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PHASE.2

早速推理要素ありです。考えてみて下さい。さほど難しくはないはずです。

 あたしは、早速翌日から小説に取り掛かった。気が乗る作業ではなかったし、できるか不安だったけど、一応世話になっている人だったし、お願いされて断る事ができなかった。ま、学校の授業中にでも読むことにする。どうせ暇だしね。


 内容はお姉さんの言うとおり、面白かった。読み進めていくうちにどんどん引き込まれていくし、最後に一体どのように終わるのか、とても気になった。最後ないんだけど。


 とにかく面白かったよ。ただ、最後まで読んでみての率直な感想は全く逆で、端的に、


「売れないな、こりゃ」


 たぶん書いたのは素人だろう。文がめちゃくちゃだった。文法や文章構成がなってない。会話や情景描写が唐突で、脈絡もおかしいし、話に起伏がないのもいただけない。


 まあとにかく作文能力がないってことかな。よく言えば、ストーリーが半端なく面白いってこと。逆にちゃんと腕があればかなり売れたかもしれないってことで、どっちにしてもとてももったいないということは間違いない。


 とりあえずここでざっとストーリーを紹介しよう。




 舞台は近代アメリカ。全ての人が平等と位置づけられ、みなが幸せになろうと躍起になっていたころだ。個人が個人として尊重されるのはもう少し後になってから。そのころは、家の名前が重要で個人はあまり尊重されない時代。主人公ブレーブもそのしがらみに不満を感じていたうちの一人だった。


 ブレーブの家はその地域では有名な大農家の一つ。様々なところに影響のある家柄だった。そのため一人息子のブレーブが成人すると、何とか繋がりを持とうとした貴族や商人が自らの娘を差し出し、ぜひうちの娘を嫁に、とそれこそ毎日のように、ブレーブの家に縁談を持ちかけてきた。そのころは両親ジョージとアテナも寛大で、農業が順調であったこともあり、縁談が進むことはなかった。


 しばらくそんな状態が続き、世間のしがらみに嫌気がさしていたブレーブだったが、ある日、街角で一人の商人の娘に出会った。名をフローラというその女性は最初から自分のことを一人の男として扱ってくれた。縁談であった他の女性とは違い、醜い下心など一切なかった。ブレーブは新鮮さを感じていた。いつしかその新鮮さは恋心に変わっていた。フローラも、家柄を気にせず一人の女性として自分を扱い、そのうえ自らの立場を振りかざさない紳士なブレーブに心を惹かれていた。


 いつしか二人はお互いの気持ちに気が付き、ブレーブが婚約指輪を渡すことで、二人はめでたく婚約するに至った。しばらくすると二人の間に娘が誕生し、リーラと名づけた。

二人は順調に幸せを育んだ。両親の意向により、正式な婚姻こそしていなかったものの、二人には関係なかった。二人、いや三人は幸せだった。


 しかし、その幸せは突然揺らぎ始める。リーラが生まれてから二年後、ブレーブの家が傾き始めたのだ。贔屓にしていた商店が次々に経営破綻。契約相手が激減した。農産物は売れずにあまり、莫大な土地を管理する資金が底を尽きかける。


「ブレーブ、縁談をしろ」


 ジョージがこう言い出すのは時間の問題だった。当然ブレーブは断る。しかし、両親は引かない。本格的に家が傾き出すと、ブレーブの気持ちも揺らぎ始めた。


「解った。話だけ、聞くよ」


 ブレーブは折れた。フローラに謝り、縁談を始める。もちろん、結婚などするつもりはない。これを発端に少しでも縁ができれば、そういう気持ちだった。しかし、ブレーブの思惑はうまくいかず、親の力で縁談は進む。相手は自分を気に入っているらしい。それに輪をかけるように仕事が忙しくなり、フローラに合う暇がなくなり、少しずつ二人は離れていった。


「私のことは気にしなくていいから。でも、リーラのことは・・・」


 ブレーブは目が覚めたような気がした。いつまでも優しいフローラに甘えてどうする。愛娘のことはいったいどうするのだ。ブレーブは決心した。ある日、家にフローラを招き、両親に紹介した。そして、


「僕はこの人と一緒になる。子供だっているんだ。もう縁談はしない」


 ブレーブの言葉は本気だった。縁を切るつもりも合ったかもしれない。その言葉はフローラの心に響いた。


「言うことを聞け。さもなくば勘当だ」


 勘当したところで、傾いた家を建て直すことはできない。ブレーブはハッタリだと思った。それにこう言われて揺らぐようでは連れてきたフローラに示しがつかない。


「望むところだ」


 その日、ブレーブは縁談の相手にもフローラを紹介し、自分に結婚の意志がないことをはっきりと宣言した。その後、一つの小さな家を買い、三人で暮らし始めた。そして、婚姻届を作成し、二人は永遠の愛を誓った。

 


 それからしばらく経ったある日、事件は起こった。


 フローラは両親に会ってくると言い、リーラの検診をブレーブに任せた。


「迷惑かけてごめんなさい」


 突然謝るフローラ。


「何を言っているんだ。僕だってこの子の親だ。今まで何の世話もしていなかったんだ、これからは僕もリーラの世話を見るよ」


 ブレーブはむしろ幸せを感じていた。ようやくこの子に父親らしいことをしてあげられる。フローラの言う迷惑は、ブレーブにとって喜びだった。


「リーラをお願いね」

「ああ。任せておいてくれ」

「愛しているわ、あなた」

「ああ。僕もだ。愛しているよ、フローラ」


 この会話が二人の、最後の会話になった。ブレーブがリーラを病院に連れて行っているとき、家が火事になった。中からは一つの遺体が発見された。もちろんフローラの遺体である。


「これは殺人だ」


 警察が事件の捜査をしている最中、ブレーブはある仮説が頭をよぎった。おそらく自分の両親ジョージとアテナ、もしくは途中まで進んだ縁談の相手、アヴニール。


 捜査が進み出火場所が台所であることが判明。そして、出火時刻にフローラは睡眠薬を服用していたことも解った。つまり、外部犯による無差別放火と言うわけではないということ。フローラがターゲットだったわけだ。しかも、フローラに睡眠薬を飲ませたと言うことは、知り合いだったに違いない。ブレーブは自らの仮説に確信を持った。


 しばらくすると警察も、複雑な関係に気がつき、そして、ブレーブの予想通りジョージ、アテナ、アヴニールに殺人の容疑が掛けられた。


 三人の容疑者の登場により、事件はあっけなく幕を閉じるかと思われたが、捜査は予想外に困難を極めた。





 ということで、言われたとおり犯人を推理してみようと思う。出火原因は台所の油。それが長時間火に掛けられていたため、引火し爆発。木造の建物だったため、火は見る見るうちに広がり、全て鎮火したのは燃えるものがなくなったときだったという。予想出火時刻は正午。油が火に掛けられたのはその三十分ほど前。フローラが睡眠薬を服用したのもその時刻だ。


 この事件の容疑者はジョージ・アテナ・アヴニールの三人だろう。だが、正直一人に断定できる証拠がない。三人とも家の場所を知っていたかどうか不明だし、その日そのとき、ターゲットであるフローラがそこにいたことを知っていたかどうかも不明である。


 予想出火時刻には三人ともアリバイがある。しかし、フローラに睡眠薬を飲ませ、油を火にかけておけば、後は勝手にことが進む。加えて、家に上がった直後、フローラに睡眠薬を服用させるのは不自然なので、出火時刻より一時間前くらいが重要になってくる。


 ジョージ・アテナの両名は出火時刻、知り合いの農家のところにいた。しかし、その前のアリバイはしっかりしておらず、またその農家からフローラの元まで移動時間は三十分ほどということもあり、十分犯行が可能だ。二人一緒に行動していたようだが、家族に証人としての権限はないし、加えてこの二人の場合共犯の可能性がある。


 アヴニールは事件当時家にいたと証言しているが、第三者の証人がいないため、十分なアリバイと認められておらず、犯行が可能だと判断されている。


 最終的にブレーブはアヴニールと結婚したため、ジョージ・アテナは切迫していた経済状況の建て直しに成功した。この利益があるため、動機は十分だし、アヴニールもブレーブに好意を抱いていたらしい描写があり、その後娘をもうけて幸せに暮らしているらしいので、まあ動機を認めることができるだろう。問題は、最終的なところだけだ。


 とりあえず現時点で言えることは誰にでも犯行が可能ということ。事故という可能性は捨てていいだろう。本当に事故だったら、最悪の本だ。面白いとか以前に推理小説としてのモラルが守られていない。何でもありなのはSFやファンタジーだけの特権だ。


 ま、流し読みだったし、そんなに集中していたわけでもないので、今のところこの程度の把握で十分だろう。あたしは本を閉じた。


「ご飯食べないの?」


 話しかけられて、顔を上げる。そこには去年の冬頃から仲良くなった阪中みゆきがいた。あたしは時計を見た。気が付けば、昼休みになっていた。それも十分ほど時間が経過していた。


「うん、食べるよ」


 あたしは適当に返事をして、本をかばんに仕舞い込み、代わりにお弁当を取り出した。


「どうかしたの?何か考え事をしてたみたいだけど」

「別に大したことじゃないよ」


 本当に大したことじゃないのだが、


「本当に?何か悩んでいるんじゃない?」


 よほどあたしが妙なオーラを背負っていたのだろう、みゆきは心配してくれた。出会いが出会いだったからな、あたしが何か隠していると思ってしまったようだ。嫌な出会いだが、あれで仲良くなったのだから、今となってはいい思い出である。みゆき以外にもいい出会いがあったしね。


「本当に大したことじゃないんだけど、」


 別に人に話すことではないのだが、まあ隠すことでもないので話すことにした。世間話にしては妙な話だけどね。


「それが、」

「それが?」

「探偵役を任されちゃって」

「・・・・・・は?」


 あたしは、疑問符を大量に頭の上に浮かべて、かわいく小首をかしげているみゆきに説明してあげた。



「へえ。それでどうなの?犯人解りそう?」

「いや、まだ始めたばかりでどうにも・・・」


 あたしがざっと話し終えたとき、昼休みは残りわずかになっていた。あたしはすっかりお弁当を空にしていたのだが、みゆきはまだ半分以上残している。


「そっか。それっていつまで?」

「期限とか言われてないけど、なるべく早いほうがいい気がする」


 そんなに時間かからないと思うけど、あたしは何しろプライドが高い。きっと期限があったら、それより確実に早くお姉さんに言うだろう。だからって妥協はもちろんしないよ。ギブアップだって絶対にしない。あたしは負けるのが何より嫌いなのだ!なぜならあたしはスーパー美少女お嬢様だからだ!


「私、そこの喫茶店行ってみたいな。お姉さんにも会ってみたいし」


 あたしが自分の中で妙に盛り上がっていたら、みゆきがボソッと一言。うーむ、それは名案だ。


「紹介するよ。今日とかどう?放課後時間ある?」

「大丈夫だよ。でも本のことはどうするの?」

「とりあえずもう少し考えてみるよ。それより、」

「ん?何?」


 と言ったところで、五時間目の予鈴が校舎内に鳴り響いた。みんなが知ってのとおり、五時間目の予鈴は昼休みの終わりを告げるチャイムでもある。あーあ。


「あ!」


 自分の手元を見て、みゆきが小さく声を上げる。話に夢中になるのはいいけど、ちゃんとご飯は食べないと。昼休みは無限じゃないんだよ。というか、しゃべってたの、ほとんどあたしじゃないか。あんたはふんふん言いながら聞いてただけでしょ。


 その後、本鈴までの五分間、みゆきは目を白黒させながらご飯を無理矢理口に詰め込んでいた。あたしはみゆきがあたふたしているのを見て、ずっとニヤニヤしていた。この娘はちょっとしたミスが本当にかわいいな。あたしは出会ってから結構な確率で、焦ってあたふたしているところを見ている。そして、あたしはいつもニヤニヤしている。


 結局、みゆきは食べ終わる事ができず、五時間目の授業担当の教師に、呆れられていた。



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