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第26話 もう我慢できない! アタシは行くよ!

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

「テルミは誰にも渡さない!」


 私に光の剣を突き付け、怒りの形相で睨みつけて来る黒瑪瑙オニキス


「待つんだ黒瑪瑙、違うんだ!」


「テルミは下がってて。直ぐにこいつを片付けるから」


 アマノ船長の言葉に、耳を貸そうともしない黒瑪瑙は光剣を両手に構え直し、きっさきを私に向け串刺しにせんと突っ込んでくる。


 私もシックススターを抜き、応戦しようと狙いを付けるが……


 ここで撃つとアマノ船長まで巻き込んでしまう!


「パール!」


『分かってる』


 左手付近に光の粒子が集まり、掌に何かしらの感触を感じる。


 それが何かを確かめている暇は無い。


 黒瑪瑙の動きに合わせ、手にした物を下から上に逆袈裟で振り上げた。


 バジッ! と言う音と共に衝撃が左腕に伝わる。


 私の振り上げたサムライソードは的確に光剣を跳ね上げ、勢いの付いていた黒瑪瑙はそのままバランスを崩し、私の横を通り抜けて行った。


「何故サムライソード?」


 背後を振り返りながらパールに尋ねる。


『光剣のデータが無かったのでね。最近見て記憶に新しい近接武器を再現してみた。

 数値的には黒瑪瑙の光剣と、然程変わらない性能の筈だよ』


「分かった……」


 いまいち釈然としないが、光剣を弾く事が出来たので、パールの言ってる事に間違いは無いのだろうけど……


 ……光剣の方が強そう。


 振り返ると黒瑪瑙も体勢を整え、じっと私を見据えていた。


「やめよう、黒瑪瑙。同一規格のもの同士戦っても、お互い損耗が激しいだけ」


「それはどうかしら。ここは私の世界。

 こんな事も出来る!」


 黒瑪瑙が私の立つ床面に手をかざすと、そこにポッカリと穴が開き、私の身体は重力に抗えず自然落下を始める。


 縦穴は何層をも貫き船底まで達しており、咄嗟の事にろくな受け身も取れず、床に叩きつけられ体力を示す数値が大きく減少した。


 私の後を追って黒瑪瑙も穴を潜り、今は空中に浮かんだ状態で私を見下ろしている。


 迂闊だった。確かに黒瑪瑙の言う通り、ここは彼女が作り出した仮想空間。

 

 彼女の思うがままの世界。一般的な物理法則など通用しない。


 落とされた船底は何も無い、ただの広い空間で、どうやら黒瑪瑙にとって思い入れの無い場所なのだろう。まるで巨大な張りぼての様、船体の内壁が遠くに見えるだけの空間。


 私は宙に浮いている黒瑪瑙に銃を向けトリガーを引く。


 さっきは躊躇したが、ここなら射線上にアマノ船長は居ない。


 かと言って、黒瑪瑙を破壊してしまうつもりも無い。


 狙うは光剣を持つ右腕。


 轟音と共に発射された弾丸は、およそ拳銃から放たれたとは思えない光の柱となり、狙い違わず、黒瑪瑙の右腕に突き刺さると、肩から先をキラキラと光る粒子に変えた。


「強力な武器ね。でも私には効かない」


 黒瑪瑙がそう言うと、まるで時間が巻き戻されるかの様に、光の粒子が元あった場所へ戻り始め、あっという間に腕と光剣が復元されてしまう。


「言ったでしょ? ここは私の世界だって」


 信じられない物を見る目でその光景を眺めていた私にそう言い放つと、光剣の先端を私に向けた黒瑪瑙は、刀身部分をまるでレーザーのように射出。


 意表を突かれた攻撃になす術なく。飛んできた刀身は左肘に突き刺さり、ダメージの許容限界を超えた腕は、そこから切断されてしまった。


 宙を舞、光の粒子と化し消える左腕。


 カランっと、乾いた音を立て転がるサムライソード。


 勿論私には、黒瑪瑙のように失った身体を再生する事は出来ない。


 この世界に対する私の認識は、まだまだ甘かったのだ……


          ✳︎


「パール! 何とかして! このままじゃサファイアがやられちゃう」


 サファイアがピンチだと言うのに、何も出来ない自分に焦りだけが積もって行く。


「分かっている! 僕だってどうにかしたいが、一体どうすれば」


 パールだって必死にやってくれているのは分かってるけど、つい言葉が強くなる。


「大体シールドとやらはどうしたのよ、全然回復しないじゃない!」


「即興で組んだプログラムだからね、何かしらのバグが有ったのかも……」


「今はバグの話しなんかして無いでしょ!」


「いや、バグと言うのはプログラムの不具合の事で……」


 パールの言う事は私の理解を超えている。でも今聞きたいのは、サファイアを助ける方法。


「アナタ天才なんでしょ! 私をあそこへ送りなさい!」


「無茶言うな!」


 分かってる。自分がどれ程無茶な事を言っているか。


 いくらパールが天才と言えど、限度が有るって事も。


『あ〜ドクター、ちょっと良いですか?』


「なんだね? アマノ君。今取り込んでいるのだが?」


『そこの彼女、ルビーさんでしたっけ? 行けますよ、サファイアちゃんを助けに』


「ホント!?」


 まさかアマノ船長から助言が来るとは思ってもいなかったけど、本当にそんな方法が有るの?


『その辺に私が記憶をインストールするのに使った装置がある筈です、それを使えば彼女の一部を送り込めますよ』


「そうか! さすがアマノ君、さすが僕の助手!」


 パールの表情を見るからに、どうやら本当に行けそう!


 何を言っているか理解は出来ないけど、そう言う事で良いのよね?


『ですが、ほんの一部です。記憶と人格全て移すのは時間がかかり過ぎるし、黒瑪瑙の記憶容量は複数人格のせいで既にパンパンです。まるまるもう一人分は流石に無理でしょう』


「ならどうする?」


『私に考えが有ります』


          ✳︎


 シックススターをホルスターに戻し、転がったサムライソードを拾い上げ、杖の様に突いて立ち上がる。


 片腕が無くなったせいでバランスがおかしい。右側に重心が傾く。


 直ぐに補正を掛け、真っ直ぐに姿勢を正すが、通常状態のように動き回れる気がしない。


 しかも、今の一撃で体力の残りは三割を切っている。


 こんな状態で何処まで戦えるか……


 しかし、自分が消滅に近付いていると言うのに、痛みすら感じ無いせいか全く実感が湧かない。


 実感が湧かなければ、恐怖や危機感を感じる事もない。


 片腕になろうが、片足になろうが、体力が尽きるまでは戦えるのだ。


 それについては、この空間の仕様に感謝しているが……


 勝ち目が見えない。


 どう足掻いても、黒瑪瑙の世界で彼女を打ち倒す事は不可能に思える。


「そろそろ終わりにしてあげる」


 黒瑪瑙が空中での停滞を解除し、落下の勢いを乗せた一撃を放って来る。


 バランス感覚の狂った身体で回避は不可能と判断し、残った右腕に渾身の力を込めその一撃を受け止るが、完全に受け切るのも不可能。


 一番力の加わった瞬間、横にしていた刀身を斜めにし何とか受け流しに成功するが、光剣の先が僅かに右腕を擦り、更に体力を削る。


 でも、今までの戦闘である確信が生まれた。黒瑪瑙自身、決して戦い慣れしている訳では無い、と言う事。


 その証拠に、これだけ黒瑪瑙に有利な世界で戦っているにも関わらず、未だに私を仕留め切れていない。


 考えてみれば当たり前。私達CFMSシリーズは戦闘用アンドロイドでは無い。


 あくまで人間をサポートし、船団を無事移民惑星へ送り届けるのが役目。


 データとして戦闘技能をインプットしたとしても、それを使いこなせるかは別。

 

 だからと言って、状況が好転した訳では無い。


 戦い慣れしていないのは、当然私にも当てはまるのだから……


 ルビーと共に旅をし、それなりに場数は踏んだけど、私は戦いに参加していない、いや出来ない。


 人を傷付けられないのだから当然だけど、じゃあ私の存在意義は?


 ルビーの役に立ててるの? それとも、ただのお荷物?


 ……私は、ルビーと一緒に居て良いの?


「戦いの最中に考え事? 随分と余裕ね」


 黒瑪瑙の声に、ハッと我に返れば光剣が唸りを上げ目前に迫り、私の首を掻き切ろうと襲い来る。


 上体を後ろに反らし、ギリギリで回避を試みるが、しきれず。光剣が首筋を僅かに掠り、またもや体力が減る。


 何を考えていた?


 何故こんなネガティブな思考に陥った?


 私の精神はこんなにも脆かったと言うの?


 私の狼狽する姿に、黒瑪瑙が口の端を吊り上げる。


「ウィルスを使うのは、貴方達だけの専売特許じゃ無いのよ?」


 やられた……精神に作用するウィルスを撒いたのね。


 でも何故?


 圧倒的に有利な状況にあって、更にそんな物まで使う?


 ……焦り? だとしたら何に対して?


          ✳︎


 またもや外部からの侵入を検知した。


 今度は何をやって来るつもり?


 目の前にいる侵入者は、ボロボロの状態にも関わらず、まだ私に立ち向かって来る。


 直ぐに倒せると思っていたのに!


 コイツだけでも手一杯なのに、更なる侵入者となるとかなり分が悪くなる。


 早く、早く片付けないと……


          ✳︎


「そろそろ終わりにしましょう。止めを刺してあげる」


 私から離れ、再び空中へ戻った黒瑪瑙は自分の周りに多数の光剣を召喚し始めた。


 召喚された光剣は黒瑪瑙を中心に円を描いて跳び回り、彼女が手で指し示すと光剣の一振りから刀身が射出され、私目掛け飛来する。


 私は全身のバネを使って横っ飛びし、その一撃を回避するが、続け様に射出された刀身が再び私に降り注ぐ。


 走る。とにかく走って回避する。


 止まっては駄目、少しでも止まれば……


 でも、いつまで? そして何処まで?


 こんな遮蔽物も無い所を、いつまで逃げ切れる?


 きっといずれは光剣に貫かれ、消滅する未来しか予測出来ない。


 まだ黒瑪瑙の放ったウィルスが影響しているのか、私の思考がたちまちネガティブな物で塗り潰され、それにつられ身体の動きが僅かに鈍る。


 不意に身体がつんのめる。


 急に踏ん張りが効かなくなり、何事かと自分の足を見ると右足の足首から先が無くなっていた。


 避け切れなかった……


 そのまま前のめりに転倒した私の前に、黒瑪瑙が静かに降り立つ。


「終わりよ」


 黒瑪瑙が左腕を振り上げると、彼女の周りに浮かぶ光剣が一斉に私に狙いを付ける。


 あの手が振り下ろされれば私は終わり。


 ごめんルビー。任務、果たせなかった……


 黒瑪瑙が腕を振り下ろそうとした瞬間、数発の発砲音と共に、何本かの光剣が撃ち落とされ消滅。私と黒瑪瑙が同時に音の方を見れば、そこに居たのは……


 右手にシックススターを構え、ハットを被り、灰色だったボディーを赤くペイントされた、アンチウィルスがフワフワと浮かんでいるのだった。

挿絵(By みてみん)

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