神様の密室から抜け出す方法
目を開けたら何もない、ただの四角い空間に立っていた。
「は? 何これ」
壁にペタペタ触ってみるが、どこにもドアや窓らしい切れ目もつなぎ目もない。
私は記憶を遡る。
「お前には悪いと思ってる。でも俺たち本当に愛し合ってるんだ」
「ごめんね。ミイの彼氏だってわかってたのに、好きになっちゃった私が悪いの……」
この日、親友だったはずのカナが私の彼氏のユウと付き合い始めた。つまり私は捨てられ、親友に彼氏を奪われたわけだ……。
「くそっ、思い出したらムカついてきた……」
町はずれの人気のない、さびれた神社に足を運んだ私は願った。いや呪った。
「神様、どうかあの二人を不幸にして、ユウに私と別れたことを最高に後悔させてください!」
その瞬間、足元から生温い風が激しく吹き上げ、私は思わず目をつぶった。そしてどこからともなく声が聞こえてきたのだ。
『クックック……、お前の願い聞き届けよう。対価としてお前の魂を我によこすのだ』
その声が途切れるとともに風も止んだ。そして目を開けたら、私はこの部屋に立っていたのだ。
私はポケットからスマホを取り出し、画面を明るくした。
「電波ないし……。最悪。なんで私ばっかこんな目に! クソっ! うんこっ!」
私は子どものように地団駄を踏みながら、何もない壁にありったけの罵詈雑言をぶつけ始めた。
「あーあー! 閉じ込めた奴もだけど、私の周り頭おかしいやつしかいねぇー!!」
『……聞き捨てならんな』
なかなか終わらない暴言に堪りかねたのか、神社で聞こえたものと同じ声がどこからか響いてきた。しかし全てを敵認定した私は最強だった。
「は? だってそうじゃん。普通閉じ込めないっしょ。きもっ」
『我は神ぞ?! 少しは畏れを覚えよ!』
「こんな変質者みたいな神様知りませーん。どうせ非モテ拗らせたおっさんなんでしょ」
『ぐぬぬぬぬ……、ちょっと待ってろ!』
その言葉を最後にパッと景色が変わった。あの神社の境内だった。
「おいっ、娘! この美しい姿を見ろ! 誰が変質者だ!」
背後から怒鳴り声が聞こえたが、もちろん私は振り向かず脱兎のごとく逃げ出した。
「あっ、ちょっ、待てこら!」
「あ、もしもし! 今、変質者に追いかけられてます!」
「やめろぉーッ!」
これが監禁癖のある神様との出会いで、なんだかんだ長い付き合いになるとはこの時は予想すらしなかった。
ちなみにユウとカナは次の日速攻で別れてた。ざまぁ。