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レベル20万という狂気的な数字、それを持つ子供。
その子が目覚めるまで、二時間ほどかかった。
急激な強化による肉体の変化に適応する時間と考えたら、短すぎるほどだ。
「と、いうことで、君は今レベル20万というやばい存在になった。おーけー?」
「え、えと、おーけー?」
その子は、名前をメルというらしい。
メルは一般家庭の次女として生まれ、魔族侵攻のごたごたに巻き込まれて奴隷となったらしい。
長女を含めた家族は行方不明。多分死んでいる。
現状で身寄りらしいものはない。
「で、本題なんだけど、したい?復讐」
「え、いや、あの。」
「よく考えてほしい。拷問を受けたこと、家族と離れ離れになったこと、同年代の子が何人も殺されていること。」
この子の超強化をする際、記憶が流れてきた。
メルの記憶は最悪の地獄だった。
生まれて十年程度でこんな経験をしたこの子には、復讐の権利があると俺は思うし、その手伝いならしようと思う。
「私は、助けてもらえたから。」
未だに記憶のつながりが残っている俺には、この子が考えていること、伝えたいこと、言葉にできないことが具体的に伝わる。
『痛いこと、つらいこと、いやなことは多かったが、自分は助かった。ほかのみんなは助からなかったのに、助かった自分がこれ以上を求めるのは強欲だ。』
メルはそう言いたいんだろう。
許せない気持ち、憎しみ、怒り、それらを凌駕するほどの他者への慈しみ。
それを見てしまえば、俺は黙るしかなくなった。
俺にどうこう言う権利はない。
すべてはメルの自由だ。
「君はこれから自由だ。20万の力で暴れまわるもよし、人を助けるもよし。なんなら女王になることもできるだろう。」
「……」
困惑している。自分の力の程をまだまだ理解しきれていないから。
自分にできることの限界をしらない段階だと、明確な夢は持てないか。
「君が力を理解するまで、一緒に旅をするかい?」
「お、お願いします。」
こうして、メルがパーティメンバーに加わった!
◇◆◇
メルが仲間になってからも、旅の道のりは変わらなかった。
歩き続け、魔物を殺し、魔力による再生を促し、侵攻を防ぐ。
荒廃した土地をよみがえらせ、人を助ける。
基本、メルよりも強い分身が大量に動くため、メルの出番とかはない。
そして道中で、メルと同じような境遇の子を何人も発見した。
その子らにも、メルと同じように強化をして、今は安全な場所に建てた家に隔離している。
というのも、メルのようなタイプはやはり稀らしく、大概は復讐心を燃やす者や、俺に依存するようなしぐさを見せる者、あと、明らか俺を利用するつもりの強かな者もいた。
だから、今日の夜にでも一人ひとり話すつもりだ。
で、さっきの話で出た『安全な場所』というのが1億レベル突破時に解放された【固有スキル】の【大空世界】。
これは、空間を作り出すスキルらしく、現状は3つの世界を用途別に作っている。
一つ目は、回収孤児らの居住空間。
二つ目は、倒した魔物の解体と収納を目的とした空間。
三つ目は、戦闘訓練用の分身をひたすら乱取りさせている訓練空間。
世界そのものの創造数に限りはなく、俺自身の中にある世界だからかなり安全性が高いのだが、世界を一つ作るのに大量の魔力が必要で、かつ維持するのに体力をかなり持っていかれる。
簡単に言えば、ちょっとだるい。
元の世界での感覚を参考にするなら、一個の世界あたり、10キロの重りをつけているような感覚の重さがある。
とはいえ、体が動かしにくいとかそういうのではないから、別にいい。
多分そのうち慣れる。
そしてもう一つ、SPで取得できるスキルもいくつか解放された。
その中の一つであるアクティブスキル【超分身】。
これは数の制限はあるものの、普通の分身よりも高性能な俺を創ることができる。
条件は厳しくなったが、かなり有用だし、手数の多さは俺好みだ。
【従来の分身】消費MP100
・ステータスポイント1万←ここからステータスを振り分けることで役割分担をする。
・数に制限はなく魔力で作り出すため、魔力を一時的に消費するがその後は自給するため半永久的に活動可能。
・人格部分を分離するか同接するかは自由。
・経験は本体に還元される。
・見た目は完全に俺そのもの
【超分身】消費MP10万~1000万
・ステータスポイントにより1000万~10億までを振り分ける。
・現状時点での数的制限【3】枠
・条件達成時に枠は増える。
・条件不明
・生成時に消費した魔力は一時的なものではなく完全消失する。
・人格は独立した完全自立型。
・経験値も還元せず分身自身の物となる。
・見た目は非常に自由度が高く、性別や容姿も変えられる。
分身というよりもNPCの作成って感じだな。
ステータスと容姿の設定にかなり時間がかかりそうだから、今日の旅が終わったら、俺の世界で楽しむことにする。
今日は特に疲れた……