第31話 「結局何も変わりませんでした」
俺は雅と改めて友達になった。
ようやく普通の友達として接することができる。
もう、あの3択カードとはおさらばだな。
そう、思っていた矢先の事だった。
「選んでくださいっ」
……いや、なんでぇえええ!?!?
さすがに脳内処理が追いつかなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。え?なんで今更?」
だって雅、コミュ障ほとんど治ってるじゃんか。
俺が3択カードを選んできたのは、雅が自分の意思を言葉に出来なかったからであって、今の彼女にはもう必要ないはずだ。
今更カードを使う意味がわからない。
「や、やっぱりこっちの方が、直之くんと、話しやすい、から」
いや、毎度わざわざカード作る方がめんどくせえだろ。
しかし、まあ今までずっとこれだったからな。
こっちの方が俺達らしいっちゃらしいか……。
「はぁ……まあ、そっちがいいんならいいんだけどさ」
「じゃ、じゃあ、どうぞ」
「よ、よし」
俺は差し出された3枚のカードのうち1枚を引き、自分の方に持っていく。
さあて、今回はどんな内容かねぇ。
俺はカードの内容を読んだ。
───直之くんの言うことを何でも聞く───
ほうほうこれは………んんん!?!?
「ちょ、これって……!?」
この内容は見覚えがあった。
これは雅から初めて引いたカード内容とまったく同じやつだ。
あの時は、やばい妄想が止まらなかったっけ。
だが、俺だって妄想癖は改善してきている。
もう現実的じゃない妄想は……妄想は……。
「雅、何でも……って、何でもか?」
「は、はい、何でもです。私ができることなら、ですけけど……」
………。
あぁ、妄想が、妄想がぁあああ!!
どうする。くそっ、どうしても意識してしまう。
こんな時、ラノベ主人公はどうやって自制心を保っているんだろうか。
だって何でもだそ?女が男に何でもするって言ってんだ。これで意識しない男はいない。
しかし、俺達はあくまで友達だ。
もし、俺がえげつない命令でも口走ろうものなら、その後に後悔して死にたくなるのは俺の方だ。
結局のところ、俺にそんな度胸ないし、妄想どまりだし……。
だとすれば、何を命令したらいいんだろうか。
くそっ、こんな時にいいアイデアが思いつかない。
妄想力はあっても、発想力が乏しいんじゃ意味がない。
何がいいかねぇ。
そんな時。
「だ、大丈夫ですか?そ、そんなに悩まなくても……いいと思います、よ」
「あ、ああ悪い。……あ、そうだ」
俺は1つ思いついた。
ついさっきのことを思い出す。
(───直之くんと一緒にいたいっ)
あの時、俺は一瞬鳥肌が立った。
今まで、ずっと堅苦しい口調だった彼女が、気持ちをストレートに言ってきた。
まるで、複数ある硬い殻の1つを少しだけ破ったみたいに。
俺はあっちの方がいいと思った。
「それじゃあさ、雅」
「は、はい」
「俺ら、と、友達なんだし、なんたって同級生なんだからさ、そんな堅苦しい喋り方やめてくれないか?」
「え、えっと、それは……」
「さっきみたいにさ、俺にはタメ口で話してくれよ。簡単だろ?」
同級生に敬語っていうのは、なんか見えない隔たりみたいなのがあって好きじゃなかった。
俺としては、もっとフレンドリーに接してきて欲しい。そっちの方がお互いに話しやすいだろうし。
「これが命令だ。ほら、早速頼むよ」
俺がそう言うと、雅は少し困惑しながらも、ゆっくり口を開いた。
「は、はい……いや、うん、わかった、よ。こんな感じでいいです……いい?」
うーん……めちゃくちゃぎこちないけど、まあいいや。
「お、おーけー。そんな感じでこれからは頼む」
「あ、はい……じゃなくて、う、うん。よ、よろしく……」
これは……先が思いやられるな。
まあとりあえず、これで雅とは対等な立場になれた……のかな。
3択カードも、流石に今までより少しは減るだろうし、これでやっと、1からスタートって感じか。
一息つける状況になった、と思ったのに……。
「直之くん、ごめんなさい。あの……これ」
さっき引いたカードをポケットにしまったと思ったら、またポケットから3枚のカードを出した。
「ちょ、雅……え、なにそれ、はは。うまくしまえなかったのか?」
「ち、違くて……その、また、選んでっ、て、こと……」
はははー、もう笑うしかないわ。
3択カードは減る所か、ペースガン上げしてんじゃねえか。
「……まじっすか」
「……ど、どうぞ」
あかん、話通じてない。
いや別に、絶対に引かなければならないなんて決まりはない。
たが、この3択カードは俺が最初に始めた手前、選ばないという訳にはいかないんだよなぁ。
「はぁ……わかったよ。引けばいいんだろ」
まあ今回はいいけど、毎度こんなペースでやられると流石にキツイ。
それだけはちゃんと言っておかないとな。
「けどこれからはちょっとペース落としてくれよ」
そう言いながら、俺は再びカードを1枚引いた。
───直之くんに、頭を撫でながら褒めてもらう───
……はは、またぶっ飛んだのが来たな。
もうリアクションする元気もないわ。
褒めてもらうっていうのは、コミュ障を克服したことについてだろうか。
それは何でもいいけど、頭を撫でるってのはかなり大きく出たもんだ。
ま、頭を撫でるぐらいなら、手を繋ぐよりはハードル低そうだ。
「じゃ、じゃあ、行くぞ、雅」
「う、うん……」
俺は彼女の小さな頭に手を伸ばす。
手が触れた瞬間、俺の神経に衝撃が走った。
……なんだ、これ。
夕日に当たった栗色の髪はほんのり温かい。
それに……女の子の髪の毛って、こんなに柔らかいのか?それにすげえさらさらだ。
男の髪の毛とはもはや別物だ。
手のひらが幸せになる。
俺はゆっくりと彼女の頭上で手を動かした。
摩るたびに、なんだか甘い香りが鼻腔を抜けていく。
シャンプーとはまた違う、女の子特有のいい香りが……。
頭を撫でるぐらい、どうってことない。
そう思っていたが、
───女の子の頭……すげえ!!
いかん、これはやみつきになる。
まるで俺の意志とは別に、右手に魂が宿ったみたいだ。
雅の方を見ると、俯いていて顔は見えなかったが、真っ赤な耳は見えた。
相当恥ずかしがっているな。
やべっ、なんか変な気分になってきた。
……おっとしまった。撫でてるだけじゃだめだったな。
「え、えっと……よく頑張ったな、雅。偉いぞ。よ、よしよし」
なんだ!最後のよしよしって!?
俺の口がそう言ったのか!?やばい、キモすぎる。
早く手をどけないとっ!でも、もうちょっとだけ堪能……いやいやダメだ!
「は、はい!これでいいだろ!」
これ以上続けたらまじでおかしくなりそうだった。
「あ、ありがとう……」
心做しか、雅は嬉しそうな表情をしながらそう言ってくる。
「べ、別に……」
なんだよその顔……可愛すぎだろ。
───これで友達って言うんだから……ほんと、俺の日常はどうなっちまってんだ。




