でもわかるハンバーガーの写真が写っていた。確かにこれはいい店そうだ。
和樹は迅の提案に迷いなく頷く。
「ああ。いいぞ。にしても、確かに美味そうだなこれ」
「だろー?」
迅は得意げに笑うと、彼の部屋番号を尋ねた。
「ちなみに、九条は部屋どこなんだ?」
「俺は425 号室だ。お前は?」
和樹の部屋番号を聞いた迅は、心底驚いたような表情を浮かべた。
「どうした?」
「いや、ほんとマジで偶然が重なるもんだなって思ってよ... ... 」
「てことは... ... 」
「おう、俺とお前さんは同室ってことだ」
「マジかよ。こうも連続で偶然って起こるもんか?」
「実際起きてるからなぁ」
まさか、入学式で最初に知り合った同性の知り合いが同じクラスで、しかも同室のルームメイトだとは、さすがに思いもよらなくて、二人はあまりの偶然に揃って笑ってしまう。一頻り笑った二人は、視線を合わせる。
「じゃあ、どうする?このまま直行するか?」
「いんや、荷物だけは先に置こうぜ」
「あいよ」
迅とこれからの予定を決めた和樹は、不意に雪華の方へと振り向く。最後列にいる雪華はやはりというべきか、案の定大勢に囲まれていた。まぁ、無理もないだろう。多くの人を魅了し惹きつけるほどの美しい容姿に、新入生主席入学という実力も一番。その上、日本有数の名家白宮家のお嬢様とくれば話題性に尽きることはない。入学早々生徒達からの注目の的になるのは自明の理であった。しかも、先ほどの入学式での新入生代表として答辞を行う態度は、初々しくも堂々としており、可憐な容姿と相まって男女問わず多くの新入生の心を鷲掴みにしたのだ。
「おーおー、流石はお嬢様。早速人気者になってるなー」
「白宮さんも誘ってみようかなと思ってたけど、あの様子だと解放されんのはだいぶ後になる
だろうな。話すのは明日にでもするか」
「誘うつもりだったのかよ」
「だって最初にこの学園で知り合った人だし、もう少し話をしたかったしな」
最初に知り合った人であり、少し話をしたいと個人的に思っていた和樹は心なしか少し残念そうに呟く。今から声をかけて誘うのもいいが、あの中に飛び込んで昼食に誘うのはいささか気が引ける。というか、あんな美少女を昼食に誘えば何かしらのやっかみがあるかもしれない。
そんま和樹の言葉に迅はにんまりとした笑みを浮かべた。
「ほうほう、話をしたいということは、お前さんもあの美貌にメロメロになったってことかぁ?」
「いきなり、何言ってんだお前」
「いやいや隠さなくてもいいぜ。あのルックスだ。興味を持つのは当然のことだ。しかも、主席という実力も完璧。しかもあの御三家のお嬢様。まさに非の付け所のない美少女。クラスメイトとしてだけでなく、一人の男としてお近づきになりたいと考えるのは仕方ないことだぜ」
「そういうのじゃねよ。ったく、とっとと行くぞ」
妙な動きを交えながらふざける迅にそう返しながら和樹は教室を出て廊下に出る。
「そういやよ、九条は出るのか?」
「何にだ?」
「何って、そんなの決まってるだろ。《星桜魔剣武闘祭》にだよ」
「ああ。、そのことか。もちろん、出るつもりだ」
「へぇじゃあ、どっちに出るつもりなんだ?やっぱシングルか?それとも、ダブルス?」
「両方」
「... ... マジで?」
端的に一言答えた和樹に、迅は立ち止まり目を丸くすると愕然とした声を上げた。それに和樹は首だけを迅に向けながら不敵な笑みを浮かべた短く返した。
「大マジだ」
「... ... マジなのか。でも、先生も言ってたろ。ダブルエントリーするのは相当きつくて負担が大きすぎるからって。それで、もしもダブルスの方に影響が出たらどうするんだよ」
迅の言い分はもっともだ。ダブルエントリーする場合、選抜戦は最早自分一人の問題ではなくなる。シングルの消耗が激しくダブルスに出場できなくなったら、自分だけでなくせっかく組んでくれたパートナーにも迷惑が掛かってしまうのだ。それは当然和樹も分かっている。ただ、それでも... ...
「それでも、俺はダブルエントリーするつもりだ。それに、先生はこうも言ってたぜ。困難に挑むのは決して愚かではない。挑戦したいのなら、好きに挑戦すればいいって。だから、俺も挑戦するんだよ。せっかく自分の実力が試せる絶好のイベントなんだ。強くなれる機会を逃がしてたまるかよ」
拳を握り締めて首に巻き付けられている緋色の勾玉と桜の結晶に視線を落としながらそう力強く、好戦的に告げる和樹。その並々ならぬ様子に迅はあっけにとられると、やがて毒気を抜かれたかのように深く息をついて苦笑いを浮かべた。
「臆面もなくそう言い切れるお前がすげえよ。将来大物になりそうだな」
「さて、どうだかな」
苦笑する迅に和樹は口端を釣り上げて笑って返す。そんな時に彼に声をかけるものがいた。
「九条さん!」
彼らの耳朶に届いたのは一人の少女の声。鈴のような典雅な声音は彼らの記憶に新しい少女のものだった。二人そろって振り向いてみればそこには、予想通り雪華がいた。どうやら、人垣を抜けだしてきたようだ。だが、その後ろに大勢の生徒達を引き連れてはいるが。抜けはしたものの振り切ることはできなかったようだ。すぐに息を整えた雪華は和樹に詰め寄る。
「九条さん、どうして何も言わずに教室を出て行ってしまうんですか?後でお会いしましょうって言ってたじゃないですか。教室を出るなら一言言ってください」
彼女が追いかけてきたのはそういうことらしい。大講堂で別れた時のやり取りで始業式が終わった後で彼女は和樹と話をするつもりだったのだ。
詰め寄る雪華に和樹が慌てながら答える。
「い、いや、白宮さん大勢と話をしていたから、邪魔するのも悪いと思ってまた明日にしようかなと思ってたんだ。ほんとに、マジで」
「でしたら、一言言ってください。私はてっきり忘れられたのかと思ったんですよ?」
「あーそれについては本当に悪かった」
確かに一言言っておくべきだったと和樹は素直に謝罪する。周りの野次馬達が様々な反応を見せる。
『どういうことだ?あいつ白宮さんとどんな関係があるんだ?』
『白宮さんと約束をして、その約束をすっぽかしたってこと?』
『え、最低じゃん』
『弄んだってことなのね... 』
『あいつ、白宮さんになんてことを... ... 』
(ちげぇよ!?なんで、そうなるんだよ!?)
やばい。あらぬ噂で早くも和樹の評判が地に落ちようとしている。というか、雪華は気づいていないが、和樹にはばっちりと見えていた。雪華の背後で自分を殺意を込めて睨んでいる生徒たちの眼光を。このままだと近いうちに闇討ちされるかもしれない。それだけは何としてでも避けなければ。理不尽な風評被害に冷や汗を流しながら和樹はとにかく謝罪する。
「と、とにかく先に帰ろうとしたのは悪かった。俺も一言声をかけるべきだったな。すまん」
「あ、い、いえ、別に責めてるわけでは... 」
「それぐらいは分かってるよ」
頭を下げて謝罪する雪華に和樹は優しくそう返す。彼女自身に攻める気持ちがないことは明白なのですんなりと許した。顔を上げた雪華はここでようやく迅の存在に気付いた。
「あの、こちらの方は九条さんのお友達ですか?」
「どうも初めまして白宮さん。俺は九条のルームメイト兼クラスメイトの桐葉迅です。これからよろしく」
話題を振られた迅は人当たりのよさそうな笑みを浮かべながら自己紹介した。雪華も穏やかなほほえみを浮かべて名乗り返す。
「初めまして。桐葉さん。改めて同じ1組の白宮雪華です。これからよろしくお願いしますね」
「あいよ」
お互い自己紹介を済ませると、雪華じはもじもじしながら一つ尋ねた。
「あ、あの、お二人はこの後の予定はどうされるおつもりなんですか?」
「この後はこいつと二人で昼飯食いに行くつもりだ。美味いハンバーガーの店があるんだと。それがどうしたんだ?」
「あ、えっと、その... ... 」
「ん?」
和樹の問いかけに雪華はもじもじしながらなかなか答えない。いったいどうしたのかと首を傾げ尋ねようとしたとき、雪華は遂に言った。
「わ、私もご一緒してもいいですかっ!!」
「 ̋・・・えっ」
『『『『っっ!?!?』』』』』
和樹の口から変な声が出て、生徒達が一斉に騒めく。入学して間もないばかりで全員が初対面でお互いのことを詳しく知らない。だというのに、まさか、あの白宮家のご令嬢がどこの素性も知れぬ一般人の男性の昼食に同行したいというのだ。驚かないわけがない。生徒達は『お前、白宮さんに何をしたんだっ!?』と言わんばかりにギンと和樹を睨み、敵意の視線がグサグサと突き刺さる。隣に立つ迅は面白いもの見たといわんばかりにいやらしい笑みを浮かべて傍観していた。思わず硬直する和樹に雪華は上目遣いをする。
「そ、その、だ、ダメでしょうか?」
「え、えっと、俺は別に駄目じゃないけど... 桐葉はどうなんだ?... 桐葉?」
敵意の視線にさらされ冷や汗を流しっぱなしの和樹は、上目遣いという動作にグッときつつも、なんとか声を絞り出して隣にいる迅にも意見を求める。だが、横を向けばそこにいたはずの迅はいなかった。『え?あいつどこ行った?』と困惑した時、タイミング良く和樹のポケットにある携帯端末が震えた。こんなときになんだと思いながら携帯端末を見れば、そこには1通のメールが。差出人は先ほどメアドを交換したばかりの迅だった。まさかと思いメールを開けば、
『すまん!この後用事があるのすっかり忘れてたから、ハンバーガーはまた今度にしようぜ。今日は白宮さんと飯を食いに行けよ!いい報告を期待しているぜ!
追伸:近場のいい店リストアップしたからぜひ活用してくれ!!』
と、苛立ちを感じさせる文章が書いてあったのだ。しかも、文面の宣言通りリンクがつけられており、イラッとしつつも開けば『男女で行けるおすすめレストラン!!︎』という見出しとと
もに明らかにカップル向けの店ばかりが、しかも近辺のレストランが数多くリストアップされていたのだ。なんともわざとらしい文章に加え、おすすめレストランをピックアップ。
そこから導かれる回答はただ一つ。
(あいつ逃げやがったぁぁーーっ!?)
この状況で自分を捨てて逃げたということだ。美少女との会話に困る男子高校生におすすめの店を紹介してくれた用意周到さに感謝すればいいのか、この状況で容赦なく友人を置いていった彼の薄情さを恨むべきか。確実に後者に傾くだろう。
「あれ?あの、桐葉さんはどちらに?」
いつの間に迅の姿が消えていることに雪華は周りを見渡す。そんな彼女に、和樹はげんなりとした表情を浮かべながら彼女に答えた。
「用事があることを思い出してついさっき、どっか行きやがった」
「え、い、いつの間に... 」
いつの間に雲隠れをしていたことに和樹だけでなく雪華も驚いて目をぱちくりさる。状況が状況とはいえ主席である彼女にすら気配を悟らせずに行方をくらまして見せた迅に、実はあいつもすごい実力者なのかと和樹は変に勘ぐってしまった。そして、和樹は観念したようにため息をつくと雪華に問う。
「それで、俺と二人になったわけだけど... ... どうする?飯食いに行くか?」
交流がほとんどない男子と二人きりで食事に行くかどうかの選択を迫った和樹に... ... 雪華はしばらくの沈黙ののちにやがて軽く頭を下げた。
「... ... え、えっと、じゃあ、折角ですし行きませんか?」
「... ... おう」
和樹との食事を彼女は承諾した。瞬間、背後で事の成り行きを殺気交じりの視線で見ていた生徒達が一斉に沸き立つ。
『あ、あいつ、やりやがったぞっ!!』
『あれじゃ、まるでデートじゃない!』
『くそっ、あの野郎白宮さんと、なんて羨ましいっ』
デートだなんだと騒ぐ生徒達の様子にようやく周りの状況を把握したのか雪華は顔をさっきよりも赤くして恥ずかしそうに縮こまって俯いてしまう。その仕草が可愛くて和樹はくすりと笑うと、頬を掻きながら言った。
「とりあえず、そろそろ行かないか?周りの目もあるし」
「... ... は、はい」
明日クラスメイト達に質問攻めされるだろうことは簡単に予想出来て早くも気が滅入るが、今は取り合ずこの場から離脱したい。二人はそう考えて、騒いでいる生徒達をおいて駆け足で廊下を走り去っていった。
「こらっ、入学早々廊下を走るな!」
「「す、すみません!!」」
途中、通りすがりの教員に怒られたが... ... 。