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異世界転生 ツイン園児ぇる  作者: をぬし
第五章 童乱 幼子の結んだ縁
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95話 神の箒

『矛盾』


どんなものでも防いでしまう最強の盾

どんなものでも貫いてしまう最強の矛


最強の盾と最強の矛は性格こそ全く違うが

どちらも優しく お互いのことが大好きで

2人が傷つけ合うことなんてあり得ませんでした


ある日 立ち止まってばかりの最強の盾を守る為に

最強の矛は頑張りすぎて 倒れてしまい

最強の盾は 深く悲しみました


頑張り屋な最強の矛を見て

臆病だった最強の盾は思いついたのです


「わたしのからだはじょうぶです

 わたしがまえにとつげきしましょう」


頑張り屋の最強の矛はこう返します


「わたしのからだはきずつけてしまう

 わたしはうしろでまっていましょう」


答えは簡単でした


そんな事でも傷付かないのなら前に進んで立ち向かえる

最強の盾に敵うものはいないから


触れたら相手が傷付くのなら後ろで待っているだけで良い

最強の矛に敵うものはいないから


最強の盾で攻め 最強の矛で守る


『矛盾』な2人は

ずっとずっと 仲良しでした



「後退!!後退ーー!!!」

「後退!!」

「後退ーー!!」



 山彦(やまびこ)の如く王国陣営で大声が響き渡る。一斉に後退したことで、空いた前衛を埋めるように弓兵達による矢の雨が帝国陣営へと降り注いだが、上手くはいかない。

 帝国の魔の心得を持つ者達の手によって呆気なく(さえぎ)られてしまい、嫌がらせ程度の被害にしかならず、赤々と燃え上がりどんどんと膨らんでいく火球の前では矢など木の枝に過ぎなかったのだ。


 『火炎魔法』


 文字通り火を扱う魔法であり、味方には灯火(ともしび)を与え、敵には恐怖と害を与える魔法であり、その火力は凄まじい。

 常人が扱えば1人を火達磨(ひだるま)にする力も複数人の魔術が重ねる事によって一帯を火の海にしてしまう帝国軍魔導隊最高火力が王国軍に襲いかかる。

 だが、幸か不幸か大地を焼き尽くし焦土とさせる熱量の塊が王国陣営に放たれた時、()()が起きた。



「火炎術!撃ち方やめい!!距離を取れ!!」



 轟音を巻き上げての大爆発。



 王国陣営の投石機を使って()かれていた油に(かす)ってしまい引火したのだ。舞い上がる火炎と煙に(さえぎ)られて視界がままならず帝国陣営側から指揮の声が響き渡ると同時に後退していく。着弾した王国陣営の被害が見えないほどに視界が悪く、引火してしまった油にやられてしまう兵士も少なくない。



「これが狙いかっ!?小細工ごときに帝国は怯まんっ!!!守備隊前進せよっ!!!」



 事故に怯み、反撃の一手を恐れた帝国陣営は一拍の間を置いてから再度突撃を開始した。



「「「「おおぉおおおおおおっ!!!!」」」」



 焼け尽く前方を大きく回り込むように黒き甲冑(かっちゅう)に大盾を(たずさ)えた兵士達がズラリと移動して熱にも怯まずに前進していく姿は空から眺めれば蟻の行列のようにも見えるだろう。闘将の一騎駆けによる無双(むちゃくちゃ)に手こずってはいるが、攻守と魔法に至るまで兵力差では帝国側の優勢は揺るがない。



「闘将には近寄るな!!距離を置けっ!!!」



 1人がどんなに強くとも、届かない(ほこ)では意味がない。1にいくらぶつけても敵わなくとも、回り込んで通り過ぎてしまえば国が勝つ。


 子供のお遊戯(あそび)童謡(ものがたり)のような綺麗事(つくりもの)裏側(うらっかわ)。国を傘にした正義を持って、王国の正義を(くじ)くが為に攻勢に移り、(のが)れ遅れた王国兵士達を蹴散らして進軍する。勝利を手にする為に。




「何者をも恐れるな!!帝国の勝利を掴っ・・・ぁ!!?」




 だが、次の異変に誰もが足を止める。



 火の海を抜け、(しかばね)を越え、その先に彼等の見えた物・・・それは凝縮された黄金(おうごん)のかがやき琥珀色の()()()



「これ、は守護の・・・!?いや、なんなのだ、これは!??」



 足運びを止めざるを得ないほどの一面の障壁(しょうへき)。城壁どころか小さな国なら囲めるほどに広く、大きく立ちはだかる光の柱。強靭な槍も剣も鉄屑にしか思えないほどの強大さを前に帝国兵士たちが唖然、そして(おのの)いた。



「ま、魔導隊!!放て!!」



 100人がかりの高火力の火炎魔法が詠唱され、光の壁目掛けて容赦無く放たれる。当たれば人など骨まで焼け焦がす業火の炎・・・が、熱すら通していないのか光の柱はびくともせずに燐寸(マッチ)の火の如く消え失せた。



 グルゥオオオオオオオオオオオッッ!!!!



 銅鑼を鳴らすが如くの轟音。腹の内まで(ふる)わせる雄叫びをあげながら光の壁へと生物兵器(ベアウルフ)が特攻を仕掛けた。腰をすくませていた帝国兵士たちとは全く違う暴力性に溢れた力と体躯(ガタイ)に任せた剛腕を襲いかかる。

 ガゴンッガゴンッと巨木の丸太と見間違う太腕が何度も何度も打ちつけられては砕かれていく。



 グルォァ・・・!!??



 肉を、骨を、鉄をも引き裂く鋭利な爪が叩きつけられるたびにへし折れていく障壁の強度を前に、生物兵器(ベアウルフ)ですら戦意を砕かれてしまう。内側で守られていた王国兵士達は光の障壁越しに突貫してくる化け物は魔法による攻撃に驚き僅かな悲鳴こそ聞こえてくるが、実害はまるで皆無。見えない崖を挟んで向かい合い、硝子(ガラス)越しに対面してしまう錯覚(さっかく)が起きるほどに微動だにしないのだ。



 そして・・・王国陣営の最前列に立つ白銀の大鎧、戦場において最強の兵士の姿が見えていた。



「帝国の者どもよっ!!宣言いたそうっ!!!」



 5色の宝玉の輝く大盾で地を慣らし、大きく掲げた白銀の大槍に太陽の輝きが反射する。一見した帝国陣営側にしてみれば、闘将の力の一端にも思える行動にその身を震え上がらせる。



白幼(はくよう)の天使が我らが愛する王国に舞い降りたっ!!!この障壁こそっ!!天使の御加護であるっ!!!」」



 白幼の天使とは?

 最強の兵士による力ではないのか?

 守護の奇跡を(もち)いて何がしたいのか?



「我らの天使の加護に、全軍続けぇぇっっっ!!!!」


「「「「うぉおおおおおおおおっ!!!」」」」」



 誰に続く、どこに突撃する、ではなく天使の加護に続く。その意味を知った時には遅すぎた。



「おおおい、障壁がっ!?」

「動いている!!?あ、ありえん!!」

「逃げろぉおおおおお!!?」



 破壊不能のだだっ広い光の障壁()()()()が・・・ズリズリと動き始めたのだ。大地に転がり落ちている石も、鉄屑も、瓦礫も武器も、何もかもが()き掃除をされていく。



ガチャゴチャガチャゴチャガチャゴチャガチャゴチャガチャゴチャガチャゴチャガチャゴチャガチャゴチャガチャゴチャガチャゴチャガチャゴチャガチャゴチャガチャゴチャ



 聴覚が(イカ)れる金具同士が引きずり(こす)れ合い、大小問わない石塊(いしくれ)に砂利を巻き込んでは帝国兵士達を押し出していく。

 どんなに悲鳴をだそうが死に瀕していようが潰れていようが問答無用にと(ホコリ)を払う(ホウキ)と同じく一網打尽(いちもうだじん)に薙ぎ払われていく様は巻き込まれた虫と変わりがなく哀れで、無慈悲だった。



「進めぇえええええええええっ!!!!」


「「「「うおおおおおおおおおおおっっ!!!!」」」」



 闘将を先頭にどんどんと進んでいく光の柱を追いかけるように走り抜けていく王国陣営。



「退却っ!!!退却ぅううううぅ!!!!」


「「「「うわぁあああああああぁあ!!!!」」」」



 前も後ろも押し除け踏みつけ押し返されての入り乱れ。武器など無意味と逃げ出す者達の中には、勇敢にも迫り来る光の障壁の破壊を(こころ)みる者もいる。

 だが、どんな熟練の兵士が牙を振おうとも迫り来る光の前に尊厳(プライド)ごとへし折っていく。それどころか自身の全身を使って押し返そうとしても、塵取(ちりと)りに追い払われる(ネズミ)のように無様な姿で()()となっていく。

 

 『守護の奇跡』とは使用者に秘められた素養に応じた魔力によって強度が変わり、複数人で魔力を集めて放てば強度も増す事もできる・・・が、発動した障壁の力が強いほど自身の身体に杭でも打たれたかのようにその場から動けなってしまい、障壁その物を動かす事もままならない。



 つまるところ、使い勝手が悪い。そんな常識ごと(くつがえ)すような事態が起きてしまい、大混乱だ。



 グルグウウゥウォオ!????



 生物兵器も光の柱の前には無力、敢えなく押し込まれては帝国兵士達の渦へと巻き込まれてしまう。




「な・・・何が、起きているのだ・・・?」




 大海から押し寄せる津波に巻き込まれた砂のように押し返される、己の兵士達を眺め・・・誰かがそう代弁してくれていた。





ーーーーーーーーーーーー





 一方その頃、戦場の(はし)の端。



「んんんんんんんーーー!」



 遠方からの大まかな戦況確認の為に用意されていた物見櫓(ものみやぐら)の上で 、便所(トイレ)で大きい方を出そうと踏ん張るような唸り声を挙げる咲ちゃんが立っていた。



「まっすぐーーー!まっすぐううーーー!!」



 咲ちゃんはぬしちゃんと比べると劣ってしまうが目はとても良い方だ。高台にさえ登ってしまえば遠くが見えないことがなく、大体の位置さえ把握できれば狙った場所に守護の奇跡を出すことを親友が怪我をしてしまった忌まわしい夜に学んでいた。



 ただ、それでも、だ。



『えっとね!咲のまほうでね!おうちにかえすさくせん!!』



 小桜咲という少女の考えた作戦とは戦略も戦術もない、ただ5歳の幼児が魔法を使って押し出すだけ。



(まこと)に・・・恐れ入った」



 物見櫓で咲ちゃんが転ばないように支えてくれている兵士の横に立っていた王が、そう呟いた。



「お・・・恐れ入った・・・言葉が、思いつかぬな」



 言葉が思いつかないというより、選ぶ時間が欲しいのが王の本音だった。


 言ってしまえば、蟻の大群に向かって大量の水を流し込んだのと同じであり、あまりに残酷、あまりに無慈悲、武力だとか智略だとか積み重ねてきた時間と労力をも白髪の少女が片付けてくれたのだ。



 そして、王は後悔をしていた。


 小桜咲という少女は近くに困っている人がいたからと、()()で行っており、それに頼って得た戦果これ以上ないだろう。


 死体もろとも鋼の鎧を身につけた大の人間がごっちゃに押し出され、死者が出ている事に小桜咲という少女が気づいていない事に・・・王は後悔をしていたのだ。



「えいっ!!えーーーいっ!!えーーーーい!!」



 愛らしい声を、がんばってます!!、と言わんばかりに小さな両手を上に〜下に〜と掛け声に合わせて交互に振るという珍妙(ちんみょう)な踊りをしている幼児。それだけを眺めていれば平和だが、視線を変えれば目を背けたくなる惨劇が繰り広げられている。



 子供が加減など、知る由もないのだ。



 一刻も経たずして魂の抜けたような声をした王国兵士から報告が入る。



「敵本陣・・・大破!我々の勝利です!!」



 そして、もう1つ。



「を、をことぬし様と冒険家の方達の御助力により!帝国奇襲部隊は撤退!!謀反者の捕縛にも成功したそうです!!」



 圧倒的に帝国陣営に天秤(てんびん)が傾いていたはずが、少女達にちょっかいをかけただけで弾け飛び、王国陣営の圧勝に終わる。


 天から、()()()を変えると地獄からの使者にも見えるのかもしれない。




 白髪と黒髪の幼児の裁きによって、あっさりと王国の勝利で終わることとなった。



 

読んでくれてありがとうございます


ツイッターでもよろしくお願いします

@vWHC15PjmQLD8Xs

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