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『Swamp land』  作者: 風 ふわり
第一章 二人の出会い
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睫毛が触れた

 「いやだと?」

 

 恥ずかしくて距離を取りたかっただけなのに、少年は私に拒絶されたと勘違いしている。


 私が顔を手で隠してしまっているから、何度も質問してきて……。


 「僕は、嫌われたのか?」

 小さな呟きのような質問。


 「違うの……」

 私は誤解を解きたいけれど、少年はすぐに距離を詰めてくるから、恥ずかしくてなかなか手を外す事が出来なくて困ったわ。


 「それなら、何故こちらを見ないのだ?」

 「それは……だからあ……」


 ああもう! どうすればいいのかわかんないよぉ。


 「僕は、嫌われたんだな?」

 「ち、違うから……」

 何回も否定しているのに、信じてくれない。


 パタパタ。

 この羽音はファニかな?

 

 「丸い物が実を運んで持って来たぞ。どうするんだ?」

 少年が教えてくれたから、やっと顔を上げられたの。

 でも……。


 こちらを哀しそうに見詰める碧眼に捉えられてしまって……。




 「何をされているのですか? 探しましたよ」


 ドキーン。

 ドキドキ。


 お連れの声でお互いに驚いて、胸に手を当てたの。


 「驚いたではないか!」

 「どうしてですか?」


 お二人が問答している間に、やっと解放されて、私はファニから北光(チェリー)を受け取る事が出来たの。


 「やや! あれは遺跡から出た魔物ではないですか」

 「よせ!」

 

 「プニー?」

 「えっ、騎士様どうかしたんですか?」

 「あ、いや、それはその……。ところでその魔物はお前のか?」

 「えっ? 魔物じゃありません。緑の妖精です。ねぇ~」


 誤解されて斬られたら大変! ファニに頬を寄せて無害を証明しておかないと。

 ちょっとわざとらしく笑ってみせたの。


 「緑の妖精とな?」

 「はい。いつの間にか私の部屋に紛れ込んでいたんですよー」

 「そうなのか」


 騎士様は、どうするのかと少年に伺いをたてているみたいだわ。


 「害はなさそうだ。それに見ていてとても好ましい」


 「!」


 少年の言葉に騎士様は、クワッと口を開けて変な顔をしていたわ。


 「帰るぞ」


 少年は、勝手にファニを友達にしてしまった私を許してくれたようで、さっきだって世間知らずなだけで、手伝ってくれようとしたんだと思ったら、少年の事がとても知りたくなったの。


 「あ、待って! 名前は? あ、私はマルロって言うの。この妖精はファニだよ」

 恥ずかしくてぎこちない動きになっちゃった。


 「あの、名前を教えてくれる?」

 近づいたら、少し下がられて……。

 確かに、避けられてたら哀しい気持ちになるなと思ったの。


 「イライアだ。訊いてどうするのだ?」

 ふわふわなファーに口を埋めながら、ぶっきらぼうに答えられて、少し胸が傷んだけど今度は私の番なんだと勇気を出したわ。


 「イライア様?」

 「様はいらない」

 「じゃあ、イライア。次に会ったら、ジャムを分けてあげるね」

 「もう来ないかもしれない」


 ツキーン。


 「そう……」

 それだけ言うのがやっとだったわ。

 でも……。


 「どうしても渡したいというなら来てやらなくもない」


 「ブーッ」

 突然ハデに吹き出したお連れの騎士様は、笑いながら何処かに駆けていってしまったの。

 

 「ううっ」

 少年は、面白くなさそうに唸っていたの。

 

 

 「うん渡したい。だってこの北光(チェリー)の実の美味しさを知ってもらいたいんだもの」

 

 やっぱり私なんかが作った物なんて食べないのかな? 少年がガッカリしたように見えたの。


 「渡すだけならシェルビーを寄越す」

 ツンとしている。


 やっぱり要らないよね。

 でも、渡すだけって言ったから、もしかしてお友達にはなってくれるのかもしれない。


 「あの、あのね。私、イライアとお友達になりたいの。だめ?」

 すっごく勇気を出したわ。

 

 そうしたら……。


 「お友達……お友達……お友達!」

 って呟いていてね、それから深呼吸して返事をしてくれたの。


 「そんなに言うならなってやってもいいぞ」


 あれあれ? いつの間にかまた距離が近くなっていて、スススーッと顔を近づけられていたんだよ!


 でもそれも、お互いの睫毛が触れて気づいたの。


 「おのれ! 魔法でも使ったな」

 何か怒っていたみたいだけど、私はそれどころじゃなくて、身体の力が抜けて座り込んでしまったわ。

 



 それを湖から見ていた者が居た事も知らずに。

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