8話 教訓
朝食も終え、修道院生活は最後
今日届けられる荷物の準備は万端であった
カコカコ、ガラガラと断続した音が続き森の中の修道院に大きな荷馬車が近づいてくる。
前者は馬の足音、後者は荷馬車の音。2頭の馬が大きな荷馬車を引き修道院に向かっていた。馬を働かせてるのは素朴な動きやすそうな服装をしており、体格の良い優男、屋根の付いた大きな荷馬車の中には武装をした護衛と思われるが乗っていた。
馬の鳴き声と共に、足跡が止まる。王国へやってきた衛兵からの言伝と場所が描かれた手紙を受け取った男は仕事で修道院へと向かい、今まさに到着したところだ。慣れた動きで降り、荷馬車に乗ってる護衛の男にも声をかけ仕事へと移る。
衛兵からの話を聞く限りでは、この森の中にある修道院はここ最近災難続きと聞く。むしろ、こんな辺境にありながら今まで問題が無かったという事も、それだけの災難が起きたのにも関わらず死傷者が出ていないのはなんという幸運か。
何よりも驚かせたのは、修道院に襲撃仕掛けた賊共を捕らえるのに最も貢献したのは5歳にも満たない子供と言うではないか。話をしていた衛兵ですら信じられないといった風であったが、賊共を・・・眠らせた?らしい子供の力は本物らしく王国へ運ぶ間も目覚めないままであったと聞く。
修道院へ襲撃を仕掛けた賊共は王国から帝国へと続く道中にある山を根城としており時たま荷の運搬をしたものが被害に遭い、情報から捕らえようにも向かった者達が返ってこない事から多額の賞金を掛けられていたほどの連中であった。
今まで被害こそあれ足取りが掴めずにいたが、戦争で人通り悪くなったのが原因だろうか?
修道院へ襲ったものの、どう撃退したかはわからないが思わぬ返り討ちにあい、ついに捕らえることに成功した。その内手配書も取り除かれこの珍妙な話はしばらく話題になるだろう。
修道院の囲いの近くに荷馬車を止め、入り口へと向かおうとして、扉から女性が2名ほど出てくる。
修道服を着たシスターと思わしき女性がこちらに気づき手を振り、男たちも手を振り返す。1人は年配の女性、齢60ほどだろうか。もう1人は、男たちは少し心を奪われそうになる。
こちらに向けてくる笑顔はとても澄んでいて明るいが凛々しさも兼ね備えた聖女とでも言うべきか。綺麗な女性がこちらに手を振っているのだ。
もし恋人にするのならこのような女性か。下種な感情は捨て2人の女性の元へと男たちは向かう。
この若々しい女性がここの院長であることは聞いている。
「おまたせしました。責任者の方ですね?」
「はい、ご協力ありがとうございます。よろしくお願いいたします。よく私が責任者とわかりましたね?」
「いえ、若く綺麗な方が院長であると、聞いたもので、はい」
「ふふ、お上手ですね。代金は教会が支払ってくださいますのでご安心くださいね」
若いとは聞いた話だが、綺麗は勝手に付け足した言葉だ。男の性なのか、どうも口に出てしまう。
あっさり流されてしまったが。
男たちはそのまま荷の説明を受け仕事に取り掛かる。いつもより仕事に身が入ってしまっている理由は、言うまでもないだろう。
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修道院内にある物は本当に最低限の物に抑え、荷物はどんどん運ばれていく。
その最中か、小さな足音が2つ男たちのほうへと走ってむかってくる。護衛の男は何者かと身構えようとしたが、すぐに警戒を解いた。
「こんにちはー!」
「こんにちはなんだ」
「おっと、こんにちは」
5歳にも満たない子供が2人。どちらも頭には黄色い帽子にピンクの洋服、チェックのスカートを身に付けており双子かと思わせるが、容姿は違った。
1人は白髪で茶色い瞳、もう1人は黒髪の青い瞳の女の子たちが挨拶をしにきた。恐らくだが、荷運びの男の話に出てきた賊連中を返り討ちにした、であろう者がこの子たちだろう。
話で聞いただけなので過大表現してた自分が悪いのだが、想像と違い一見幼い普通の子供で驚いた。
「君達かい、あの悪党どもをぶっ倒したって子は」
「そうだよ!ぬしちゃんがシュ!ってやってバタン!ってしたんだよ!」
「さきちゃんもがんばった」
白がサキ、黒がぬし、それが名前だろうか。白髪の子は表現豊かなのか体全体をつかって説明をしており、黒髪の子は・・・表情が読めない。
「へえ?なんか凄い物でもぶつけたのか」
「これなんだ」
ぬしちゃんと呼ばれた女の子はぶら下げていた白いカバンから白い何かを取り出して男に見せつける。
紙を折ったもの、折り紙と言ったところか。丁寧に作られた綺麗な紙細工を取り出しそれを掴む。
細工でも仕込んでたかと思ったが・・・どう見ても、紙だ。これでどうやって屈強な男たちを倒せるのか?これは玩具であり他に何かを投げたのだろうと、とりあえず話を聞いた素振りをする。
「すごいなぁ。俺もそんな物がほしかったぜ」
「ぬしちゃんのしゅりけんシュババ!だよ!」
「さきちゃんもかべでドーンなんだ」
「へ、へえ」
子供のお遊戯会であろうか。幼い女の子たちはその小さな手足を使い各々の活躍を表現しだす。
片や物をカッコをつけたように投げる仕草をしつ、片や壁・・・を体現した腹を突き出しドーンとしている。
本当にこれであの賊と対峙できたのであろうか。
その動きを適当に眺め、男は気づいた。黒髪の女の子の太ももに何かが刺さったかのような傷跡が残っていた。サイズからして弓で射抜かれたのだろう。
奇跡の力で回復したであろうが幼い女の子が受けて良いような傷などではない。力の真偽は掴めないが、相当な修羅場だったことなのは護衛の男は理解ができた。
「ちょっとまってて」
男は荷馬車の方へ向かい自身がいつも携帯していた荷袋を漁る。言われた通りに咲ちゃんは大人しく待とうとしたが、ぬしちゃんは待たずに男の跡についていくのを見て、咲ちゃんもそれを追いかけた。
男はその様子を見てやれやれといった感じか。取り出したそれを2人の女の子に手渡した。
「これ食ってみ、うまいぞ」
「もらっていいのー?」
「おう、特別にな。最近王国で出始めた菓子らしい。小腹が空いたらって思ったけど、やるよ」
それはチョコ・・・だろうか?ぼっこにチョコをコーティングしたかのような、お菓子だ。2人はそれを先端からほおばって食べる。
「おいひーーぃ!」
「おったまげたんだ」
絶賛の声があがる。思えば幼稚園を飛び出してからお菓子など1口も食べていない。ぬしちゃんも、まるで仏の顔のようにご満悦だ。
子供の両手で包めるサイズのお菓子。その表面にコーティングされたチョコの味が口の中に広がる。それどころか噛めば噛むほどスポンジのような触感がしながらチョコがにじみ出てくるのだ。こんなお菓子は今まで食べた事がない。中身は甘いパンのような味もする。
子供にとっては至福の味が口の中に染み渡り、食べ終わるのに時間はかからなかった。
「ごちそうさまでした!おじさんありがと!」
「おいしかったんだ」
子供らしい感想に男は満足する。
「だろう?このお菓子はコタコタて言う名前らしいぞ」
「コタコタ?」
「おう、コタコタだ。なんか作るときにそんな音するらしいんだが、よくわからないな」
その時、ぬしちゃんがぼーっとした顔のまま男に顔を向け止まっていた。
聞こえなかったのだろうか?男はもう一度説明した。
「えっと、今食べたお菓子はコタコタって名前で」
「む」
「ぬしちゃん?」
「なまえが、わからないんだ」
?
お菓子の名前は言ってるではないか。
知恵遅れなのだろうかと男が考え出した時に咲ちゃんはその辺に落ちていた石を拾い、しゃがむ。
そして地面の土を使い文字を書きだした。
「えっとね、こうよむんだよ?」
地面に書かれた文字はカタカナで『コタコタ』と書かれていた。
「おお、コ、タ、コ、タっていうのか」
「うん!コタコタだよ!」
「・・・どこの文字だい、それ」
文字で書いてぬしちゃんはわかったようだ。
今度は男の方が文字が読めず困惑したが。
途端に咲ちゃんは思い出したかのように護衛の男に話しかける。
「そうだった!おじさんたちはなにをしているの?」
「ああ、荷物を運んでるんだよ。俺は護衛でついでなんだけどね」
「これから、おうこくにはこんでくれるのか」
「ん?おお、そうだよ。荷物がまとまったらそのまま向かうところだ。道中モンスターが出た時のために俺がいるのさ」
腰にはめていた鞘に収まった剣の柄を手で叩き、これで守る、と見せつける。
「ごえいってナイトさまのことだ!」
「まあ守ってるのはお姫様じゃないけどな」
などと茶化していると、
「おーい!準備が終わったからそろそろ出るぞー」
「あいよー!」
荷運びの準備が終わり呼びかけに答える。王国へ帰還だ。
「それじゃ、達者でな、頑張れよ」
「うん!またねー!」
護衛の男は来るときとは違い、荷運びの男と横並びに座る。
荷物が多く後ろに乗れなかったためだ。荷は縄や丈夫な布などを上手く使い固定されていてこのままなら問題ないだろう。
護衛の男は面白そうに問いかける。
「挨拶、は済ませたのか?」
「ああ!いやぁ綺麗な人でしたよ。これから王国に移動するようだしまた会えるかなぁ」
「確かにいい女だったな。まあ、事情があったんだろうな。これからまた戦争が起きるって聞いたかな」
「そうだなぁ。とにかく出発だ」
男は馬を働かせようと縄を使う。休息を取れた2頭の馬は王国へと荷馬車を運び始める。
その時、後ろの荷馬車の方からトトッと軽い音が聞こえた。荷物でもズレたのだろうかと2人の男は後ろの荷馬車を覗き見るが荷が崩れた様子もなく箱の中の物の音だろうと気にせず馬を走らせた。
荷運びの手伝いも終えて昼も越えたころか。シスターたちは昼食の準備と、荷造りをするために朝にできなかった洗濯などの作業に戻る。
院長、これからは元院長か。彼女は咲ちゃんとぬしちゃんを呼びに修道院内をうろついていた。
「ぬしちゃーん?咲ちゃーん?」
・・・返事はない。そういえば、外で見かけた気がするのでまだ遊んでいるのだろうか?
勝手に外に出るなんて、やはり仕方のない子達だ。
「出てこないと食事に嫌いなお野菜入れちゃいますよー!」
聖女を思わせた女性は修道院内と外を隈無く探す。かくれんぼの時もそうであった。裏の蔵の影に隠れていたりと探すのが大変で困ったものだ。
シスター達にも声をかけ、一緒になって探し始める。
2人の子供が消え去り大騒動になるのは昼食ができ上がってからも1時間ほど探した頃であった。
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ガタゴトと揺れる荷馬車の荷物に紛れ、気づかれないように小声で話す2つの小さな影があった。
「ぬしちゃん・・・ほ、ほんとにだいじょうぶかな」
「きっとだいじょうぶ」
あろうことか、咲ちゃんとぬしちゃんは荷馬車に乗り込んでいた。荷物でいっぱいに思えた荷馬車に隙間がありちょうど布で覆われた場所に2人は隠れていた。
1人は悪い事をしてしまったようにバツが悪そうに、もう1人は特に気にもしていないようだ。
「で、でも、いんちょうさんたちと、あしたいっしょにきたほうが」
「さきちゃんは」
一緒に来た方がいい、そう言う前にぬしちゃんが割り込むように話す。
「さきちゃんは、おうちにかえりたくないのか」
「うん・・・はやくおかあさんとおとうさんにあいたい・・・」
ぬしちゃんが咲ちゃんを連れだしてしまったのだ。
咲ちゃんはなんでコッソリ抜け出すように荷馬車に乘る理由がわからない。
ついてったものの、迷いがまだあった。
「いんちょうさんたちはとってもやさしいんだ」
「咲もそうおもう・・・」
「だから、なにもかわらないんだ」
「かわらない?」
優しいから何が変わらないのか。言葉は足りない気がするが、表情の読めない親友のハッキリした考えがわかるような気がして咲ちゃんは話を聞く。
「をことぬしたちをまもってくれる。けれど、をことぬしたちがうごけなくなる」
「でも、・・・あぶないよ。ぬしちゃん、けがしちゃう・・・もん」
「うん。いたかった」
化け物に襲われた時も、山賊襲撃の時がそうだ。
確かにただ足を止めていただけの自分だとどっちも助からなかったかもしれない。実際にぬしちゃんが立ち向かったからこそ今の結果がある。
でも、それで死んでしまっては、どうすればいいのか。痛かった、で済む事ではないのは咲ちゃんは知っている。
「でも、うごかないと、をことぬしがまもらないと、やくそくがまもれなくなる」
「ぬしちゃんが、しんじゃうのは、もっとやだよ。おそとにはこわいひと、いるかも・・・」
「だいじょうぶ、をことぬしがんばる。さきちゃんもまほうがつかえて、つよい」
静かな声で話し、ぬしちゃんは咲ちゃんの手を握る。馬車の揺れで気づかなかったが、自身の身体が震えていたようだ。
「さきちゃんがまほうでまもって、をことぬしががんばる。さいきょう」
いつもと変わらない顔で親友の励ましを受ける。まだ自身の力もハッキリとわからず最強と言いだす根拠はわからないが、なんというか・・・ぬしちゃんといると勇気が沸いてくる気がする。
咲ちゃんは自分の事を考えてみた。よく考えてみたらもう10日以上も家に帰れていないのに、不思議とそこまで寂しく感じていなかった。
もし1人であれば、迷子になったあの森の中で動かずにずっと泣き続けていたかもしれない。
修道院にいた時も、お泊り気分で過ごせていたのもぬしちゃんがいてくれたからだろう。
王国についても教会という場所で自分はぬしちゃんとそこで暮らすと考えていたが、あまりに可笑しな勘違いか。そこは自分の家ではないのに。
正直知らないところは怖いが、ぬしちゃんが近くにいるのだ。困ったら一緒に考えればいい。
来年には幼稚園の年長さんになるのだ。自分より小さい友達に頼られるようになるのだから、自身で動かなければ。
「うん、咲も・・・がんばってみる」
「むふふ、いつでもいっしょ。それに」
「それに?」
「おうこくについたら、コタコタいっぱいたべるんだ」
「・・・えぇ」
まさか・・・
まさか、とは思うが、それが目的じゃなかろうか。王国にあると言われたお菓子が食べたいがために。確かにさっき食べたコタコタは今までに食べたことが無かったほど美味しいお菓子であったが・・・。
表情がまったく変わらないが、コタコタが余程気に入ったのか、その口元には涎が垂れそうになっている。
きっと、ついでなのだろう。たぶん。
「ばいばいなんだ」
「ばいばい」
気づかれないようにコッソリと静かに修道院にあった方に手を振る。明日には院長たちも王国に来るのだ。
何かあれば教会というところに行けばいい。
咲ちゃんとぬしちゃんは王国へと向かった。
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「はい、通行証です。国内の教会からのサインもあります」
「確かに確認しました!どうぞお通りください!」
修道院を出てからしばらくすると土から石畳で舗装された道に足音とともに変わり話し声が聞こえた。もしかして王国についたのだろうか?話し声が聞こえる。
荷馬車の人の声と、誰だろうか?
「荷の確認もいたしますか?依頼人からも問題ないと仰ってました」
「もちろんです。教会からーといいますと、確か賊共の捕縛に貢献してくださった修道院からの荷ですよね?」
「そうですそうです!ホントに子供が2人いましたよ。」
「一体どうやったのでしようね。まあとにかく、問題ないとは思いますが、荷の確認を始めますね」
ええ!?と話を聞いていた咲ちゃんは慌てだす。隠れようとするが・・・
時すでに遅し。王国の衛兵だろうか、荷馬車の中を確認するため布を剥がし、鎧を着た衛兵は困惑する。
「こ、子供?」
隠れようとでもしたのだろうか。いや・・・なんなのだろう。2人の女の子が伏せながら頭をその小さな手で隠し、尻をこちらに突き出していた。
頭隠して尻隠さず、という言葉を思い浮かべたが頭自体隠しきれていないこれは、本当になんなのだろう。
「い、いないよー」
「いないんだー」
どうやら予想はあってたようだ。お粗末にも程があるが隠れてたつもりらしい。異常があったのかと荷馬車の席に乗っていた男2人も急いで様子を見に来て、衛兵と同じ顔になる。
「ちょ、おい!なに乗ってんだ!?」
「うっそだろ・・・」
子供が勝手にしたことではあったが、気づかずに王国まで乗せてきてしまったことに荷運びの男は焦る。下手したら誘拐したのと同じだ。
どうしてこんなことになったのか、そして知るために2人の男は衛兵へ弁明をしだす。
荷馬車から降ろされた咲ちゃんが最初に見たのは、扉の開いた大きな門であった。
「うわぁー!すごいすごい!ゆうえんちみたい!」
咲ちゃんは1人テンションが上がっていた。2人のいる場所は石でできた門の内側であり、ここで検問を張り不審な物や人物がいないか確認をしていたようだ。門の向こうに見えるはおとぎ話や遊園地の中にありそうな住居が見え、遠くにあっても分かるほどの城のような物も見える。
ぬしちゃんはというと荷馬車の中で何かを探してるようであった。
「まさか、乗ってきちゃうなんてなぁ・・・」
「えーっと、戻ろうか?契約金はそのままでいいぞ。あの嬢ちゃんたちいなくなってまずいことになってるだろうし」
「他の荷の確認は済みましたし、一度教会へと運んでから連絡するのはどうでしょうか」
衛兵も混じって男三人は勝手に乗ってきてしまった子供をどうするか話し合っている。周りの通行人も何事かとこちらを眺めている者もいた。
その最中ぬしちゃんは何かの準備が終わったのか降りてきて咲ちゃんの元へと向かう。
「お、おい!あんま遠くにいかないでくれよ!」
「うん」
顔も見ずに返事をしたぬしちゃんははしゃいでいる咲ちゃんの元へと向かっていく。話を聞いてるのかと不安に思ったが、男はこれからどうするか衛兵へ相談を続ける。
「さきちゃん、じゅんびがおわったんだ」
「じゅんび?」
「うん、これがあればだいじょうぶ」
ぬしちゃんの持っている白いカバンがいつもより膨らんでいた。今まで紙しか入れることが無かったそのカバンは若干だが重そうに見え、動くたびに何か硬いものが擦れる様な音がカバンから聞こえてくる。
2人は見ていたのは住宅の向こうに見えるお城だ。白に近い鼠色の城壁に屋根は青色をしており、咲ちゃんは家族が連れて行ってくれた遊園地を思い出させてくれ不安などどこかに飛んだようだ。
もう少し近くによったら全貌が見えるのだろうか?背の低い2人の目線では壁と1番高い屋根しか見えない。
「すっごいおおきいね!」
「おおきいんだ」
不安は無くなったものの、元居たところと全く違う景色、住人を見て、幼い2人であったがここは日本でないことはすぐにわかった。
街頭らしきものの中に石のような物が入っており、修道院の書室に載っていた魔石と呼ばれるものと似ており、通りゆく人々を見ても服装はファンタジーアニメで見たような服装をしている。中には武装をした者達も通りすがり、その武装も様々だ。
見るもの何もかもが未知の物であり自然と気持ちが高ぶっていた中、ある物を見つけてしまう。
「コタコタなんだ!」
「コタコタ!」
正確には、コタコタの入った包みを持った男を見つけた。その男の体躯は細く群青色の髪色をし、身なりは深い青をメインとした服に皮の鎧を身に付けている。腰には剣、背中には弓を背負っていた。遠目からであるが、その顔は整った顔立ちをしており目つきはするどいが、その手に持っている包みから飛び出ているコタコタに目が行ってしまう。
その男性との住宅の間へと入り込んでいってしまった。
突然の出来事である。ぬしちゃんは咲ちゃんを持ち上げた。
「うびゃあ!?」
持ち上げるというより上に放り投げられたような感覚にデジャブを感じる。森の中でぬしちゃんにおんぶをされる時と同じであった。
そして、これまた同じようにぬしちゃんは背中で咲ちゃんをキャッチしておんぶする。
「ど、どうしたのぬしちゃん!?」
了承も無しにこんなことをされれば言いたくもなる。咲ちゃんは思ったことを口に出し、ぬしちゃんはそれに答えた。
「あのおじさんについていけば、コタコタがあるかもなんだ」
え?
「をことぬしは、はやくコタコタがたべたい」
をことぬし号、涎を垂らしながら急速前進。
「えええええぇ!!??」
やっぱりコタコタが目的じゃないか!!咲ちゃんは心からの絶叫を上げる。
ここが遊園地なら、ぬしちゃんは質の悪いジェットコースターかレースカーと言ったところか。
咲ちゃんを担いでいるにも関わらず尋常ない速度で走り出す。乗ってる咲ちゃんはまたあの地震でも起きたかのよう体が揺れる。
なんというか・・・どうもこの親友はとても頼りになるが、まったく信用ならない。変なところで自分勝手だ。
幼稚園ではこんなことがなかったのに、どうしたことか。
荷馬車にも、背中にも、元凶の口車にもまんまと乗せられた咲ちゃんはどこへ向かうのか。この食い意地のはった相棒にしかわからないだろう。
その叫びに気づいたころには、もう手遅れだ。衛兵を含め男3人は、どんな顔をしていただろうか。
「ああ!??ちょちょ、まってくれ!!!」「何やってんだあのガキ!!」
急いで追いかける・・・のだが、おかしい。
この中で1番走力があるのは護衛のしていた男であるが、直感で気づく。
速い、理解も足も追いつけない。
体格的に見るまでもなく劣っており、同じ体躯の咲ちゃんを担いでいて不利なはずの子供相手にどんどんと距離を離される。
兎相手に追いかけっこをしているかの錯覚に見舞われる。
住宅の隙間に入りこんでいったぬしちゃんを追いかけて、護衛の男は先に通り抜けたが・・・抜けた先は人込みが多く、見失った。
「・・・まじ、かよ・・・」
賢い子は周りに振り回され、アホの子は周りを振り回す。
前者は多少安心できるが、後者はそうはいかない。
シスター達のように子供の扱いがわかっていようと、中途半端な知識しかない独身の者だろうと関係はない。
『子供から目を離すな』
今日1日でその教訓を味わった者は、多い。





