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第1話 「ラブレター」



人の行動には数えきれない程の選択が付きまとう。


例えばの話をしよう。



トーストを食べるとき、どの部分から食べるのか。


4つの角のどこか?


それとも4つの辺のどこか?


はたまたど真ん中か?



まあそんな奇妙な食べ方をする奴はほとんど居ないだろうけど。


ジャムは付けるのか、付けないのか。


そのジャムはいちごか、それともブルーベリーか。


バターは塗るのか塗らないのか。


目玉焼きを乗せるのか、乗せないのか。


そもそも焼くのか、焼かないのか。



トーストを食べるという行為だけで、今挙げた例以外にも数えきれないほどのパターンがある。


どんな状況でもそれは同じだ。


寝る時、起きる時、食べる時、運動するとき、何かに触る時、誰かと話す時。


そして、恋愛する時も───。



一つ一つの行動には無限の選択肢、そして可能性が存在する。



だがもし、次の行動があらかじめ決められていたら?


一つではないにしろ、行動の選択肢が3つに絞られたら?



学校のテストなんかにも、選択問題があるだろう。


たとえ、目に見えなくても、内容がわからなくても、当てずっぽうで選ぶことが出来る。



何も考えなくても、目を瞑っていたって、勝手に決められた行動をすることができる。


口で言うのは簡単だ。


だが、実際にそんな状況に陥った時、俺は本当に空っぽな状態で、平常心で選択することができるのだろうか。



もし、俺の目の前に一人の少女が、正解のない3枚の選択肢カードを持って現れたら────。





「こ、この中から……一つだけ選んで、ください……っ」


放課後の誰もいない空き教室。


その少女は、か細い声で俺にそう言った。


彼女の顔は、窓から差し込む夕日の光に負けない程に赤く染まっていた。


彼女の手には、何か文字の書かれた3枚のカード。


俺はこの訳の分からない状況に、口を半開きにして黙り込むことしか出来なかった。


─────どうして、こんなことにっ。






───ほんの4時間ほど前、ちょうど昼休みになり、昼食時の公立高校。


その2年3組の教室に俺、橋田直之(はしだなおゆき)はいた。


自身の机に自作の弁当を広げる。




少しだけ俺の身の上話をしよう。


家族構成は、俺、両親、そして3つ上の姉の4人家族だ。


俺が高校に入学したと同時に、父の仕事先の都合で両親は俺達を残して都市部へ行ってしまった。


なので今は姉と2人暮し。


ちなみに俺の姉、橋田千咲(はしだちさき)は少女漫画家だ。


俺とは違い、眉目秀麗で美人という言葉がよく似合う姉だが、たまに、締切寸前の仕事の手伝いをさせられたり、漫画のモデルとして全裸に剥かれるのがちょっとネックである。


「うん、今日もなかなかの出来栄え……」


予め知っている弁当の中身を見て開口一番、そんな自画自賛をする。


姉はまったく料理をしないので、両親がいなくなってから、台所の支配権は俺が握ることとなったのだ。


当時は俺もカップ麺ぐらいしか作れなかったが、インターネットの料理サイトを行使しながら、少しずつまともなものが作れるようになった。


今では料理が俺の中で唯一の特技となっている。


自画自賛ぐらいしたっていいじゃないか。


1分ほど自分の弁当に見蕩れた後、箸をつけた。


と、そんな時、背後から聞き覚えのある男の声がする。


「おお、今日も美味そうだなあ、ナオの弁当は」


その陽気な声の主の方に体を向ける。


「おだてても何もやらねえよ、和希」


俺がそう言うと、弁当に向かって伸びてきていた箸が止まる。


「あちゃー、ばれちったか」


箸を戻し、後頭部に手を当てて、笑い誤魔化そうする。


彼は瀬戸和希(せとかずき)。小学生の頃からの親友だ。


俺がちゃんと友達と言えるのは和希だけ。


小6の時に初めて同じクラスになってからは、中学の時もずっと同じクラスで、腐れ縁みたいなものだけど、和希の方も俺を親友だと思ってくれている。


彼も、整った顔立ちで勉強はそこまでだが、運動神経は抜群に良い。今は陸上部に所属している。


明るい性格でクラスでは男女問わず人気だ。


それなのにずっと俺とつるんでくれているのは割と嬉しかったりする。



「堂々と盗み食いしようとしてる奴がよく言うわ。お前はいいよな、可愛い妹が毎朝弁当作ってくれるんだからよ」



俺は和希がその手に持つ弁当をジト目で見る。


「まあな。購買で済ませるって言っても毎朝作るんだぜ。可愛いやつだよまったく」


これを聞くと、俺が自分の弁当に見とれてるのは全然ましだと思えてくる。


どこの2次元妹だっての。



「くそ、羨ましいな。俺も妹が欲しいわ」


「何言ってんだよナオ、お前には超絶美人の姉がいるじゃねえか」


「……確かに姉ちゃんが美人なのは認めるけどさ、中身がアレじゃあな……」


俺は決まりの悪い顔をしながら視線を逸らす。


姉のことを知っている和希もまた、苦笑が浮かんだ。


「そうだったな。悪い」


「ほんとだよ。俺も従順で可愛い妹が欲しいっての」


漫画描くことしか脳がない見た目だけの姉と交換したい。


割と本気で悩んでいると、和希が俺の机に弁当を置いて、近くにあった椅子を持ってきて座った。


「んじゃさあ、妹と言わず彼女でも作ればどうよ」


そんな提案をしてくる和希を見て、俺は呆れた表情をして溜息をついた。


「はぁ……ずっと俺を見てきた和希ならわかるだろ。俺が今まで女子と仲良くなったこと、1度でもあったか?」


「あー……なかったな。確かに、1度も」


自虐のつもりだったが、人に言われると傷つくな。


自分で開いた傷に塩を塗ってと言ったようなものだ。


「ほっとけ、俺はお前に教わったアニメとか漫画を楽しめればそれでいいんだよ」


中学の頃、アニメや漫画にどハマりした和希につられ、俺も所謂ヲタクというやつになった。


和希の方はそのルックスや明るい性格もあって、普通にクラスに馴染めているが俺は違う。


顔も普通だし、勉強も運動もそこそこ。特に目立った特徴がないのが特徴みたいなものだ。


別に根暗だとは言わないが、和希以外の奴と話す機会は少ない。


あっちから話しかけてくることがまずないのだ。


「まあそれは言えてる。俺も正直アニメと漫画とゲームがあればいいって思うし」


「和希の場合はアニメ好きなギャルゲ主人公だけどな」


イケメンで、運動出来て、明るくて、おまけに可愛い妹とか、なんだよその最強設定。


「何言ってんだ。お前こそ地味で平凡だけど何故かモテるみたいなラノベ主人公になれる要素は兼ね備えてるじゃねえか。てかさ、お前そのメガネ外したらそこそこいけると思うけどな」


「そんな奴になれたら苦労しねえっての。それに、メガネ外したらイケメンだったなんて上手い話あるわけねえだろ」


そんな簡単になれるもんじゃないだろ。


ラノベ主人公を軽視しすぎだ。


「わかんねえぞ、それに、男は見た目じゃなくて中身だ。どっかで女の子助けたりしてたらその子に好かれるなんてこともあるかも」


「あいにく、そんな記憶はないな」


虐められてた女の子を助けたとか、ナンパする男達から守ったとかが定番だが、そんなシチュエーション、簡単にお目にかかれるものじゃない。


「お前が覚えてないだけかもだし、ひょっとしたら学園の三姫あたりからモテたりな」


学園の三姫───男子生徒の間で密かに行われた、彼女にしたい女子ランキングの格付けでトップ3に輝いた女子生徒だ。


1位は3年で現生徒会長の工藤沙耶香(くどうさやか)


黒髪ロングで凛とした瞳と佇まいが人気を集めた。


男子生徒の中では、下僕になりたい、踏まれたいなどと言う連中もいると聞く。


2位は今年入学したばかりの1年生、春川彩乃(はるかわあやの)


まだ見たことはないが、噂によると可愛らしい童顔、そして陽気な性格で、入学早々アイドル的な存在になっているらしい。


既にファンクラブがあるという話も耳にしたことがある。


そして3位は同じ2年の篠崎真帆(しのざきまほ)


クラスは違うが、2年男子の間ではかなり有名だ。


大人しい雰囲気だが、どこか抜けた所があるらしい。しかも三大姫の中で1番の……巨乳だ。


可愛いを体現したような少女だ。


3人ともまさに高嶺の花、雲の上の存在。


そんな話すことすらままならない3人からモテるなんて天文学的確率だ。


「まあ、ありえないな。天地がひっくり返ってもありえないな」


「そうだよなぁ。あの人達はまずないな。でもよ、隠れ人気の子ならいけるかも」


和希の言葉に俺は首を傾げた。


「なんだ、隠れ人気って?」


「まあ知ってるやつは少ないだろうけど、実は他にも人気な奴が2年にいるんだよ」


「へー、誰だそれ」


「隣のクラスの逢坂雅だ」


俺はその名前を聞いて、隠れ人気という言葉も思い出す。


「あー、知ってるわ。すげえ可愛いけど全然喋らないってやつだろ?」


彼女と同じクラスの生徒ですら、彼女がまともに話しているところを見たことがないと言う。


ルックスだけで格付けした隠れ人気ランキングの1位だったはずだ。



「それでも無理だわ。隣のクラスなのに見たこともないし」


「そんなことねえって、確か逢坂雅って、俺らと同じ小学校だったぜ。俺もあんまり覚えてないけど」


「和希が覚えてないなら俺も知らないな。まあとにかく、彼女なんて俺には縁遠い話だ」


彼女が欲しくないと言えば嘘になる。


が、別に高校のうちに欲しいとも思わない。


大学に行ったり、社会人になれば、いくらか出会いがあるだろう。


そんな感覚でいた。


そして、いつの間にか昼休みはすぎ、次の授業の予鈴がなった。


和希は自分の席に戻り、俺も授業の準備をしようと、教室の後ろのロッカーに行った。


「えーっと教科書はっと……」


授業で使う教科書を探していると、ロッカーから一枚の封筒が出てきた。


「ん、なんだこれ」


封筒を開け、中に入っていた紙を手に取った。


書かれていた短い文を読み、俺は目を丸くした。


「まじ……かよっ」


紙を持った手は震え、額からは脂汗が滲む。


その手紙に書かれていたのは……。




───放課後、2階の空き教室で待っています───




その一文に、俺は動揺が隠せなかった。


おいおい、さっき和希と話した矢先だぞ。


なんの冗談だ。


まさか、な……いや、これは……間違いない。


……ラブレター、なのか。




どうすんだこれ。


てか、いつの間にロッカーに入れた?


昨日はなかったから、まさかこのクラスの誰かなのか?


名前も書いてない。


一体、誰なんだ。



ロッカーの前で固まっていると、授業開始のチャイムが鳴り、同時に担当の教室が入ってきた。


今悩んでいても仕方がない。


今はとにかく、放課後になるのを待つしかないか。




手紙をポケットにしまい、教科書を持って俺は自分の席に戻った。



この度はご拝読ありがとうございます!


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