4 大いなる
城に戻った俺は、そのまま城の頂上、とんがった屋根の先に登る。
そこから、足に力を入れて、空中へジャンプ。
軽く数十メートルは飛び上がり、ぐるりと横に一回転。
王都を囲む壁を一望する。
各所から聞こえる切削音や破壊音。
無数の魑魅魍魎が、休む間もなく壁を破壊しようとしている。
壁から魔力を感じるから、多分壁にはなんかの魔法がかかってるんだろうけど、この感じだと三日と持たないな。
「【魔殺聖域】【魔改造・城壁】」
城壁そのものの強化と、城壁からさらに外に100メートルの空間を、ドーム状の魔力壁で包む。
入った魔物は即死、もしくは、徐々にダメージを受けるし、あらゆるデバフを受ける鬼仕様。
逆に、人間であればかなり健やかに過ごせる上に、同空間内で魔物が死んだらその経験値が常に降り注ぐ『がくしゅうそうち』空間。
ウォール◯リア奪還作戦前の壁の自動処刑人みたいに、魔物達は自動的に殺され続ける。
魔力は常に増え続けるから、この程度なら問題無く供給できる。
更に
「【召喚・業騎士軍団】」
無数の光と闇の結晶を纏った騎士の軍団。
その数、千体。
この騎士たちの役目は、王都内の不穏分子。
闇組織や魔族サイドのスパイなどを自動的に攻撃する。
判断基準は、この世界における善悪の指標である『カルマ値』で、一定以上のカルマ値を持つ物を自動的に捕縛ないし排除する。
これで、下地はある程度整った。
今日は寝る。
◇◆◇
起床。ステータスを確認する。
『ダイチ・オオゾラ 17歳 男
レベル579万
HP:1600万
筋力:630万
魔力:1000万
敏捷:360万
忍耐:56万
知力:120万
幸運:100万
パッシブスキル超多数
アクティブスキル超多数
固有スキル【常時レベルアップ】【オーバーブースト】【メテオ砲】【真空斬】【暗黒化】【オーバーヒール】【王気】【鮮化】【鬼化】
SP468万』
また凄い数値になってきた。
2日目でこれだ。もう、何も怖くない。
とか言ってたら死ぬから言わんけども。
俺は、クラスメート達の様子を見に食堂へ歩く。
王城内にいる騎士達は、俺を見て過剰なくらいの敬礼をする。
食堂に集まったクラスメートは俺を含めて五人しか来ていなかった。
初日に俺がリーダー役をなすりつけようとした原岡と姫野、オタク友達の田中。
そして、ミステリアスな雰囲気の西原さん。
他の25人は、まだ部屋にいるらしい。
という情報は、国王が俺たち30人にそれぞれつけてくれた騎士の人から聞いた話。
「なぁ、ホントに毎秒レベル100なんて上がんのかよ、チートすぎるだろ。え、俺のスキルしょぼくね?」
「魅力的な女性との縁が強くなるってお前のスキルの方が良いと思うぞ、最終的にはより良い人間関係を持った方が、きっと心が豊かになる。」
田中のスキル【ハーレム】は基本属性系と四種法術の全てが使えるスキルで、なおかつそれらは全て田中にとって都合のいい結果をもたらし、美少女や美女を救う。そしてその結果、好意を持たれやすくなる。
「おっとぉ?それは少年の心を忘れられなかった僕への嫌味かな?」
「俺も魔力の消費なしに使える魔法は羨ましい。俺の最大火力も凌駕できるんだろ?」
原岡の【魔神砲】は俺の【魔神砲】と違って、消費魔力はゼロのうえ、火力調整は自由。レーザーポインター程度の小ささも可能だし、山一つを消し飛ばす火力まで出せる。
「私なんて、可愛い女の子になるだけだからな。」
「元々可愛い姫野さんが更に可愛くて強くなれるなんて最高じゃないか。」
姫野さんの【魔法少女化】は、SPで取得した【鬼化】の同系統で、基本的に【全魔法消費魔力:無】で【魔法完全無効】【魔法威力増大】で、更に常に【魅了】を振りまく天然デバフ散布。しかも、変身には3種の形態と二段階の進化先があるらしい。
「……」
「西原さん。リーダー役をしたい時は言って、いつでも譲るから。」
西原さんは何も言わない。
スキルは【創造】と【破壊】の持ち主。
その詳細は知らないけど、かなり強いのは字面から確かだ。
だからこそ、リーダーもできるんじゃないかと、そう思う。
「1時間で3600か。」
「いや、その100倍だから36万だよ。」
「もはや誤差だろ。」
「いや100倍は誤差じゃねぇだろ。」
ワイワイと談笑する4人。
そこへ、慌てた様子の騎士が入ってくる。
「魔王軍四天王が現れました!至急王の間へ!」
展開は急な様子。
◇◆◇
「はっはー!我こそは魔王軍四天王が一人、炎王龍ゾルボド様だぁ!今日は王城を支配して、王都を我が物にするためにやってきた!」
快活そうな高い声。
目に入るのは真っ赤な肌色と、大きな2本の巻き角を持つ隻腕の女。
名乗った肩書きはその小柄な見た目とはまるで似合わないものの、発するオーラはあきらかに別格。
俺は高速移動で国王とゾルボドの間に入り、睨みつける。
「お前、魔王軍四天王なのか?」
「あ?下等生物代表みてーな顔して俺様に生意気な口聞いてんじゃねえぞ。」
まともに答えるわけがないので、そのまま【鑑定】を使う。レベルが高いと見えないが、そもそも100万以上のレベル持ちとかおらんし、簡単に見える。
『ゾルボド・ラウンズベル 182歳 女
レベル102
HP:3600
筋力:250
魔力:150
敏捷:310
忍耐:160
知力:70
幸運:200
パッシブスキル【龍心】【龍命】【危機感知】
アクティブスキル【上級炎魔】【剛腕】【瞬脚】【冥王空手】【地獄合気】
固有スキル【炎王龍化】
SP0』
強い。世界最高クラスに強い。
レベル102、俺のインフレのせいで完全に忘れかけてたが、この世界ではポケ◯ン式のレベルが採用されてるから、人間が100までレベルをあげるのが限界。
この龍は人間以上の寿命をフル活用しても、マックスレベルから2しか上げられなかった。
それだけ、レベルアップの壁は大きい。
現状、常に100上がる俺のチートが異常すぎるだけで、仮に俺無しでこいつと対峙したら、勇者全滅ルートは確定だった。
「勇者殿!その者はこの王都を地獄へ変えた張本人!どうにかしてくれ!」
「了解。【天獄呪縛】」
未だ制御力に不安しかない魔力操作では、破壊系の魔法は使えない。
ということで、強制拘束魔法発動。
「ん!?は?なんっだこれ!!?」
「お前の魔力でも筋力でも破壊不可能な鎖。大人しくしてもらう。」
ゾルボドに絡みつく漆黒の鎖。
ジャラチャラと音を立てて組み上がるソレは、何者の干渉も受けない確固たる意志を持っているかのように強固だ。
「んぬぬぬぬぬ!!ふんぐぉぉぉおおおお!!」
「無駄無駄。大人しくしろ。【業罰】」
自身の犯した罪、カルマ値によってハードルの上がる刑罰を発動。
全自動的で平等な裁判官を召喚する。
「ぐぅぅうううう!?」
走る稲光と、焼け焦げた臭い。
電流と火炎、毒も少々って感じだな。
だが、死ぬ気配は無い。
恐らく、死のボーダー100は超えていないんだろう。
「くそがぁぁぁあ!!舐めんじゃねぇええええ!!ぶっころしてやるぅうううう!!」
ガタガタと鎖が揺れ始める。
【業罰】と連動させた【天獄呪縛】は溜まったカルマ値の消費をしながら罰を与える拘束になった。
つまり、この【天獄呪縛】は、カルマ値を完全消費すれば、ただの頑丈な鎖に成り下がる。
「んぐぁぁぁああああああ!!」
バキンッ
硬質な音がして、【天獄呪縛】は砕ける。
プスプスと皮膚の泡立つ音が生々しい。
やべえな。負けた。
殺害以外の行動阻止がもう無い。
結界も騎士も効果無し。
昨日の時点で学習したのは、昨日の夜にやった防壁修復や結界の展開、食料の複製、転移、今の呪縛くらいだ。つまり、これ以上は超火力で吹き飛ばす力技だけ。
下手に殴れば、城が倒壊する。
そもそも、膨れ上がり続ける力の制御が不十分な俺にとって、呪縛はかなり限られた手段の一つだった。
不味いな。
「姫野さん!拘束を頼む!」
「?!……了解!」
突然の無茶振りに応えてくれる姫野さん。
運動神経が良く、【魔法少女化】でスペックも上がってる状態で繰り出される動きは、満身創痍のゾルボドを半回転させ、地面に叩きつけた。
「勇者殿!!早くトドメを!」
「トドメはダメだ!姫野さん、絶対に殺さないように、全力で注意して!」
国王に全力で楯突いたのは、後々考えたら悪手だと思う。
けど、俺にとって殺しは最後の手段。
絶対に殺すべきではないとかは思わないけど、ぽんぽん殺すのは間違ってる。
「【完全封印】【全回復】」
半透明の青い球体に包まれたゾルボドを完全回復させる。
その経過で、ゾルボドの体の情報が頭に入ってきて、俺はゾルボドが魔王軍幹部をしている理由を知った。
「国王、人類の問題も魔族の問題も俺が全部解決する。だから最大の裁量権は貰う。よろしくお願いします。」
「ぁ、ぁあ、わかった、兵たちにもそう通達する。頼んだぞ。」
俺は封印されたゾルボドを持ち上げ、また国立図書館に行くことにした。