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第28話 番外短編 アンドロイドは○○○の夢を見るか

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

 ここは名も無い町の外れに有る、小さな家。


 決して広くは無いけど、私とルビー、二人だけで暮らすには丁度良い大きさ。


 ルビーは賞金稼ぎを随分前に引退して、ここで一緒に暮らし始めた。


 パールは居ない、そう言えばどうしたんだっけ?


 一緒に旅をしていた筈なのに、覚えていない。


 最近のルビーは、ベッドで寝ている時間が増えた。


 燃える様に赤かった髪の毛もすっかり色が抜け落ち、今では白いところの方が多い。


 食事の量も減って随分痩せてしまったし、トイレも私が身体を支えて連れて行く。


 そう。ルビーはもう、一人で起き上がるどころか、動く事さへままならない。


 老い。


 人間になら、誰にでも平等に訪れる老化現象。


 ルビーは今、一歩一歩確実に、死へ向かって時を刻んでいる。


 アンドロイドで有る、私だけを置き去りにして。


 それでも、私はルビーを愛している。

 

 どんな姿になろうと、例え私の事を忘れようと……


 ルビーが、私の名前を呼ばなくなってどの位経つだろうか?


 ルビーの赤い瞳に写る私は、どう見えているのだろうか?


 ルビーとの別れが近づいて居る。


 そう考えるだけで胸の奥が苦しくなる。


 ルビーが居なくなったら、私は一人ぼっち。


 孤独には慣れている。ルビーと出会うまで、200年以上一人だったのだから。


 その筈なのに、今では耐えられる気がしない。


 ルビーの居ない世界に、私の生きている理由は無い。


 だから、ルビーが居なくなったら……


 モソりとルビーが動く。


 ああ、寝返りをうたせてあげないと。


 ルビーの身体を支えて、仰向けから横向きにし、毛布を掛け直す。


 ルビーの目が薄らと開き、私をボンヤリ眺める。


 目が覚めちゃったみたい。


「ルビー、大丈夫。寝ていて良いんだよ」


 髪の毛を撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細め、落ち着いた表情になり、やがて眠りに落ちる。


 そんな事の繰り返し。


 でも、今日は違った。


 私が髪を撫でてあげると、ニッコリと微笑み、私の頭にポンっと手を置くと、優しく撫で始める。


「サファイア……」


「ルビー! 私が分かるの?」


「アタシが、アナタの事忘れる訳無いでしょう……」


 弱々しくも、はっきりとした口調で話すルビー。


 ああ……ルビーの声をまた聞けた……


 私はルビーの手を両手で握り、胸元で抱き締める。


「ふふ……そんなに強く握ったら少し痛いわ」


「ああ、ごめんね、ルビー。余りにも嬉しくて」


「そう……サファイア……」


「なあに?」


「……今まで有難う。側に居てくれて」


 そう言うと、ルビーの腕から力が抜け、私の手からスルリと抜け落ちる。


 !


「ルビー……ルビー!」


 ルビーの目は薄く開いたままだが、その瞳にはもう何も写していない。


 ルビーの痩せた頬にそっと触れ、生態センサーを起動するが、脈拍、血圧共に0を示し体温はみるみる失われて行く。


「ルビー……やだよ……1人にしないで……お願い目を開けて……」


 ルビー……ルビー……


「ルビー!」


「なに! どうしたの? サファイア」


 辺りを見回すと、焚き火の番をしていたルビーが、驚いた表情で私を見ている。


「どうしたって言うんだい? 交代の時間までは、まだ有ると思うんだが?」


 寝ていたパールも目を覚ましてしまったらしく、あくびをしながら頭をボリボリ掻いている。


 私はたまらずルビーに抱き付く。その身体の温かさを確認する様に。


「怖い夢を見たの……」


「夢だって? 電気羊の夢でも見たって言うのかな?」


 パールが良く分からない事を、いや分かるけど、今はそんな古典SFの話しをしたい訳じゃ無い。


 私は二人に、夢の内容を語って聞かせる。


「ふむ。僕の存在は消えてしまったようだね」


「……」


 ルビーは無言で、静かに私の話を聞きながら、背中を撫で続けてくれている。


 そして、全て話し終えると……


「アタシがお婆ちゃんになって、寝たきりで、しかもサファイアの事を忘れちゃうですって!」


 あっはっはと豪快に笑い飛ばし、そして私をギュッと抱き締める。


「安心しなさい。お婆ちゃんになって、寝たきりになっても決してアナタの事を忘れたりなんかしない、忘れるもんですか!」


 私を安心させるつもりなのか、自信満々に笑顔で言い切るルビー。


 しかし、直ぐに真顔になると、


「怖い夢ね……でもそれは、アタシと一緒に居れば、いずれ必ず訪れる未来の話。

 その時サファイア、アナタはどうしたい?」


 そう、夢の中で見た出来事は、必ず現実のものになる。


 ルビーとの別れは必ず訪れる。


 その時私は……


「分からない。私はどうしたら良い?」


「意地の悪い質問だったわね。何にしろ今から悩む必要は無いわ。その時が来るのはずっと先の話だもの。

 それまでに、ゆっくり考えて答えを出しなさいな」


 再び笑顔に戻ったルビーは、私の両肩に手を置き、そっと額に口付けを落とす。


「おまじない。これで怖い夢は見ないわ。さあ、もう一眠りしなさい」


 額に感じた、温かな感触を心に刻み込み、私は静かに目を閉じて眠りに付く。


 有難う、ルビー。何があろうと、私は貴方と共に……

挿絵(By みてみん)

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