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『Swamp land』  作者: 風 ふわり
第一章 二人の出会い
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イライアスの解放

 やっと、アーヴァイン(第三王子)兄様から解放されたぞ。


 「もう! 兄様達はうるさい」

 あ、本音が出ちゃった。


 「嘘でございますね。構われて嬉しいのでございましょう?」

 甲冑を脱ぎ滑らかなシャツを着たシェルビーが待っていた。


 「みんな、僕を幾つだと思っている?」

 右側の長い髪で隠した頬を膨らませてやる。


 何か言いたそうなシェルビーだったけど、先にティスディルが変な事を言い出したから、焦ったぞ。


 「初めて会った時に思うておったが、イライアスよ、破壊衝動が抑えきれぬのではないか?」


 皆には隠していたのに、どうしてわかったのかな。

 僕は、深呼吸をしてから、凛とした態度で否定した。


 「僕には、そんな粗暴な気持ちは欠片もないぞ」


 シェルビーは、『バレバレなのにこの末王子は隠し事に向かないな』と思った。


 「案ずるな責めているのではない。それより、良い所に案内してやろう」

 笑うティスディルの歯が光る!


 シェルビーは、「素敵」とヨロヨロしていて、僕は、格好いいから後で教えてもらおうと思ったんだ。



 誘われるままに王宮を抜け出して、今では失われた技術で造られた、高く厚い国境の壁を亜獣になったティスディルに乗せられて、軽々と越えていた。


 水の臭いがしてくると、目の前に広がるのは空の色を映した大きな蒼い湖。

 この湖は、クワイエットの国の方だ。


 「イライアス様、国境を無断で越える等……こんな事が知れたら大変な事になりますよ!」


 真面目なシェルビーは、まさか国境を越えるとは思っていなかったようで、青ざめている。


 でも僕は、悪い事をする背徳感で背筋がゾクゾクしたんだ。


 『喜んでいるのがまるわかりだ』

 ティスディルはイライアスを選んで正解だったとほくそ笑んでいた。


 湖の近くに茂る、樹木に隠れるようにして降ろしてくれた。


 人形に変身したティスディルが、僕にまたこんな事を言うんだ。


 「イライアス、ここでお前を知る者は誰もいない。自らを解放しても咎める者は誰もおるまい」


 静かに湖面を揺らす風が吹く爽やかな憩いの場。

 僕は鬱陶しいマントや装飾品を脱ぎ捨てると、身も心も軽くなった。

 きっとこれが解放感と言うものなんだ。


 シェルビーがそれらを拾っている中、「ワー~ッ」と叫びたくなって湖の方に駆け出しちゃった。


 大人しい少年王子だと思っていたシェルビーが、驚いて拾っていた物を落としてしまった程だ。

 

 湖の際で止まれなくて中に入っちゃったから、服も濡れちゃってそのままバシャバシャと水を跳ね上げて駆け回ったんだ。


 それから、身体が何だかムズムズするから、グンと伸びをしてみた。

 そしたらポンポンって僕の中から黒い塊が飛び出してきて、それはパタパタと飛び回り始めたぞ。


 「何ですかあれは!」

 シェルビーの驚愕する声がしている。


 「あれは、我の力を使った抱えきれないあの者の闇だ」

 ティスディルが答える為に、シェルビーに顔を寄せたものだから、真っ赤に染まって体を硬直させてしまっている。

 

 それに、すぐに興味をなくしたティスディルは、今度は僕の方にやって来て、周りを飛び回る蝙蝠のような生き物の説明をしてくれた。


 「おい! それは、お前の自由に使う事が出来るのだぞ」


 飛んでいる一つを手にしたティスディルは、ブーメランのように投げて、今しがた湖から跳ねた魚を真っ二つにして見せてくれた。


 「すごーい!」

 僕は、称賛の目を向けて笑いかけたんだ。

 

 

 あとは、この自分が出したイタバットを掴んでは投げてを繰り返して遊んだんだ。

 ティスディルみたいに上手に出来ないけど、こんな風に発散出来るなら楽しい。


 僕の中から黒い塊が出なくなるまで続けたら、少しは上手になっていた。

 なんだか心も清々としていて、また来たいと思ったんだ。


 ■


 『Swamp land』では、最近黒い塊で遊ぶ子供を見かけると、キャストのハンドラ達から報告を受けていた。


 「遊ぶだけなら問題はないだろう?」

 マルロの父レイツは将軍に代替わりしたばかりのホレスに答えた。


 「そうかもしれません」

 王の友人であるレイツの意見に反論出来ずに引き下がった若者。


 「入出国者の方には、これと言った不審者は現れなかったと報告を頼む」

 「では、いつも通りの配置で問題はありませんね?」


 正規の軍隊は、ほぼ王城周辺とこちらの入出国管理に振られていて、民間は民間の冒険者や腕自慢の者達とで自治体が対応している体制だ。


 少し変わってはいるが、裏を返せば治安が良いと言う事なのだ。


 こうしている間にも、妻に似た大人しい愛娘に会いたい衝動を我慢するレイツ。


 察したホレスは、仕事に没頭しましょうと言って城に戻って行った。


 この国に住む者達の宿命とは言え、苦労もせずに力を手にする事は叶わないものなのだ。

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