しかけは爆弾です⑨
「結局はさ、バレてもいいんだよ」Kが運転席から得意気に言う。
閑静な住宅街の裏路地に、広いコインパーキングがあった。見るとエンジンがかかったままのBMWが停められている。持ち主は少し離れた精算機にいるあの若い青年だろう。センキューと心の中で言い、KとTの二人は乗り込んだ。
「必要なのは、バレる相手を選ぶことだ」と、Kはワイパーを動かした。東名高速から、首都高速C1に逸れたところだった。
「ウィンカーはハンドルの右だ」後部座席に座ったTが応じることで、無関心ながらも話の先を促しているとKは解釈する。
「持ち主にはどちらにしろバレる。この法治国家にはNシステムというのがあるんだ、お前知ってるか」
「知らないな」知らない方が良いのだろう、Tは子供の新しい発見にそうするように、なんだそれは、と白々しく斟酌する。
「ナンバー読み込みシステムだ。走行中でもカメラから検知するんだよ、盗難車なんて一発だ」
Kは、ほらあいつだ、とちょうどニ〇〇メートルほど先のトラスを指差した。通り過ぎるとこまで待とうとしてたなんて、成長したなとTは思う。だが、惜しい。
Tは後部座席から乗り出してシフトレバーを下げた。トップギアが下がりエンジンブレーキがかかる。かなり強めの減速だが、Tはなんともないように座り直す。
「なにすんだ」ふいの減速に姿勢が崩れそうになったKが、バックミラー越しに睨んでくる。
目を見ながらTは言った。
「あれはオービスというやつだ」
とにかく、盗むなら持ち主ごとだ、それならばれたってかまいやしない。Kは、言いながら振り返る。
後部座席には、左手から差し込む夕陽に照らされた、意識のない青年が口を開きドアにもたれかかっている。この車の持ち主だった。
「あとどの位だ」とTに尋ねる。
「依然、消えている」Tが応じる。
「ってことは、やっぱり警察か」
「最後の場所から考えれば、そうだ」
「となると、もう一つの方に向かった方が良いのか」次のインターチェンジで降りた方がいいか、とKがナビを指差した。
「いや、そっちは遠すぎる。近くで待機すれば良い。次の次で降りろ」
Kは用心を重ねて、作用機序の高い睡眠薬を使っていた。隣に眠る持ち主は、このまま朝まで起きないだろう。
「それにしてもスヤザキめ。二万人なんて、さすがに疲れるぜ」Kは、脇腹を庇いながら追い越し車線にBMを滑らせた。
その様子を見てTは、そうは見えないがな、と感じる。