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PHASE.13

これで最後です。いつもどおり、作品についてのお話を別に造りたいと思いますので、読み終わった方はぜひそちらも読んでいってください。

ではどうぞ。

 あれから一週間が経過した土曜日のことである。今日はお姉さんの店には行かない。あたしに用事があるってこともそうだけど、今日お姉さんは樋口才人に会いに行っているのだ。例の事件のことも聞くだろうけど、実際どうか解らない。お姉さんはあの小説をいたく気に入っていたからなあ。もしかしたら、あの話しかしないかもな。ま、それもありだよね。


 あたしのほうはというと、現在車の中にいる。言っておくが、リムジンではないぞ。あんなでかくて目立つ車、乗りたくないね。何かしたら、すぐに見つかってしまうじゃないか。何をするのか、っていう質問はナンセンスだよ。誰に見つかるのか、っていう質問もなしだ。


 などと話しているうちに、目的地に到着する。あたしは使用人を引き連れて、マンションの中に入った。そして、テンキーを叩き、インターフォンを鳴らす。


「はい」

「あたしだけど。開けてくんない?」

「は?何の用だ?」

「約束果たしに来た」

「・・・・・・・・・」


 無言の返事が来て、オートロックの自動ドアが開いた。あたしはすかさず中に入った。あんたも早く来なさいよ。荷物が重い?知らないよ。あんた、あたしの使用人でしょ?荷物持ちくらいしっかりこなしなさい。


 エレベーターで上がり、目的地に到着する。そして、またインターフォンを鳴らす。


「ああ、いらっしゃい。で何の用だ?こんな時間に」


 現在午後五時すぎだ。こんな時間ってこともないだろう。


「あんたにプレゼントだよ」


 あたしは使用人に合図。何、キョロキョロしてんのよ。早く来なさい。そしてふたを開けて、中身を見せなさい。


「これは、真鯒」

「そうよ。約束したでしょ」


 そうだ。あたしの用事とは約束したマゴチを届けること。つまり、今は成瀬の家の前に来ているのだ。


「そいつはわざわざご苦労だったな」


 と言いながら、成瀬は使用人を見た。何だよ。それじゃあ使用人に言っているみたいだぞ。


「はい。これで約束は果たしたわ。受け取りなさい」


 使用人は成瀬に手渡した。ふー、重かった、みたいなリアクションをするな!みっともないだろ!すると成瀬は、


「礼を言いたいのだが・・・」


 と語尾を濁らせた。今度は何だ?


「それじゃ不満なの?ご注文のとおりの品を持ってきたつもりだけど」


 と言ってもあたしは指示しただけだけど。


「いや、物に問題はない。確かにかなり新鮮だ。それにこりゃ質もよさそうだ。ただ、」


 何だよ。はっきり言えよ。


「何が問題なのよ」

「でかすぎる」


 あー・・・。なるほどね。確かにでかいわ、この魚。これじゃ冷凍庫に入らないだろうな。冷蔵庫でも無理だ。それは考えてなかったわ。この部屋広いけど、一人暮らしだもんね。。さすがにそこまででかい冷蔵庫は必要ないもんね。


「よし。今食ってしまおう」

「は?」


 そう来るとは思わなかった。おいおい、さすがに短絡的過ぎないか?確かに保存する必要はないけど。


「あんたも手伝ってくれ」

「あたしも食べるの?」

「他に誰がいる?」


 あたしと成瀬はゆっくり使用人のほうを見た。ものすごい勢いで首を横に振っている。さすがにそうだよな。頷いたらどうしてやろうかと思ったよ。あ、あんた、もう帰っていいよ。今日も夕飯いらないって言っといて。


 ということで、今回は協力してやることにした。保存のことを考えなかったあたしのせいでもあるし、マゴチってやつがどんな味か知りたかったし。


「解った。協力するよ。でも二人で食べられるかな?」


 目算だが、おそらく一メートルくらいはありそうだな。重さは二十キロくらい?重さのことは解らない。


「食べられないこともないが、せっかくだし、連中を呼んでやろう。たまには俺のほうから呼んでやってもバチは当たるまい」


 連中とは?何てことは聞かないよ。誰だか解っている。TCCの人だろう。別に構わないよ、あたしは。そろそろあんたと二人きりも飽きてきたところだ。ただ、無関係の人を巻き込むのはちょっといただけないような気がしないでもない。別にそんなことどうでもいいけどね。あんたが誰を呼ぼうとあたしは興味ないよ。本当に。


 と言うことで、さっそく成瀬は岩崎さんに連絡を取った。結果は来てくれるとのこと。他の二人には彼女から連絡をしてくれるらしい。あたしたちは料理の準備にかかった。


「ところであんた、魚捌けんの?」

「当然だろ。真鯒を捌いたことはないがな」


 大丈夫だろうか。と思ったが、何ら心配なかった。うーむ、さすがだ。あたしが女だからと言って、対抗しようとも思わないくらいすごい腕だ。


「一応お礼言っとくよ。ありがとう。今回も世話になったよ」


 成瀬は軽快に背びれ・腹びれを落とし、うろこを落としていく。そして、かまから包丁を入れ、頭と身を切り離した。


「礼ならすでにもらっている。こいつが礼なんだろ?」


 成瀬は魚を指して言う。こいつは前回の分と、今回の依頼の分だ。あたしが言っているのは別のことだ。


「お姉さんに会うこと薦めてくれたことだよ。あんたのおかげで、お姉さんは嬉しそうだっ

た」

「俺は薦めてないぞ。本当のことを言っただけだ」


 こいつは本当に素直に受け取ってくれないな。あたしが礼を言うなんて珍しいことなんだぞ。マゴチと比べ物にならないくらいな。


「あたしがあんたに依頼したのは小春ちゃんのことだけ。あれは依頼の外だよ。だから、他にお礼がしたい」

「これで十分だよ」

「あたしが納得いかないんだ」


 料理の手を止めない成瀬に、あたしは無理矢理こちらを向かせた。


「お礼、させろ」


 お礼なのに命令形っておかしくないか?だが、こいつ相手じゃ仕方ない。あたしは真面目に言っているんだ。借りを作るのはあたしの信条じゃない。


 成瀬は表情を変えず、じっとあたしを見返していたが、やがて頬を緩め、ふっと笑った。


「あんたはつくづく変わっているな。変なやつだ」

「あんたに言われたくないよ。それで、答えは?」


 成瀬はやれやれ、といった感じでため息をついた。


「じゃあ一つお願いしよう」

「よし。何でも言え」

「俺たちを助けてくれ」

「・・・・・・は?」


 何でまた、そんなことをお願いするんだ?てか意味が解らない。あんたは今ピンチなのか?


「どういうこと?」

「俺たちのところには結構面倒な依頼が来るんだ。国家権力でも使わないといけないようなことがしばしばあってな。その辺り、とても苦労するんだ。そういうときには権力ってやつが必要なんだよ」

「あたしの名前が欲しいってわけか」

「そういうことだ」


 この野郎、いけしゃあしゃあと言い切りやがった。あたしが日向の権力を使いたくないって知ってて言っているのか?


「もちろん毎回必要ってわけじゃない。俺たちがピンチで崖っぷちのときにだけ、助けてくれればいい。戦隊物のヒーローのようにな」

「あたしはTCC辞めているんだけど」

「別に入部する必要はない。ただ頼ったときに助けてくれるだけでいい」


 簡単に言ってくれるな。あんたが何を求めているか知らないけど、あたしにできることって言うのは結構少ないんだぞ。


「あんたが求める仕事ができないかもしれないけど、あたしでいいの?」

「ずいぶん謙虚な発言だな。あんた、スーパーお嬢様じゃなかったのか?」


 間違えるな。スーパー美少女お嬢様だ。


「まあ適当に考えといてくれ。期限は設けないから」


 そう言うと、成瀬は再び料理に戻った。こいつは何を考えているんだろうか。理解できないな。ただ、あたしの中の答えはすでに決まっていた。今回のことと引き換えに、助けてくれって?変なこと言いやがる。そんなこと当たり前じゃないか。あんたたちがあたしに何をしてくれたと思っているんだ。あたしはまだまだ恩を返せていないつもりだよ。また借りちゃったけど、今度こそあたしが返す番だ。TCCはあたしの恩人だ。少なくとも成瀬と岩崎さんには恩返しする義務があると、あたしは思っている。あんたたちが助けてくれって言うなら、あたしは何を犠牲にしてでも助けるよ。権力だって何だって使ってあげる。日向に頼りたくないってプライドはあるけど、恩返ししないなんて選択肢はもっとプライドに触る。


「あんたは勘違いしているよ」

「は?」

「あたしは情に厚い人間なんだ。助けるに決まってんでしょ」

「ほう。それはそれは」


 冗談に聞こえたか?あたしは本気で言ったんだぞ。ただもう言わない。こんな恥ずかしいこと、二度も言えるか。今のが最後だ。


「とりあえず、今助けるよ。あたしは何をすればいいの?」





 しばらくすると、TCCの三人がやってきた。


「こんばんは!」


 成瀬はちょうどマゴチを油に投入していて手が離せないので、あたしが迎えに行く。うーむ、マゴチってやつは実にいろいろな調理法があるな。成瀬はすでに刺身やらてんぷらやらお吸い物やらを作り終わっている。頭を丸ごと使った料理はすごい迫力だぞ。


「いらっしゃい。早かったね」

「んな!」


 おや?岩崎さんがとても驚いている。あたしは変なこと言っただろうか?


「あなたは日向ゆかりさんですよね?何でここにいるんですか?」


 岩崎さんの後ろからひょいと顔を出した小さい女の子が言った。察するに噂の新入部員だろうけど、うーむ、制服脱ぐとずいぶん幼く、いや若く見えるな。おっと、そんなことどうでもいいわ!それより現状だ。なるほど。あたしがいること言ってなかったな。あの野郎、こういうことに頭が回らないんだから。ああ、これで話がこじれること間違いなし。と思っていると、


「俺が呼んだんだ。今日の食材はこいつが持ってきてくれたんだ」

「そ、それは大変よろしいのですが、何で成瀬さんが日向さんを招待しているんですか?そ、それも、私たちより先に・・・」


 こ、こわい!早速怒ってないか?どうするんだよ、成瀬!あたしはまだ死にたくないぞ!


「そんなことどうでもいいだろ。とにかく上がれ。俺たちは今調理中なんだ。配膳くらいは手伝え」


 成瀬はどうでもよさそうにキッチンへと戻っていってしまった。おいこら、まだ話は終わっていないぞ。あたしだけにするな。


「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」


 岩崎さんを除いた二人は部屋の中へ入っていった。


「岩崎さんも中へ・・・」

「日向さん、私に何か隠していませんか?最近成瀬さんと何かあったんですか?」


 岩崎さんの言う、何か、はないが、何もなかったかと言うと嘘になる。どうしたらいいんだ。あたしはこの人に嘘はつきたくない!


「岩崎さん!」

「何ですか?」

「あたしは、成瀬と岩崎さんの味方だから」


 突然あたしは何を言っているんだろうか。しかし、岩崎さんは、


「ほ、本当ですか?嘘じゃないですよね?信じていいんですよね?」


 なぜか食いついてくれた。なるほど、理解できた。


「本当だよ。だから何かあったら何でも言って!相談に乗るから!」

「ありがとうございます!お世話になります!」


 そう言って思い切り頭を下げると、岩崎さんは部屋の中へ入っていった。ふう。とりあえず、これ以上の追求は避けられそうだ。間違いなく、今の会話であたしと岩崎さんが考えていることは食い違っていたと思う。でも、あたしの言葉は本心だ。あたしはいつでも二人の力になるよ。これから先ずっと。



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