11話 明日への準備と三色会議
何が正解か 何が間違いか
結論が出る時もあれば
わからない時もあり
気が変わる時もある
何をするも 何を考えるかも
心の準備を要することではないだろうか
何よりも『必要』なのである
「ぼうけん!おそとでるの!?」
古いが安い家の中で女の子の好奇心に満ちた声が響く。
「そうそう!古ーい遺跡なんだけど、ここにサキちゃんたち置いてけないしねー」
「いせき」
「単純に言えば昔の人が作った建物ってところだな。役場の依頼で、そこのねずみ退治があったから向かうところだ」
ソファに並んで座っている2人の女の子に答えたのはテーブルを挟んで床に座る風使いの女性に・・・同じように床に座る安い仕事は受けれて助かったとぼやく剣士の男だ。
「いせきってだれかのおうちなの?どんなところにあるの?」
どんな建物なのか?誰か住んでいるのか?咲ちゃんの好奇心は尽きない。
ここ数日過ごしてきてわかったことで、この国は絵本の世界のように非現実めいていてどこもかしこも未知ばかりなのだ。
そして王国の外へ冒険に出ると切り出されたのだ。5歳の女の子の胸はワクワクが止まらない。
相棒はいつもと変わらないが。
夢いっぱいの女の子の興奮を抑えるかのように、腕を組み壁にもたれ掛かっていた弓使いの男が説明を始める。
「その遺跡は3年ほど前に紫色に輝く巨大な宝石が取れると騒がれていたらしいが、残骸のような物が見つかったものの それ以降は発見されていなくてな」
「ほうせき。きらきらなのか」
「きらきらっというか、すっごく丈夫なのに剣みたいに鋭くて、・・・なんだろ?岩?見た事ないけど」
「俺は水晶って聞いたぞ?全然透けてないらしいけどな。飾るよりは俺らの持ってる装備に使えそうだわな」
風使いと剣士の説明からして、大人たちがネックレスや指輪にしているような宝石ではないようだ。
遺跡には昔、武器になりそうな希少な宝石があり、今は見つからない。
それがネズミ退治とどう繋がるのか?弓使いが指を鳴らし「続けるぞ」とジェスチャーだ。
キザっぽく見えなくもないが、板についているのでそこまで気にならず話は続く。
「その話が持ち上がって今まで音沙汰はないが、王国に近いこともあって国が管理することになった。限りなく優先度は低いが」
「3年たっても情報無し、徒歩でずぅーっと歩き続けて1日、途中で野営も考慮するから行きで1日半と微妙な距離。かといって知らない内に宝石を取り荒らされても腹立つから国で管理。やっぱり手間だから俺らみたいな下の人間にやらせよう、以上!」
「おい」
また説明に割り込んできた出しゃばりに弓使いが恨めしそうに睨む。
その説明に間違いがあれば文句も言いたくなるが、どれも合っていた。
「なんか・・・じみなんだね」
「い、いま受けれる依頼がこれしかなかったんだよ!悪いか!?」
慣れたと思っていたが、やっぱり胸が痛い。
白髪の女の子の評価に言葉に剣士が口で言い訳をする。
「地味なのあたしだけじゃなかったね。あーよかった」
「お前なんて二重じゃねえか」
「うるっさいわね!というかサキちゃん変な言葉覚えたのトンガリのせいでしょ!」
「トンガリいうな。俺では・・・いや」
「言ってたろ」
「・・・すまん」
風使いの自虐になりかねない追い打ちを剣士が浴び、弓使いが過去の言動に後悔しだす。
間違えてはいないのに間違えたような感覚に咲ちゃんは少しワタワタと大人3人に目移りしてるかのように首を向ける。
「ぬしちゃん、咲 へんなこといっちゃったのかな・・・」
『地味』
ここぞと使ったばかりの言葉はどうやら悪口の類らしい。
華やかさがなく目立たない。そう考えると、悪口っぽく聞こえ、ぬしちゃんに聞いてみたが、変に落ち込みだした3人組に向かって人差し指を指した黒髪の相棒は、告げた。
「じみが3にん。じみーさん」
「てめぇの分のコタコタ抜くぞおら!!あ!?」
「こまった」
「ぜってぇ困ってねぇだろ!!」
「そうなのか」
「お前に聞いてんだよ黒いの!?」
うん 悪口で間違いない、今後間違えないようにと咲ちゃんは ぬしちゃんを見て学ぶ。
「ちょちょ!子供なんだから仕方ないでしょーが!」
「っ・・・くそっ!後で覚えとけよ黒いの!」
「口には気を付けるか・・・」
このリーダーは人相も言動もその赤い鎧のように どうも怒りっぽい。ただ、不思議と怖くは感じない。
その怒りを抑えるのは風っ子と言われる風使いだ。目に薄くクマができて疲れているように見えるが、けっこう元気。
抜けてるところもあるように見えるが、とても冷静でたぶん、頼りになる弓使いのおじさん。
そうか、弓・・・。
誰かの視線に気づいた弓使いは当人へと顔を向ける。
「・・・?サキ、どうかしたのか」
「えっと・・・だいじょうぶ!」
何かを聞こうとしたのか気になったが、風使いが両手で弓使いを指さし、茶化す。
「地味って言ったのトンガリだもんね、気になるよねー」
「そーだそーだ、お前のせいだ。俺まで言われちまったろ」
「うるさい。・・・謝っただろう」
不安が胸の内にあったが、たぶん大丈夫な人だろう。
質問という談笑を終え、地味な依頼もとい冒険に出るのは明日の朝早くに出発となった。
------------
剣士、風使い、弓使いの3人が借りていた家は、正直言って古い感じがする。
外装は黄土色のレンガと茶色の屋根でできていて、周りの家と比べても、ちょっとだけ小さい。
入口の扉を開けて中に入ればすぐキッチン付きのリビングがあり、部屋が3つに分かれている。それぞれ物置、寝室、たぶんお風呂場だ。
てっきり修道院だけかと思っていたのに、この国もお風呂に入らず、水を沸かしてお湯を体にかけて、おわり。この家もトイレが外にあってちょっと不便。
寝室はとても狭く、ベッドとタンスやら小物やらでごちゃごちゃ。今までは風使いのお姉さんが1人で使っていたけれど、今では自分とぬしちゃんも仲間入り。
剣士のお兄さんはソファで、弓使いのおじさんは寝袋か掛布団を使ってリビングで寝ていて、可哀そうに見えてしまう。
でも、そのどれもがこの国に住んでる人にとって普通なことで、お風呂に入るのも、自分だけの部屋があるのも、そう。
今まで当たり前にしていた事が剣士のお兄さんから、
(お前ってやっぱりお嬢様だったんじゃねえの?)
自分が普通だと思い込んでいた事は普通ではなくて、このお家のような生活がどこにでもあるのが普通だと聞かされた。
修道院の人たちからも色々教えてもらったつもりだったのに、まだまだ、まだまだ知らない事がいっぱいあった。
------------
明朝になればこの王国とは3、4日は離れることになる。
夜遅くなり、子供たちが寝静まった後、3人組は装備や荷物の点検を行っていた。
ソファとテーブルは壁側に寄せられ、室内はランプによる明かりが二つ分用意されている。
男2人はブーツや鎧、ベルトに自身の装備の点検。女は薬品や食材に道具の準備、袋や雑嚢カバンに解れがないかの確認だ。
久しぶりに仕事にありつけたのだ。ただの害獣退治ではあるが、念には念を入れるべきである。
というのも
「ねぇ、ほんとにあの子たち連れてくの?」
そう、子供連れなのだ。害獣退治だからといって誰が考えても、危険すぎる。
「つってもしゃーねえだろ?家に置いてけねぇし・・・」
「今からでも、さ。教会に謝りに行った方がよくない?」
「・・・」
3人のこの問答は2人の女の子を無許可で預かってからもう何度もしてきた。それでも、ハッキリした答えが見つからないまま今に至る。
とくに風使いが一番気にしている。
「ほ、ほら。迷子を見つけましたよーって行けば、いいじゃん?」
「わかって言ってんだろ?それ」
「そー・・・なんだけど、さ・・・大丈夫かな」
風使いが臆病風に吹かれている、などと茶化すつもりは男2人にはない。明るい雰囲気で突っかかってくるクセに内心では人一倍ビビりな女性、それが風っ子という女性だ。
「・・・本音言うとな、すげぇ馬鹿やってるなって思ってるよ。リーダー失格だな」
「あたしたち、やばいことしてるよね・・・」
「俺が、だよ。ただ、やるからには引き下がれねぇ。依頼を小さいのが1つ、もしかしたら・・・でかいのが1つな」
剣士の男は2枚の羊皮紙を取り出し、床へ並べた。前者は遺跡に表れているであろう害獣駆除の依頼書だ。
前者の依頼書は字が丁寧であり、報酬は討伐数によって変わるが大きく見積もっても銀貨3枚だろうか。手間賃を考えれば、5人の内子供2人と考えるとキツい。
あれから生活費用と旅支度で銅貨と銀貨も若干使っている。これからは多少抑える事はできても、つらい。
買ってばかりではなく、この旅で獣狩りもせねばならない。
ではもう1つはというと、弓使いが称賛する。
「あの歳で文字が書けるとは、驚いたな」
正直に言って字は綺麗とは言えない。というより書き方を大いに間違っておりこの世界の文字を大きくしたせいで文字を無理矢理収まり切るようにしてやっとだ。
「そうそう!すごいよね。あたしが書けるようになったの11の時だし」
「俺なんか覚えるのに1年かかったぜ?どうよ」
「自慢にならん。サキを敬え、馬鹿リーダー」
「ち、ちげーよ。ったく」
子供が書いたとしか思えない雑な書き方ではあるが、この3人がその依頼書を貶すような事はない。
5歳の女の子が修道院生活の中で魔法文字を覚えきった白髪の女の子が、形だけでもと書かせた依頼。
『さきたちの おうちを さがしてください』
隅っこに可愛いウサギのマーク付きであり、このような一般家庭の伝言レベルの依頼書は役場やどこの店でも見たことがない。
報酬も書かれていないその羊皮紙の裏を見れば、なんとまあ、ニコニコしている男2人、間に挟まれて女が1人、帽子をかぶった女の子2人は咲ちゃんとぬしちゃんか。
5歳の女の子2人の合作の評価はというと、特徴は・・・とりあえず捉えている程度だが、熱もないのに温かさを感じる。
「こんなに髪の毛ツンツンしてたか?トゲじゃねぇか」
「あたしの頭の・・・クルクルは何?」
「風だ風だ言ってたから、それであろう?いい表現だ」
「あんたらのせいでしょ!なんであんたは尖がってないのよ」
「そこまで尖ってないって事になるのではないか?」
「ってその流れだと、俺がトンガリになんぞ」
各々が思い思いの感想を述べる。絵の意図なぞ描いた本人にしかわからないであろうが、それを考えて楽しむ特権は見る側にある。
「文字だけどさ、もしかしてこれ、世界最年少だったりして・・・!?」
「湯浴びの件といい、さぞや良家の才女であったのだろう」
「違ぇねえな。魔法文字ってのはあれだろ?才能で差がつくって聞くからな」
『魔法文字』
端的に言えば魔力の込められた文字ではあるが、そこまで大層な事ではなく、いつの頃からかわからないが世界で使われ共通された普通の文字だ。
大きく特徴を上げるのなら、魔力を有している一般の人間であれば 字や言葉を覚えておらずとも文字の形は理解することができ、魔力を有していない獣の類には文字どころか存在すら判別がつかないわけだ。
さらに魔力が原因であるのだろうが、この文字の習熟には本人の有している魔力と才能に大きく左右される不思議な仕組みがあり、今まで聞いた話でも最短で8歳の子供と聞く。それも完全に理解するまでに半年だそうだ。
「というか今の時点で何か魔法も使えるんでしょ?やばくない?国宝級じゃない?」
「そこまでかよ・・・親はどうしてんだろうな」
「貴族の子で間違いないだろうからな。ニホンという国でも大騒ぎになっているのだろうか」
この場で魔法への理解の深い風使いにはその脅威的な素質がわかる。
5歳の子供が話が本当ならや約9日で覚えきったのなどと聞いただけで耳を疑う話であった。
親という話でもう1人の子について剣士は2人に話を振る。
「親、といえばだ。黒いのの話聞いたか?」
をことぬし という珍妙な名前の黒髪の女の子のことだ。
「親無し子なんだっけ・・・名前がわからないって、どんな状況だったんだろ・・・」
「知恵遅れのようにも思える。言って理解できるとは、思わないが」
元来『名前』というのは大きな力が働いているとその昔、教会に努めていた女性が偶然にも発見したそうだ。それも50年前と歴史的に最近の話でもある。
親無し子とは親がいないというだけの意味ではなく、子供が何らかの理由で名付けなれないまま成長してしまった子供の事を指す。
名付ける側と名受ける側が理解した上で成り立つ一種の見えない儀式を行い、それが『名前』と成り立つ・・・らしい。
重要な点として挙げるのならば、生まれたばかりの赤子には悩む頭がないため染み込むように受け入れてくれるため、仮に過程で偽名を使ったとしても本名を欠片でも覚えている限り一般の人と変わりない。
つまるところ、本人が忘れてようが深層意識に名前を刷り込まれてさえいれば親無し子がいない、などと言う事はありえない。
仮に生まれた直後に名付けられなくとも、運よく通りすがりの誰かに名付けを名受けさえすれば問題なく『名前』は成立する。
「白いのはともかく、黒いのは魔法が使えないわな」
「そう。あたしの使う魔術もだけど、いくら魔力があっても名前がわかってないと使えないって教わったよ」
名前とは鍵であり 内包する力を魔力という。鍵が違えば当然鍵穴は合わない。
をことぬし などという誰に聞かされたかわからない名前が憑く前に、本当の名前がある。
2人の女の子の事情と話をまとめた結果、これがわかった。
「つっても、親無し子なんて初めて見たぜ?」
「あたしも話でしか聞いた事なかったけど・・・それでも普通の子供っぽいよね」
「白いのに言われなかったら気づかんかったわ。口はある意味達者だけどな」
「ぶふっ。そーねーみんなジミーだもんねー」
「えーーへいへい!お前明日疲れてもおぶってやんねぇぞ」
「・・・」
いつの間にか作業の手が止まっている剣士と風使いの2人が話し合う中、同じくてを止めて1人考え込んでいる男に気がつく。
「ん、どうしたよトンガリ?しかめっ面してると老けるぞ」
「うるさい。山賊の件だ」
山賊。咲ちゃんの話であった話だ。結局本人たちに聞いても、まほう、がんばった、なげた、などと曖昧の度を通りこして現実味がわかず後にしたままであった。
「昔の伝で衛兵や宿屋の食堂の連中に話が聞けた」
「ちょうどいいわな、今聞くぜ」
「あたしも」
3人はリビングの家具類を使わず床に紙、羽ペンを置きそれを囲うように座り直した。
弓使いは片膝をつく様座りに、他2人は胡坐をかいて話を聞く態勢を取る様はこの3人にとって情報をまとめる恒例行事だ。
「まず捕らえた山賊についての御触れが出ている」
「布告が出たのか。つっても3日も経ってるのに情報おせーよな。こーれだから王国の貴族共は遅いのなんの」
「どーせ受刑までの日数とか、そんなところでしょ」
王国に対しての剣士と風使いの評価は低い。剣士は苛立ったように胡坐をついた態勢のまま膝に肘をのせ手を頭を乗せ、風使いは人差し指を使い髪をクルクル回して何かを考える様子だ。
「それがな、逆だ。もうすでに処刑されている」
「「は?」」
狙ってもないのに合わせた口を見て、弓使いは息をゆっくりと吹き出す。そうだよな、そう声にだすかのように。
「いやいや、早すぎない?紙かなんかあるでしょ」
「見せてみろ」
弓使いが2人に差し出した紙を1つしかない本を2人で読むかのように男女がのぞき込み、書かれていた文字を目で追う。
『この者ら 強奪 殺害 及び王国民 近隣住民への損害 数多の犯した罪は重く 早急に刑を下した事を ここに記す』
「役場には詳しく書かれた羊皮紙が先日出ていてな。メモを取ってある」
懐から慣れた手つきで のぞき込んでいた2人に向けてスッとメモ紙を2枚滑らせるように差し出す。
1枚目
『王国、帝国の間にある森に立つ修道院にて修道女らの多大な協力の下、賊を確保。賊の所持品にて被害届にも有す数多くの盗品を確認。修道院内にて修道女らへ暴行に 女児の殺人未遂の報告有。女児は修道女らの奇跡により生存を確認、重症を免れた』
そして2枚目
『賊は修道女らの助力により意識が無いままであったが、過去に犯したであろう罪も含め行いは非常に重く、目覚めた今後の危険性を考慮し早急に刑に処す事に決定に理解を頂きたい。なお、届け出を出されたものは・・・』
とりあえずではあるが、剣士にとっては納得できる内容であったため、少し肩の荷が下りたようだ。
悪人なぞとっとと死んでしまえと。
「へぇ、やるじゃん・・・どうした?」
どうしたと剣士の声の先にはランプに照らされていてもわかるほど少し青ざめたような顔をした風使いの姿。
「・・・ごめん、大丈夫。たぶん、ここに書かれてる女児
ってぬしちゃん達のことだよね」
恐らく、というより確定だろう。意識がないまま、という所も気にはなるが、咲ちゃんの話と一致していた。
だが、それなら?いや、そうだ。
「ぬしちゃんたちを服を脱がした時に見ちゃったけどさ、頭に傷もあって、足に矢が刺さった跡が・・・あったんだよね」
「っ!?」
「・・・なぜ、早く言わなかった」
青ざめる風使い。言葉の詰まる剣士。そして、声色の低くる弓使い。
「だ、だって!女の子だし!まだ5歳だよ?怒ることないでしょ!!」
「違う!いや・・・すまん。お前にじゃない」
「あーそうだ。処刑されて正解だよ、っくそが」
「ご、ごめん」
ここにいる誰にでもない、今はすでに亡い憎たらしい賊に怒りで支配される。
いくら落ちぶれてもここまで道を外す事など到底できない。
しかし、賊について疑問も生まれる。
剣士の名の如く、話を切り出した。
「納得はできたが、クソどもから話は聞けたとかーそんな話はないのか?」
「情報の通りであれば意識の無いまま処断、つまり確認を取る前に行ったことになるが、衛兵からは話を聞くことができなかった」
「それさ、おかしくない?もっと聞き出したらほら、アジトとかあったかもだし」
確たる証拠が揃っているから行ったにせよ、聴取しないのは問題である。
今ここにいる3人で無くとも、役場にあるこの文面を見て多少疑念を思う者もいるだろう。
とはいえ、紙だけの内容がそのままの通りであれば致し方もないのもあるが、意識がないままというのも引っかかる。
何か、急かしているような。
「ぬしの持っていたメダルは誰の物だろうか?」
「あ、そういえば」
さらに別の問題。3神を象った宝石のようなメダルは誰の物だろうか。
「届け出にも出されているのだろうか?下手に聞いて足がついても厄介なことにならないか?」
「もしかしたら帝国の・・・とかかも?」
「まさか、これ届けたら、俺ら捕まるとか・・・無いよな」
風が吹いてるわけでもないのに、部屋が寒くなったかのような感触に3人は襲われる。
信用の無い今、変な噂でも流れたら今度こそ冒険家など夢のまた夢で終わる。
金貨に目途がつかない限りは見当も予想もつかない手のつけようが無い問題だ。
「・・・っと、作業止まってたわ。とにかく、明日の準備だ」
実際に忘れていたのか、空気を変えたかったのか。剣士は話は終わったとばかりに作業をへ戻ろうとする。
「あ、あたしも!」
「なるようになるしかないな」
便乗するかのように風使い、弓使いの男女も元の場所へと移る。まだ謎だらけのままではあるが、話し込んでは明日に響いてしまう。
「とにかく、終わったらとっとと寝るぞ」
「わかってるわよ」
「ああ」
各々が考えを巡らせながら黙々と作業は進む。
------------
小さな窓から見える青い月の光しか明かりが無い中、女性ものばかりが散らばっている寝室のベッドの上で咲ちゃんとぬしちゃんは横になる。
明日に備えて早めに寝室で眠るように!とのことだ。
2人でベッドの上に転がって、後から来るかもしれないお姉さんの寝る場所を外側に空け、布団をかぶっている。
「あした、ぼうけんだね!」
「うん」
「ここにくるとき、おそとあんまりみれなかったよね」
「そんなきがするんだ」
隠れて荷馬車に乘ったものの、木箱に紛れて隠れる事で頭がいっぱいだったあの時とは違う。修道院でも歩いたのは囲いの中で外は危険だからと厠以外で行かせてくれなかった。
王国についてからも建物ばかりに夢中であったし、家を探すのを手伝ってくれる3人に連いていってからは・・・コソコソしていて外にはあまり出してくれない。
「おうち、みつかるのかな」
「がんばる」
「・・・ぬしちゃん」
「む」
咲ちゃんはぬしちゃんの手を握った。最近は寝ている時にお姉さんも一緒に真ん中で寝ていてしていなかった気がする。
お姉さんができたと考えたら少し嬉しくなって眠れていたが、やっぱり同じ大きさの柔らかいぬしちゃんの手を握る時が、咲ちゃんにとって一番安心ができた。
「・・・その、えっと、ね」
「うん」
「まえにごはんをたべてたときだけど、ね」
「うん」
「シチュー、咲にくれようとしたのに・・・ごめんね」
「ふぁぃう」
・・・
青い月明りが小さな窓から差し込む中、部屋の中は沈黙で包まれる。
それでも握った手は離さない。沈黙を切ったのは、ぬしちゃんだ。
「をことぬしは」
「うん」
「おかあさんが、わからない」
「・・・うん」
親がいないとわかっていたのに、自分はなんてわがままを言ったのか。ぬしちゃんがお母さんのシチューの事などわかるわけないじゃないか。
今でこそ握っているが、その優しい手を叩いた自分はただのお馬鹿さんだ。
幼いながらに悔やむ咲ちゃんを気にせず、ぬしちゃんは続けて話す。
「おかあさんのシチューは、おいしいのか」
「・・・うん!おいしいよ」
それなら・・・と、たどたどしい いつも口調のぬしちゃんは咲ちゃんに伝える。
「をことぬしも、おかあさんのシチューを、たべてみたいんだ」
「・・・!いっしょにおうちにかえったらつくってもらう!」
「これも、やくそく」
「うん!やくそく!」
一緒にお家に帰る。それとはもう1つの約束。
お家についたら一緒にお母さんのシチューを食べよう。
寝たまま、指切りげんまんで小さな誓いを交わす。
今の2人ならなんでもできそうだ。そんな気にさえなってくる。
お互いの体温で温まったベッドと布団に包まれて、明日へのワクワクを胸に秘めたまま、夢の中で明日への準備に入りこんだ。





