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【大空世界】
空とは名前ばかりに、どこまでも続く地平線。
先を見てもどこまで続いているかわからない、そんな世界の真ん中に引くほどデカい豪邸が建っていた。
そこは、いわゆる戦災孤児の集合場所。
王都から近しい村々の子供は王都の地下に連れて行ったが、ここにはそれ以外の、旅路のいたるところで死にかけていた子供が集まっている。
そのほとんどが身体の欠損や虐待痕を持ち、非常に痛ましい境遇を見せていたのだが、今では俺の回復魔法で元気いっぱいとなっている。
最初に保護したメルを含めて全部で24人。
そのうち2人がメルのように人を助ける道を選び、
5人が俺を慕ってくれて、
9人が未だに自意識を取り戻せず、
7人が復讐心をその心に宿している。
男女は半々といった感じだ。
ちなみに、大人の瀕死者はいなかった。
それだけが謎だが、本当に見つからなかったんだから仕方ない。
「ダイチ様~!!」
「ダイチ~!」
帰ってきた俺の背中に飛び乗るようにして抱き着いてきたのは、12歳くらいの少女、ティティ。
そして、足にしがみ付いてきたのが9歳のエド。
一応、俺と意識を共有した分身がいたんだが、本体の方がいいらしい。
「ただいま、みんなは今どうしてる?」
「今はみんな食堂でお食事中!ダイチ様も早く来て!」
そう言ってティティは俺の腕を引っ張り、豪邸の中へと入れる。
エドも足を引っ張るのだが、それだと歩きにくいんだよな。
食堂も、かなり広く作ったので25人程度ではまだまだスカスカなのだが、みんな仲良く楽しそうに食事をしている。
「……」
「……」
「……」
いや、かなり静かだな。
俺の分身と先に帰っていたメル、それと心を開いてくれている数名で作った料理を、黙々と食べている。
暗ぁ。
「ダイチ、後でオレと勝負してよ。」
ふいに声をかけてきたのは、復讐組のガストロ。
名前が無い元奴隷で、根性だけで生き延びていたところを発見した。
復讐組のなかでは、根性と怒りの度合いが強いタイプだ。
ちなみに、名前は俺考案。
「いいけど、どうして?」
「オレが勝ったら、もっとオレを強くして、オレはここから出ていく。」
「はは、俺に勝てるなら俺が君を強くできるわけないじゃないか。」
失笑。つまりはちょっとふふっとなっただけ。
しかし、ガストロは俺の笑いを侮蔑ととったらしい。
常に放たれている殺気があきらかに強くなった。
「ガストロ……ダイチ様に失礼ですよ。それに食事中です。慎みなさい。」
強くなった殺気をさらに強い殺気で制したのは、孤児の中でも最年長の子。
15歳のリオーラ。
この孤児たちの中でリーダー的な役目を買って出てくれている。
「そそ、楽しい食事中にそない険呑なんのは良くないで。せっかくのお料理が不味ぅなるやん。」
リオーラの加勢をしたのは13歳のキョー。
変な訛りの喋り方をするし、若干何を考えているかはわからないが、理知的なタイプだと思う。
というか、ちょっと怪しいと思っている。
何か裏がありそうな顔なんだよ。
二人からの指摘で、再び黙って料理を食い始めたガストロ。
しかし、その目は全く納得していないように見える。
なにより、ほかの6人の復讐組も俺のことを睨んでいる。
やはり、20人を超える子供の世話は俺一人だと難しいのだろうか。
なんなら、クラスメイトを呼んで相手してもらうのも手だな。
◇◆◇
楽しい食事も終わり豪邸の外、自由空間でガストロと向き合う。
育児経験はまるでないが、不平不満は発散させないといけないのはわかる。
「行くぞ、ダイチ!!」
そう言って大股で飛び出すガストロを、半身で避ける。
かわいらしいまん丸の拳ではあるが、レベル20万の拳と考えれば普通に危ない。
簡単な岩くらいなら叩き割る威力がある。
一切の音もなく、振り出された拳を紙一重で躱すが、それだけでは意味がないのも知っている。
攻撃が当たらないストレスは想像に難しくない。
「おぉお!!せやぁ!!」
軽い隙を見せ、それを狙ったガストロの拳が顔面にあたる。
爆風を伴う衝撃が周囲に響き、ガストロの拳にも相応の反動があるだろう。
「……ゃべ。だ、大丈夫か?」
「ダイチ様!」
想像以上に高威力の拳が顔面に入ったことで、少し焦った様子のガストロ。
同じく、俺の安否を心配するリオーラ。
対する俺はというと。
「まだまだ腰が入ってないからクリティカルヒットしてもイマイチダメージが無いね。隙を狙うのは重要だけど、隙に合わせたせいで威力半減ってのも良くないよね。さ、次は鼻血くらい出させてよね。」
拳の着地点、鼻の先がちょっとへこんだだけで、一切ダメージがなかった。
数字にすると、20とか30くらい。
億を超えるHPからしたら、誤差の範囲。
数千万以上ある忍耐は、そこら辺の合金よりも強固だ。
「次からは避けないから、自由に打ってきてよ。」
「ぐ、く、クソがぁあああ!!」
挑発に乗って、無茶苦茶な乱打を繰り出すガストロ。
その一発一発が怒りのブーストによりさっき以上の高威力だ。
それでも受けるダメージは100や200。
最高火力のクリティカルヒットで500程度。
子供の肩たたきくらいの感覚。
「がぁ!!【オーバードライブ】!!【鬼王拳】!!」
限界突破のスキルと、拳の強化魔法。
「【冥神覇気】!!【鬼神化】!!」
全体強化魔法に、変身魔法。
そして、
「【鬼殺し】!!」
攻撃力依存かつ貫通性能特化のアクティブスキル。
現時点での最大火力といっても過言ではない。
たった一撃で、そこら辺にある島程度なら消せる威力の攻撃が完成した。
その全力を、俺はその身で受け止める。
BOOOOOOOOOMMMMMMBBBB!!!!!!!!!!!
衝撃と爆発。
数秒にわたる感覚が、俺の体に襲い掛かる。
視界のはしで、メルやリオーラがすごい顔をしている。
「うんうん、威力は申し分ないけど、貫通力アップの【鬼殺し】を使うなら爆発性能と破壊性能の高い【鬼王拳】はミスマッチかな。瞬間火力の数字はいいけど、相手を獲るのには不十分って感じ。」
煙が晴れて出てきた俺は、ほとんど無傷だった。
ノーダメージではない、服は捨てないといけないくらいボロボロになったし、髪が若干煤けた。
鳩尾あたりに青あざもできたし、目もちょっと乾いた。
ダメージで言えば、200万。
素晴らしい。
「さあ、君らも来なよ。これからみっちり訓練するためには、君たちの得意不得意を全て知っておく必要があるからね。」
そう言って俺は一人ひとりのサンドバッグを買って出た。