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異世界転生 ツイン園児ぇる  作者: をぬし
第一章 見知らぬ世界
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4話 祈りの儀

シスター達は食事が終わった後、何かを準備をしているようです


 幼稚園から飛び出し、日本ではない場所にやってきて10日。

 家に帰れる目途が無いままではあるが、2人は元気に修道院で生活していた。


 咲ちゃんは、時々家族を思い出し寂しくなるのか、甘える事があるものの、菜園や水汲みの手伝いを進んで行い、日本語とは違う文字にも興味を示しここで学べる文字のお勉強をしている。

 地頭が良く教えたことはしっかり覚えているため、院長たちも感心している。


 ぬしちゃんは、その表情のように幼稚園にいた時とほとんど変わらない。最初こそ機動力のある赤子のように手がかかったが、食事の仕方等すぐに覚え、問題なく生活をしている。手先はとても器用であり、ぬしちゃんの折った折り紙はシスター達から絶賛を受けていた。


 本来であれば、10日も家に帰れていない事で泣き続けるかと院長たちは考えていたが、不思議と深刻な問題は起きなかったのだ。

 咲ちゃんは寂しくなることがあるようだが、それだけであり、ぬしちゃんに至っては常に平常運転で逆に心配になるほどだ。

 それだけお互いが親友とも呼べる大切な友達であり、支えあっているように見えた。


 今や彼女たちはこの修道院のアイドルであり、修道院は毎日が賑やかである。



------------



「ぬしちゃんぬしちゃん、きょうはなにしてあそぶ?かくれんぼ?」

「おにごっこなんだ」

「ぜっったいやだ!」

「ふぁぃう」

 

 お昼の食事が終わり食器をいつもの場所に片付けて、咲ちゃんとぬしちゃんは何をして遊ぼうか考え始めたところ、院長が声をかけてくる。何かのお手伝いを頼まれるのだろうか?そう思ったがいつもと違い院長の表情を見ると、真面目な話をする時にする顔だと気づいた。


「サキちゃん、ぬしちゃんこれから()()()()を行います。」

「いのりのーぎ?」

「そう、祈りの儀、ですよ。」


 そのまま「ついてきてください」と院長がいつもの優しい口調で話しそのまま食堂から祭壇の方へ向かっていく。

 間違えた事をしたのだろうか?叱られるのだろうか?そんな感じはしなかったのだが、祈りの儀とは何かわからない咲ちゃんは少し不安になりぬしちゃんの手を繋いでついていく。ぬしちゃんは祈りの儀とはどんな遊びなのか?と心なしか楽しそうである。



 3人が祭壇へ向かうと、そこにはシスター達が集まりいつものお祈りをしたかに見えたが、空気がまるで違っていた。

 いつもと違うのは手には装飾のされた十字架を掲げシスター総勢5人、円を描くように綺麗に跪いている。わかるのはそれだけであり、事情を知らない二人の女の子は院長の顔を(うかが)う。

 院長もわかっていたのか、咲ちゃんたちに対し、「安心してください」と笑顔で返す。


「祈りの儀とは、私たち3神の信徒に仲間ができましたよ、という儀式のことです」

「ぎしき?」

「なかまなのか」

「本当はサキちゃんとぬしちゃんがもう少し大きくなってから行うことなのですが、もしご家族の場所がわかったらいなくなっちゃいますからね」


 院長は少しだけ寂しそうにするが、説明を続ける。


「もしかしたら、サキちゃんとぬしちゃんには特別な力を持っているかもしれません。その確認のためにも、この祈りの儀が必要な事なのです」


 特別な力。その言葉を聞いた2人は驚いた。咲ちゃんは実際に魔法を見たためはしゃいでしまいそうになったが、お静かに、と院長から人差し指で口を咲ちゃんは自分の両手で口を塞いだ。


「咲たち、どうすればいいの?」

「いつものようにお祈りをするだけです。今日はあなたたちが主役ですよ」

「をことぬしもつかえるのか」

「それはぬしちゃん次第です。さあ、どうぞ」


 院長、咲ちゃん、ぬしちゃんの3人が祭壇の前へと立つ。

 そして、


『3神を崇め集った信徒たちよ、今日(こんにち)より我らに習い新しき信徒が誕生しました』


 その声は静かでありながら、修道院内が響く様に聞こえる。その声の張りは魔法では無く、彼女の経験から表れたものだ。


『その()()を、コザクラ サキ。をことぬし。この者ら2人である』

『信徒たちよ、これよりかの者ら3神より祝福賜るがため、これより祈りの儀を始めます』


 その声に合わせシスター達が一斉に、ゆっくりと両手に握った十字架を上へと掲げる。

 すると辺りに蛍が飛んでいるかの如く淡い白い輝きが地面より浮かび上がってくり、院長が笑顔で合図をする。もうお祈りをしていいそうだ。


 咲ちゃんは初めて演劇会の主役になった時のように緊張してしまったが、震えていた手をぬしちゃんがが両手で握ってくる。


「さきちゃん、いっしょにおいのりなんだ」

「う、うん!」


 咲ちゃんとぬしちゃん、2人で一緒になって祈り始める。その祈り方は、咲ちゃんの両手をぬしちゃんがギュっと握り床へと跪き、目をつむる。

 その姿はまるで、お互いを支えあう天使のように可愛げであり、花咲くような儚さもあった。


 いつもと違った祈り方ではあったが問題なかったらしい。院長は続ける。


『3神よ、この者らに祝福を!』


 祈りの儀が始まった。辺りの白い輝きが幼い2人の女の子の足元を囲むように集まり、魔法陣が形作られた。


 魔法陣に集まった白い光が咲ちゃんへ向かっていく。その幼い体を包むように、優しく包んでいく。

 

 その眩く明るい優しい輝きは院長たちも今までに見たことが無いほどであり、驚きを隠せない。3神に認められたのだ。それも強力な力を秘めている。


 が・・・。


「っ!・・・どうして」


 誰の声かわからないが、一緒に祈っていたぬしちゃんを見て、絶句した。


 ぬしちゃんにも同じように光が向かってはいた。

 その光の1つ1つがぬしちゃんに触れるたび、()()()()()()に塗り替わり剥がれ落ちてしまうのだ。


 堕ちた光が、足元で沼が広がるように穢れていく。


 次々と塗り替わる 闇。闇。闇。

 


 この祈りの儀で認められなかったとしても、これほどの異常事態は起こらない。あり得ない。



 片や天へと舞い上がるかの如く清浄な眩い光

 片や地へと滲み堕ちるかの如く不浄な鈍い闇



 合わさってはいけないはずの2つが、お互いを支え合うようにその小さな手で優しく握っている。




 儀式は、終わる。



------------



 ・・・・・・。


 声がでない、どう声をかければいいのか思いつかないといったところか。

 シスター達の顔は、不安か、困惑か、心配か、さてどれか。


「ぎしき?、おわったの?」

「もういいのか」


 咲ちゃんとぬしちゃんが目を開ける。そこにはお互いが1番大切に思っている、親友の姿だ。


「ぬしちゃんがギュってしてくれたから、ぜんぜん、こわくなかった!」

「むふふ」


 笑いあう2人。といっても、片方はまったく表情が変わってないが、笑っているつもりだろう。


 なんて声をかければいいのか。院長は声を絞り出す。


「・・・そう、ですね。サキちゃんは3神に認められました」

「ほ、ほんと!?ほんとほんと!?まほうがつかえるの!?」

「さきちゃんすごいんだ」


 とにかく、わかる事を伝える。咲ちゃんの光は凄まじいものであった。恐らく、奇跡の力を扱える素質が確実にあるだろう。


「ぬしちゃんも?ぬしちゃんもまほうつかえるの?」


 ・・・わからない。院長たちはそんな表情だ。

 こんな結果は今までになかった事であった。


 本来であれば素質が無ければ、光が体に向かいさえしないのだ。ぬしちゃんの場合は向かっていたのだから素質はある、はずだ。

 ならあの闇は一体何なのか?あんな、怖気の走るような、深い闇など。

 それも、こんな子供が持っているなど・・・、認めていいものなのか。


「をことぬし、おそらをとんだりできるのか」

「っ・・・それは・・・」


 (おぞま)ましい闇を抱えた子供が目の前で小さな夢を語り寄ってくる。



「ぁ」

「・・・ふぁぃう」



 あろうことか、人を守り導くはずの修道院のシスター。

 その長が、ぬしちゃんを()()()しまった。

 

 それは・・・恐怖か?だが相手は幼い子供だ。院長は慎重になる。


「す、すみません、その・・・ぬしちゃんは、わからないのです」

「そうなのか」


 今は、伝えることができなかった。


「2人とも、書室に、お願いします」

「いんちょう・・・さん?」


 まずは原因を調べなければならない。シスター達が心配そうに見守る中、3人は書室へと入っていく。


 不安を残して。




------------




 1階にある書室へ院長、咲ちゃん、ぬしちゃんが入る。院長は2人分の椅子を用意して座らせる。


「まず、2人ともお疲れ様でした。お体に変わったことはありませんでしたか?」

「咲は、だいじょうぶ。からだがぽかぽかしたの」

「ふしぎなかんしょく」


 2人の反応を見て胸をホッと撫で下ろす。体に異常を起こすような儀式ではないはずだが、()()を見せられた者は嫌でも不安に駆られる。


「サキちゃん」

「はい!」

「あなたは素晴らしい素質をお持ちです。恐らくですが私たち以上の魔法の才能があることがわかりました」


 咲ちゃんにとって難しい言葉があるものの、魔法が使えるかもしれない事は伝わった。

 しかし、祭壇で聞いたときよりも、嬉しくなさそうだ。


「ぬしちゃんは。つかえないの?」


 自分は使えるのに、友達は使えないのはおかしい。そんな顔だ。


「そのことですが、ぬしちゃんにいくつか質問をいたします。辛いことを思い出させるかもしれませんが、正直に答えてください」

「うん」


 声は柔らかく聞こえるが、少し険しい表情の院長が話す。

 対する女の子は、いつもの顔だ。


「ぬしちゃんは、あなたに()()()はいますか?」

「ううん、をことぬしにはかぞくはいないんだ」


 えぇ!?ともう1人の声が混じる。2年も一緒にいたはずの咲ちゃんが驚いた。

 院長は目を伏せ、閉じる。この後の返答に嫌な予感を覚えたからだ。



「ぬしちゃん、いえ、をことぬし。それはあなたの()()()()()()ですか?」

「む」


 珍しい事が起きる。

 考えあってか、ないのか、いつもは鈴を揺らし鳴るかように即答するぬしちゃんの言葉が詰まった。咲ちゃんは何が起きてるのか、何の意味があるかがわからない問答を眺めている。


「をことぬしは、をことぬしなんだ」

「その名前は、あなたのお母さんかお父さん()()頂いたお名前ですか?」


「ちがうんだ」


 違う。()()ではなかった。それを聞いた院長は静かに息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

 それは溜息などではなく、これから説明することの準備だ。


 目を伏せていた院長は顔をぬしちゃんへと向ける。いつもの優しい顔ではあるが、悲しい者を見るかのようでもあった。


「こんなことを聞いて、本当にごめんなさい。儀式を始める前に確認するべきでした」


 女の子たちは顔を見合わせる。何か謝るような悪い事をされたのか心当たりが見つからない。


「残念ですが、ぬしちゃんは3神に認められませんでした。今から理由を説明いたします」

「をことぬし、つかえないのか」

「そんなぁ・・・」


 2人は落ち込んだようだ。

 しかし、院長は机をコンコンッと指で音を鳴らし注意を向けさせる。お勉強の合図だ。


真名(マナ)、真の名前と言い、これが無いものは魔法を使うことができないのです」

「ま、な?」

「そう。真の名前とは咲ちゃんたちが生まれた時に名付けてくれた名前の事であり、それ以外の者が付けた名前は本人がいくら心から願ったとしても、真名ではありません」


 つまり、


「をことぬし、それはあなたの真名ではありません。本当の名前がわからない限りあなたに魔法を扱う事ができないのです」


 ・・・沈黙が訪れる。咲ちゃんはいろいろな事を一気に知ってしまい、ショックが大きい。

 親友の名前が本当の名前でなく、家族もおらず、親友に支えられた自分だけが魔法が使える。

 どうすればいいのかわからない、どんな声をかければいいのか、咲ちゃんはわからない。


 なによりも、


「おったまげた」


 肝心の当事者がこんな調子である。おったまげた、のならもう少し表情はどうにかできないのだろうか。ぼーっとした顔のままである。


 重要な話をしている、はずの院長は続ける言葉が迷子になる。たぶん続けて話してもいいだろう。そう思い込む。


「とにかく、これらが原因でぬしちゃんは魔法が使えません。それと最後に、もう1つ聞きたい事があります」


 今度はなんだろうか。

 院長は言葉を選んでいるのか、考え込む。


「ぬしちゃんが一番、自慢ができる、自信があることはなんですか?」


 今までの質問と感じが違っていた。魔法と関係があるのだろうか?


「咲ちゃんをまもることが、をことぬしのじまん」

「ぬしちゃんかっこいい!」


 咲ちゃんに褒められ。ぬしちゃんは腰に両手を当て仁王立ちになる。いかにもエッヘン!とでも言いそうなポーズだ。

 その姿を見て、院長は何かを思ったようだが、咲ちゃんたちはよくわかっていない。


「・・・わかりました。今日は私たちにお付き合いくださってありがとうございました」


 もう遊んでも大丈夫なようだ。咲ちゃんとぬしちゃんは院長に挨拶をして部屋を出ていく。






 子供たちがいなくなり、院長は椅子にドッともたれかかり、片手で目を覆う。


 失敗した。しかし、祈りの儀の事だけではない。自身のしでかした事を悔やんでいた。


 そうしていると、シスターの1人が部屋にギィとドアをゆっくり開け入ってくる。菜園の手入れを担当しているこの修道院の年長者が話しかけてくる。


「院長先生。ぬしちゃんの事は・・・」

「わかってます、あの子は悪い子ではありません」


 さすがに気づかれる。あの小さな体に宿っている闇に怯えたところを。

 それ以外にも問題がある。


「あの子には、ご家族がいないようでした。咲ちゃんと同じ養育施設、ですね。一緒に通っていると聞いて勘違いしていました」

「・・・親無し子でありましたか。そうであっても、わたしたちもね、驚いたんですよ、あの子に」

「今まででなかったと」

「ええ」


 しわがれてはいるがハッキリした喋り方で院長に伝える。院長よりも長く修道院にいながら闇が漏れ出るなど初めてであったのだ。



「私、怖かったんです」



 先ほどまでぬしちゃんの座っていた椅子にシスターは腰掛ける。しっかり院長の話を聞くために。


「闇とは、傲慢であったり、他を貶める自己欲、自尊心の塊のような者から生まれると聞きます。それも、あのように光が穢れるほどの闇は、屍人(アンデット)や邪教徒が纏う者のそれです」

「それは・・・」

「そうです、ぬしちゃんは闇に溺れた者などではありません。サキちゃんを見てればわかります。何をするもぬしちゃんぬしちゃんです。夜の森で泣き喚くほどの恐怖にあったら、先に家に早く帰りたいと駄々をこねるのが当たり前でしょう?」


 院長の問い、答えはもうわかってはいる問いに笑いながらシスターは答える。


「そうですね、わたしも前々の院長に、拾われた後も、不満しか言ってなかったですねぇ」

「私もです。サキちゃんは甘えてくることが多いですが、可愛いものです」

「ぬしちゃんは・・・まるで無いですね。遊ぶ事と咲ちゃん以外に、興味が薄いような」

「記憶障害が原因とも考えましたが、それだけで説明がつきません」


 静けさが部屋を包む。なんとも、()()()な子供たちなのだろうか。


 感性豊かで不安定な咲ちゃん。感情乏しく芯の強いぬしちゃん。

 考えはあまりまとまらなかったが、シスターは最後にこれだけは告げた。


「それにしても・・・罪のない子供とわかっていながら、怯えるとは、まだまだ未熟ですねぇ」

「反省しています。院長などと名乗れませんね」

「ハィハィ。弱音は聞き飽きました。あの子達が、不安がりましたらちゃんと謝るのですよ?」

「もう、わかっています!」


 まるで近所の子供をからかうような年長のシスターと、普段と違い子供っぽい院長の話は終わった。




------------




 夕刻の食事が終わり外は暗くなり、夜になった。


 夜の森は主に視界が危険であるためこの時間は全員修道院外には出ない。ベアウルフの件があってからは窓からの監視も強めている。

 無いとは思いつつも子供の身を守るためにも注意を払っている。


 この時間になると咲ちゃんとぬしちゃんは眠る時間になる。少なくとも咲ちゃんがそうであっただけで、ぬしちゃんは一緒になって眠っているだけである。


「いのりのぎ、へんなかんじだったね」

「うん」


 眠くなるまで一緒の布団に入りお話するのはこの修道院に来てからの2人だけの決まり事。

 咲ちゃんはここに来てから1人で眠れなくなったため、ぬしちゃんと一緒の布団で寝るようにしている。

 ぬしちゃんの手を握ると握り返してくれて安心して眠れるのだ。


「どうしてぬしちゃんは、かみさまにみとめてもらえなかったのかな」

「きらわれちゃったのか」

「そんなことぜったいないもん!」


 今日のお話は祈りの儀についてだ。話の通りであれば、素質とはこれから使えるかもしれないという意味で、ぬしちゃんは使えない。

 咲ちゃんの顔は少しだけ不貞腐れたようにもじもじしだす。自分だけ素質とやらがあると言われたことに、ぬしちゃんに申し訳ない気持ちになってしまう。


「さきちゃん」


 名前を呼ばれお互いが顔を向ける。


「さきちゃんがそらをとぶまほうをつかえたら、をことぬしもそらをとべるのか」

「わかんないよ」

「まほうがつかえると、()()()にのっておそらをとべるんだ」

「え!そうなの?咲のみてたアニメはね、はねがはえるんだよ!」

「おお、ペンギンさんなのか」

「ペンギンさんはとべないの!」


 会話が盛り上がる。


「さきちゃんが、おそらをとべるようになったら、おうちをみつけられるかも」


 そっかぁ!と納得の声。儀式の時もぬしちゃんが空に拘っていたのは咲ちゃんのためであった。

 しかし、お家と聞いて咲ちゃんはいままで気にしていなかった事を聞いてみる。


「ぬしちゃんは、かえるおうちがないの?」

「うん、()()。ようちえんにいたんだ」

「さみしくないの?咲だったらないちゃうよ」

「あかるくなったら、さきちゃんがいるからだいじょうぶ」


「ぬしちゃんっていつもネームをつけてなかったよね」

「うん、もってない」

「ぬしちゃんのほんとうのなまえがわかれば、まほうがつかえるんだよね」

「なんかいってた」


 咲ちゃんは思い返す。幼稚園でのぬしちゃんの事は知っていたが、それ以外にはまったく自分と同じなんだろうと気にしていなかったことを。

 わかってたつもりで全然わかっていなかったことを。


 聞かれたことは答えてくれるけれど、その言葉は端的で少ない親友。

 今までで幼稚園以外でぬしちゃんと話せる事は全くなかったからこその発見。親とは今だ会えていないが、この貴重な体験は咲ちゃんにとって心の中で何か得る物があった。それが嬉しくて胸の奥がぽかぽかしてくるのだ。

 ぬしちゃんと祈りの儀で一緒にお祈りしたときにも起きたその感じに、お母さんに抱っこをされたかのように安心でき、勇気が湧いてくる。



「ぬしちゃん!もし咲のおうちがみつかったらいっしょにくらそうよ!」

「いっしょ」

「うん!おとうさんたちにもそーだんするからだいじょうぶだよ!」


 そう、家族も住む家がないなら一緒に暮らせばいい。一緒に遊べるしご飯も食べられる。

 本人は名案と本気で想っているのに実は浅い、後先を気にしない幼い子供の提案。

 しかし前向きで、元気で、明るい提案。



「ぬしちゃんは1人じゃないんだよ!咲がついてるもん」

「・・・そうなのか」

「そうだよ!ぜったいおうちにつれてくもん!」


 何か思う事があったのか、ぬしちゃんは反応が少し遅れる。


「それと、ぬしちゃんのなまえもさがす!」

「まほうがつかえるようになる」

「まほうもそうだけど、ぬしちゃんのほんとうのなまえを咲はしりたいの!」


 話始めたときは落ち込んでいたのに、今では元気だ。咲ちゃんはぬしちゃんの手を一度離し、


()()()()!」と誰もが釣られそうな笑顔で小指を突き出した。


 ぬしちゃんも小指を出し、咲ちゃんと指を結んだ。



『ゆびきりげんまん うそついたらはりせんぼん のーます』

『ゆびきった!』



 指切りげんまんである。



 約束とは、結び、果たすものであり、果たすことができなければ結びは解けず新たな結びを作ることができない。

 守る事叶わず、腐り()となって身を縛るのだ。


 大切な()()1()()の友達。


 約束を結び果たすため、ぬしちゃんは何を思ったのか、咲ちゃんは気づかないまま・・・、

 2人仲良く眠りに落ちた。

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