44話 夜のお城
財を抱えた者の自慢 それはもちろんその財だ
貯金をするのもいいけれど
その財を使ってさらなる材を得ることもできるかもしれない
そして一級の芸術品 家具 豪華そうな物をなんでもかんでも買ってしまうのだ
皆がうらやむような目で見てくれるかもしれないし
財力に魅了された者達も寄ってきて
コネクションを得ることもできるかもしれない
そんなこと 5歳の子供には知った事ではないが
見るもの全てが真新しい。
執務を行うための机。木漏れ日を浴びるような心地よい羽毛のベッド。あらゆる趣向品、芸術品が収まった巨大な棚。
どれもこれも貴族であっても手の届かない最高級の物ばかり。
「夢ではない・・・。余の部屋がこうも見違えて見えるとは、これぞ奇跡の賜物」
ここは王室。腰ほどの棚の上に備え付けられていた鏡に映った自身の姿を見て王は独り言をつぶやいていた。
実際には部屋の小物1つもずらされた形跡が無く、光を失う前と変わらない景色に見違えるわけが無い。
それぐらいに思えてしまうくらいには長い期間を盲目で過ごしていた他ならない。
青を基調とする装飾の施された魔法石の埋め込まれた扉をノックがかかる。
『豪商殿がお越しになられております』
男の声が室内にある王の机の上、小さな土台に設置された魔法石の中から聞こえてきた。
風の力が込められた特殊な魔石であり、主に密談ように使われる高級な代物ではあるが、王の財を前にすれば端数にしなからない。
扉の前にいるであろう声の主、近衛兵の近くに寄らずとも対話ができるのは扉に備え付けてある魔法石と連動しているからだ。
魔法とはなんと偉大な物か。
上手く扱えば扉の前の会話も盗み聞く事もできる為、王はこの力を重宝し続けているのである。
「ふむ・・・通せ」
『かしこまりました』
その一言を伝えた後、ゆっくりと扉が開かれる。
「失礼いたします。いやはや!こんな時間に申し訳ないですなぁ!」
「気にするでない」
王のもっとも信頼のおける忠臣の1人。
でっぷりとした体格を財で包んだような貴族、豪商と呼ばれる男だ。
「話をする前に1つ。豪商よ、此度の働きには大いに感謝する。この冠をお主に譲りたいほどにな!」
「そのお言葉はありがたい!・・・ですがちとそれは不味いですな。吾輩にとっての王はたった1人!そうでなければこの城にいる理由など霞にしか残らんですな!」
「ふはははは!冗談だ!だが余の気持ちと知ってもらえればよい。今後も頼むぞ?」
「はっはっは!もちろんですぞ!」
絆を感じさせ、立場を感じさせない2人の男が笑い合う。
そして、本題とばかりに豪商の顔つきが かしこまった形に変わる
「とはいえ、王の目を見事治したのはコザクラサキ、白髪の少女の功績ですがな!一体どこの出の者なのでしょうな」
「ふむ・・・我が国の経済を回すお前に頼みたいのだ。今は通行に難儀するやも知れぬが、あの少女は何があっても守護する必要があるのだ」
「もちろん、王命とあれば吾輩も誠心誠意務めさせていただく所存!・・・ではありますれば、ちとよろしいですかな?」
「よい、申せ」
許可を得て、豪商の脂肪でたっぷりの顎を揺らしながら王へと心情を話す。
「何ゆえ、闘将ほどの男を離されたので?王の身に武力による暗殺を企てる愚か者がおらぬのは彼の御仁の力によるもの・・・それほどに、あの少女の力を脅威と?」
王の身を案じて発言した豪商に、王は答える。
「恩はもちろん、それだけではない。あれほど精巧な高価な絹を用いた服に帽子に至るまで・・・あの少女はもしかすれば貴族の出、人知を超えた魔力から思うにそれ以上やもしれぬ」
「傷つくような事があれば・・・国際問題になると?」
「うむ。それを名の無い衛兵に守護させていたともし知れて見ろ。話では病も切り落とされた腕すらも治す子供であるぞ?」
豪商は言の裏に含まれた真意を察することができた。
「手を出す輩が現れる可能性だけならず、侮ったと見られてしまいますな。市民街の方ではもう有名も有名。白髪の少女の噂は帝国の虫共も無視せんでしょう」
如何に少女の存在が危険な立ち位置にあるかが彼には手に取れる。
物騒な話、小桜咲という足の着いた兵器なのだ。
そんなものが価値も解らない輩が王国内外に連れ出すなど事件でしかない。
当たり前だが力を利用する者も当然出てくるだろう。見れば能力以外はただの5歳の子供なのだから強引に連れ出すことも作業のようなものだ。
何せ・・・
「して、余に毒を盛った輩はまだ見つからぬのか・・・!?」
王の目は病からではない・・・毒を盛られたのだ。
「それが・・・まったく足が掴めぬのです。吾輩の力を以てしても・・・!」
本来であれば国全体を揺るがすような事件が1カ月も前に起こっており、犯人の足すらも掴めない状況。
豪商も顔を歪ませ、大いに悩んだ。
その王を治してしまった子供に矛先が向かうのは確実。
どこに潜むかも知れない帝国の間者による誘拐、殺害、なんでもあり得る。
市民街で有名となってしまった少女を教会に戻して・・・翌日殺害されたとあったら最悪だ。
市民の怒りは王国に向かう事態になってかられは遅いではないか。
だからこそ城内で保護し最強の兵、闘将を傍に置いた。
だが・・・守るべき王をただの兵士でよいものか?
「ぐむむむ・・・困った困った。1番の問題は王国に闘将以外に武のある将がいない事ですな・・・いやはや」
「豪商よ、痛いところを突くな・・・。おかげで毎度攻め手に欠けてしまう」
王国最大戦力と言われる2人、知将の戦略、闘将の戦術の影響は帝国外ですら恐怖するほどの武力を持ち、特に戦で負けたことがないという闘将の評判は事実。
同時に王国最大の欠点は、彼らに近く無いにしても・・・優秀な将がいない事であった。
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こんなに寂しい夜は初めてだ。
城内の一室、憧れともいえたお姫様のようなベッドで咲ちゃんは布団の中に潜り込み、体温で温まった布団に包まれることで心細さを誤魔化していた。
ぎゅっと握ると握り返してくれる親友が・・・いない。
「こわいよ・・・」
先生が言うには、自分の力を欲しい人がいるかもしれなくて、このままだと誘拐されるかもしれない・・・それが理由でお城の人に守ってもらう事になったらしい。
最近教会に来る人が少し怖く感じていたけれど、そういう事だったのかと思うと・・・。
でも、ぬしちゃんはどうして一緒じゃダメなのか、全然わからなかった。
初めて、ぬしちゃんと引き離そうとする先生の事がちょっと嫌いになってしまった。
「・・・ひとりぼっち」
1人で寝始めたのは4歳の時。
お母さんとお父さんが一緒の部屋になった時に自分の部屋を作ってくれた。
暗闇の部屋の中、1人で眠る事が出来なくて最初の内は結局、お父さんたちの部屋で一緒に寝てた気がする。
それからちょっとずつ1人で寝るように頑張っていって・・・いつの間にか平気になっていた。
でも、ここはお家じゃない。借り物のお部屋だ。
「おとうさん、おかあさん・・・」
お父さんもお母さんもいない。会えていない。いつからだっけ?
「ぬじぢゃん・・・」
ぬしちゃんも・・・ここにいない。
「ぅぇええええっ・・・!!」
咲ちゃんは、暗闇の中・・・寂しさに圧し潰されそうになり涙が溢れだし・・・
蹴破らんばかりの勢いで扉が開かれた。
「サキ殿ぉっ!!無事かぁっ!!!!」
「うわぃひぅ!??」
びっくりしすぎて布団から起き上れば重厚感、威圧感たっぷりの白銀の大鎧が大槍と大盾を構えてこちらに突撃してくるではないか。
「ご無事でございますか!?おや!!目に雫が垂れております!!お怪我か!!?」
「ふ、ふぇ、ふぃえ・・・!?」
月明りしか無い中、何もかもがどでかい金属の塊が突進してくるなどホーガン投げの選手が観客席に投げ出すぐらいの恐怖しかない。
「え、ふぇと・・・だ、だじょぶ、だよ」
「おおーーご無事で良き!!悪党が窓から入り込んだものとばかり!!」
「・・・ふぇ」
・・・家族でも親友でもないが、なんかいた。
「失礼ながら!拙者、涙を拭う物をもっておりません!!持っているのは大槍と王から預からせていただく魔法の盾!!そちらの棚にどうぞお手を!!」
「う、うん」
ベッドの横に小さなチェストのような物があり魔法石のランプが置かれている。
魔法とは不思議なもので、手を近づけるだけで明るくなってくれるという自動ドアのようなセンサー式だ。すごい。
その下のチェストの引き出しにフリルの付いたハンカチのような物が用意されていた。
「あ、あの!ご無事ですか!?」
ハンカチに手を取り涙をふく頃に音を聞きつけメイドや兵士たちが集まってきていた。
あれだけ騒げば誰でも駆けつけるだろう。
「サキ殿は無事!!寂しかったようです!!ご安心めされい!!」
「か、かしこまりました」
一安心といったところか。
兵士たちは持ち場へと戻り、メイド達は咲ちゃんの両隣の部屋へと頭を下げ戻っていく。
「あ、ありがとう。ブリキのおじさん」
「光栄!!」
白銀の鎧を鳴らし、ビシィッと垂直に立つ彼は本当にブリキの兵隊さんのようで少し面白い。ブレの無い垂直に立てられた大槍が天井に突き刺さりそうだが、あれだけ大急ぎで駆けつけたのに壁や床にぶつけないのは凄いとしか思えなかった。
「・・・えっとね、ぬしちゃんがいなくて・・・その、ないちゃったの」
「仲が良いご様子でしたな!!日が真上を過ぎた頃にはお会いできる時間だと聞きます!!」
「まうえ?・・・おひる?」
「その通りです!!」
そうだった。ずっと会えないわけではないのだ。
「あした、ぬしちゃんとあそぶ!」
「了解!!日が昇りましたらすぐ伝令を飛ばしましょう!!」
「うん!とばしちゃう!」
明日の事を考えると不思議と怖さが剥がれ落ちるように消えていた。
それと、なんというか・・・ブリキのおじさんはちょびっとおバカっぽくて、ぬしちゃんと話しているみたいで少し楽しいのだ。
窓から差し込む月明り。
月。
咲ちゃんはベッドから降り、ガラス窓の近くへとトテトテと歩いてく。
「サキ殿?」
「ぬしちゃんね!ようちえんにいたときは、おつきさまをみてたんだって!」
「月ですか!!お嬢様は良い趣味をお持ち!!」
最近では普通に見えてきた、大きくて青い月。
よく考えたら、これだけ大きかったらお母さんたちも見えてるだろなと思い、自慢話にできないかもとちょびっと残念だ。
ぬしちゃんは今、どうしてるのかな。
寂しくて泣いてる・・・それは無さそうだ。そう思わせるいっつもぼーっとしている親友がちょっと恨めしい。
「きょうもあおいおつきさま、きれい!」
お部屋が変わってしまったけれど、変わったお月様は変わらない。
「うむ!!本日も青々としておりますな!!」
「あおあお!」
「青々です!!」
ちょっとだけ、明日はどうなるかわからないけれど。
咲ちゃんは少しだけ・・・元気を取り戻した。
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