表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 ツイン園児ぇる  作者: をぬし
第二章 未知満たす冒険
13/128

10話 懐の在処

店へ舞い降りたのは天使だろうか

剣 杖 弓の3人組は2人の女の子の到来に救われる


しかし 喜びのあまり気づかなかったのだろう

黒髪の女の子は 思いのほか手癖が悪い


「うっっはああーーー!!うめぇ!まじでうめぇ!」

「うんうんうん!美味ひぃよぉ・・・!」

「・・・」


 王国でも安価で飲食と宿泊ができることで有名な店で晩餐でもしているのだろうか。歓喜に震える2人の男女がいた。

 店内のテーブルの1つを5人が囲み食事をしている。赤い鎧の剣士、緑色のローブの杖使い、青が主体の皮鎧の弓使い、黄色い帽子にピンクの服を着た5歳の女の子2人だ。


「・・・おじさんたち、すごくおなかすいてたんだね」

「をことぬしは、わかるんだ。ごはんはおいしい」

「あいつらが頼んだ後に言うのもなんだが、・・・すまんな」


 剣士の男は一度王国の役場へ行き、ぬしちゃんの持っていた金貨1枚を銀貨と銅貨と交換した後にまた戻ってきた。そして今に至る。

 ケチ臭さが残ってるのか1品ごとに大盛りで頼み、それを5人でつまむように食べている。


「ほんどっ!まじでっ!ありがどな!!」

「いぎでてよがったぁー!!」

「・・・本当に、すまん」


「ぬ、ぬしちゃん、だいじょうぶだよね」

「をことぬしもたべるんだ」


 金貨を交換して食事を注文するまでの速さが尋常でなかった剣士は泣きそうになりながらバクバクと机に並んだ調理された食べ物を口に運んでいく。どれだけ腹が減っていたのか。

 少し前まで1人先にコタコタを食べていた杖使いは、泣きそう、どころか泣いている。さっきまでヘラヘラ笑っていたのにまともに食事が取れた途端彼女は変貌した。それだけ腹が減っていたのか。

 お礼を言いながら美味しそうに食べる2人とは違い女の子2人に申し訳なさそうに食事をつまんでいく弓使い。分け皿を用意し咲ちゃんとぬしちゃんに合いそうな食べ物を選び運んでくれている。心無しかつまむ速度が速いのは、彼も腹が減っていたのだろう。


 ぬしちゃんが持っていた金貨を使い彼らは食事をしていた。5歳の子供が圧倒されるほどに、それはもう美味しそうだ。


 いや、圧倒されているのは咲ちゃんだけか。ぬしちゃんはいつもと違う食事をいつもと変わらない様子で食べている。


 出ている食事は果物や野菜の盛り合わせ、クリームシチュー、野菜を挟んだりシチューにつけて食べるためのパン、それらの大盛が食卓に並んでいる。


 ぬしちゃんは・・・この食事にご満悦のようだ。

 美味しそうに食べているぬしちゃんを含めた4人を見ていて、何故だか置いてけぼりにされたような気持ちに晒され咲ちゃんも負けじと食べ始める。


 修道院とは違う食事ではあったが、どれも家で食べた事のあるものが多く、そんな前でもないはずなのに懐かしさを感じながら木製のスプーンやフォークを使い口に運ぶ。



 そういえば・・・クリームシチュー。



------------



 幼稚園に通い始めて2年目の春。


 5月に入ってから外は気持ちのいいくらい温かくなった気がする。自分の体温で温まったベッドから起きる。

 その日もいつものように幼稚園に通う日であった。


 朝起きたらまず「おはよう」と挨拶、リビングで待ってお母さんがご飯を作るのをお父さんと待つ。今日はバタートーストに目玉焼き。バタートーストは甘くておいしくて好きだ。

 お父さんはコーヒー、自分は牛乳。牛乳はしっかり飲めば大きくなるとお父さんが言っていた。お父さんはもう背が大きいから飲まないらしい。

 もっと飲めばいいのに。


 お母さんと幼稚園の先生の言う事は必ず守るように。お父さんからそう言われている。


 お母さんの言う事を守ることはとても大切。


 食事が終わったら自分で片付けて、顔を洗い、歯磨きをし、トイレに行く。前にトイレに行かないでバスに乗り、おしっこが漏れそうになったから、そうならないように必ず行くのだ。


 それからタンスか、お母さんがアイロンをかけてくれた幼稚園の制服に着替える。ピンクの長袖で個人的に好きな色だ。

 黄色の帽子もかぶり、黄色い幼稚園バック、『こざくら さき』とひらがなで書かれたひまわりのネームも忘れない。


 そういえば、ぬしちゃんはいつもネームを忘れている。先生に言った方がいいか考えたことがあったが、自分は一度ネームを付け忘れてしまい叱られて泣いてしまったことがある。

 内緒にしておいた方がいいのかも?そうしよう。


 準備は万端。いつでも幼稚園に向かえる。

 お父さんもネズミ色のスーツに青いネクタイを付けて準備万端。スマートフォンをこっちに向けて、・・・あっ。


 写真を撮られてしまった。ポーズも付けていないのに。

 でも、よくわからないけれど嬉しい。お父さんもお母さんもニコニコ笑顔だ。みんな笑顔、咲も笑顔。


 そろそろバスが来る時間だ。お父さんもお仕事に向かう時間だ。お母さんと一緒にお父さんに「いってらっしゃい」と言う。

 「行ってくるよ」というお父さんはちょっとかっこいい。でもネクタイが少しまがっている。面白いから言わないでおこう。


 お母さんと一緒に外にでて、バスが来るまでちょっと体操。テレビで覚えた体操だけど、お母さんは恥ずかしいから一緒にしてくれない。

 大人って大変そう。やりたいときにやればいいのに。


 でも今日はお父さんに内緒で夕ご飯の献立を先に教えてくれた。



「今日はお家に帰ったら、咲ちゃんの大好きにクリームシチューを作ってあげるからね!」




------------




 そうだ。家に帰ったらお母さんがシチューを作ってくれるはずだったのだ。


 お母さんたちはどうしてるのだろうか?

 心配しているのだろうか?

 ご飯を用意して、待ってくれている、だろうか?


 はやく、お家に帰って・・・。



 咲ちゃんはクリームシチューを口に含んだまま、悲しくて寂しくて、ボロボロと涙がこぼれた。



 剣士たちは虚を突かれたかのように慌てだす。


「どうした!?なにか不味いもんでもあったか!?」

「ごめ、ごめん!あたしたちばっか食べてたよね?」

「お前らは遠慮を覚えろ!何ホイホイ食っている!?」

「た、確かに悪いけど、ってお前もかなりつまんでんじゃねえか!」

「だから遠慮をしろと言っている!この子たちの金貨だろう!」

「ほら、どんどん食べて!・・・泣かないでぇ!?」



 何が嫌だったのか心当たりが、いろいろ思い浮かぶせいでわからず騒がしくなる。


 騒がしい中、ぬしちゃんはとなりに座って泣いている咲ちゃんを眺めていた。


 ぬしちゃんは自分の食べていたシチューを眺める。このクリームシチューはとても美味しかった。


「さきちゃん、をことぬしのこれ、あげるんだ」


 咲ちゃんに自分の食べていたシチューを皿ごと咲ちゃんの目の前に差し出す。

 自分が食べて美味しかったのだ。きっと喜ぶはず。



「ごんなの!おがあざんのっ!シチューじゃないっ!!」


 カランッ!と皿が落ちる音

 バチャッ!と中に入っていたシチューがこぼれる音


 咲ちゃんはぬしちゃんの渡そうとしたシチューを皿ごとぬしちゃんの手で弾いて床へこぼしてしまった。


 初めて、だろうか。ぬしちゃんの顔はギョっとし、驚いた。


「ぅえぇぇん・・・っ!!」


 子供の泣き声が店内に響く。

 なんだ?うるせえな、と事情を知らない周囲の卓から野次が飛んでくる。


「どどどうしたらいい!?風っ子!!」

「えぇええっと!?布!!」

「女将!!布を頼む!」


 あいよー!と厨房から返事がきたものの、子供の扱いなどまったくわからない3人がワタワタしだす。例えるなら出産を目の前にした旦那さんのような感じだろうか。



 喜ぶと思って行動した結果、咲ちゃんを余計に泣かせてしまった。

 

 小さな頭で必死で考えたぬしちゃんであったが、何も思いつかない。

 ただ、うつむいていた。



------------




「・・・ずいぶんとえらい目にあってきたのな」


 女将に相談し2階の一室を1つ泣き止むまで貸してもらうことができ、泣き止んで静かになった部屋の中で幼い女の子たちの事情を3人組に話した。


 ニホンと言われる国にある幼稚園という育児施設から飛び出し意識を失い、いつの間にか森の中にいて、大型のモンスターに襲われ、修道院に匿われた後に山賊が襲撃。

 黒髪の女の子、ぬしちゃんの提案で王国に無理矢理急いで来て、今に至る。

 泣いたせいで目の下が赤くなっている白髪の女の子、咲ちゃんはお母さんのことを思い出してしまい泣いてしまったようだ。


「なんか、絶望的だね」

「ぜつぼう?」

「ぼう」

「わかんないかー・・・そうだもんね」


 絶望 という言葉の意味を理解できない子供が森に放り出されるなど一体何が起きたのか、見当がつかない。高位の魔法ればそういったのがあるだろうが実際に使う者を見たことはない。


「しかし、ニホンなどという国どころか地名など王国にある地図には無かったはずだ」

「ってーと、帝国領になるのか?」

「サキちゃんとぬしちゃん、だったよね。この子達の言う事が本当なら、帝国にも無いはずだよ」


 剣士、弓使い、杖使いの反応からして修道院で話した青年や院長達と同じ反応だ。やはり、知らない。


「ぐすっ・・・えぅ」


 無いと言われ、咲ちゃんはまた泣き出しそうになる。


「まてまて!俺らが知らないだけだ!」

「そうそう!なんせ冒険なんてまともにしたことないもんね!」

「自信満々で言う事か?人の事は言えんが。まあ、他の連中なら心当たりもある者もいるだろう」


 各々がフォローに入る。確かに王国に来てからまともに話したのはこの3人だけだ。それに手伝ってくれるとも言っていたし、まだまだこれからだ。


 そう考えた咲ちゃんをぬしちゃんは見つめている。ぬしちゃんは何を考えているのだろうか。やっぱりわからない。


 そういえば、と泣き止んで冷静になった咲ちゃんは気になったことがあった。


「おじさんたちは、なにをしているひとなの?」


「あ、そういやそうだわ」

「どんどん話を進めてたもんね」

「勝手に依頼も進めて、報酬の相談も後回しだしな」

「うるっせぇな!それも今から話すんだよ!」


 出会いも展開も唐突すぎて初めに知るべき事を聞いていなかった気がする。


「俺らはいわゆる冒険家(ぼうけんか)よ」

「ぼうけんか?」

「おう。世界を旅して未知を探求するのさ!」


 冒険家。依頼という言葉を聞いたときもそうであったが、幼稚園の男の子たちの遊んでいるゲームに出てきそうな言葉ばかりが飛んでくる。

 本当にいた事に少しびっくりしてしまった。


「って言っても、まだ王国の周りだけだけどねー」

「今はな!その内世界まわんだよ」

「はいはい」


 杖使いが室内に2つ用意されているベッドに座って、足をぶらぶらさせながら話に割って入る。


 杖。


「おねえさんもまほうがつかえるのか」

「え!?ま、まぁね」

「ほんと!?すごい!まほうつかい!」


 ぬしちゃんの質問に答えた杖使いに咲ちゃんは目を輝かせる。少し元気が出てきたような気がした。


「つっても、お前風の魔術しか使えないだろ」

「今はね!その内めっちゃ覚えるし!」

「はいはい」


「かぜ。おそらをとべるのか」

「ぬしちゃんくらいなら、で、できるかも・・・」

「おお」


 空が飛べることに興味がわいたぬしちゃんであった。


「おいおい、あんま夢もたせんなよ」


 が、野次が飛んでくる。


「こいつが使う風魔術って、風を使って小さな物を浮かす、ホコリを吹き飛ばす、とかばっかで勢いはあるから大きなものはよろけるけど、それだけで終わるのばっかなんだよな」

「なっ!?」


 剣士から()()()()()()()使()()()という評価をいただいた杖使いは言葉に詰まる。


 さすがに辛辣だったか、弓使いがフォローに入る。


「風向きを変える魔術は便利だったな。弓の軌道に悩まなくて済むし、小舟であればどこでも出せる。急ぎであれば追い風にでもして動きが楽だろう」

「そ、そうだよね!?ね!」


「まあ・・・()()だが」

「んにぁああっ!!?」


 助け船に乗ったと思ったらどうやら底に穴が空いていたようだ。杖使いの女性は絶叫する。一言余計だと。


「詠唱が早く終わるからって基準で覚えたお前に問題あんだろが」

「だって早い方がいいじゃん!楽だし!それにほら、あたしってカギ開けたりとかできるし!・・・簡単のなら。殴るの得意だし?・・・弱いのなら。ちょっとだけなら奇跡の魔法も使えるし!・・・ちょっとだけよ?」


 魔法は一応使え、手先も多少は得意、とりあえず杖を使って戦える。少しだけなら回復の魔法も使えるらしい。

 なんでもやるが、そこまでできない。


 そんな彼女を指さして、ぬしちゃんが一言。


きようびんぼー(ジミー)さん」

「んがぐっ!??」


 ぬしちゃんの言葉に串刺しにされる女性の姿がその場にいた誰もが目についた。

 咲ちゃんは言葉の意味こそ知っていて口にはしなかったが、地味という言葉が頭に残っていて脳に浸透したような感覚に襲われる。

 ちょっと可哀そうだ。


「だぁーっはっはっは!!そうだそうだ、器用貧乏!」

「なんでそんな言葉は知ってんのよ!!」


 余計な事は知ってそうなぬしちゃんを恨めしそうに睨む杖使いに、逆によくぞ知ってたと大いに喜ぶ剣士。


「・・・っふふ」


 そして間を挟む弓使いが不意に笑ってしまった。


「はぁ?はぁ!?今あんたも笑ったでしょ!!何1人で気取ってんのよこの()()()()!!」

「誰がトンガリか!」

「ちょーっと強いからって 俺は冷静です って腕組んでかっこつけちゃって性格とんがってんのよ!弓使ってるし!!」

「お前の当てつけだろう・・・それならすぐ横に髪が刺々しい奴がいるではないか」

「ああ!?何巻き込んでんだてめぇ!」

「そうよ、あんなタワシが猫背になったみたいな髪型違うわ」

「はぁあああ!??言ったな?タワシってなんだよ風っ子!」



「・・・どうしよう、ぬしちゃん」

「ふぁぃう」


 喧嘩、だろう。大人の口喧嘩は初めて見たが、どう言葉で表せばいいのだろうか。

 幼稚園の先生が友達の喧嘩を止めることがよくあったし、自分も口喧嘩をしたこともあった咲ちゃんであったが、その時の先生の気持ちがわかった気がする。



 結構しょーもないことで喧嘩してたんだな、と咲ちゃんの心は少しだけ大人になった。






「とにかく!俺がこいつらの頭で剣を振るのと知恵担当な」

「あたしは魔法使い!よろしくね」

「弓と多少剣も使える。元王国の衛兵だ」


 言いたい事を言ってスッキリしたのか、埒が明かないと諦めたのか始めにできたであろう自己紹介を簡潔に済ませた。

 元はと言えばぬしちゃんの一言が問題なのだが、それを気にしたらさすがに大人気(おとなげ)ないだろう。


 そして、大事な話はまだあるのだ。


「いらいって、咲たちはどうすればいいのかな」

「ああ、そのことも含めて今から話す」


 これからが本題だと言いたげなほどに剣士はまじめに話す。


「俺たちは旅、冒険をするためにチームを組んで資金集めのために依頼を受けていたんだが・・・、前の依頼を失敗しちまってな」

「しっぱい?」

「警護する時間を間違えた」

「わ、悪かったよ」

「すまん、責めてはいない。任せすぎていた自分にも問題ある」

「あたしも」


 弓使いの愚痴を先ほどとは違い素直に受け止めた辺り、かなり大きな問題なのだろう。


「子供にこんな話するのも抵抗あるけれどよ、そっから信用失っちまって仕事が見つからねえのなんの・・・」

「借りていた家があったが金も払えなくなってな・・・借金がかさんで、払える金がない」

「あたしたちが食べるお金もどんどんなくなっちゃって、コタコタの毎日よ・・・」


「おじさんたち、かわいそう・・・」

「うん」


 大人は大変と聞くが、まさにそれを体現したのが彼らか。

 仕事を失敗したのが原因で次の仕事をするにしても相手にしてもらえず、菓子はやむなく主食。銅貨2枚で6本入りを貰えるらしい。

 この宿にいたのは、行く当てが無かったのだろうか。言葉の一部は理解できなかったが、とにかく苦労をしているのは咲ちゃんたちにもわかった。


 何故かお昼の公園でブランコで遊んでいるスーツのおじさんを、咲ちゃんは思い出した。本当に、何故だろうか。


「だから、本当に助かったよ。ありがとな」

「家に帰す、その依頼を必ず完遂させてみせる」

「あたしも頑張っちゃうから!」

「う、うん!」


 3様ではあるが、その言葉は本心からに聞こえ少し希望が見えたように見える。

 これからどうなるかはわからないが、なんとかなるような、そんな声だ。



「ところで気になったんだけどさ」


 杖使い、もとい風魔術が得意だろうから風使いだろう。

 風使いが疑問を投げかける。


「あんな宝石?記章かな?初めて見たよ!」

「金貨も持ってるしどっかのお嬢様か?」


 それだ。咲ちゃんも気になっていたことだ。いつから持っていたのだろうか?

 特にこの3人にとっては重要な話だ。報酬を前借りと言い金貨を先にもらったのだ。実は自分のじゃありませんと言われたら困ってしまう。


「ぬしちゃん、どこでおかねもらったの?」

「おかね」

「えっとね、宝石がついてなかったほうよ」

「おお」


 風使いのフォローで理解したのかぬしちゃんが答える。


「わるいひとをやっつけたおれいで、もらった」

「えっ?}

「しゅうどういんにいたときにね、咲たちにひどいことをしたひとたちなんだよ!」



「それって・・・うっそ!?」

「先日の昼過ぎにそれらしい連中が馬車で運ばれていたのを見たが」

「あの未解決だったやつか?」


 室内の空気が変わる。咲ちゃんとぬしちゃんには何となく感じるだけだが、驚いている3人はそれどころではないようだ。


「なあ!どうやって捕まえたんだ?」

「さきちゃんが、まほうでがんばって、をことぬしもがんばった」

「うん!ぬしちゃんすごくつよいんだよ!」

「い、いや、そのがんばったところが気になるんだが」

「って、サキちゃん魔法使えるの・・・!?」


 ふわっとした説明でまったくわからないが、とりあえず金貨の出どころがわかった。修道院には他に人がいたはずなのだから、その者たちの協力もあったのだろう。


「気になる事は多いが・・・記章の方はどうしたんだ」


 弓使いの質問が来る。3色の宝石が施された3枚のメダルだ。

 あれはさすがに賞金首を捕縛したからもらったのではあるまい。


「わるいひとたちからもらったんだ」


「は?貰ったってそいつらを捕まえたんだろ?」

「衛兵さんから賞金として記章を貰ったってこと?」

「それはあり得ない。何か勘違いしていないか」


 その通りだ。散々手を焼かせていた賊連中であったとしても貨幣以外の賞金などありえない。


「む、まちがえたんだ」

「ぬしちゃんおっちょこちょいだね!」

「そらみろ」


 やはり勘違いしていた。咲ちゃんと比べてぬしちゃんはどうも抜けているように見える。

 改めてぬしちゃん話す。



「たおれていたわるいひとから、()()()()


「「「「・・・えぇ」」」」


 コソ泥の言い訳だろうか。

 この記章、メダルはその賊たちが持っていた物であり、その賊たちが本来の持ち主でもないだろう。


 つまり、奪ったのか盗んだのかわからない出所不明(でどころふめい)の財宝であり、少なくとも・・・ぬしちゃんの物ではない。


「てきをたおしたら ()()()()()()()()()()()、ときいた」

「どうゆう教育受けてんだお前!」


「さ、さすがに無いでしょ。ね、サキちゃん?」

「えっと、ようちえんのおとこのこが、いってた・・・かも」

「・・・す、凄まじい教育施設だな」

「まじでどんなところだよ・・・」


 下手をすると盗品として扱われてしまいかねない。とりあえずこれを報酬として貰うのは不味い事はわかった。

 正確には盗品の盗品か。ややこしい。


「・・・この金貨は、修道院の連中からちゃんと許可を取ったのか?」

「きょか」

「持ってってもいいか聞いたか、という意味だ」


 嫌な予感がした剣士はもう一度確認を取った。弓使いのフォローで理解したぬしちゃんは答える。


「うん。ばしゃのなかにいれてるのをみたから、そこからもらった」


「それ・・・さ、輸送先に届けるお金なんじゃ・・・」

「こいつやべぇわ」

「ぬ、ぬしちゃん・・・」


 二つの出どころがわかり、剣士と弓使いが頭を抱え、風使いは顔が引きつっている。

 咲ちゃんは親友が泥棒まがいの事をしていることを知りショックを受けてしまった。


「というか、その教会だよね?そこにサキちゃんたち預けたらあたしたちだけで動けるんじゃない?」

「そうだわな。ってか抜け出したのってなんか意味あったのか?」

「・・・コタコタがたべたかった」

「やっぱり!」

「ごめんなんだ」


 ついにハッキリと白状したぬしちゃんに剣士が笑って励ます。


「まあまてよ!そのおかげで俺らが()()()()んだから、感謝だ感謝!」



「・・・・いや、まて」


 助かった。


 そう話す剣士の言葉に弓使いに不安が生まれた。


 メダルの方は置いといて、金貨もこの子が勝手に持ち出した物、だろう。

 この金貨の所有権は修道院側の者たちにあるのではないか?話しぶりからして勝手に持ち出しているのは明確であり、事情を知った今だからわかったことだ。

 

「聞いてもいいか」

「どうしたよ」


「・・・使ったのは飲食()()か?まだ使ってないよな!?」


「?・・・・あっ」

「え、どうしたの?」


 不穏な空気が漂ってくる。何が起きてるのかわかっていない幼い女の子2人と風使いを除いた2人は顔が青くなる。


 ぬしちゃんが渡した金貨は6枚。

 飲食に使ったのは大盛にしたとはいえ質は安いので銅貨11枚で済んでいる。


 剣士は ジャラジャラと音を出しながら室内にある机の上に金、銀、銅の貨幣を並べる。



「役場に行った時に・・・借金・・・払っちまった」



 机の上には金貨が4枚、銀貨が7枚、銅貨58枚。

 変換した後に使った額が金貨1枚、銀貨2枚、銅貨42枚となる。11枚を差し引いた額が借金であり、かなりの高額である。


 しかし、問題は額ではない。


 この貨幣はぬしちゃんの物ではなく、恐らく()()()の物だという事だ。


 関係者の、それも子供が勝手に持ち出したとはいえ、他人の財産を使ってしまったのだ。


 腹が減りすぎて頭がどうにかしていたのか、はたして金に目がくらんでいたのか。

 事情を聞く前に行動に移したのが仇となった。


「・・・そっ、か。え?やばくない?これ」


 風使いも気づいたようで顔が青くなる。

 傍からしてみれば、子供をたぶらかし他所の家の金を借りて借金を返済した、そう見られてもおかしくない。


 そもそも・・・報酬とは依頼をこなしてから得るのが通りであり、前借りを要求しだすなど信用のない者と見られて当然ではないか。


「咲たち、どうすればいいの?」


 依頼を、どうすればいいか。最初と同じ咲ちゃんのセリフと状況が一変した現在。



 剣士、風使い、弓使いの3人がアイコンタクトを取る。



「よし!預ける話は無しだ!全部俺たちに任せろ!!」

「この依頼、教会の力を借りずとも確実に完遂してみせる!」

「あたし、頑張るよ!目立たないように!!」


 どうやら隠し通す事に決めたようだ。3人組の心は一丸となった。


「たよりになるんだ」

「・・・そ、そうかな?」



 信用は・・・してもいいかもしれないが、どこか頼りない3人に任せることになり、咲ちゃんは少しだけ先行き不安になる。

 相棒は、本気で言っているのだろうか。ぬしちゃんは頼りになるのにやっぱり信用ができない。



 ただ、どうしてだろうか?

 家に早く帰りたい、さっきまでそう泣いていたはずなのに。


 寂しさと悲しさがいつの間にか消えていたことに、咲ちゃんは気づいていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ