2話 青く照らされた森の悪夢
ここはどこなんだろう?
二人はみたことのない森の中にいました。
真上には夕空が見え木々が生い茂る、恐らく森と呼ばれるであろう場所で ぬしちゃんは目覚めた。
となりでは咲ちゃんがスースーと寝息を立ててまだ寝ている。二人の寝ていたところは木の木陰となっていてお昼寝をするならちょうどいいのかもしれない場所ではあった。
ぬしちゃんは起きたものの座ったまま動こうとしない。何を考えているのかわからない顔のままいつものようにぼーっとしている。
いや、何も考えていないのだろうか。口から涎が出てきているだけで仏像のように固まっている。
少しして咲ちゃんも目が覚めたようだ。ぬしちゃんと同じように目をごしごしとこすりながらゆっくりと体を起こす。
「おはようなんだ」
「ふぇ」
ぬしちゃんが挨拶をする。まだ起きたばかりの咲ちゃんから自分が眠っていたこともわかっていないようで間の抜けた返答が返ってくる。
その瞬間、咲ちゃんは思い出したかのように慌てだした。
「ぬ、ぬしちゃんだいろうぶ!?」
寝起きのせいか舌が回っていないが、咲ちゃんはぬしちゃんを心配する。
「うん、をことぬしだいじょうぶだった」
自身ををことぬしと名乗るぬしちゃんは答えた。その答えを聞いて安堵する咲ちゃんではあったが、周囲を見渡してみる。そこは見るからに森であった。そもそもなぜ自分が眠っていたのか。
「・・・ここ、どこ?」
「わかんないんだ」
先ほどまで幼稚園から抜け出そうとして走っていたはずなのに、なぜ森で眠っていたのだろうか。
咲ちゃんが最後に覚えているのは途中でぬしちゃんと手が離れてしまってコケてしまったところまでである・・・が、痛みがあったはずのところは不思議とケガをしていなかったようだ。
思い返していくうちに黒い服のおじさんのことを思い出した。自分は眠ってしまっていたけれど、ぬしちゃんは大丈夫だったのだろうか?
「ぬしちゃん、あのくろいおじさんになにかされちゃったの?みんなぬしちゃんをわるいおばけさんとまちがえてたんだよ!ひどいよ!」
先ほどとは違いしっかり発音ができたようだ。声色から顔にいたるまで不満、不安、いろいろな気持ちが混ざったまま咲ちゃんはぬしちゃんの心配をする・・・が。
「ううん、おじさんいいひとだったんだ。をことぬしのことを生きてるっていってくれたんだ」
「えっ!?」
「おたまもなでなでしてくれたんだ。さきちゃんとおなじ、やさしいおじさん」
咲ちゃんは返ってきた言葉に驚いてしまった。
・・・自分は先生の話だけを聞いて勘違いをしたあげく、ぬしちゃんのことを信じてくれていた相手に砂までかけた上にぬしちゃんを連れて逃げ出してしまった、と。
幼い女の子でもそれがわかってしまい、咲ちゃんは
「ふぇえぇぇええ、どぉじどぉぉ」
言葉が聞き取れないほどに泣き出してしまった。
逃げていた時に考えていたことを思い出す。なんてひどいことをしたのだろう。なんてわるいことをしてしまったんだろう。どうやってあやまればいいのだろう。頭の中はもうぐちゃぐちゃである。
「・・・なかせちゃったんだ、ごめんなんだ」
「ヴぇえぇええん!」
「む・・・ごめんなんだ」
「ちぃがあヴのおお!」
「むむ・・・ごめんなんだ」
自分が泣かせてしまったのかと、となりで泣いている友達の気持ちを察することができていないぬしちゃんは咲ちゃんの背中をぽんぽんしながら謝り続けていた。
しばらくして落ち着いたのか泣き止んだようだ。
というのも、
「ど、どうしよう。よるになっちゃう」
辺りがどんどん暗くなってくる。街灯らしき物も見えない上にましてや森の中である。森とはわかっているものの、実際に入るのは初めてであり手持ちに懐中電灯などの暗闇を照らすものもない。
このままではお母さんやお父さんを心配させてしまう。しかし幼稚園はいまごろどうなっているのか、怒られてでもいいから元の場所に帰らなければいけない。
ただ、それよりも大きな問題があった。ぬしちゃんのことである。
ぬしちゃんはいつも幼稚園バスに乗らないから家族と一緒に帰ってるはず。たぶん、ぬしちゃんも困っているのではないか?
泣いている時も悪くないのにずっと「ごめんなんだ」とずっと謝ってくれた一番の友達。
泣き虫になってる場合ではない。ぬしちゃんは年長さんだけれどいつもぼーっとしてるからこのままだと危ないかもしれない。
次の春が来れば自分もわかば幼稚園の年長組になるとお母さんが言っていた。
ぬしちゃんを一緒にお家に連れて行こう。それから迷惑をかけたみんなに謝ろう。
それまで咲がしっかりしなきゃ!
咲ちゃんは小さな決意を決めた。
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まずはここから移動しなければいけない。ここがどこかはわからないけれどもしかしたら幼稚園の近くなのかもしれない。まずは一番最初に謝らないと。
「ほんとうにごめんね。咲のせいでめいわくかけちゃった」
「をことぬしだいじょうぶ」
まずは状況確認である。ぬしちゃんはここを知っているのかな?
「ここはどこなんだろう」
「ようちえんからでたことがないからわからないんだ」
そうだったんだ、と納得はしたものの、ぬしちゃんの帰り方が思いつかない。
そういえば、ほかのお友達は車でお家に帰ってくる・・・らしい子がいた気がした。それならぬしちゃんも帰り道がわからないのかもしれない。
「ぬしちゃん、いっしょに咲のおうちにいこう!ばしょはまだわからないけど・・・」
「うん、ついてくんだ」
咲ちゃんはぬしちゃんの手を繋いで歩き始めた。
さっさ さっさ さっさ・・・
二人の女の子はとにかくまっすぐ、だと思う方に歩き続けた。
周りはどこまでも森、森、森。土と草の上をとにかく歩き続けた。
が・・・
どんなに歩き続けても人がいるような場所が見つからない。辺りはもう暗くなっている。
最初は離ればなれにならないようにと繋いだ手も、今は怖さか焦りか両方か、手汗で湿ってきている。
怖い 怖い このまま帰れるのか不安ばかりが増えてくる。
不安のあまりぬしちゃんの方を見てみるが・・・いつもと変わらないぼーっとした表情だ。自分のように怖がっている様子はまるで無い。
その顔を眺めていると不思議と怖くなくなった気がする。気がするだけかもしれないけれど。
「ぬ、ぬしちゃんはくらいところはこわく・・・ないの?」
「こわくないんだ。いつもおそとでおつきさまをみてるんだ」
「おつきさま?」
と言われて空を見上げてみる。ちょうど木々が邪魔をしない開けた場所を見つけて空を見てみる。
怖さのあまりただただ突き進んでいたが、暗い中ただ一つ、月だけが明かりを照らしてくれていたことに気づいた。
しかし、気づいたのはそれだけではなかった。
月が青い?
空にはあるはずのいつもの月ではなく、青い光を照らす幻想的にも思える青い月が見えた。
黄色い月以外を見たことがなかった咲ちゃんは驚く。気にせいかもしれないがいつもの月よりも近くにあるような気もした。
「すごくあおいね!」
「あおいろ、はじめてなんだ」
咲ちゃんは少しはしゃいでしまった。いつも見ているぬしちゃんもしらないのだからこれは二人の発見である。
こんな月があったとしたら誰もが見ているではあろうが、今の咲ちゃんたちにはそこまでの理解はないだろう。
咲ちゃんは少し勇気がわいてきた。気がまぎれたのだろう。お家に帰れるような気もした。
月明りを満喫した後、二人は再び歩き出そうとした。
その時、突如妙な不安がした。
さっきまで楽しかった気がしたのに突然のことで咲ちゃんは驚く。ただ、青い月を見る前に感じてた不安とはまったく違うものであった。
ここにいたらあぶない。
急いでぬしちゃんの手を握り急ぎ足で歩きだそうとする・・・が、ぬしちゃんが動かない。どうして?
「咲ちゃん、くまさん」
「くまさん?」
ぬしちゃんが空いた手で指を指した先を見ると、距離はあるが木々の間からガザッと大きな何ががゆっくり現れるのが見え、月明りに照らされる。
テレビで熊のニュースがでるたびにお母さんたちが「怖いわね」と言っていた。絵本でもくまを見たことがあったがそれが本当の熊ではないことを教えてもらっている。
咲ちゃんは気づいた。ぬしちゃんがくまさんといったものは熊のような体躯をしているが熊ではない。
熊と間違えそうになるほど体が大きく似ているが、頭は凶暴な犬のように見える。前足には鋭い爪が見え背には尖ったコブのようなものがトサカ状にいくつもある。熊に犬の被り物をしたらこうなるのだろうか。毛皮は青と黒を混ぜたような色をしていて、目は赤い。
ただ、熊ではないが熊でも変わらないのかもしれない。
グルァオオオオオオオオンッ!!!
幼い女の子からしてみたら、どっちも凶悪なのは変わらないのだから。
「ヒぅ・・・っ!!!?」
「む」
犬とも熊とも思えない轟々とした鳴き声と同時に体が震えあがり、声にならない悲鳴をあげ涙目になる。背筋が不気味なくらい冷たく感じる。辺りは寒くも冷たくもないのに氷をぶつけられたような嫌な感覚。
たった一度、砂を投げた事でしか抵抗したことのない女の子に相対する勇気などあるわけがない
ぬしちゃんの手を握り化け物とは反対方向に全速力で逃げ出した。
やだ
やだやだ
やだやだやだやだ!!おかあさんおとうさんおうちかえりたいたすけて!!
お家に帰りたい。ご飯が食べたい。布団で寝たい。甘えたい。遊びたい。なでてほしい。だっこしてほしい。おんぶしてほしい。
今してほしいことを咲ちゃんはやってほしいことで頭が埋め尽くされ、森の中ということが抜けていた。そんな状況ではないと本能でわかってはいるのに、その思いを止めることができない。
後ろの方から草や枝を折るような音とドスンドスンと足音のようなものが聞こえてくる。
さっきまでは距離があったが、音が少しずつ近づいてくる。
今年の4月に5歳になった程度の女の子の足などどう周りに褒められてようが、差など端数でしかないのだ。二人の足並みは遅い。
それでも必死に走り頭の中がごちゃごちゃな中、お母さんが作ってくれたハンバーグやステーキを思い出した。なぜ自分は平気で笑顔で美味しそうに食べていられたのかわからなくなった。
食べられる前はみんなこんな気持ちだったとでもいうのか。
涙も鼻水も止まらない。胸がどんどん苦しくなってくる。緊張のしすぎで呼吸はもう、どうなのかわからない。周りは木に囲まれて真っ暗でもう何が何かわからない。足が、痛い。
嫌な事は続くものだ。
足に何に引っかかったのか、咲ちゃんの態勢は崩れる。
あっ・・・!!と足が地から離れ、ぬしちゃんとも繋いでいた手が離れてしまった。
咲ちゃんにとって心の命綱が絶たれてしまう。
胸の中は闇のように黒い物で埋め尽くされる。
幼い子供にそれが絶望であることが理解はできる未来がくるのか。ぬしちゃんと家に行くこともできないのか。
木、草、土、ただでさえ暗くて見えないのに涙でもう、わからない。
女の子は、そのまま倒れ・・・なかった。
グイッと驚くほど強い力で手首を引っ張り上げられたのだ。捕まってしまったのかと心臓がドクンとなり目を瞑る。
「にげればいいのか」
声に驚いて目を開けてみたが確認する間もなく体が上にピョンと浮いた。いや、投げられたのか?あまりのことに頭がぜんぜん追いつかない。
当然浮けば落ちるのであって、そのまま咲ちゃんの体は何かに乗っかったのだ。ひぅ!と間抜けな声が出る。ただ・・・その感触は柔らかく温かく、小さい。
あろうことか、ぬしちゃんに背中でおぶられていたのだ。
いわゆる、園児同士のおんぶである。
その小さな体でどうやって重心を支えてるのか。体格もほとんど変わらないので頭と頭がぶつかりそうである。だがその表情はいつものぼーっとした顔のぬしちゃんである。
「えぇえっ!?ゔ、うん!」
ようやく状況に追いついたのか咲ちゃんは涙目になった目をぱちくりさせながらウンウンとうなずく。
その瞬間
ダダダダダダダダダダッ!!!
地震が起きた。いや、揺れているのは咲ちゃんだけである。
体が小刻みに揺れるほどの速度でぬしちゃんが走っているのである。おんぶをしながらだというのに運動会の時のお父さんたちよりも早い。
歩幅が狭いせいで足が尋常ではないくらい早いせいで妙に揺れていたのだ。
やっぱりぬしちゃんはすごい。
泣いてる場合じゃない。
少しでも前を見て何か見つけなきゃ。
「ぬじちゃんがんばっでっ!!」
「がんばる」
小さな背中から無くなりかけてた勇気をもらい、後ろから迫りくる音から離れるように二人は森の中を駆けていく。
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走る。走る。走る。とにかく走る。草木を避けながら、咲ちゃんにぶつからないようにしながらの全力疾走。数分も時間が経っていないが時間が長く感じる。
背中に乗っていた咲ちゃんは気づいた。ぬしちゃんの背中から聞こえてくる荒い息遣い。
無理もない。
いくら足が速かろうと、力があろうと、同じ重さの友達をおぶりながら走るのだ。
足音は遠く離れた気がするが、まだ追ってきている。
早く逃げ切らなければ、まずい。
その時、周囲を必死で眺めていた咲ちゃんは木々の隙間から青い月明りに照らされた縦に長い何かが見えた。先端に十字のついた建物が、見えた!
「ひだり!!おうちがある!!」
「うん」
言われた通りに左に走る。走る。走る。そして開けた場所飛び出した。石でできているであろう囲いの中に大きな建物がそこにある。
それは大きく古臭い感じがするが手入れのされた、教会という言葉にふさわしい建物であった。明かりもまだついている。
咲ちゃんたちには大きなお家としかわからないが、そんなのは関係がない。とにかくどこかに隠れたい。
囲いの中に向かってぬしちゃんは向かう。
走る。走る。走る。
あと少しで入り口までいけそうだ。
が、咲ちゃんは妙な不安を感じる。まただ。化け物が出てくる直前に感じた嫌な感じ。
おんぶをされていた咲ちゃんは自分たちが来た方に振り向く。
何か大きなものが枝がいくつも折れる音をだしながら勢いよく飛んできた。
「だめっ!!!」
咲ちゃんはぬしちゃんを肩から思いっきり横へと引っ張る。走っていたところ重心が左に崩れて二人はその場で転んでしまう。
すれすれで大きな何かが横切り石の囲いにガゴッと大きな音を立てぶつかる。
危なかった。それはへし折れた大木。
なぜ飛んできたかは言うまでもなかった。あの化け物が木々を荒々しくかき分け現れる。
「いだぃ・・・」
「ふぁぃう」
ぬしちゃんもそうだが、おんぶをされていた咲ちゃんは地面に体を強く打ち付けられてしまった。頭も体も疲れた足も痛くて止まっていた涙がまた溢れてくる。
かなり息は荒いがぬしちゃんはまだ動けた。咲ちゃんの手をつかみ立たせる。体の節々に痛みが走るがそれでも二人はまた手を繋ぎ走る。
咲ちゃんたちの足取りは遅い。折れているとはいえ大木を投げてくるような化け物を相手に今の遅れは致命的ともいえた。
今の状況を例えるのなら、目を隠さない鬼がいるかくれんぼである。
かくれんぼとは最初に鬼が見ていないから成立するのである。初めから姿を見られている状態で隠れたとしてそれはかくれんぼではない。
見つかったら終わる鬼ごっこである。
それができない今、仮にこのまま家主と会えたところであんなのを相手にできるのかわからない。
足が痛い。ケガに慣れていない咲ちゃんの足から血が流れていた。離れいていたはずの足音がどんどん迫ってくる。
こわい
こわいこわい
絶望的な状況の中、咲ちゃんにとって考えもつかない事態が起きた。
ぬしちゃんが咲ちゃんの手を放してしまったのだ。驚いて咲ちゃんが足を止めてしまう
どうして?と思ったが、ぬしちゃんは壁にぶつかりそのまま落ちていた大木に近づき突然を何か探し出す。いや、探すというより割れて飛び散っている木の破片や枝を選んでいた。
「つぎは、をことぬしがまもる」
ぬしちゃんが木の木の破片を握りしめ、化け物に向かって走り出してしまったのだ。
「だめ!いっちゃだめ!!」
痛みの中、必死に絞り出した声でぬしちゃんを止める。だが止まらない。
だめ 止まって やだ やだ やだ 食べられちゃう!!
そんなちっぽけなものでどうしようというのか。
突っ込んでくるトラックを相手に女の子が爪楊枝で迎え撃つようなものである。
食べられてしまう。誰が?
ここまで自分と同じ小さな体で運んでくれた。
葉で切れてしまったのか擦り傷切り傷アザだらけの足でここまで連れてきてくれた。
こんどは助けるためと武器とはいえない武器を持って立ち向かっていくという。
世界で一番の友達が。
そんなのは嫌だ。絶対に嫌だ。
体が追い付かない、ぬしちゃんの足が速すぎる。
行かないで。そう願ったところで何も変わらない。
小さな女の子と巨体がぶつかりそうになる。化け物はその太い筋肉の塊のような前足を振り上げた。
「だめぇえええええええええええええ!!!!」
叫びと共に不思議なことが起こった。
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少女、咲ちゃんを中心に閃光が辺りを照らす。
照らすなんて優しいものではない。それは、太陽を直視したかのような白だ。直視できないほどに。
ぬしちゃんは背を向けていたからか、ただ眩しいだけであった。
では化け物はどうか?
ギャウンッッ!!?と犬の悲鳴を鈍くしたような鳴き声と同時に、振り上げた前足が引っ込んで目を抑えている。
月明りがあるとはいえこんな暗闇の中、小さな女の子二人に目掛けて大木を投げつけてくるような相手である。夜目が利くのが仇となったのだ。
化け物の動きが鈍る。ぬしちゃんは木の破片を力強く振り上げ、勢いよく下ろした。
果たしてそれは正しい行動と言えるのか。
木の破片ごとき、その化け物の体を傷つけることなど控えめに言っても、無理だ。
振り下ろした破片が化け物に当たった、直後。
ボウッ!!と音を立て不気味なことが起こった。
破片のぶつかったところに黒より明るい紫色をまき散らす。
闇の爆発とでもいうべきか。
爆発というが風圧など熱さも感じない。だが異変が起こる。
ギャルルるうるうウウウ!!??
化け物はのたうち回ったのだ。外傷は全く無いにも関わらず、その毛皮に火でもあぶられたかのように苦しみだす。目を光やられ、正体不明の闇に当てられ、化け物と言われた巨体はパニックに陥った。
が、苦しさのあまりに振り回した狙いのつけていない前足が、不幸にもぬしちゃんに当たってしまった。
「・・・!!」
その軽い小さな体が斜めに打ち上げられ、地面にたたきつけられゴロゴロと転がる。幸いにも鋭い爪には当たらず、裏手ではじく様に飛ばされただけだが、地面に落ちた衝撃が痛い。
ぬしちゃんが痛みで顔をゆがめた。目を開けたその先に、気を失っているのか咲ちゃんが倒れている。
咲ちゃんと手を離した場所に戻されたようだ。
だが、まだ助かってなどはいない。
よくわからないがあのくまさんは苦しんでいる。
体はビリビリしてどうなってるのかわからないけれど、まだ動ける。
がんばれる。
動いて、がんばれば、守れる。
弱ってはいるようだが化け物が近づいてくる。あまりの出来事に警戒をしているのか動きは遅い。
ぬしちゃんはヨロヨロと立ち上がり、近くに落ちていたものを化け物に向かって投げる。
投げたそれは、ただの石ころ。見た目以上に力はあるぬしちゃんではあるが、そのボロボロの体ではとても力が入らない。
化け物には届かない。それでも。
それでも、咲ちゃんを背にして、また石を投げる。
今までトラックのように突っ込んできたはずの化け物に変化があった。
投げて落ちた石よりこちらに来ないのである。
それに気づかないまま、石を見つけては投げる。
化け物が届かないはずの石を逃げるよう後ろに避ける。
確定的であった。明らかにぬしちゃんの石を避けている。
その時であった。木々の中から物凄い速さで化け物へと走る姿が見えた。
フードのようなものを被って誰だかわからない。
その手には、おもちゃでしか見たことがないが大きな剣を構えていた。
「その子にっ!!近寄るなっっ!!!」
叫び声から大人の男であった。その速度を利用して化け物の腕を切り落とし、頭に剣を突き刺したのである。鋭い切れ味だ
ぬしちゃんに気を取られていた上に弱った化け物は逃れることができなかった。
思わぬ人物の登場により、声を上げることもできず、化け物は絶命したのだ。