第9話 「交換」
翌日、デートの日程と場所を聞くために再び空き教室に来た。
「え、選んでくださいっ」
そして、毎度おなじみ3択カードを突き出してきた。
「お、おう」
もう慣れた俺は、一切の動揺を見せずにカードを引いた。
───今週の土曜日、ショッピングモールに行く───
まあ、結構無難な感じか。
というか、これって雅が考えた選択肢の中から、俺が決めてることになってないか?
「ショッピングモールに行くのはいいんだけど……今回は雅が決めないとだめなんじゃないのか?」
自分が本当に行きたい場所を自分で決めないとこのデートの意味がない気がする。
「その3択カードを引かないといけないのは、雅の方なんじゃないか?」
「……そ、それは……」
この選択肢カードには、雅のあがり症を治すことに関して何の役にも立たない。
あの時は俺が彼女に選ばせることによって、自ら行動を起こさせることができたが、今は俺が選ぶ側になっている。
これでは意味が無い。
「なあ、やっぱりこの選択肢カードは俺が持とうか?雅が選んでくれよ」
「わ、私は……な、直之くんに、選んでほしい、です……」
「どうして……」
「人の前じゃ、なかったら……ちゃんと、自分の意思で、考えられます。でも……私は、一つに決められないんです」
一つに決められない。
彼女は、人前では緊張して何も考えられなくなるが、そうでなければ正常な思考ができる。
それはわかっていたが、まさか……。
「どれだけ、考えても……一つに決められない……選べないんです」
普通に話せなくなるのは、緊張以外にも理由があったみたいだ。
冷静な思考が出来ないことに加え、複数ある選択肢を自分だけの力で選べない。
だからこうして、誰かに選んでもらうという考えに至ったのか。
そして、この考えを初めて実行したのが俺……だから彼女は、自分のやっていることを、俺だけは理解してくれると思ったのだろう。
なるほど、ようやくわかった。
彼女が俺に頼ってきた理由が。
「だ、だから……これからも、直之くんに、選んで、欲しい、です……」
「……わかった。まあしばらくの間は俺が選ぶよ」
「あ、ありがとう、ございますっ」
この選択肢カードは、彼女なりに今できる精一杯のアクションなんだろう。
それを否定するのは、彼女の意志を否定するのと同じだ。
でもまあ、いつかはこんなカードに頼らなくても、自分だけで選択できる人間になってもらいたいものだが。
「じゃあ、とりあえず土曜日って事でいいな」
「は、はい……」
「おっけー。後は時間と待ち合わせ場所だな。どうする?」
「そ、それは……えっと……」
彼女は少し慌てるような表情をする。
あー、考えてなかったのか。
まあ、日程と場所を決めるように言った俺も悪いか。
「あ、ならそれはこっちで決めていいか?」
「あ、はい。……お願い、します」
「わかった。じゃあ土曜日の1時に駅前にある時計塔で待ち合わせってことで」
俺がそう提案すると、雅はこくりと無言で頷く。
和希と待ち合わせる時はいつもどっちかの家だったから、全然わかんないし。
駅前の時計塔は待ち合わせ場所に最適だって地元のニュースでやってたのを見たことがある。
あ、でもあれって恋人関係の男女の待ち合わせ場所だった気が……。
あれ?俺、やらかした?
キモかったかな?
和希以外とまともに遊びに出かけたことない俺が、駅前待ち合わせとか得意げに言って、痛いヤツだと思われたかも。
念の為、もう一度雅に確認をとる。
「ま、まじで大丈夫?変じゃない?」
「あ、えっと……いいと、思います。私も、行ったことないから、わからないけど……」
「あ、そ、そっか……」
俺達では、どこが待ち合わせ場所に適しているか全く分からない。
やっぱり和希に1度相談しないと。
「じゃ、じゃあ今日和希と相談して決めることにするわ。決まったらこっちから連絡するし」
「わ、わかりました……」
この会話の直後に気づいた。
そういえば、雅との連絡手段が……ない。
もしかして、これは……。
いやでも、俺から言ったらキモイかな。
まだ3日だぞ。馴れ馴れしい奴だと思われるかもしれない。
しかし、彼女から言ってくることはまずないだろう。
……俺から行くしかない、か。
「そ、そういえば俺、雅の連絡先とかし、知らないわ。よ、よかったら、連絡先、ここここ交換とか?し、しししない、か?」
やべえ、めっちゃ挙動不審になってしまった。
てか、俺が女の子に連絡先聞くとか、正直キモすぎだろ。
今まで女子と連絡先交換なんてしたことないし。
ひいたかな?ひいたわな、そりゃ……
そう思ったが、雅の瞳は少し輝いているように見えた。
「は、はいっ。わ、私も……直之くんと、連絡先、こ、交換したいですっ」
……あれ、なんかちょっと嬉しそう?
まあ何はともあれ、ヒかれてはないみたいでよかった。
「お、おおそうか。じゃ、じゃあ携帯出してくれるか?」
「は、はい」
俺たちは携帯の某アプリを開き、QRコードを表示して、お互いに友達申請を送り、承認ボタンを押した。
やべえ、まじで連絡先交換しちゃったよ。
この機能を使ったのは和希の時と合わせて2度目だった。
和希の時は、勝手にやってくれたから、自分から使うのは実質初めてか。
俺の端末に、友達申請が完了する通知が来た。
彼女の方からも通知音が聞こえた。
「わ、私……このアプリ使ったの、初めて、です……」
「お、俺もこれが実質初めてだ」
うわぁ……なんか嬉しい。
女子の連絡先とか、一生拝めないものと思ってた。
雅もアプリが使えたからなのか、とても嬉しそうだ。
もしかして、俺と友達登録できて嬉しい、とか?
……いやいや、だからありえないだろ。
また悪い癖が出てしまった。
この妄想癖でどれだけ自分の首を絞めたことか。
今は、ただ異性の連絡先を交換したという事実を喜んでおこう。
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