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PHASE.1

前作の連載を終了してから約一ヶ月がたったので、そろそろ第六弾を始めたいと思います。

今作はみなさんお待ちかね?な社長令嬢シリーズです。あの人が約二年ぶりに登場します。

成瀬目線とは少し違った感覚をお楽しみください。今回は完全に推理小説です。

前作までと同様、週一でアップします。

 やあどうも。あたし、日向ゆかり。現在存在している企業の八割に何らかの形で関わっている世界有数の大企業日向コンツェルングループの総裁、日向純一郎の一人孫娘だ。


 将来世界を牛耳る立場が約束されているあたしは、そこら辺の無能な跡取りたちとは一線を画する。あたしはスーパー美少女お嬢様なのだ。この歳にしてアメリカの大学を卒業しているし、自慢じゃないけどとても十七歳とは思えないようなとんでもない容姿をしている。純情な中学生からロマンスグレーの老紳士まであっという間に魅了させる自信があるね。その気になれば女子だって落とせるだろうと自負している。


 とにかく誰もが羨むような地位と頭脳と容姿を持ち合わせているあたしは天下無敵。向かうところ敵なし。だと思っていた。


 この歳にして、すでにありとあらゆる幸福を手に入れていて、この先も幸せであり続けると、半ば信じ切っていたあたしだったが、つい半年ほど前、世の中そう簡単にはいかないということを強引に理解させられた。大人が口をそろえて言うように、人生は厳しかったようだ。本当に挫折するかと思ったよ。


 まあ昔話はおいといて、どんなにスーパーなあたしでも人並みに苦しんだり悲しんだりするわけ。当然ストレスもたまるし、それを発散させたくもなる。たまには愚痴をこぼしたくもなる。とは言え、家族には愚痴りたくないし、学校の友達は少なからずあたしに憧れている部分がある。絶対に愚痴るわけにはいかない。ではどうするかというと、あたしは行きつけの喫茶店に赴くのだった。


「ふー、やっぱお姉さんのところが一番落ち着くよ」


 あたしはアールグレイを一口含んで、大きく伸びをした。嗚呼、極楽極楽。


「そう言ってくれるのはゆかりちゃんくらいよ」


 確かに、周りを見渡してもあまり人がいない。まあ単に流行っていないだけかもしれないけど、それは禁句だ。


「ま、あたしとしては嬉しいよ。人がいないほうが落ち着くしね」

「私は嬉しくないなあ」


 そりゃそうだ。


 さっきからあたしが誰と話しているかというと、ここの喫茶店のマスター、小林紫織さんだ。彼女とはかれこれ五年来の仲だ。あたしが中学生になったときに、当時大学生だった小林紫織さんが家庭教師としてうちにやってきたのだ。きっと波長が合ったのだろう、あたしたちは教師と生徒という枠組みを超えて仲良くなり、あたしがアメリカに行っている間もその関係は崩れなかった。


「経営成り立たなくなったら、いつでも言ってね。あたしがまた家庭教師として雇ってあげるから」

「そうならないことを祈るわ」


 大人の余裕を見せ付けるように、お姉さんはさらっと流した。うーむ、あたしとしては半分本気で言ったのだが、参ったねどうも。


「それにしても暇そうだね」


 今日は日曜日だ。しかも昼時。よく知らないけど、普通は忙しい時間帯なのではないだろうか。


「いつもこれくらいよ」

「ふーん」


 まああたしとしては気兼ねなくのんびりできるからいいんだけど、よく考えてみたらそれってどうなのよ。


「今日はもう店閉めちゃおうかな」

「えー!」


 さすがにびっくりしたね。喫茶店って夕方も客来るんじゃないの?


「いいの?」

「いいよ。何か今日はもうくじけちゃった」

「えー・・・・・・」


 どうなのよ、それ。一応店頼まれてんでしょ。まああたしが口をはさむところじゃないのかもしれないけど。


 と、気付けばあたしはまだ紅茶しか頼んでなかった。少しは店の売り上げに貢献しないと!


「あー、そういえばあたしお昼まだだったんだ。何か食べようかな」


 あたしが、三文芝居をすると、


「気を遣ってくれなくてもいいよ」


 と一瞬で看破されてしまった。


「いやいや、遣うって。あたしのために閉めてくれるんでしょ?あたしまだ紅茶しか頼んでないし。それに本当に食べたいんだって」

「ふふっ。ありがと」


 あたしはサンドイッチを注文して、その間閉店作業を手伝うことにした。それにしても、


「本当に閉めちゃうの?赤字になっちゃうよ」


 するとお姉さんは事も無げに、


「大丈夫よ。ちゃんと儲けは出ているから。それに私、結構蓄えあるの」


 それは本当の話か?儲けは出てるって?全然信じられないぞ。日曜の昼にこんな状態なんだぞ。


 あたしと会話をしている間に、お姉さんはサンドイッチを作り終え、店の入り口にかかっている札を『準備中』に挿げ替えた。


「はい、終わり」


 閉店作業を終えたあたしたちは、再びカウンターを挟んで席に着いた。あたしとしてはまだ納得いっていなかったのだが、話し始めるとすぐにおしゃべりモードに切り替えた。


「ゆかりちゃんは推理小説とか読む?」


 あたしは注文したサンドイッチにパクつきながら話を聞く。うーん、いきなりだな。


「まあ人並み程度には読むけど」


 他人に威張れるほどではないけど、昔はたくさん本を読んだ。ジャンルを問わず、いろいろ読んだよ。アメリカにいる間は英語の勉強もかねて、原文で読んだりもした。


「そっか!」


 お姉さんは嬉しそうに顔を破綻させた。うぅ・・・・・・。何か嫌な予感がするな。


「私、今読んでる小説があるんだけど」


 そう言って、お姉さんは一冊の本を取り出した。


「すれ違う想い」


 何だが意味深なタイトルだな。どんな話なんだか想像もつかないぞ。ある意味興味をそそるな。あたしは本を受け取ると、裏表紙を開いた。初版は約一年前。作者は火朽砂糸。全く聞いたことないな。第一なんて読むんだ?読みにくい名前にしちゃうと読者に覚えられないぞ。ま、出版先も明記されていないし、きっと自費出版の素人だろう。それにしてもお姉さん、よくこんなものを持っているな。


「最近部屋の掃除をしていたら出てきたんだけど。この本、お客さんの忘れ物なの。ちょっと気になって適当に見ていたら、結構真剣になっちゃって、最終的には掃除中断して読んじゃった」


 あー、よくあるよね。アルバムだったり、小学校の教科書だったり、手紙だったり。最初は懐かしさや珍しさから手に取るんだけど、いつの間にか真剣になっちゃうんだよね。


「それで、その本がどうしたの?貸してくれるの?」


 面白いから読んでみて、みたいな話かと思ったら、


「うん。それで私に犯人教えて」

「は?」


 思わず間抜けな声が出てしまった。何だって?


「まだ読み終わってないの?」


 掃除を中断するほど夢中になったのに。それに犯人教えて、っておかしくない?それってミステリーの醍醐味だよね?


 疑問が次々に浮上したが、お姉さんの一言で一気に解消した。


「それ、犯人が書かれてないの。読者に問いかける形で終わっているのよ」


 なるほどね。読者に挑戦!みたいなことね。こういった形式のミステリー少しだけ流行ったな。本当のミステリー好きにはこういうほうが受ける。今でも未解決事件について、ネット上では熱く議論が展開されているからな。


「つまり、あたしが読んで犯人を推理してくれ、ってことね」

「うん」


 うんって・・・。簡単に言ってくれるなあ。


「一応読んでみるけど、あまり期待しないでね」

「うん。期待して待ってるね」


 あー。実にいい笑顔で嫌がらせを・・・。


「うーん。自信ないなあ。それで、読んでみてどうだった?難しかった?」

「解らない。私は、ミステリーってほとんど読んだことなかったから、難しかったけど」


 うーん、そっか。まあこんな形で出版するくらいなんだから、解けるような設定にはなっているのだろうけど。お姉さんの頼みだし、一応頑張ってみるか。


 こうしてあたしはこの日から探偵役を仰せつかったのだった。



今までどおり感想を随時お待ちしているわけなのですが、一つお願いがあります。

みなさん、第一弾から読んでくださっているようで、とてもありがたい話ではあるのですが、シリーズ通しての感想を最新作に書くのは控えていただきたいと思います。

できれば、作品ごとに感想を書いていただきたいと思います。どんな短い内容でも構いませんので、できるだけお願いしたいと思います。


まだ始まったばかりではありますが、本作もよろしくお願いします。

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