37話 教会の少女達
廃れ行く信仰心 そして教会
そこに新たな存在が現れる
その力は強大ではあるが まだ幼い
咲ちゃんとぬしちゃん達が王国へと戻った後、教会の手配に寄りシスター達の宿泊施設を仮住居とし生活をして半月が経った。
修道院とは違い、教会には懺悔室を除いた部屋などは無く、神官や修道女達は各々の家から向かうという。
咲ちゃん達の住まう場所は今や周囲の住人からその凛とした美貌と奇跡を扱う姿から聖女と呼ばれている元院長とお世話になったシスター達が住まう宿泊所で一緒に過ごしていた。
部屋は一部屋ごとに分かれており、森にあった修道院と比べて少し狭いが、幼さの良点として不自由なく生活することができ、今では日夜問わず身の回りを警護する少女達の私兵として剣士、弓使い、風使いの3人が担当されている。
彼ら3人は子供達・・・9割方黒い方に振り回されながらも無事に努めを果たしており、冒険家となる目標こそ遠ざかったものの、生活は以前よりも格段と安定しておりなんだかんだで満足気だ。
そして・・・半月しか時が経っていないというのに、白髪と黒髪の2人の少女は市民街で知らない者がいないと言われるほどに名が轟いていた。
いや、それどころではない。
廃れていたはずの教会の信仰対象の変更と共に、不治の病と烙印を押された重病の患者も、二度と動かすことの叶わない重症の者ですら何事も無かったように治してしまう少女が現れた事により・・・パニックに近い事態が起きてしまっていたのだ。
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「お、俺を腕を治してくれ!!」「いやこっちを先に!!」「どうかうちの子を!助けてください!!」「本当にもう一度歩けるようになるのかね!?」「お願いします!お願いします!!」
咲ちゃんがゆっくり遊べたのは王国へと戻って来た3日間だけだ。
まず、腕に追った怪我を治そうと教会へと訪れた冒険者風の男が訪れたのが事の発端であった。
寄付金と称した僅かな金銭を受け取り、本来であれば神官やシスターが行うのが主だったのだが、庭で遊んでいた咲ちゃんが彼が教会内に入る前に治癒の奇跡を使ったのだ。
怪我どころか体内の痛みや疲れすらも消え失せていたこの男はその力に驚き、寄付金を渡した後に咲ちゃんへと深く礼を述べ・・・話を広めたのだろう。
翌日、その翌日と戦闘によって怪我を負う者の他に、本来訪れる機会の少なかったはずの一般住人ですら教会へと足を運ぶようになり、半月経った今では大して不調ですら無いにも関わらず訪れる輩も現れるまでに至ってしまったのだ。
「こ、こわいよ・・・」
自己のためだけに訪れる不信者達に圧倒されてしまい、善意の塊のように奇跡を扱っていた咲ちゃんも今ではすっかり怯えてしまっている。
テレビで政治家の人たちにテレビ局の人たちが群がる映像が流れていたことを思い出したが、もしかしたら同じ気持ちだったのかもしれない。
「てめぇら順番くらい守れねぇのか?あ!?そこのお前昨日も来て治してもらったばっかじゃねーか!?ぶっ飛ばすぞっ!!」
静寂と安寧こそがあり方だと示す教会内外では毎日のように訪れる悲痛の声の中に怒声が入り交じり少し静かになる。
昼の警護担当の赤き鎧を纏う剣士の男が怒りに任せて叫ぶ。
体格は大きく、目つきも悪い、柄も口も悪いチンピラのような彼は意外にも役に立っていた。
「軽症者であれば私達が診させていただきます」
多少静かとなった教会内に大きいわけでもないのに聞こえ良い声が通る。
声の主である聖女と横並びに立つシスター達が住人達を誘導していくが・・・それも一部。
「お、俺は金を誰よりも出してるんだぞ!?」「俺もだ!」「その子じゃないなら金を返せ!!」
寄付金はというと・・・2銅貨で募っており、今子供達の間で少しずつ人気となっているコタコタ1袋を5銅貨で買えることを考えると妥当な金額である。
それを何倍にも出したら優先してくれるという自分勝手なルールを作り教会に訪れる者がおり、教会の者達も手を焼いているのが現状だ。
「おじさんたち、わるいひとなのか」
咲ちゃんを怯えさせる男達に剣士が怒りのあまりに確たる怪我を負わせようと動き出そうとし、その声でピタリと止まる。
剣士だけではない。自分勝手な意見を言っていた住人や残っていたシスター達もその声で動きを止める。
「おねんねするんだ」
咲ちゃんの横で彫像のように動きを止めていた少女が手裏剣と呼ばれる紙細工を手に取り・・・悲鳴が上がる
「ちょぉ待て待て待て大丈夫だ!ぬしちょっと待て!!」
「咲ちゃん、こわがってるんだ」
「おおうそうだな!安心しろ、ちゃんと話つけっから、な?」
子供の方へと振り向いた剣士の怒り顔が驚くほど打って変わったように優し気な表情となり、黒髪の少女へと説得を試みる。
「そうなのか」
「おう、ありがとな!その調子で守ってくれや」
剣士が住人達へと向いた時には・・・彼らはすでに恐怖で顔を歪めていた。
「つーわけじゃねーけどよ・・・おねんねされてぇなら俺はもう止めねぇぞ?」
親指で誰と差された先を見て、凍結された魚のように静かに気持ち悪い冷ややかな感触に襲われた住人たちは渋々と他のシスター達の元へと歩いて行った。
「あ、悪魔め」「だ、だが噂だと」「お前が騒ぐから」「お前もだろ」「逆らうと」
その陰口にまた剣士はイラつかせられるが、同時にぬしちゃんの起こした悪名のおかげ助かっていた。
この半月で有名となったのは咲ちゃんだけではない。
この市民街において黒髪の少女、ぬしちゃんは最も危ぶむ存在となってしまっていたのだ。
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「ぬしちゃん、あくまじゃないもん!あのおじさんたち、うそついてる!!」
「そうなのか」
教会内に顔見知りしかいなくなった瞬間、咲ちゃんがぷんぷんと怒っていた。
住人達の陰口が聞こえてしまったのだ。大事な親友を馬鹿にされた気になってしまった少女が小さな手足をバタバタさせて、怒ってます、と表現している。
当の本人はいつもどーりだが。
「気にすんな気にすんな。わかってねぇ奴の言う事なんざ評価になんねぇよ、お互いな」
「あの方たちにはぬしちゃんの素晴らしさに気づけていないのです。後に気づいた時には、過去に発した言を悔いるでしょうね」
そう咲ちゃんをなだめるが・・・剣士とシスター達も住人達の反応に内心苛立ってはいる。
「うぃーす!サキちゃん達いるー??」
子供を中心に話込んでいる中、剣士に劣らない大きな声が教会内に響き渡る。
先ほどの住人達の方がマシなほどに無作法な能天気で明るい女性の声と共に2つの足音がドカドカと聞こえてきたのだ。
「あ!ひやけのおねえさん!」
この半月の内で見知った顔を見て咲ちゃんが手を振ろうとした、瞬間。
「さっきちゃぁあああん!!!」
女豹が獲物を捕らえるが如く、瞬く間に咲ちゃんは女性に抱き着かれていた。
長く波打つウェーブのかかった薄い橙色も目立つが、露出の多い民族衣装のように派手な水着のような服装をしており、肌色は全身褐色となっている。
家族で海へと遊びに言った時に見かけた外人さんのような筋肉質な女性に咲ちゃんは抱きしめられていた。
「び、びっくりした!」
「ああーもう肌ぷにぷに!やーわらかいほんとにもー!!何を怒ってるのかなー?」
「まーた来たのかよこいつ。山猫みてぇだな」
能天気な女声から誰かを判断し、呆れ顔で咲ちゃんのほっぺたをふにふにしだした女豹、もとい雌猫を呆れ顔で眺めていた。
「あ?赤牛は黙って引っ込んでな」
「んだとてめぇ!んな痴女みてぇな服装して来るんじゃねぇよ」
「うちとやんのかい?いい度胸じゃないか!?」
「おーいいぜ?いつものやろうじゃねーか!」
これが素の彼女だ。口が悪く、綺麗な顔が憎たらしい笑みを浮かべて挑発する様は中々絵になっており、剣士とは相性が悪いのかここに来るたびこの調子だ。
この褐色の女性は元は百傷の虎と呼ばれていた女戦士であり、その名の如く顔から足元まで体のどこかしこも傷跡ばかりで、どんなに新しく傷を負おうと依頼を遂行するとこから異名がついた。
性格は女を捨てたかのように荒く、冷たく、仲間以外には牙をむいたような態度を取るため近寄り難い腕利きの戦士・・・と思われたのが1週間前。
白髪の少女の噂を聞きつけ、治癒の奇跡によって古傷全てが消え去った途端、猫のように咲ちゃんへと懐き始めたのだ。
別に好きで傷ついてたわけでなく、むしろ体に負った傷は彼女のコンプレックスがために異名で語る周囲が気にくわなかっただけという、ただの乙女だっただけである。
今では用もないのに子供達に会いに教会に来る気のいい新しいお姉さんだ。
「うでずもう!」
「うでずもうなのか」
「「おうとも!!」」
背もたれの無い長椅子へと向かって立ち会う姿はどうみても仲は良さそうだ。
「ここは遊び場じゃないのですが・・・あなたは?」
遊びに来た褐色の彼女と一緒に来ていた熊のように大きく、肌の色黒い男が聖女の前へと立っていた。その体躯は腰に付けてる剣が小さな物に見える程にでかい。
「・・・」
「えっと・・・」
全身がごつい金属製の鎧に包まれており、外した兜が無ければ鑑賞用の鎧に見間違うほどに無口であり、無骨。強面な顔のせいもあって目の前にいるだけで威圧感は群を抜いている。
「これと・・・、あと・・・、これを・・・、子供に・・・」
熊男の右手には銅貨4枚、一緒に来たのは相方なのだろう。
そして左手には・・・食べやすく甘くておいしい事で世間に広まって来たコタコタの入った包みを差し出してきた。
「あら、うふふ。お気遣いありがとうございます。この子達と何かございましたか?」
「俺は・・・えと・・・。あいつが・・・気にしている」
「ふふ、そうでしたか!」
聖女はつい笑って応えてしまう。厳つい見た目と裏腹に、子供のお菓子を持って言い訳している姿がぎこちなく面白いのだ。
「コタコタなんだ」
「・・・!」
「あら」
先ほどまで咲ちゃんと一緒になって赤牛と女豹の腕相撲を観戦しに行っていたはずのぬしちゃんが、コタコタの気配に感付いて男の顔を真下から眺めている。
あまりの身長差で、まさに真上を眺めているのだ。
「コタコタなのか」
「お前には・・・、いや・・・。食べさせてもらえ・・・先に出ている・・・」
ぬしちゃんと距離を取ろうと熊男は手に持っていたものを押し付けるように聖女へと渡し、足早に教会外へと去っていってしまった。
でかいわりに逃げ足が早くその姿にまた笑いがこぼれてしまう。
「をことぬし、きらわれたのか」
「違いますよ。あの熊さんは照屋さんなだけです。」
「てれやさん」
包みと銅貨を受け取った彼女はコタコタを取り出して、何かの奇跡を施しぬしちゃんへと手渡す頃には腕相撲の決着がついたようだ。
「おにいさんのかち!」
旗代わり振り上げた細くてちっちゃいお手手を上げ、ちっぽけな勝利の栄光を得たのは剣士の男だ。
「っは!どーよ!!出直してくるんだなメ・ス・ネ・コ!」
「女相手に勝ち誇るなんて男として気が触れてるんじゃないかい?わーんサキちゃん!このおじさんがいじめるよー」
「え!?おにいさんおとなげない!」
「は!?ずりーぞ!なにサキに逃げてんだ!?」
立場を最大限活用したメスネコという名に違わず身軽な動きで小さな咲ちゃんの後ろに隠れ、まほうを唱えた。
「光の加護よぉ!悪しきアホからうちを守りたまえぇー!」
「え!?ふえぇ!?」
そこには大の大人相手に白髪の少女を盾にするひじょーな女がいた。道徳のある人間であれば絶大な効果を持つ子供の盾を前に剣士はたじろいでしまう。
「ぬしぃ!!こっちこい!こっち!!」
「うん」
だが、無策ではない。聖女の足元でコタコタを貪っていたぬしちゃんが剣士の元へと駆け寄り・・・その剛腕に容易く捕まった。
「ばーかめ!そんなもの闇の力で打ち砕いてくれるわぁ!」
「うちくだくのか」
今ここに、アホな大人の魔の手に操られた光と闇が衝突しようとしていたのだ。
「サキちゃん!ほっぺふにふに攻撃!」
「ほ、ほっぺ。えい!えい!」
「はぼ」
光の加護の込められた弱っちい両人差し指でぬしちゃんのぷにぷにほっぺがぐにぐにと攻撃される。
「おのれ小癪な!ぬし!くすぐりで迎え撃て!」
「がんばふ」
「ふぇ!?」
闇を力を司るちっこい両手が咲ちゃんの隙だらけな両脇へと伸ばされる。
両腕を伸ばした咲ちゃんの両脇を防ぐ手立ては、無い。
「あは!はぃぬしちゃやめ!やめふひ!ひ!」
「むふふ」
こにゃこにゃと無駄に小器用な手つきによるくすぐりは凄まじい威力を誇り光の加護は水を前にしたトイレットペーパーの如く破られる。
「すげぇ、手つきだな・・・」
「うちらがやられてもやっばいわね・・・」
やらせた本人達が引くレベルの刻みの良いくすぐりによって絶え間ない笑い声でもがく光は、闇へと吞まれてしまった。
「何やってるんですか・・・」
子供の戯れは終わる。
「サキちゃーん、元気出たぁ?」
「でない!ぷんぷんだよ!」
「そっかそっかー元気だねー」
「いじわる!」
両脇にまだくすぐられた余韻が残っているのか、腕を広げたままの咲ちゃんが怒り顔で抗議する。全然怖くない。
「ほれ、ぬし謝れ」
「ごめんなんだ」
「おにいさんがわるいの!」
「悪かったって!」
笑いながら雑な謝罪をする大人気ない筆頭に咲ちゃんあhもっとぷんぷんしてしまう。
「でー、サキちゃんなんで怒ってたの?あんたら何かしたのかい、え?」
「それがですね・・・」
聖女から事情を聞き終えた女戦士は大声で笑い飛ばした。
「あーーっはっはっは!わかってないねぇあいつらも!」
そのまま子供達の目線を合わせるためにカエルのような座り方をする彼女は黒髪の少女へと顔を向け、話す。
「ぬしちゃんの噂うちらの耳にも入ってんだけどさ、どれもこれもぜーんぶ周りの奴らが悪いんだから」
「そうなのか」
半月。
年数で言えば圧倒的に短い期間。
「金を払わない飲んだくれ、馬鹿なスリ、野郎共の喧嘩の仲裁。あんたはね、皆を守ってくれてたんだよ。あいつらは凄すぎてビビってるだけさ。自信持ちな!」
黒髪の少女、ぬしちゃんはその闇の力を持って、王国の市民街で起きた事件を尽く解決していたのだ。
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