鍵屋玉屋⑧
扉を開くなり、Tは、Kが被っていた帽子を取り上げ、それを三和土にあるゴミ箱へ捨てた。
「これを見ろ」
差し出された一枚のA4紙は神奈川全域の地図で、丸い点が不規則に手書きされていた。
「何のポイントだ」
そのままホテルの部屋に入りテーブルに地図を置いたKは、利き手が順調に回復していることを感じていた。
「交番、派出所、警察署と、警察に関係がある場所だ」
「それが何だ」
斜向かいに腰を下ろしながら「おそらく半径は一キロ程度。幹線道路や主要な駅毎におよそ四キロ間」と、脈略もなくTは言う。
「……消失ポイントか。警察署だけじゃ無いと言うことか」
「そうだ」首肯しながらTは、地図を指差した。
「覚えておいてくれ。で、次だ。これが現在のメグミイワキ」
指を滑らせ続けて言う。
「こっちがミカミハルカ」
もう一人の方。高速の上で確認した相手。
「確かに行けない距離では無い。だがどうする。どっちから行くんだ」
Tはスマホの画面を地図の横に滑らせ、二人の現在地が引き合うように近づいたある一点を指差した。
HAKONEという地名らしい。日本の土地に明るくないKは、そこまでの移動方法を思い浮かべようとした。
コトン。ふと目の前に馴染みの玩具が置かれる。マトリョシカだ。
「なんだこれは」
ゆっくりと顔を上げながらTを見る。
「マントフ夫人。ただのまわり合わせだが」微笑に伏した目をKに合わせてTが言う。
「やつらはここで落ち合う。勘だ」