こんにちは
丸い物円い物。マルロはまあるい物が大好きなの。
でもね、この国で円い物を探すのは中々難しいんだよ。
何故かと言うとぉ……。
それはね、この国の人達は不器用な人が多いからだよ。
だから、私は自分で形を整える事にしているの。
「マルロ、朝食はまだかーい?」
「はーい。ちょっと待っててね」
いけない。今朝は寝坊してしまったみたい。おかしいなあ。
急いで支度して部屋を出ようと思ったら、あれ? こんな物あったかなあ?
長い耳なのか、手なのかがついた丸いクッションが、棚の上に載っていたわ。
「おーい、父さんお腹ペコペコだよ」
「あ、はーい。今降りるからあ」
今朝はある物ですませちゃおう。
マルロの家は、お父さんと二人で住んでいて、お母さんはマルロが赤ちゃんの時に病気で亡くなったって聞いたわ。
とっても綺麗で優しい人だったって言ってたけど、野暮ったいお父さんにそんな美人さんが結婚してくれると思えないから、きっとそっちは嘘だと思うんだ。
この国の家は、屋根が長ーいのが特長なんだよ。だから、それが日除けになってくれて、天気の良い日は外で食べるの。
「マルロ、父さんは今日も遅くなるから、先に食事して寝ていて構わないからね」
「う……ん」
また独りなんだ……。
「マルロ、これが君の為になるんだから頑張るんだよ」
「うん。いってらっしゃい」
そのまま笑顔で手を振って行っちゃった。
お父さんは、国が経営している『Swamp land』の責任者をしているの。
『Swamp land』にはね、国境の検問所もあるし、市場もあるんだよ。
凄ーく広い土地には、湖が二つあって、市場のある方にはお魚が沢山いるの。だから、そこには屋台が沢山あって、美味しい焼き魚が食べられたりするの。
もう一つの湖はとても大きくて、泳いだり舟に乗ったり周辺を散策したり自由に過ごせる場所なんだ。
私も早く家の事を済ませて、丸い物を探しに行こうっと。
「イライアス様、ここは危険だから来てはいけないと言われてましたよね?」
「シェルビーが話さなければわからないよ?」
「何てことを言われるのです。イライアス様!」
「黙っていてくれるよね?」
まったく、兄様達がつけてくれた従者は、爺より五月蝿い。
僕は、イライアス・ド・ハームズワース。捻れの国の末っ子王子。
今は、昔天空に通じていたと言う遺跡の中を探索中。
ここには一度訪れていて、古い壁画を発見したんだよ。
それは、美しい麝香貝を使って造られた、魔人戦争を再現した壁画だった。
仲の良い聖霊達に魔人が混沌を浴びせた有名な場面なんだ。
それが、真ん中に見たことも聞いたこともない獣が描かれていてね、あんまりにも存在感があったからじっくり鑑賞したんだ。
僕は、その獣の瞳になっていた受け皿の中に、印象的な窪みを発見して「わっ♪」ってなっちゃった。
「シェルビー、あれを良く見たい! ちょっと抱き上げて?」
「まあ、それはお姫様が騎士に頼む言葉ですわ。王子様方が可愛い愛くるしいと構われるから、イライアス様はお姫様になってしまわれたのですね」
嘆く芝居をする女騎士シェルビー。
「だって、兄様達ならしてくれるもん。シェルビーも聞いてくれるでしょう?」
髪を上手く巻いているシェルビーは、スケイルメイルをカチャカチャ音させながら、黙って僕の脇に手を入れて高く上げてくれた。
「イライアス様、お早くお願いします」
でも、シェルビーの腕がプルプル震えるから、視界が二重に見えて確かめるのに苦労しちゃった。
あの旗のような形には覚えがあって、お祖母様が僕にくれた紋章に似ている。
それで、一度取りに戻ったところを聡いアーヴァイン兄様に見つかって、暫く来られなかったんだ。
因みに、アーヴァイン兄様は第三王子で僕はその次。
それで、旗の形をした紋章を持ってやっと壁画の前にたどり着いたところなんだ。