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雪月花のソード・ワルツ  作者: 桐谷 暁人
第一章
19/20

19話 魔狼炎哮




『いい?その力はその時が来るまで使っては駄目よ』

   

 


 それを言われたのは、五年前。この力を手にして初めて使った後のことだ。

 漆黒の夜空に金色の月が淡く輝いているが、地上はそれに反して紅い劫火の海に包まれていた。

 その海の中で、彼女は、和樹の母九条綾火は自分にそう言ったのだ。

 諭すような、慈しむような、そんな確かな愛情が宿った声音で彼女は続けた。


『……あなたが手にしたその力はとても強大よ。公でその力を使えば多くの人があなたを狙うわ。他国や犯罪組織の人達だけじゃない。『あの家』も必ずあなたに干渉してくるわ』


 強大な力を持ったものへの力を持つことの意味を綾風はまだ幼かった和樹に教えた。


『だから……その時が来るまでは決して私以外にその力を知られては駄目よ。大丈夫、その時が来るまでは私が何があってもあなたを守るから。あなたはそれを使いこなせるようにしなさい』


 母の忠告を聞く和樹の手には鮮やかな赤に輝く牙のような結晶体が握られていた。

 綾火はその結晶体に手を添えると、優しく微笑みもう片方の手で和樹の頭を抱き寄せた。


『……今はまだ、あなたはその時がいつかは分からないでしょう。だから、私がその力をいつ使うべきか教えてあげるわ』


 そう言うと、彼女は自身の想いを、愛しい息子にこうあってほしいという願いを込めてその時がいつなのかを教えてあげた。



『―――大切な人達が危険な目にあっている時。これ以上どうしようもない時。そして、自分以外ではその状況を打開できない時にそれを使いなさい。傷つけるためではなく、守るためにその力を使いなさい』



 綾火はそう言うと、和樹から視線を外し不意に彼の隣へと視線を向ける。

 和樹の隣にはいつの間にか灰銀色の狼が佇んでいた。綾火はくすりと微笑むと再び和樹に視線を戻して最後に告げた。



『……あなたは今のこの世界で数少ない獣に選ばれた存在。でも、忘れないで。何があってもあなたは私の愛しい息子よ。だから、頑張ってね。和樹』


 

 そういう母の言葉はとても優しくて、その愛は心身に浸透していった。




 九条和樹はその言葉を決して忘れない。




 この日、彼女の愛情は確かに魂に刻まれたのだ。



▼△▼△▼△



 突如、彼の口から紡がれた詠唱。

 詠唱が始まった瞬間、彼が手にしていた牙の様な紅い魔魂結晶が鮮やかな輝きを放ちながら、彼の胸の前に浮かぶ。


『汝の牙。それは全てを平らげ貪り尽くす燼滅の牙』


 紅い牙が鮮やかに輝けば、彼の足元にも狼を象った魔法陣が浮かびあがりそこから炎が噴き出して彼の周囲を踊るように燃え盛る。

 やがてその炎は彼の後ろに収束しある形を作り出す。


『汝の咆哮。それは数多を恐れ慄かせる獣の王の威光』


 彼の背後に現れたのは、炎の巨狼だ。

 炎で形作られた巨狼は炯々に輝く橙黄の双眸を和樹へと向けると、再び炎に変わり彼の体を包み込む。紅い牙も一際強く輝けば、再び彼の胸の中に溶けて消える。

 そうすれば、彼の肉体に変化が起きた。


 彼の髪が黒から灰銀へと変色し灰銀と赤の髪となる。

 側頭部の耳は髪に覆われ消え、代わりに頭頂部にピンと狼の耳が生えた。

 腰からはふさりとした灰銀の毛皮に覆われた尻尾が生える。

 手足の装甲は手首から、足首から先が消え失せ、その中から灰銀の毛皮に覆われた手足が現れる。爪先は全て黒く鋭い獣の鉤爪へと変わっていた。

 

『神々をも喰らいし孤高の魔狼』


 燃え盛る炎に髪を靡かせ、肉体を変化させた和樹は瓏々とした声音で己の身に宿る獣の存在を世界に知らしめるように高らかに唄う。


『今こそその猛りを雄叫びへと変え、意志を力に、その威を以て神威に抗え』


 そうして彼は静かに瞳を開く。

 開いた瞳は鮮やかな橙の輝きを帯びており、黄金と橙、二色の輝きが混ざり橙黄色へと昇華する。

 橙黄色の双眸が縦に開かれる。それはまさしく狼のソレだった。





『―――フェンリル』



 


 最後の詠唱としてその名を静かに呟いた直後、凄まじい熱光が全員の視界を焼いた。

 膨大な炎が彼の全身から噴き上がり、周囲を照らす火柱へと変わる中、その中心で彼は牙を剥き出しにし高らかに吼えた。



「ルゥゥオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!」



 樹海全体に響き渡り空を震わせる程の咆哮は、まるで己が存在を世界に知らしめるかのようだった。

 やがて、火柱が収まり彼らの視界が復活すると、そこにいたのは灼熱に燃え盛る紅蓮の炎を纏う人狼となった和樹の姿だった。


「か、和樹さん……その姿は…」


 それを見た雪華は未だ困惑を隠せずに、恐る恐ると声を上げた。


「…………大丈夫だ。そこで見ててくれ」


 容姿が変化した彼は、少し離れたところで座り込み困惑する雪華を一瞥し、そう呟くと改めて霞に向き直る。

 和樹の変化を目の当たりにした霞は、ニィッと口を裂いて高らかに嗤った。


「アハッ、アハハっ、アッハハハハハッ!!」


 笑みを浮かべた彼女は、牙を剥き出しにして愉しげに嗤う。収縮した瞳孔は狂気すら感じるほどだ。


「なんて、なんて素晴らしい闘気!今の主さんならば、うちも本気で楽しめる戦いができんしょう!!」

「俺もこいつを出した以上、出し惜しみはしねぇよ。存分に踊ろうぜっ!!」


 霞の歓喜に応えるように獰猛な笑みを浮かべる和樹は、炎纏う大剣を彼女に向けて構える。

 対する霞も笑みを一層深くさせると、同じように構えた大太刀に血色の魔力を纏わせて応じる。


「ええ、ええ、心ゆくまで踊りんしょう!!童、いや、フェンリルッ!!」

「いくぞ!酒呑童子ィッ!!」


 そして和樹は両足の炎を爆発させて一気に加速し霞に迫る。全身に炎を纏い流星とかした和樹に対して、霞も全身に血色の妖気を纏い突進する。

 一瞬にして互いの距離を詰めた2人は、お互いの得物を振りかぶる。


 そうして大剣と大太刀が激突した瞬間、大気が割れた。


 否、そう割れたと錯覚するほどの凄まじい轟音が鳴り響き、衝撃波が周囲へと無作為に放たれ周辺の木々を根こそぎ吹き飛ばす。

 だが、中心にいる二人は微塵も揺らがずに凄まじい斬り合いを始めた。


「アハハハハハハハッッ!!!」

「オオォォォォォォッッ!!!」


 鬼の哄笑と狼の雄叫びが響き渡り、ガガガガと凄まじい速度で幾度となく己の刃をぶつける。 

 お互い一歩も引かず、二匹の獣は回避をせずに真っ向から相手の攻撃を受け止め反撃していたのだ。


「す、すごい、拮抗している……」


 先程とは打って変わって拮抗している激闘に、雪華は驚愕のまま呟く。


 神獣魔装『フェンリル』。


 北欧神話において、悪神の血を受け継ぎ、神々に災いを齎すと予言された神をも喰い殺すとされる魔狼。世界的に有名な獣の名前でもある神喰いの魔狼だ。

 九条和樹はその適合者であり自身の肉体を変化させ人狼となって鬼と化した霞と真っ向から力をぶつけ合っているのだ。

 都合百にも届こうかという斬撃の応酬を繰り広げた二人は、一際強い轟音を鳴らしてお互いの得物をぶつけて強引に距離を取ると両者共に腕を突き出して叫ぶ。


「《バースト・ソリフェレア》ッッ!!」

「《緋桜凛舞(ひおうりんぶ)》ッッ!!」


 和樹の手からは炎塊が放たれ、ソレが瞬く間に炸裂し無数の火矢へと変化して一直線に放たれる。対する、霞も掌から血色の水で形成した無数の花弁が放たれ、ちょうど二人の中間地点で激突し轟音と衝撃を齎した。

 近接戦闘だけでなく、魔法戦でも拮抗したのかお互いの攻撃で相殺された彼らは、更なる一手を繰り出した。


「ーーー《悪鬼招来》」

「ーーー《ウルフ・エインラーデン》」 


 霞の周囲には血色の妖気が、和樹の周囲には紅蓮の火炎が収束しそれぞれ無数の鬼と狼の姿を形取った。瞬く間にそれぞれの従僕となる群れが出現したのだ。


「好きに暴れなんし」

「さあ、狩り尽くせ」

『『『『ーーーーーーーーーッッツツ!!』』』』


 それぞれの主命に応え、血鬼と炎狼がそれぞれ雄叫びを上げて互いを喰らわんと飛び出す。

 血鬼が棍棒や斧、大刀などの得物を振り翳しながら走り、炎狼が牙を剥き出しにして四肢で駆ける。お互いの距離を縮め、轟音を立てて激突し激しい攻防を繰り返す。

 そんな中、それぞれの群れの長たる二人もまた再び地面を蹴りお互いの距離を詰めて再び得物をぶつける。だが、今度は激しく切り結ぶのではなく、鍔迫り合いをするとお互い空いた手で拳を作り弓のように引き絞り、腰の捻りをも加えた渾身の殴打が互いの顔面に炸裂する。

 生々しい音が二つ響き、炎纏う獣拳と妖気纏う鬼拳が互いの頬にめり込んだ。


「カハッ」

「クハハッ」


 お互いの口から呼気が漏れる音が聞こえるものの、両者の顔には苦痛も怒りもなく、あるのはただただ喜悦のみだ。

 直後、お互いの体が反発するかのように大きく弾かれた。溶岩質の地面を削り溝を作りながらも和樹は脚で踏ん張り、尚且つ片手の鉤爪を地面に突き立てて止まった和樹は大剣を魔力の粒子へと変えて体内へ仕舞うと、獣の如く四つん這いになり四肢の炎を爆破させながら地面を疾走する。


「アハッ、主さんがそう来るのなら、うちも拳で応じんしょう!!」


 和樹の意気込みに応え自分も大太刀を魔力粒子に変えて仕舞うと、両拳に膨大な血色の妖気を纏わせて地面を踏み砕き和樹へと驀進。

 何度目かの距離を詰めた後、超至近距離で再びぶつかる。今度は、武器での激突ではなく拳同士での壮絶な殴り合いだ。

 炎が雄叫びを上げるが如く幾度となく爆ぜて、血色の妖気が壮絶に荒れ狂う。


「そう!これでありんす!これこそうちの大好きな大喧嘩!さぁさぁさぁ!もっとうちと踊り狂いんしょう!」

「ああ!上等だっ!これで終わりなわけがねぇからなぁっ!!」


 鬼女の哄笑と人狼の歓喜が響き当たり、ただでさえ景色が歪んでいた樹海の景色が、一層歪み彼らを中心に更地へと変わり果てていく。

 余談だが、和樹達が激闘を繰り広げている場所は、雪華達がいた場所からは少し離れており彼女達は衝撃波の余波圏内にはいたものの、それほど大きな被害は出ておらず、三人とも回復に専念することができていたのだ。


 そうして周囲を巻き込み破壊していきながら、二匹の獣はお互いの体に傷を刻んでいく。

 和樹の身体には無数の殴打痕ができ、胴体に刻まれていた裂創からは血が流れ続けている。霞の身体には火傷の痕や殴打痕、切り傷などができていき、肉が焼け血が滲んでいた。だが、どちらとも人外の怪物の力を宿しているからか、傷は少しずつ癒えており、癒えては負ってを繰り返していた。


「アハッ、これならどうでありんすか?」


 そんな中、霞が和樹と殴り合いながら、瞳を妖しく輝かせる。途端に、彼女の頭上に妖気と同じ血にも似た緋色の水が無数の槍へと変化した。

 遠目から見ても分かる凄まじい鋭い水槍は、赤い雨となって和樹に殺到する。だが、その全てを。


「ーーー《餓狼災牙(フロスヴィルト)》」


 彼は増大させた右腕の炎を振るって焼滅させた。


「!……へぇ、それは……」


 霞は一瞬単純に熱量で消えたかと思ったが、直後湧き上がる疑惑に任せて、再び水槍を放った。今度は質量、魔力密度を増加させてだ。


「いいや、無駄だ」


 先ほどよりも、濃密な水槍の弾幕が再び和樹を貫かんと迫るものの、今度もまた同じ末路を辿った。

 いや、正確にはこちらの魔法を焼滅させる度に炎はより激しく燃え盛っていた。


「成程。それが『フェンリル』の力の一端でありんすね?」

「そうだ。流石に気づくか」


 その二回の攻撃で霞は理解し、嗤った。

 神獣魔装には異能としての属性の他にそれぞれ幾つか特殊能力がある。

『酒呑童子』が魔力を妖気へと変換してオーラのように身体に纏う『妖気纏い』といったように、『フェンリル』にも存在している。

 その一つが『魔力喰い』。

 魔力に由来するもの全てを破壊し、霧散した魔力を吸収し自身の力に変換してしまうこと。

 『フェンリル』の爪牙は魔力に由来するもの全てを喰らい尽くし、切り裂く。

 つまり、『フェンリル』を使用した和樹には魔法は通用しない。どれだけ強力な魔法であっても全て彼の餌へと成り下がってしまう。彼を倒すには、純粋な物理攻撃で戦う他ないのだ。魔法を喰らう餓狼。魔法殺しの怪物。それこそが、『フェンリル』である。


「詳細は知りんせんが、魔力を消される以上魔法は意味がありんせんね」


 その能力の詳細を知らずとも、魔力が掻き消されていることを把握した霞は遠距離攻撃を中断し、近距離攻撃のみへと戦法を戻すかと思えば、そのまま再び攻撃に移る訳でもなく和樹をじっと見つめる。彼を見つめる眼差しは、鬼気に満ちていたものの同時に穏やかに細められていて、愛しむような表情を浮かべていたのだ。


「?何だ?」


 その表情に困惑を隠せない和樹は警戒を続けたまま思わず尋ねてしまう。尋ねられた霞は少しの沈黙の後に問い返した。


「……主さん、最後に名を聞かせておくんなんし?」

「なに?」


 突飛な問いかけに和樹は片眉を釣り上げる。

 殺し合っていたかと思えば急に名前を聞いてくるのだ。驚くのも無理はない。だが、彼女の様子からふざけている様子はなく、本心から知りたそうにしたていた。

 だから、少し間を空けた後に和樹はため息を一つつき答えた。


「………はぁ、俺は九条和樹。『フェンリル』の使い手だ」

「そう、和樹。……良い名でありんす」

「何が目的だ?なぜ今になって俺の名を知ろうとする?なにか、呪いでもかけようってのか?」


 和樹の警戒心に満ちた問いかけに霞はさっきまでの狂気に満ちた笑みとは打って変わって、穏やかにかつ妖艶に微笑むと首を横に振り、


「なに、気に入った男の名を知りたかっただけでありんす。他意はありんせん」


 そんなことを言い放った。


「は?」


 これには思わず彼も目を丸くして、殺気を霧散させてしまう。それほどに拍子抜けな言葉だったのだ。

 呆気に取られる和樹を他所に、ふぅっと吐息を一つつくと彼を見つめる。


「改めて、うちは緋ノ夜霞。『酒呑童子』の使い手でありんす。生まれて初めてうちを楽しませてくれたお人、どうかもう一度その目を見せておくんなまし」

「……っ」


 扇情的な表情を浮かべてそう告げる霞の声音は恐ろしく蠱惑的で、その声音を耳にした和樹は戦闘中にもかかわらず、色気に当てられくらりとしてしまった。

 その時だ。


「ーーッツ」


 霞が急に動き出して、自分の目の前へと一息で接近したのだ。接近した霞は和樹が動きよりも早く、彼の首筋に舌を這わせたのだ。


「ッッ!?」


 首筋から伝わる蠱惑的な感覚に和樹が思わず飛び退く。霞は今度は追いかけずに、その場に佇むとぺろりっとやたらと扇情的な仕草で自身の唇に付着していた血を舐めとると嬉しそうに目を細める。


「主さんの血の味、覚えんしたわ。今日はこれでおさらばいたしんしょう。もうすぐ、無粋な輩達がやってきんす」

「……!!」


 霞の言葉で和樹も気づく。

 研ぎ澄まされた獣の感知能力で、こちらへと向かってくる十数個の気配に気づく。恐らくは、救援だろう。この感覚では、後10分もしないうちに到着するはずだ。

 救援が来てくれたことに肩の力が抜けて安堵の息を漏らす和樹を他所に、霞は和樹に背を向けて立ち去ろうとする。その背に和樹は炎を解きつつ問うた。


「……俺を見逃すのか?」

「言ったでありんしょう?うちを満足させたら、あわようば生きて帰れるかもしれん、と。主さんはその言葉通りうちを満足させんした。鬼は約束を違えはしんせん」

「…………」

 

 嘘ではない。和樹には何となくだがそれが分かった。自分が満足したから立ち去る。約束は守り、それ以上のことはしないという態度に、和樹は鬼の性を垣間見た。


「よう楽しませてくれんした。和樹、続きはまた別の機会に。次は、万全の状態で踊りんしょう。いつかまた会うその日まで、もっとうちを楽しませるように強うなりなんし」

「……酒呑童子……」

「ふふ、嫌でありんすわ。うちのことは霞と呼んでおくんなまし」


 見返り美人とはよく言ったものだ。顔だけを振り返らせて艶やかに微笑むその姿は、心なしかどこか照れ臭そうで、和樹は思わず息を呑んで見惚れてしまった。


「では、おさればえ」


 そう言うと今度こそ霞は森の中へと姿を消した。残ったのは、破壊し尽くされ平にならされた樹海にポツンと立つ和樹だけだ。


「…………終わった、のか」


 霞の笑みに時を忘れて見惚れていた和樹は、ようやく現実へ戻るとそう呟くと、ガクッと両膝をつき座り込む。

 直後、彼の体が淡い赤に輝き、はらはらと赤光の粒子が溢れて、銀髪が黒髪に戻り、狼の耳、尻尾、手足が消えて魔装まで解除されてボロボロの和樹の姿が顕になる。


「……久々に使ったが、やっぱ普段はデケェなぁ……」


『神獣魔装』は魔力、体力、精神力の消耗が激しい。万全の状態でもしばらく使えば極度の疲労感に襲われると言うのに使う前からボロボロの死に体で使ったのだ。

 もう既に意識は朦朧とし始めている。そうして押し寄せる倦怠感に身を任せて眠ろうとした時、視界の端に『白』が見えた。

 それは既に見慣れた雪華だった。彼女は女性に支えられながらこちらに歩いて来ており、その後ろには雲雀と美央の姿もある。どうやら、三人とも無事だったようだ。


「………あぁ………俺は、守れたのか………よかっ、た………」


 和樹は遠くから聞こえる雪華の声をかすかに聞きながら、横に倒れて意識を睡魔に静かに委ねた。


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