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雪月花のソード・ワルツ  作者: 桐谷 暁人
第一章
12/20

12話 遠征


突然なんですが、1話と3話の内容を少し変更しました。

具体的には1話では雪華との出会いのシーンを、3話では昼食時の二人の会話の内容を少し追加いたしました。




 昼食が終わり、午後の授業を受けた後のHR。そこでは、ちょうど新崎が早速教壇に立ちホームルームを始めるとこだった。


「……それじゃあ、皆、何人かはすでに聞いていて知っているかもしれないけど改めて来週の実戦演習の話をしようか」


 話題に出したのは昼に和樹達が話していた実戦演習についてだ。

 新崎は早速来週行われる実戦演習の内容について話していく。


「まず、翠蓮では実戦演習は入学してから一週間後という早い時期に行うことになっている。そして、最初は遠征をするのがうちでは決まっている。そして、今回の遠征場所はーー富士山麓の樹海だ」


 新崎はホログラムで今回の遠征場所である富士山周辺の地図を映し出す。

 富士山を中心に周辺の樹海と三つの湖をぐるりと囲むように半径35㎞の範囲を巨大な壁で囲んでいる。新崎は壁の外縁部のとある場所を赤い点で示しながら話を続ける。


「知っている者達も多いが、まず遠征の際には『龍穴』を囲む壁の周囲にある活動拠点に移動することになっている。そして、僕たち翠蓮の活動拠点はここ、本栖湖沿岸部の本栖ベースだ」


 赤い点が示す座標には小さな町のようなものがある。

 これが活動拠点とされる場所でありいくつかの宿泊施設がある。遠征当日はこの宿泊施設を使って実戦演習を行っている。そして、実戦演習では何度か上級生とも合同で訓練を行うことがある。今回がまさしくそうだ。


「今回は初めてということもあって、演習は二年、三年との合同でチームを組んで取り組んでもらう。チームの組み合わせは当日に発表するよ。必要なものは入学前に郵送しておいた教本に書いてあるから各自もう一度よく目を通してくれ。わかんないことがあればいくらでも聞いていいよ」


 そう言って新崎が手に取ったテキストは、そこらのテキストとは比較にならないほどの分厚さのものだった。大きさは電話帳より少し小さいぐらいの大きさだ。これが入学前に各自郵送で送られてきた教本と呼ばれるものであり、内容はこの魔装学園における規則の事や遠征における注意事項など魔装使いとして学んでいくために必要な事柄がすべて記載されている参考書だ。ここに、遠征に関する必要な情報は大体書いており、入学前に必ず読んでおくように生徒達には事前に伝えている。

 よほどのことがない限りはこの教本を読んでいれば問題はないだろう。

 新崎は遠征に関しての必要事項を伝えると、真剣な表情を浮かべる。


「わかっていると思う子達が多いのは分かっているけれど、それでも言わせてもらうよ。魔装学園の遠征を一般学校の遠征と同じようには見ないでほしい。これは軍事演習であり、遊びではない。死の危険が伴う命懸けの物であり、死ぬ気でやらなければいけないものだ」

『っ』


 生徒達が新崎の言葉に息を呑む。

 魔装学園の『遠征』とは、一般学校にあるような部活の遠征とは全く違う。遠征で自分たちが行うのはモンスター相手の戦闘訓練。すなわち命を懸けた殺し合いだ。遠征では死と隣り合わせであるため、時に生徒の中から死者が発生することがある。それだけ危険なものであるため、新崎は先月まで中学生であった生徒達にそれを知っていてほしかったのだ。


「勿論、危険がないように安全対策は十分に行うし、僕達教員も同行するから万が一は起きないようにするつもりだ。ただ、それでもこの世に絶対は存在しない。死と隣り合わせであることを十分に理解してほしい」

『…………』


 新崎の深い実感がこもった愁いを帯びた言葉に生徒達は気圧されたのか誰も口を開かずに沈黙していた。知らなかったわけではない。魔装学園とは士官候補生の養成学校であり、入学するということはつまり、将来的に軍事行動に参加しなければいけないということ。その為、魔装学園で行われる演習は死と隣り合わせであり、日本最大の催しである《星桜魔剣武闘祭》でも試合の内容次第では死者が出てしまうことだってある。

 魔装使いは原則的に魔装学園に入学しなければいけないのだが、彼らとて好き好んで軍人になりたくて来たわけではない。中には、軍人になりたくない子供も当然いる。そんな子供たちは魔装使いに生まれただけで軍事学校に入学させられたことに不満や恐怖があり、改めて新崎より伝えられた死の可能性に一様に恐怖に顔を青ざめさせていた。

 新崎もそうなることは十分に理解していたのだろう。生徒達に安心させるような笑みを浮かべた。


「怖がらせてしまったけど、一年生の内はそこまで深くはいかないし、戦うモンスターもそれほど強いわけではないから、そこまで気負いしなくていいよ。初めての演習だからね、それほど長時間こもるわけではないから安心してくれ」


 落ち着かせるような、安心させるような新崎の言葉に恐怖していた生徒達の表情は少し恐怖の色が和らぎ安堵の色が混ざる。その様子を見て頷いた新崎は幾つかの書類と教本を教壇の上でまとめるとHRを終了させる。


「それじゃあ、HRはこれで終わりだ。皆、来週の『遠征』に備えてしっかり休むように。鍛えるのも結構だけど、体が資本だからね。無理は禁物だよ」


 そう言うと、新崎はHRを終わらせて教室を出ていった。

 それから少しの間、生徒達は席から立たずに沈黙していたが、やがて和樹が席を立ち鞄をもって動いたのを皮切りに、雪華、ヴィーゼ、迅も席を立ち和樹に続いて教室を出たことから、次第に他の生徒達も動き始め、クラスメイトと談笑したり、寮に帰ったりなどした。



▼△▼△▼△



 HRが終わった後、和樹は雪華たちと共に廊下を歩き寮へと戻ろうとしていた。

 全員が何も言わずに歩く中、雪華が重苦しい空気の中ぽつりと呟いた。


「先生のお言葉……とても重く感じました」


 思い起こされるのは新崎の言葉。ただの言葉ではなく確かな実感がこもった悲し気なもののように聞こえたのだ。きっと新崎は学生時代に経験した遠征で辛い経験をしたのだろう。雪華にはそう感じられたのだ。それを想像してか暗い表情を浮かべる雪華に隣を歩く和樹が声をかける。


「魔窟での遠征には毎年数名程の死者が出てしまっているらしい。それだけ危険な場所だからこそ、先生は死んでほしくないように言ったんだろうな。魔装使いの先輩として、辛いことも苦しいことも俺達よりも多く経験しているんだからな」

「……ええ、きっとそうなんでしょうね」


 和樹の説得力のある言葉に雪華も頷く。そんな和樹の言葉にはヴィーゼも同意を示した。


「そうね、先生の言うことは正しいわ。私もお父様から同じような話を何度も聞かされているもの」


 ヴィーゼの父は母国で騎士団団長職についており、国民だけでなく部下である団員達も守らなければいけない。守るものが多いからこそ、彼は命を背負うことの責任の大きさや、生きて帰ることの重要性を十分に理解しており、娘であるヴィーゼには何度も口酸っぱく教えているのだ。

 だからこそ、ヴィーゼは命を守る騎士の役割をよく理解しており、魔装使いとして生まれたものとしてその責務を果たすことや、それに付随する危険性や苦難も十分に理解していたのだ。

 迅は後頭部で腕を組みながら感心する。


「なるほどなぁ。流石は一国の騎士団団長。言うことが違うな。それに娘にちゃんと教えているあたり、いい親父さんじゃねぇか」


 素直な関心と賞賛の言葉にヴィーゼは嬉しそうに表情を綻ばせる。


「ありがとう、ジン。お父様は私の憧れで目標でもあるから、そう言ってくれると嬉しいわ」

「ふふっ、ヴィーはお父様が大好きなのですね」

「ええ。それはもうね」


 ヴィーは雪華の言葉に満面の笑みを浮かべる。その様子を見て、和樹も口の端を釣り上げて笑みを浮かべると話題を変えた。


「そういえば、話は変わるんだが、最初の遠征が終わったとはそれぞれパーティーを組んで実習に臨むのは知っているよな」


 和樹の問いかけに全員が当然と頷く。

 最初の遠征が終わった後、実習では個人実技だけではなく団体での実技もある。その際団体の組み合わせは教師が決めるのではなく、生徒達が主体で決めることができる。そうして組まれた団体はパーティーと呼ばれており、パーティーで実技に臨んだり、クエストに挑戦したりするのだ。これは教本に書かれており、このパーティー決めは最初の遠征が終わった後結成期間があり、その間にパーティーを組むのだ。


「そりゃあ、勿論知っているけどよ。急にどうしたんだ?」


 それらを当然している迅は和樹にそう尋ねる。尋ねられた和樹はニッと笑みを浮かべて一つ提案をする。


「提案なんだが、ここにいる俺ら四人でパーティーを組まないか?」

 

 提案とはこの場にいる四人、和樹、雪華、ヴィーゼ、迅の四人でパーティーを組まない加藤言うことだ。その提案に四人は各々の反応を見せる。


「お、いいなそれ。ここの四人だと戦力としては十分だし、俺は賛成だぜ」

 

 まず最初に反応したのは迅だ。彼は喜色を浮かべると和樹の提案を速攻で了承を示した。

 迅の次に反応を示したのはヴィーゼだ。彼女は少し考えた後答える。


「私も賛成よ。ここにいるメンバーなら実力は申し分ないし、カズキとユキはダブルスを組むから連携訓練にもなっていいわね」


 ヴィーゼは実力的な面を見てこのメンバーでパーティーを組むことを了承する。しかも、和樹と雪華がダブルスとして組む以上、パーティーを組めば二人の連携訓練もできるので一石二鳥と考えているのだ。

 迅とヴィーゼ、二人の了承は得られた。残るは雪華だ。和樹含めた三人の視線が自然と雪華に向く中、雪華は顎に手を当てて何か深く考え込んでいたのだが、やがて考えがまとまったのか顔を上げた。


「……私もこのメンバーでパーティーを組むのは賛成です。実力面もそうですし、和樹さんと連携訓練もできるのでいいと思います。ただ、私としてはこのメンバーのほかに治療師かサポート系の異能を持つ方がいるとより安定したアーティーになると思います」

 

 雪華が提示したのは、治療師やサポート系の異能の持ち主などをパーティーに加えることだった。より安全に実習やクエストをこなすためにそれらを提案したのだ。そして、それはとても理にかなったものであり、和樹達は雪華の提案を誰一人として否定することはなく頷いた。


「……確かに雪華の言う通りだな。どちらか片方でもいた方がいいか」

「そうね治療師がいれば持っていく物資も減らせるしね。いた方がいいわね」

「じゃあ、この四人での結成はも決まったってことで、あとは遠征が終わってから治療師かサポート系の奴を探すってことでいいか」

「そうだな」

「そうね」

 

 とりあえずこの四人でパーティーを組むという和樹の提案はあっさりと承認されたものの、条件として回復かサポート系の異能を持つ生徒を加入させることが加えられた。

 そして、彼らは一度寮に戻った後、早速遠征に備えての自主鍛錬に励み、来る遠征に備えた。



▼△▼△▼△


 間に休日の日曜日を挟んだ翌日の月曜日の朝。

 和樹達一年生総勢44名は魔装学園の敷地内にある大型の駐車場にあった。


「よし、それじゃあ、誰も欠席はいないね」


 点呼を取り自身の担当クラスである一組の生徒総勢22名を確認した新崎は生徒名簿を片手にしながら整列する生徒達を見て頷く。新崎達一組が乗るバスの後ろに停車しているバスの前では二組の生徒が担任であろう女性教師の話を聞いていた。

 今日は遠征初日だ。これから、遠征拠点である本栖ベースには装甲バスで移動することになっている。彼らが利用するバスは黒と白にカラーリングされており、普通の観光バスとは違い、防弾タイヤや防弾ガラス、戦車の砲弾にも数発なら耐えれる戦車並みの装甲で囲った軍事用バスである。これほど厳重にするのは勿論理由がある魔装学園の学生は将来国防を担うことになる未熟な卵たちだ。そんな未来ある子供たちが移動中にテロリストなどに襲われ命を奪われないように守るためのものだ。

 寮生活なのもその一環であり、一つの場所に生徒達を固めておくことで夜間に街中で襲われるという事態を減らすという目的があったのだ。

 そして、整列する生徒達の中には当然和樹達の姿もあり、彼らは一様に真剣な表情を浮かべていた。


「では、これから早速バスで本栖ベースに移動する。全員、現地に着いたら気を引き締めておくように」

『はい!』


 生徒達のしっかりとした返事に新崎は満足げに頷くと、彼らに一言。


「いい返事だ。では、乗ってくれ」


 こうして、和樹達一年生は入学してから最初の遠征へと向かった。



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