39話 奇跡の噂を求めて
救いを求める者は様々だ
無い者もいれば ある者もいる
誰が為 己が為 思いの形は様々
今回訪れたのは どんな形であろうか
「ここにあらゆる傷を治せるという白髪の乙女はおられますか?」
教会へと現れた衛兵を連れて現れたその男の身なりは汚れ1つ無い貴族の物であった。
丁寧に髭を揃え、化粧品で固めなければ整える事のできない巻いたような髪型をしており市民街ではまず見ない中年の男。指には1つだけでも金貨数十枚はくだらない贅の塊のような指輪がいくつかはめられ・・・つまるところ、眩しい。
魔力とは違う実用性の無い煌びやかな装飾が施された杖を持っており、カツカツと音をならして教会内を歩いている。
だが、悪い意味合いではなく、森の中での修道院生活が長く、王国の土地勘も満足にいかないシスター達ですら裕福な男だと判断できるため、その身なりは無駄というわけではないのだろう。
「庭でお友達と遊んでおられますが・・・どこかお怪我でもなされたのでしょうか?」
しわがれた声で話し訪れた貴族に対応をしているのはこの教会の責任者である神官の老人だ。
70半ばの彼は長年この教会で三神を崇め続けてきた信仰心は本物であり、現在教会にいる者の中では3番目に奇跡の扱いに長けている。
優しく寛容であり、修道院からやってきたシスター達の新たな信仰に対しても快く受け入れ、2人の少女にも家族同然のように親身になってくれている。
「なに、下の者とは違って生まれは良いのでな。傷1つ負ったことはないものだよ。はっはっは!」
「ご家族からとても大切にされておられたのですね。それは何より」
「もちろんだとも!我が家系は建国からこの時までも王国に貢献してきた名門でしてな。私もこの家名を継げて誇りに思っておるのだよ!」
「ええ、知っておりますとも。確か、あなたの御父上様とは知り合いでしてな・・・商店街や市民街の舗装をしておられましたな」
「おお!そこまでご存じであるとは流石は父上ですな!下の者は我が父の貢献に気づかぬ愚かな者が多くて困っていたが話が分かる者もおられたのですな!はっはっは!」
「そうでしたか。あなたも御父上様の威光が広く知れ渡る事を願っております」
貴族の物言いに周囲にいたシスター達は眉を顰めるが、さすが年の功と言うべきか。神官の老人は腰は曲がり顔はシワだらけだが曇り1つ無い笑顔と姿勢でこれを返す。
「おっと話がそれてしまった!」
ポンと大げさに自身の開いた手に拳を打ち付ける仕草をした貴族の男が話を戻す。
「こう着飾ってはおるが、話は飾るのは好きではないのでな。要件を言わせてもらおう」
「我々の力にできる事であれば」
脂肪に豊かな顔つきが塗り固まった笑顔が消える。
「王の目を・・・治していただきたいのだ」
「・・・なんですと」
シスター達だけではなく、神官の老人も貴族の発した言葉に動揺を隠せない。
「そのような話は・・・耳に入れたことがなかったのですが」
そんな話など国内のどこにも聞いたことが無い。
「ああそのとうり・・・帝国との戦争中に王の不調などと混乱を招きますからな、不要な心配など士気に関わるというもの」
「ええ・・・そうでしょうとも。驚きました」
神官が少し間を置いて、喉から絞り出すようにシスター達へと告げる。
「まずは・・・そうですね。・・・サキちゃんを呼んできていただけますか?」
「わ、わかりました」
2人のシスターが外へと出ていく。1人は慌てた様子で走り出していたが・・・。
貴族の男を椅子へと座らせてからすぐに外で遊んでいた咲ちゃんは聖女と呼ばれる女性達に連れてこられた。
「あ?なんだこい」
「シッ!!あなたは入口に立っていなさい」
「ぅお、おい?」
もれなく護衛の剣士も付いてくるが、開いた口がシスターの1人にすぐさま抑えられそのまま外へと出されていった。
「こ、こんにちは!」
貴族の男に咲ちゃんは元気よく挨拶をするのだが・・・。
「白髪の乙女・・・む!?この娘が、本当に?」
「はい」
「確かに、白髪で・・・乙女というには、どうもですな」
想像とあまりに違っていたのか貴族の男は驚き贅肉を揺らす。彼の聞いた話では乙女だったのだろうが、実際は5歳の幼児なのだから乙女というには背丈が数頭身足りなかっただろう。
「おとめ?えっとね!咲っていうの!」
「さき、おお!サキという名前というのだな。ふむふむ・・・なるほど」
「ふぇ?」
値踏みでもするかのように見てくる中年男にその小さな身体をジロジロと見られ、咲ちゃんは照れ臭くなりモジモジし始めた。
「少し汚れてはいるが、中々、いや、相当良い絹を使った服であるな。なるほどなるほど・・・」
「え、えっと・・・ふ、ふぇ」
貴族の男は整った髭を崩さないようにイジリながら咲ちゃんの着ている黄色い帽子、ピンクの園児服、チェックのスカートと順よく見ながら1人で納得していた。
「その、困っておりますので・・・」
「おお!これは失礼!幼子とはいえ女性、これは紳士にあるまじき行為でしたな・・・」
貴族とはいえ少女を見る目に不安に感じた聖女と呼ばれる彼女がゆっくりと割り込むように身体を使って視線を遮った。
「事情を聞いても・・・よろしいですかな?」
杖を立て、両手をで抑えるようにして姿勢を整えている貴族の男に神官たちは了承した
「ふむ。その身なりで・・・となると孤児ですかな」
「いえ、この子には家がありますが・・・ニホンと呼ばれる国をご存じではないですか?」
長椅子に座っている貴族の男は腕を組み、深く唸るような声を上げ神官に答えた。
「ふーーむ、我が知識でもそれに当たる国は聞いた事がないですな。下の者が住まうよう貧相な村々であれば聞き及ばないのではあるが、着ている服の出どころを聞いても?」
「この子の通っていた幼稚園と呼ばれる育児施設の制服のようですが・・・何か、心当たりは?」
「いやー息子がおるのだがそのような施設など聞いた事が無い、うーむ・・・ふむふむ」
またも考え込んだ貴族の男は何かを決めたように言葉を続ける。
「・・・本題に入ろう。ともあれ、この少女を王の元へと連れて行こう。よいか?」
「おしろにいくの!?」
「招かれるだけでも大変名誉な事なのだ。王を治したとあれば相応の報酬もあるだろうとも!」
「すごい!」
すでに王城へと向かう流れになっており、神官とシスター達は少し困惑した様子のまま貴族の男と咲ちゃんは一方的に話を進めてしまう。
「ぬしちゃんもつれてくね!」
「む?もう1人?」
男の瞳がキョトンとする。友達だろうか?そう考えた時。
「間に、合ったー!!」
「おい連れてくたぁどういうこったよ?」
3つの影が教会へと入り込んだ。
1つは外で待機を強制されていた剣士、もう1つは宿舎から走ってきた風使い。
「らくちんなんだ」
「・・・そうか」
最後の1つは弓使いであり、その両腕に抱えられているのは黒髪の少女のぬしちゃんだ。
「い、いったい何事かね?」
「何事って貴族様が勝手に話進めてんじゃねーですよ」
「な、なんと?」
シスター達の表情が変わる。
言葉で表すのなら「あーあ」という感じだろう。他2人はともかく、剣士の性格を知った彼女達は呆れ顔で成り行きを見守るしかなかった。
「ちょ、ちょーっと口!口が悪い!」
「俺たちはまだ話が読めていない、喋るな」
「んだとてめぇ、最後にですます付けてるから問題ねーだろ?」
「そういう問題じゃねーです!」
「おい、言葉が移っているぞ」
「あ!ぬしちゃんずるい!だっこされてる!」
「らくちんさんなんだ」
いきなり来ては子供を交えて騒ぎ始めた3人組を野生の子犬でも見るように貴族の男は神官へと顔を向ける。
「悪漢とは・・・違うのだろうね。ずいぶんと口がなってないように見えるが」
訝しい顔つきで話す貴族に対し神官は少し困った様子を見せるが、これ以上彼らの第一印象が悪くならないようにお膳立てを努める事にした。
「・・・そうですね、最近王国の所有していた紫鉱の遺跡の最深部を発見し、そこに住まう巨大な魔物を討伐した者達の話をご存じでないですか?」
咲ちゃん達が王国へとやってきた翌日、遺跡での出来事を衛兵や依頼主に剣士達は話したのだ。
子供達が戦う・・・というのは後が怖くて話すことはできなかったため若干脚色はされているが。
その結果、紫鉱の遺跡の最深部を踏覇された話は王国内でも話題の1つとして広まっていた。
遺跡の奥には何が?鉱石の存在とは?誰がやったのか?誰が見つけたか?
噂が広まった後、2日くらいはそんな話ばかりだったが、それはすぐ白髪の少女による癒しの奇跡の噂であっというまに塗りつぶされてしまったという。
「おお!知っておるとも!山をも囲むほどの大きな蛇を討伐したという3人の英雄の誕生と息子が騒いでおったのを覚えとるよ」
楽し気に話す姿からこの話題については中々好印象のようだ。神官が手を伸ばす先に見えるは剣、杖、弓を持つ3人。
ならば好都合とばかりに神官は続けて説明する。
「彼らがそうなのです。まあ、多少・・・性格に慣れないかもしれませんが、その腕と心意気を信頼して少女達の護衛に励んでおられるのです」
「なんと、この者達であったか!ふむ・・・見た目で判断できぬものだが・・・」
神官の心の配慮により子供達とわーわー騒いでいる3人の評価は改めてくれた。
「あの黒髪の幼子は誰かね?同じ服を着ているのだな」
「あの子は をことぬしという名前の女の子でして、ぬしちゃん、と愛称で呼ばれていますよ」
「なるほど。あの子がかね」
貴族の男の質問に答えたのは金色の長髪を持つ彼女だ。白髪の少女が連れていきたいのが誰かか合点がいったようだ。
貴族の男は自身をそっちのけで騒ぎ始めた彼らの様子を見ながら深く考え、口を開く。
「ではコザクラサキと をことぬしの2人と共に教会の者を1人同行してはもらえぬか?少し急いていたようだ。優秀であれ、我が私兵達がおれば護衛の必要はなかろう」
「同行させていただけるとは。配慮に感謝いたします」
これは名案とばかりに満足気に話す提案に神官も同意する。
他人を下に見るような話し方にシスター達はトゲを感じていたが、意外と話の通じる相手なのかもしれない。
「はぁ?何勝手に決めてんだ?」
「あたしら行っちゃだめってこと?てかサキちゃん連れてくってどうゆうことよ!」
「・・・話が進まん」
「をことぬし どこかにいくのか」
「うん!おしろいくの!」
「理由は聞いたのか?」
「え?えと、わかんない!」
「おい爺さんどうゆうこったよ、説明してくれ」
「だ・か・ら言い方!あんたもう口開けんな!」
・・・。
「・・・やはりだね・・・彼らは悪漢の類ではないのかね」
「・・・本当に、申し訳がありません」
摘まんだ程度にしか情報を得ず、話をややこしくし出す3人組に神官のシワがまた増えたという。
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教会側での話し合いの結果、同行者として今では聖女と呼ばれている彼女が選ばれた。
「咲たちいってくるね!」
「いってくるんだ」
「行ってまいります」
彼女が選ばれた事に大きな理由はない。
「よく見れば名門の娘たちにも引けを取らぬ美しさではないか!そのような修道服を着ているのが勿体ないほどだ」
「・・・恐れ入ります」
強いて挙げるなら貴族街でも通用する凛とした端正な顔立ちが目の保養となり機嫌を良くするところか。
「・・・最低」
ボソリと周囲に届かないように小さく漏れ出た非難の声が1つ上がる。
「まぁ、目ん玉治して帰ってくるなら直ぐだろ」
「同行できないのは歯がゆいが、致し方が無い」
「うん!咲がんばるよ!」
「がんばるんだ」
その声に被せるように剣士達が子供達に言葉で見送った。
「この子達が粗相の無いようお目付け、お願いいたします」
「あなたもねぇ、しっかりやるんだよ・・・?」
「はい、気を付けます。なんですか、もう!」
神官のお願いと修道院では年長者であったシスターに聖女は心配を掛けさせまいと返事を返す。
根性の別れでもないのに嫁入り娘を見送るような態度を取るお世話になっているシスターに彼女はつい笑ってしまった。
「ささ、馬車を用意しておるのです。何分この重い腹で歩くのも疲れるのでな!はっはっは!王城まで送らせていただこう」
「あ!すごくきれいなばしゃ!」
「おうまさんなんだ」
「こら、走って近づいては危ないですよ!」
子供達の興味は教会の外に見えている童話でしか見た事のないような豪華な馬車にもう夢中で猛ダッシュだ。
この調子で大丈夫かと少し不安の過る聖女とそれを笑いながら見ている貴族の男も歩み出し、4人は豪華な馬車の中へと乗っていく。
馬車へ乗るための段は若干高いため、剣士達の手を借りて咲ちゃん達が乗った馬車の中は広く、王国に来るときに忍び込んだ荷馬車の隅っことは雲泥の差だ。
「ぴかぴかがあるよ!咲たちおひめさまみたいだね!」
「おひめさまなのか」
遊園地の物とは違う本物を実感し、咲ちゃんは興奮気味で楽し気に騒ぎ、それを真似るようにぬしちゃんも動きだけ騒いでいる。
「あんまり動いては失礼ですよ。もうこの子達は!」
「はっはっは!我が息子も昔はこのように騒いでいましたな!」
同乗する2人のその言葉を最後に彼の私兵らしい者達が馬車の扉を閉め、2匹の馬の鳴き声と同時に馬車が動き始める。
金に眩く枠にはまった窓ガラスからこちらに手を振り教会にいた皆が見送ってくれている。
まるで遊園地のアトラクションが出発をした時のような楽しい高揚感を思い出し咲ちゃん達は皆に手を振り返した。
「いってきまーす!」
「ばいばいなんだー」
王の目を治すがために咲ちゃんはお供を連れて王城へと向かっていく。
王城は今・・・闇の渦中とも知らずに。
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