49話 童心夜歩き
真に自身を信ずる者とはいかほどのものか
絶対にやれる 絶対にできる
思いの強さという点においては美点だろう
でも
我が強く 頑固で 自己解釈でのみ行動を移す 実力を兼ね備える
この四点を兼ね備えた者は自信家を通り越した別の何か
ただのアホなのかもしれない
黒髪の少女、ぬしちゃんはお城に向かう準備に入っていた。
まずはいつもの白いカバンを用意。悪い人をやっつける手裏剣もばっちりだ。
少し形が悪くなるけれど、咲ちゃんと遊ぶために教会で貰った紙を十数枚入れておく。
弓のおじさんから貰った¨青い月の涙¨という名前らしい本も紙が折れないように一番下に敷く様にカバンに入れる。文字がグニャグニャでわからないから、これは咲ちゃんに読んでもらうためだ。
それと、部屋にある子供用の背の低い机の上に紙袋に入れて残しておいたコタコタも持っていく。咲ちゃんと一緒に食べるためだ。
買ってもらった薄くて黄色い寝間着から、いつもの黄色い帽子とピンクの服にチェックのスカートに着替えて準備は万端だ。
幼稚園を出た時にいつの間にか着けていた白い靴を履いてドアノブへと手を掛ける。
シスター達の宿泊所は広間を中心に小部屋がいくつか分かれていて、その一室が咲ちゃんとの部屋となっている。調理場も大広間に用意されていて、修道院とは違ってトイレとお風呂はちゃんと室内の一室に用意されている。
大広間とトイレ、お風呂場には触れると明るくなる魔法石が大きな机の上に用意されていて、それ以外はランタンや蝋燭で暗がりを照らしているのだ。
暗闇の中はぬしちゃんにとっては何不自由無く動けるが、皆はそうでないらしい。
時々道案内や物を取ってあげたりするとご褒美にコタコタを貰えるので、ぬしちゃんは積極的に手伝う事も多かった。
さて、広間から外に出て出発だ。咲ちゃんに会うために扉を開ける。
「こんな時間にどうした・・・?手洗いか」
一瞬で呼び止められた。
扉を開けた途端、ぬしちゃんの右耳に声が吹きかかる。目の前には誰もいないが乏しい魔法石の輝きだけが輝いている。
扉の真横、床に片膝を上げて座り壁に背をつけていた弓使いに呼び止められ、ぬしちゃんはそちらへと振り向いた。
「・・・その荷物はどうした?」
まるで外にでも出かけるような姿の黒髪の少女が気になり弓使いは不思議そうに様子を見ていた。
「咲ちゃんのところにおでかけするんだ」
「・・・何!?こんな時間にか?」
「うん」
深夜に5歳児が出歩く・・・。んなアホな。
「何かを勘違いしていないか?時計がわからなければもう一度教える」
「そうなのか」
何を間違えたか月が真上に昇る時間に完全武装をする子供というのが少しツボに入ったのか、弓使いはアホさ加減に呆れながらも笑って話す。
「ふっふふ・・・。ぬしは面白いな」
「おもしろいのか」
「とにかく、夜に外に出すわけにはいかない。明るくなってからまた行こう」
「む」
剣の鞘を床に置き、部屋に戻そうと弓使いが黒髪の少女を抱きかかえて歩き出した。
「だめなんだ」
「・・・だめとは?」
「咲ちゃん、ないちゃうんだ」
考えていることは間違えてはいるが、思いやりの塊がそこにはあった。
「・・・そうか」
行かせてあげたい気持ちに駆られてしまうが、そうはいかない。
弓使いはぬしちゃんの靴を脱がし、ベッドの上へとゆっくりと座らせ、話しかける。
「俺達がもう少し強ければ・・・すまない」
「ふぁぃう」
誰の手からも守り通せるような力があれば、こんな形を取らずに済んだ・・・かもしれない。
窓から差し込む月明りに照らされた弓使いは目を伏せて、そして黒髪の少女へと顔を向ける。
眺めていると吸い込まれそうになりそうな青き澄んだ瞳が2つ。この子供に救われた、あの夜を思い出す。
月は、青くなどない。
白くて、黄色くも見え、それが混ざったような・・・そんな色。
青い月など見えなければ完全に信じているわけでもない。
それでも、彼にとっての青い月がそこにはあった。
「・・・俺が、俺達が必ずニホンを見つけてみせる。これ以上、あの子を泣かせないためにも」
「そうなのか」
「寝付けないだろうが、もう眠れ。・・・トイレであれば扉を叩け」
「む」
ぬしちゃんのカバンと帽子を脱がし机へと置いた後、弓使いは部屋から出て行き扉を閉める・・・
「はぼ」
だが、ドアノブに手を伸ばして押しても重いもの邪魔されてまったく開かない。
弓使いが開かせまいと背もたれにしていたのだ。
ぬしちゃんは速攻で扉をトントンと叩いてみる。
「咲ちゃんにあいたいんだ」
扉越しに、少し間が開いた後に返事が来る。
「今はだめだ。・・・すまないが朝まで我慢をしてくれ。遊んでいても構わない」
「ふぁぃう」
「・・・明かりはいるか?」
「いらないんだ」
「わかった」
会話は終わるが、扉は開けてもらえなかった。
ぬしちゃんは扉から出る事が出来ず、部屋へと戻されてしまう。
このふにふにの鉄仮面にとっては知った事ではないが。
ぬしちゃんは机に置かれてしまったカバンを手に取り、続けて帽子へと手にかけようとして思い出す。
夜だと部屋から外に出してもらえずに部屋に戻されてしまう。
では・・・見つからなければいいのだ。この帽子は目立つらしい。
ぬしちゃんは帽子を持たずに靴を履き、扉ではなく窓へと手を伸ばし・・・開いた。
「いってくるんだ」
扉がダメなら窓でいい。
ぬしちゃんは弓使いの目を盗み、外へと飛び出していった。
夜の王国は朝や昼のような人だかりは失せ、静けさに包まれていた。
市民街に並ぶ街頭は昼間だとただの鉄の柱だが、夜になった今は先端部分に付けられた魔法石が鈍い光を放ち役目を全うしてくれている。
淡い街頭の輝きと月明りが照らされる中、帽子を身に付けていない黒髪の少女、ぬしちゃんは短い足を交互に動かし走っていた。
その速さは注視しなければ見失うほどの速度であり、道歩く衛兵や人の目と街頭を避け、遠くにそびえ立つ城へと向かっていたのだ。
人ごみの少ない大通りは動きやすいが、今はかくれんぼ中だ。見つかるわけにはいかないので、植木鉢などの物陰に潜みながら進んでいった。
弓使いたちが追ってくる様子も無くぬしちゃんは順調にお城へと近づいてはいたが、そう上手くは行かない。
大通りの外れを適当に選んで歩いていたが道を失って、大通りへの通路を飛び出した時だ。
「・・・む・・・。むっ・・・!?」
「はぁ!?なんでこんな時間にいんのさ!?」
気づかれた。
波打つウェーブのかかった薄い橙色の長い髪に露出が多く褐色肌の目立つ三日月斧を右肩に担ぐように持っている女性と、ゴツゴツとした無骨な鎧を身に付け大きな大槌を軽々と持ち運ぶ強面の男性。
女豹と熊男の2人組と出会ってしまった。
「やっほーなんだ」
「やっほぉなんだぁ!・・・じゃなぁいわさ」
普段通りに腕を上げて挨拶をするぬしちゃんに釣られるよう挨拶はするが、そうもいかないといった様子で駆け寄ってくる。
「・・・1人、か・・・?」
「うん」
「は、はぁ!?あんの連中どこほっついてんのさ!」
あり得ない。
そう驚いた表情で熊男は子供が逃げ出しそうな怖い顔を歪ませ、女豹は青筋が立つほどに怒鳴り散らしている。
「ほら、うちらが家に連れてったげるから安心しな!腕に掴まりな!」
空いた左腕を素早く伸ばしては持ち上げ、女性ながらも筋骨たくましい二の腕へとぬしちゃんを捕まらせた。
彼女が赤牛と呼んでいた剣士ほどではないにせよ、片腕だというのに子供を容易く脇に抑える筋力はただ者ではない。
「いやである」
「であるぅ!・・・へ、嫌?」
だが・・・悲しいかな。黒髪の少女に帰る気など毛頭無い。
黒髪の少女は二の腕から彼女の脇腹へと身体の向きを変え、そして・・・
「おじゃまなんだ」
細い指先を器用に、素早く、自覚の無いやらしい手つきで露出された脇を・・・くすぐり始めた。
「ぶぉへっ!?あひゃはあは!??ひゃぁああっはっは!!!???」
「・・・おい・・・!??」
酔っ払い勘違いした剣士と風使いの2人などとは比較にならない残酷さがそこにはあった。
小さくて細い指先の1本1本が彼女の左脇腹に地獄のようなこそばゆしさが襲い掛かってしまったのだ。
「ひゃめや!?ひゃめてくだひゃい!!?うぎゃっひは!??」
羞恥など考える暇も与えない黒髪の少女によるくすぐりに対し、奇であり嬌であり悲とも取れる絶叫が大通りに響き渡る。
こうして力が抜けた結果、右手に持っていた三日月斧を落とし、左腕で支えていたぬしちゃんも彼女は手放してしまったのだ。
「ひぃっひぃいいぃいっひぃ、ひっ」
「な・・・何を・・・!?」
熊男は何が起きているか、というより何をやってんだと困り、慌てだす。
鋼の落ちる音と共に地に足ついた黒髪の少女は大通りへと飛び出し2人から距離を取る。
「ばいばいなんだ」
「ま・・・待つんだっ・・・!!」
頑強で丈夫であり武器にもなりえる重量を持つ鎧が今では完全に足を引っ張り、熊男はぬしちゃんを止めることができずに逃してしまう。
熊のように体躯に力量は兼ね備えるが、熊のような速さを彼は持つわけではないのだ。
見つかってしまったのだから仕方がない。
ここからはかくれんぼでは無く、鬼ごっこだ。
獣のような奇声が気になり近寄る衛兵など気にも留めず、ぬしちゃんはお城へと素早い足さばきで向かっていくのであった。
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「ばーかばーかトンガリのばぁああか!!なーにがあたしらに問題あるよばぁああああああか!!」
女性が寝癖を付けたまま、罵声を叫んで夜の王国を走り抜ける。
「すまない、ああ、何故俺は・・・!」
「謝ってる暇あんなら首折り曲げてでも探せやっ!!あのアホ足早ぇんだぞ!!」
「ぬしちゃん!?ぬしちゃんでてきてぇ!」
1人ではない。男女が2人ずつ、目まぐるしいほどにあちらこちらと目を配らせながら駆けていた。
剣士はいつもの鎧を身に付ける時間が無く、剣と盾に普段着の黒く地味な服を着ておりツンツンしている髪型が嫌に刺々しい。
聖女と言われる彼女は着替える手間を惜しんだために白を主体としたキャップと装飾の1つもないローブのような寝間着しか身に付けたままだ。
黒髪の少女の脱走。
弓使いがこの事態に気がついたのは最後に話してから僅か数分後だ。
部屋の中へ声をかけても返事をせず、寝たかと思い覗いてみたら窓が開いてもぬけの殻。
やられたと大慌てで眠っていたシスター達を起こし、総出で捜索に当たっている。
「つーかあいつ明日の意味わかってねーだろちきしょー!!」
「あの子が常識外れてるなんて今更でしょ!!」
「口より目を動かしなさい!目を離した私達の責任です!」
行く場所など、一つしかない。白髪の少女のいる王城ただ一つ。
衛兵にも声を掛け、すぐ見つかるとは思うが相手が相手だ。
「どこの道を通ったか、想像がつかん・・・!」
「もしかして、迷子!?」
「自己中の天元突破かあんにゃろ!だぁああくそ!!」
子供の考える事、などの定義はあの阿呆には通用しない。
走り続ける彼らの視線の先に何者かを取り囲む衛兵達の姿が見えた。
「あ、あれ!もしかして!」
「すみません!あの、すみません!!」
脇目も降らず、金色の長髪を乱しながら聖女が衛兵達の間をすり抜けるが、そこに黒髪の少女の姿は無い。
「・・・お前達・・・」
「ってお前らかよ!って何伸びてんだこいつ・・・」
何故か痙攣しながら息を荒くする褐色肌の女豹と衛兵達に事情を説明している熊男の2人組を見つけた。
「あの!黒い髪色の小さい子供ですが、ぬしちゃんを見かけませんでしたか」
「・・・それは・・・」
熊男だけでなく、衛兵達にも伝わるように聖女が聞くきだし・・・答えを聞いて彼らは呆気にとられる。
「あの子がご迷惑を!申し訳ございません・・・!」
「・・・いや・・・それより、捜索だ・・・」
熊男の指差す先には大通りを越え、そびえたつ王城。
「・・・あっちに・・・俺は、追いつけなかった・・・」
「ありがと!!」
「そいつが起きたら探すの手伝ってくれ!」
迷いながら進んだかは定かではないが、伸びてる彼女の状態を見るについ先ほどの出来事だろう。
彼ら4人は遠くないと信じ、王城へと駆け続けた
読んでくれてありがとうございます
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