独り言
ただならぬ雰囲気の『墓所』を発見したティスディルは、湖には注意をしなければならないと知り、伝えておくべきだと判断したのだ。
「早く探さなければな」
『Swamp land』周辺を探索する為に、人知れず引き返して行ったのだ。
■
『Swamp land』には、国民なら誰でも入れる通路があるんだよ。
そこを通って湖の前を探してみたけど、あ、まだ火が着いている。
遊びに来た人が、火をキチンと消していかなかったんだわ。
危ないから、上からしっかりと土をかけておこう。
「それにしても……やっぱりいないねぇ」
「プニプニ」
辺りを見回したマルロの頭上に、ポフンとのったファニ。
それを湖の中から覗くハンドラ二人。
「いい子だよなあ……」
「それに可愛い」
二人は、マルロが木の枝に手紙を付けたのを見たが、報告をするつもりはない。
ところがそこに、新種の獣が近づいたので、ハンドラ達は合図の光りを上げて仲間に知らせたのだ。
「良いか、湖には近づくな」
ティスディルは小さくなった亜獣の姿に戻り、小さきモノに近づき告げていた。
「まあ、キレイな牡鹿。冬でもないのに、どこの山から降りてきたのかな?」
マルロの頭上でプニプニ蠢いていたファニは、牡鹿の金色の瞳に囚われてからは大人しい。
「ファニ?」
まるで会話をしているように見える不思議な光景に、マルロは『夢の中の物語りみたい』とニコニコ顔だ。
しかし、端から見ると、獣とマルロが向き合っているようにしか見えないから、また問題が……。
「ガオガオー」
「ガオー」
連絡を受けたキャストのハンドラ達が、マルロを守る為に走ってきたのだ。
「ガオーって?」
マルロは、お魚のマスクだと聞いていたから首を傾げた。
「マルロちゃんもう大丈夫だよ」
「恐かったねぇ」
ハンドラ達に庇われるマルロ。
「ほら、シッシッ。いったい何処の山から降りてきたのか」
「近場の山にでも連れて行きます?」
そう言って獣に手を掛けようとしたハンドラ達は、ティスディルにあっけなく転がされてしまい、足で土をかけられてなんとも格好悪い姿にされてしまうのだ。
それを意地悪くニタリと笑って振り返ってから、颯爽と走り去るティスディル。
「ペッペッ」
「しどい! (酷い)」
恥ずかしくて立ち上がれないハンドラ達に
「ハンドラさん大丈夫?」
そう訊いてから、マルロは掛けられた土を払ってあげた。
「「やざじぃなあ」」
マルロの思い遣りに感激しながらも、恥ずかしくてハンドラ二人も、走り去っていった。
「あ、待って! イライアの事が訊きたかったのに」
「プニプニ」
頭上でとび跳ねるファニ。
「そうだね、また来ればいいよね。戻ろうか」
まほろば工房に帰る途中、治安維持隊の印である六角形の兜を被った者達が、農場に入って行くところに遭遇したのだ。
その一番後ろに大人より小さい姿があり、マルロはすぐにそれに気が付いた。
「リアム、何かあったの?」
「やあ、マルロ。ずいぶんデカイ帽子を被っているんだね」
「あ、うん。それでどうしてここに居るの?」
先に行ってしまった治安維持隊の人達を見てから小声で教えてくれた。
「それが、ここのところ急に鷄や牛が騒ぐ事があるから、原因が解るまで農場の周りを巡回してくれないかってお願いされてさあ。わざわざ来た訳さ」
「騒ぐってどうしてなの?」
「家畜を獣が狙っているとかかなあ?」
「えっ、本当? ちょっと恐いね」
「そうだね、でもティアマト様に護られたこの国で、獣が襲うとか聞かないんだけどね」
「本当だ。心配したりして私ったら駄目だよね。今夜は念入りに感謝を捧げる事にするわ」
「そうするといい。それじゃまた」
「うん、呼び止めてごめんね」
リアムとは学校が同じだったから会えば良く話す間柄だ。
「偉いよね。リアムはもう働いているんだから」
「プー?」
成人するまでには、マルロもどうするか決めなきゃならないのだ。
「お父さんのところで働きたいって希望してるのに、いい返事をくれないんだよ。隠さなくても知っているのに……」
マルロの独り言は、風にのって消えてしまった。




