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27歳システムエンジニアの俺は、『過活動膀胱』になったけどなんとか折り合いをつけて生きています。

作者: 異伝出

※ここに記載されている病気の症状は、個人の体験です。

 同じような症状の方は、病院で診断を受けてください。

 私はゲームが好きだった。


 とあるe-sportsタイトルを好んでプレイしていて、オンライン大会やオフラインイベントには積極的に参加していた。何時間も続けてプレイできた。大会の待機時間は練習して過ごすことができた。

 オフラインイベントでは、参加者として壇上に上がるために、何十分も待機することができた。オフラインで初めて会った仲間と、やはり何時間でもゲームを続けてすることができた。




 私はサッカーが好きだった。


 大学3年生の時、私が応援している地元のクラブは史上最強とまで言われていて、実際に当時のJリーグ記録も打ち立てた。

 当時の私は暇に飽かして、年間20試合もある地元でのホームゲームは全部参戦していた。各地方でのアウェーゲームも10試合ほど行った。

 その中には、夜行バスで10時間ほどかけて移動した場所もあるけれど、愛するクラブを応援するためなら苦ではなかった(なお帰宅してから39度の熱を出した)。

 試合開始の4時間前には到着して、現地のスタジアムグルメやイベントを楽しんでいた。

 いざ試合が始まれば、45分×前後半の試合中はずっと歌って跳ねて(たまに野次を飛ばして)愛するクラブを応援することができた。


 就職してからは少し足が遠のいたけれども、年間10試合はスタジアムに足を運び、ゴール裏でチームに声援を送っていた。




 私は映画が好きだった。


 マッチョが殴り合ったり、銃をぶっ放して悪を退治する、頭の悪いエンターテイメント映画が特に好きだ。そういった大衆向けの映画は、女の子を誘うのにもうってつけだった(一度、PG-12指定に気づかず女の子を連れて行ったことがある。あれは失敗だった)。

 2時間の映画を集中して見ることができたし、面白い映画であればその時間はあっという間だった。




 私はスノーボードが好きだった。


 高校三年生の時に、卒業旅行がてら、友人と二泊三日のスノーボード旅行に行った。夜行バスで何時間もかけて行かなければいけなかったが、若者の体力には苦ではなかった。

 それから毎年恒例のスノーボード旅行が始まった。基本的に日帰りだったが、友人と行く旅行はとても楽しかったし、行くたびに滑ることが上手くなっていくのは快感だった。

 学生らしく金がないので、レンタル券とリフト券が付いた夜行バスのツアーを毎回利用していた。




 今、そういった生活はできなくなった。




 24歳になったある日、いつものようにコーヒーを飲みながら仕事をしていた私は、突然、強烈な尿意に襲われた。

 腰砕けになり、漏らしそうになりながらも、フロアの反対側にあるトイレまでたどり着き、無事用を足すことができた。


 それから20分後、突然強烈な尿意に襲われた。腰砕けになり、漏らしそうになりながらも、フロアの反対側にあるトイレまでたどり着き、無事用を足すことができた。


 それから20分後、突然強烈な尿意に襲われた。腰砕けになり、漏らしそうになりながらも、フロアの反対側にあるトイレまでたどり着き、無事用を足すことができた。


 それから20分後、突然強烈な尿意に襲われた。腰砕けになり、漏らしそうになりながらも、フロアの反対側にあるトイレまでたどり着き、無事用を足すことができた。




……




 症状は仕事中だけではなく、通勤途中の電車内でも現れた。


 私が使っている路線は、電車内にトイレがある区間がほとんどだった。それでも、乗り換えのためトイレがない区間に乗車している時、何度か尿意に襲われて途中下車したことがある。

 朝起きるのが苦手だった私は、いつもギリギリの時間に出社していたので、当然、途中下車してトイレに行く、イコール遅刻を意味した。


 職場が遅刻に寛容だった(正確には、遅刻する人が多すぎて、私の勤怠状況は目立たなかった)ので、特に私の評価が下がることはなかった。


 不思議と、家に帰ると症状は治まった。




 一週間ほど経っても治る気配がなく、上司に相談した私は、急遽午前休を取って地元の泌尿器科に行くことにした。


 泌尿器科と言うと、失礼ながら、高齢者のたまり場になっているという印象が強かった。

 実際に行ってみると、確かに高齢の方が多かったが、自分より少し年上と思われる、イケイケのお兄さんもいて、安心したのを覚えている。


 尿検査は、受付の人に呼ばれて容器を渡されてから実施する予定だった。

 しかし、そこまで我慢できなかったので、受付時に容器をもらって先に行った。トイレが我慢できません、と他人に話すのは少し屈辱だった。




 診断結果は、メンタル起因の過活動膀胱。実際には膀胱に尿が溜まっていないのに、溜まっていると誤認してしまい、我慢できないほどの尿意に襲われるという症状だ。


 おそらくそうだろう、と予測はしていた。自分なりに症状について調べていると、不安やストレスからトイレが近くなるという症例が多数見つかったからだ。


 恐らく、直ぐにトイレに行けない環境がストレスになり、逆にトイレが近くなってしまうのだろうと思われた。家で症状が現れないのは、いつでもトイレに行くことができる環境だからだろう。




 膀胱の活動を抑える薬を処方してもらった。二週間ほど服用し続けると、トイレの間隔を一時間程度に抑えることができるようになった。

 だが、それまでだった。それ以上の改善はできなかった。




 1時間を超えるミーティングで、途中退席することはしばしばだった。

 そのため、ミーティングの出席者から外してもらうようにお願いした。


 基本情報技術者試験(※IT系の資格試験)を受験した時は、試験時間の半分ももたせることができず、退出した(ちなみに合格した)。


 ゲームの大きなオフラインイベントでは、壇上に上がる前に2回もトイレに行った。終わった後にも急いでトイレに行ったが、間に合わずほんの少し漏らした(色の濃いジーンズを履いていてよかった)。


 出かけるときは常にトイレの場所を確認するようになった。友人にリアル脱出ゲームに誘われたが、好きに退出できない環境のため、泣く泣く断ったこともある。




 治らない以上は、この病気と上手く付き合っていくしかなかった。







 私はゲームが好きだ。


 オフラインイベントに参加することはなくなった。どうしても他人に迷惑をかけてしまうし、トイレのことを気にしていては自分が100%楽しむことができないからだ。

 オンライン大会には少し前まで参加し続けていた。モチベーションがなくなってしまい、今ではエンジョイ勢になってしまったけれども。




 私はサッカーが好きだ。


 以前はキックオフの4時間前には到着していたが、40分前に着くようにした。

 ハーフタイムはどうしてもトイレが混んでしまうので、その5分前くらいに行くようにした。そのまま喫煙所で一服してから戻るのが最近のルーティーンだ。

 移動に時間がかかるアウェーの試合には、残念ながら行かなくなってしまった。




 私は映画が好きだ。


 映画館で映画を見ることはやめてしまった。トイレのことが気になり、映画に集中できないからだ。

 その代わりに、各種ストリーミングサービスを契約した。最新の映画を早く見ることはできないけれど、意外と重宝している。




 私はスノーボードが好きだ。


 残念ながら最近は行かなくなったけれど、新幹線か車を使えばトイレの問題はないので、また機会があれば行きたいと思っている。




 残念ながら、今までのように趣味を楽しむことはできなくなった。


 発症した時のように、突然治るのか。それとも一生付き合わなければいけないのか。

 それはわからないけれど、今の自分にできる楽しみ方を見つけて、前向きに生きることはできる(少し大げさだけど)。

エモぶってるけどまあまあうまく付き合って生きてます。

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