木の枝の下で
「ファニお庭にこんなに種を植えたけど、根づいてくれるかなあ」
「プー」
気づいたら、ファニはキッチンにあったべっこう飴を舐めていたの。
私がジャムを作ろうとして、実を入れてなかったから飴になっちゃったんだよ。
「プニプニ」
って、ファニが鳴くと黒いその……粗相をね、したみたいで、私はすぐに掃除してそれを庭に埋めに行ったわ。
ファニにはちゃんと外でしてくれるように頼んだよ。
なのに、蜜や砂糖を食べた後に私に見せるみたいにするの。変でしょう?
それで良く見たら、それは植物の種みたいで……。
だから気になって、今まで埋めていたところに行ってみたの。そしたら、いつの間にか庭に沢山の芽が出ていて……。
「わぁ、ファニは、緑の妖精だったんだね」
「プニプニ」
結局良くわからなかったけど、毎日が嘘みたいに楽しいからいいんだ。
「どんな花かな? それとも美味しい実がなるぅ? 待ちきれないねぇ」
「プププゥ」
「ねぇ~」
ファニと一緒に陽気に翔び回れば、毎日がとっても楽しい。
この国の国民食の魚を焼いて昼食です。
ファニは、魚には見向きもせずに、瓶に詰まった氷砂糖にムニュリと張り付いてるのよ。
「ファニは甘い物しか食べないのね。だからまあるいのかなあ」
瓶から一つ氷砂糖を出して渡してあげた。
「プープー」
ファニは氷砂糖を夢中で舐めているわ。
可愛いその様子を眺めながら、ジャムを作ってあげたいなあって考えていたのよ。
そうだ、今日はお隣りの工房には行かないで、湖の近くに成る北光でも取りに行こう。
こうして、思いつきで予定を変えたマルロ。
お気に入りの丸い袋を持ってファニと一緒に父親の働く『Swamp land』を目指して歩く。
小一時間もすれば、独特な水の臭いがして大きな湖が見えてきた。
ここにはまだ緑があるけど、南の方では塩の砂が広がっていて、少しずつこの国も侵食されてしまって、森が消えていっている。
「あ、まだ少し残っていたわね」
鳥に啄まれているけど、大丈夫。まだ食べられるわ。
この木は北光って言うの。
二つの実が並んでついていて仲良しさんなの。
それから、実は、頭が山なりで下が尖った形をしていて真っ赤で可愛いんだ。
ファニは、高い場所に実っている北光の実を見つけて、葉の間に突進しちゃった。
ザザーッ。
「ファニ、無理したら危ないよー」
「プニ」
なかなか取れない実をもぎ取ろうとする姿が可愛いらしくて、頬が弛みっぱなし。
よし! 私も頑張って拾うぞ! と下を向いた時、足下に影が伸びてきたの。
「何がそんなに面白いのだ?」
高い声だけど、男の子の声がした。
きっと、遊びに来ているどこかの子供だと思って、「北光の実を集めているの」と相手を見ずに実を拾おうとしたわ。
「実を取っているのか? 僕が手伝ってやろう」
「えっ?」
黒い塊が木の枝に投げられて……。
「狙い通りにいったぞ」
男の子の満足気な声がする。
バキッ!
マルロには、折れた枝がスローモーションで落下して見えた。
「うそ!」
男の子は落ちた枝を拾い、「はい」と私に渡して去ろうとするの。
「ちょっと待って!」
その男の子を捕まえると、枝を突き返したわ。
「こんな物いらないわ。それより枝を元に戻して!」
そしたらね、男の子は片頬を膨らませて私を拗ねたように見てから、枝を湖の中に投げ込んでしまったのよ!
「元に戻せる訳ないじゃないか。余計な事をしたようだから処分してやった」
「そうじゃないわ」
「では、何なのだ!」
「あなたは、自分のしてしまった愚かな行為がわからないの?」
「愚かな行為? それはどう言う意味だ?」
改めて二人は互いの顔を目視した。
煌めく髪に愛らしい顔をした少女のような男の子だった。
それから、身なりがきちんとした姿をしているの。
きっとどこかの世間知らずなお金持ちのお坊っちゃんなんだわ。
そう思ったら、怒っていたのが嘘みたいに消えてしまった。
一方、イライアスは……。
『平民の同じ年くらいの少女だな。片側だけ髪を縛っているところが、自分と同じで好感が持てたのに、どうしてこんなに怒るんだ?』
宮廷内で、こんな態度を誰にも取られた事の無いイライアスには、腹立たしく感じる反面新鮮に感じてもいた。
すると……。
「あのね。いきなり怒ったりしてごめんなさい」
『謝ったぞ?』
「あなたは知らないだけだったのに、私ったら押し付けてごめんなさい」
確かに隣国の事は良く知らなかったと反省するイライアス。
「あのね、ここでは緑を大切にしないといけないの。それはね、この国を囲む塩の砂のせいで、緑が枯れ始めて育ちにくくなっているからなのよ。だからね、こんな風に枝を落としたりしたら、この木だって栄養を蓄えにくくなって枯れてしまうかもしれないでしょう? 知らなかった事は仕方がない事だから、それはいいわ。でも、これからは考えて欲しいの。ただそれだけよ」
キョトンとした少年は、不思議な顔をして私に顔を寄せ顎に触れてきたわ。
私は、精一杯伝わるといいなと気持ちを込めて話しをしたつもりだけど、この綺麗な顔をした少年が近づいて見詰めてくるから、心臓が変な風に跳ねて思わず「いや」と避けてしまったの。