89話 運命の巡り合わせ
運命を定めと称す者たちがいる
運命に抗う者だっている
中でも不思議な者がいるとするなら
結んだ縁によって運命に戻る者達であろうか
黒髪の少女の加護を得た者達による敵拠点制圧。
「あぁあーーっひゃっひゃっひゃ!!なぁあにこれ!?すっごー楽勝じゃなぁい!?」
血のベットリ付いた三日月斧を回しては狂い笑う女豹。
「っは!!なんでぃ?腹の痛みも吹っ飛んじまうくらい爽快だったぜ」
凶悪な鈍器と化している鉄板を悠々と掲げる剣士。
屋内外問わず、一帯に倒れている帝国兵士達が動く様子はまるでなく、死んでいるのか、闇の力によって眠りについているのかすら定かではない死地の中で死神2人が勝利を声を高らかに掲げる。
「おぉい褐色女!そっちにクソ髭いたか?」
「はぁあ?知将だっけ?どいつも兜でわっかんなぃし、そこら辺に頭 転がってるんじゃないのぉー?」
「ああ!?あーマジか、誤魔化してちゃバレやしねーってか?」
胴、足、腕。首さえ繋がっていれば道端の石ころと同義、蹴飛ばしては慣れた手付きで兜を引っぺがしていく。礼儀も作法も足蹴にしてはひっくり返してはみてはいるが、数が多くて非常に手間だ。
「ウチの人んところは?なんだちゃん無事ぃ?」
「トンガリが伝えてくれてんだろ。にしてもキリねぇし戻るか?」
「うぃー」
元修道院であった建物の屋内で剣士と女豹、2人が死体とも区別もつけずに倒れた帝国兵士を蹴り上げていくのは最早作業。無法者と大差ない惨状は常人、ましてや聖職者が見ようものなら卒倒するに違いない。
「こーんな場所、聖堂だっけぇ?サキちゃん達がいなかったらほーんと縁の無かったわーね」
「そりゃ違ぇねえ・・・ってか、サキとぬしには見せらんねぇなこりゃ」
武器や火薬の物置となってしまっているこの場所を聖堂だと彼等でも分かった理由は一番奥に祀られている祭壇の上にある大きな石像。
「死神様ね・・・知んだ親父と先生さんに聞いたくれーだけど」
「へぇー?ウチらはサッパリさね」
天の白、地の赤、輪の蒼。
良き魂は天へと昇り、悪しきは血に沈める・・・改めて考えれてみなくともあまりにありきたり。単純でいて飾り気のない表現ではある。いい事してたらいいところ、悪けりゃ落とすぞ、そんな感じ。
だが・・・剣士の胸の内に何かが引っ掛かる。
輪の蒼とは魂は輪廻を指し、これは生まれ変わりを意味する言葉である事を。
「ちょい待てよ・・・確か、ぬしが言ってたのは・・・」
「は?」
死んでも、生き返れる。
生まれ変わりとは正直 意味合いが違う。
いつもぼーっとしているような銅像の発言。
そもそも神なんて見たことない物をどう信じろと?
だが、紫鉱の遺跡へ向かう日の朝に死について詭弁に語る少女が彼の頭の中については離れない。
日本という場所から2人が来て、どこを辿れど噂の1つも出てこない。今の王国の地図では未確認の場所も多いからというのもあるが、それにしたって情報が無さすぎるが、海を越えた世界までは分からないからこれは不確定。
未知の世界。
冒険者であれば嬉々として探求に向かう道。
「世界ってのは・・・どこまで繋がって」
独り言のように呟いていた剣士の言葉が言い終わる事無くそれは起こった。
「馬鹿牛っ!!!!」
「どぁ!??」
女豹の線美な剛脚によって剣士が蹴り飛ばされ、2人の間を別つかのように雷撃が走った。
「何だっこりゃ!?」
「魔法、いやぁ似た何かだねぇ」
彼女に蹴り飛ばされてなければ鎧を着込んでいる剣士は丸焦げだっただろう。入り口の扉から祭壇目掛けて一直線に放たれたそれは空間をも焦がしかねない圧縮された雷だった。
扉から飛び退くように離れては右に女豹、左に剣士が位置取り駆けながら現れる来訪者を武器を持って待ち構える。
「おい!!あんた達だろ!?ここを襲ったやつは!!」
そう叫びながら現れた男の姿を見て剣士は目を疑った。
「あ!?ガキじゃねーか」
風使いと同じ年頃だろうか?貧相で身軽な革装備を身につけた茶髪の青年へと女豹が口元だけを笑わせながら刃先を突きつけ話し始めた。
「さっきのビリビリ・・・あんただねぇ?」
「そうだ!この賊ども!ここの人たちはどうした!?」
「そこらに転がってる連中みりゃわかんでしょー?ってか賊ぅ?」
「わからん!!」
「・・・なんなんこのっ・・・!?」」
青年の構えていた剣線が振りかざされたその時、女豹の表情から笑みが消え失せた。
「牛っ!!ただのガキじゃなぃよっ!!!!」
「俺らの邪魔すんじゃねぇっ!!」
一瞬にして一直線。迷い無く踏み込んできた茶髪の青年の剣撃が恐ろしく素早く、常人であれば一太刀で終わっていた。剣士が走って駆け寄るが、それをたったの一歩で青年は飛びのいて見せていた。
「でやぁっ!!!」
「どっちくしょ!!」
横へと足を滑らせたかと思えば一気に腰より低く身を小さくして剣士へと斬りつける剣筋に大剣を投げ捨て盾と剣を持ってして迎え撃つ・・・が。
疾い、早い、速い過ぎる。
一手一手に秒も待たないこの男は何者か。力に甘えた瞬間首が飛ぶ。赤い金の盾と剣で凌いだところを三日月斧が青年へと降されるもこれすら回避し、距離を詰めるも取るも相手は一歩でそれをやり遂げるてしまい相手にならない。
剣を横に振るわば縦にいなされる。引けば来る。押せば逃げる。体を上げれば下に、屈めば上を。剛腕も剛脚をも意味をなさない圧倒的強さ。
このまま戦えば、確実に2人は死ぬ。
そう確信を得るほどの実力者を相手に苦戦をするが・・・問題はそうじゃない。
「ぬしの力が効いてねぇ!??」
剣士の思いついた作戦とは、ぬしちゃんの不思議な力を身に付けている全ての武装に付与することが1つ。
『物』という境目が分かりにくかったのだが、存外細かい。
部分的装備1カ所につき1回、それに付いてる装飾にも1回、武器は1回、矢や石等は個別に1回。とにかくぬしちゃんが触れた物は繋がってさえいれば1つと見て良いらしく、完全無敵とまではいかなくともその効果は凄まじい。
付与すれば敵の武装に触れただけで吹き飛ばす最強の加護と皮膚に当たれば1撃で昏睡させる最高の毒。その気になれば小指1本触れてやれば相手はぶっ飛ぶ反則技。弓使いの放った矢など、全射が致命傷になりかねない。
土や砂ですら効果がでたと分かった時点で敵はもう終わったも同然。鎧に触れれば吹き飛んで隙間に入ると昏睡確実の細かな土を風使いの魔法であちこちにぶちまける害悪戦法は見事に炸裂。外れて地面に撒かれてしまえば確認がほぼ不可能な罠となるのだから効力が凄まじい。
だが・・・この青年はその罠の効果も受けずにこの場に訪れた。をことぬしという少女の力について、見落としがあったのだろうかと剣士の頭は困惑で働かない。
「グッっくそ・・・!!?」
そして、彼は完治していたわけではない。腹の痛みに鈍った隙。
自身より強い相手、もしかしたら決闘に応えた帝国の中将以上に厄介であり・・・むしろ慈悲深い相手だったことを悟る。
剣と盾の開いた合間に生まれた死線を青年は見逃さない。
「牛ぃっ!!」
女豹のらしくない焦りの混ざった声が届くよりも早く、剣士の首へと青年の剣が・・・突き立てられようとした。
「待ってっ!!!!」
その言葉1つで青年の動きは時を止める。いや、止まったように見えただけだ。青年の獲物が剣士の首へと一寸もしない位置で驚いたように動きを止めたのだ。
争っていた3人は入口からぞろぞろと入り込んでくる者達へと顔を向ければ、叫んでいたのは聖女であり、その後ろを守るように弓使い達も一緒について来てくれていた。
「待って!待ってください!!彼らは敵では・・・ってあなたは!?」
「その声、え!?どういうことだ!?」
どういうこととは、どういうことか?
武器を降ろして話し出す青年とぬしちゃんを抱えた聖女の2人の関係がよくわからずに周囲は困惑する。
「無事だったか!!ああ良かった!」
「あ、えっと、はい。私達は無事です・・・どうしてあなたがここに?」
「戦争が始まったって聞いたんですけど、それが修道院の近くだと聞いて慌ててきたんですよ!」
「そんな・・・!大変申し訳ありません、実はもうこの修道院からは離れているのです」
「そうだったんですね!いやぁ良かった!あっはっは
あっはっは!・・・あれ?それならどうしてここに?」
張りつめていた空気が一気に萎んだ、というより沈んだというか。死を直感した2人は汗を流して様子を眺め、弓使い、風使い、熊男の3人は入口から外へと警戒をしながら話を聞いていた。
そんな中、ぬしちゃんの蒼き瞳が青年の顔をじーーっと見ている事に聖女達は気がついた。
「ああ!この子元気になったんですね!えーっと・・・をことぬしって名前でしたっけ」
「はいそうです、ぬしちゃんと愛称で呼んでいますが」
「前に会った時は話すどころじゃなかったですから・・・本当に良かった」
青年の手がぬしちゃんの頭へとゆっくり伸ばされ、そのまま頭を撫でてくる姿は明らかな顔見知り。徐々に剣士達の警戒もその快活な青年の姿に薄れていく。
青年の手がぬしちゃんへと触れた時、ぷにぷにほっぺの鉄仮面の口がようやく動いた。
「ちゃいろのおっさん、やっほーなんだ」
「・・・へ??お、おっさん!?」
幼児の目から見たら、老けて見えるのだろうか?
ベアウルフに襲われたあの夜の出来事を覚えていたのだろうか?
お手手を上げて、奇妙な親近感を見せてくるぬしちゃんに子供達を救ってくれた勇者様がやってきた。
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