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『Swamp land』  作者: 風 ふわり
第一章 二人の出会い
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公然の秘密

 「みみ見たな?」

 「みみ見た」

 「うっぷ。レオ様に報告だ」

 「よし、報告だ」


 ブクブクブクブク。


 湖に浮いた下膨れの魚は、そのまま湖の中に潜っていった。


 ■


 「二人ともびしょ濡れだな。で、今度は何の報告だ?」

 「見た」

 「レオ様の娘」

 「マルロが遊びに来ていたのか? 何処だ?」

 「帰った」

 「何だ帰ってしまったのか……残念だな」


 『Swamp land』の湖の横、それも地下にあるここは、クワイエットの裏の顔通称暗部、ハンドラ達の活動拠点なのだ。

 レオとは勿論裏の呼び名で、表の顔は『Swamp land』の責任者でマルロの父である。


 人々に怪しまれないように『Swamp land』で着用している下膨れの魚のマスクを、そのまま利用して被っているのだ。

 額に垂れ下がっている鉱石は明かりになる。


 「それで、マルロがどうしたと?」

 「彼氏とデート……」

 「バカ! 言葉を選ばないか……」

 「しまった」


 チクチクと視線が痛いのだとばかり思っていたハンドラ達は、小さな鳥達の嘴で本当に突っつかれていたのだった。


 「イタ! イタタ」

 「わっ、やめて~」

 「もう一度訊くぞ。娘がどうしたって?」


 低く押し込めた声で凄まれたハンドラの一人が、「フィーッ」と息を吹きかけたら小鳥達に火がついて、呆気なく燃えてカスがポトポト落ちて消えた。


 「レオ様酷い。俺達に力を使うなんて」

 「お前も使ったじゃないか。で、次は言葉を選べよ」


 普通の何処にでもいるようなおじさんなのに、レオの力は強力なのだ。

 

 『力』とは、この国で生まれた者全てが、神から与えられる資格の事だ。

 その証が、三才迄に消えてしまう痣である。

 身体の何処かに出現する痣。

 何処に現れたかで、持つ能力が変わる。

 但し、それを引き出すには試練があるのだ。

 しかし、それはこの国に住む者しか知らない公然の秘密。

 だから、たまたまこの国で子供を産んだとしても、それを知らなければ三才迄に痣は消えてしまい使えないままになるのだった。

 

 「何だと! 私のマルロに悪い虫がついただとー!」

 レオ = レイツは、そう叫んだ後仕事を放り出して帰ってしまった。


 「どうする?」

 「折角だから俺達も帰ろう」

 「そうだな」

 

 こうして、通常時間で帰れる幸せを噛みしめながら、ハンドラ達も家路を急いだのだった。


 ■


 お父さんの様子がおかしいの。

 あの、世間知らずなイライアとお友達になった日の事よ。


 突然、早くお家に帰ってきたから、具合でも悪くなったのかと心配しちゃった。

 でも、どこも悪いところはなさそうだったから、体に良い高麗茶を飲ませて休んでもらったの。


 だけど、ちゃんと寝てなくて、ファニの事や摘んできた北光(チェリー)の事を訊いたりして、でもそれも何処か上の空なんだよ。

 イヤになっちゃう。


 それで明日のお休みに『Swamp land』に行こうって誘ったのに、どうしてなのかいかないって言うの。

 じゃあ、一人で行ってくるわね。って言ったらお休みの日は一緒にいて欲しいって……。

 本当にどうしちゃったのかなあ。


 イライアにジャムを渡しに行きたいけど、また今度にするしかないよね。


 まさかね。


 まさか待ってたりしないよね。


 ふふ。

 人との距離感のわからない世間知らずさんだったけど、キレイな顔をしていたなあ。


 もう! あんなに近づかれたの初めてよ。

 知らずに顔が赤くなってしまった。


 今度、治安維持隊(パブリックスクアード)のリアムにも紹介してあげようっと。


 ジャムの小瓶に笑いかける娘を、可愛いなあと思いながら盗み見するレイツがいた。


 ■


 「今日は、休日ですから人に見つかってしまいますよ」

 甲冑を脱いできたシェルビーは言った。


 「着いて来いとは言っていない」


 イライアスは、もう来るかもしれないと、湖の前を落ち着きなくウロウロしていた。


 「今頃、宮廷内では大変な事になっているかと」

 「父様も母様も兄様達も、本当は忙しいのだろう?」

 「それはどうでしょうか」

 「はぐらかすな」

 「いえ、忙しい事と貴方様に会いたい事は別のものかと」

 「僕はもう十三才だぞ?」

 「成人前のガキですね」


 シェルビーは、どうしてこうも正直なのかと不思議に思う。


 「ティスディル、シェルビーを頼む」

 「我が何故?」

 「じゃあ、ティスディルの外出にはもう付き合わない」

 「ムムッそれは困る。……わかった連れていく」


 シェルビーの腕を取りグイと引き寄せ連れて行ったようだ。


 シェルビーはヨロヨロしているが、これで邪魔者はいなくなったぞ。


 そして、僕はずっと一人で待っていた。

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