しかけは爆弾です⑥
「何を考えているんだ、スヤザキは」Kが言う。
「復讐だろ、そのくらいお前にだってわかるはずだ」Tが応じる。
二人の男達は、さらの壁紙に包まれたノースライトの差し込んだ一室で、斜向かいにソファに腰掛け話している。
「ふざけるな、二万発だぞ。あるとおもうのか」
「だが実際、あれは爆弾だった」
「あーそうだ。わざわざ爆発の威力を試すようにな。おかげであの男は吹っ飛んでいた」
「目の当たりにした」
「冷や汗が出たぜ。お前がもし気づいていなければ、もし気づくのが遅ければおれたちまで木っ端微塵だった」
「正確には右腕だ」
「なに」
「あの男の損傷は右腕だけだ」
「......どういうことだ」
「そのままの意味だ」
「あの爆発でか」
「お前は握手をしようと手を差し伸べてそこだけに集中していたようだが、俯瞰で見ていてあの男には怪しさしかなかった。とっさにおれがおまえを突き飛ばした時、あの男の目は笑っていた」
「は、笑っていようがなんだろうがあいつは吹っ飛んだんだろ。自爆しやがって生きちゃいないだろ。おかげでおれは肋骨を骨折した」
「それで済んで良かった」
「違うぞ。これはお前のせいだ。なんで三階から飛び降りる。突き飛ばすにしても場所を選べ」
「おかげでお前は生きている」
「どっかのアニメキャラみたいなセリフを吐くな。それに言うなら、死んでいる。だ。あいつも、もう死んでいる」
「あれは元は漫画だ」
「知るか。お前のオタク度合いなんて。昔からハマるとそれ一択で、何が良いのかおれにはまったくわからないね」
「文化だ」
「ならドフトエフスキーを読め」
「よく知ってるな、それにアニメも」
「良いか、教えてやる。あんな有名な作家なら子供でも知ってるってことを」
「それにコーヒーがこぼれてる」
「ああ、この腕の震えか。そうだ肋骨だけじゃないぜ。右腕も脱臼したんだ。全部お前のせいだからな」
「感激だ」
「このままお前と居たら命がいくつあっても足りない。ICU行きになっちまう」
「ICUなど、入れたことしかない」
「ふん。なんでお前がほぼ無傷なのかわかる気がす――」
予兆もなく、机の上の携帯が鳴る。
「おれが出る」とKが俊敏に動く。携帯を開きひと呼吸置くと、目線が変わり、すでに右腕の震えは止まっている。
その目線を受け、落ち着き払ったTがわずかに首肯する。お前も大概タフだ。
「スヤザキか」