88.5話 刃の出どころ
生まれた物がどこへ行くか
折れるかもしれない
直せるかもしれない
世界も同じなのだろうか
俺は鍛冶屋。
集め、取り、熱し、叩き、冷やし、鎚を手に取り魂を注ぐ者。俺が生まれて、父が死に、後を継ぐ。
父譲りの頑丈な身体と才能を生かし、育ててくれた母へと恩を報いる事。それが俺の信念、信条。
銅、鉄、金、銀、鉱石を冒険者達が運び、俺が打つ。生まれた武器がどう扱われるか?
モンスターを打ち払うために使われる。害は排除すべき。
砦や国を守る盾となる。助かる。
賊の手に落ち悪意に振るわれる。勘弁願いたい。
見せかけの為に蔵で眠る。構わない。
空から見下ろす太陽と月が幾度回ろうと考えなどまとまらない。真っ直ぐに答えることができない。
己の作った物が振るった者によって罪も名誉も自身に被る。
なんて極端な職なのだろうか。
ある日、俺が炉に灯している時・・・母が露店街で襲われたと当人から聞かされ・・・俺は恐怖で母を抱きしめた。情けなくてもいい、とにかく生きてくれていて良かった。
事情を聞いた俺の心に2つの感情が芽生える。
1つは・・・恐怖。
盗人の扱っていた短剣の特徴を聞いて、すぐに俺が作った物であることに理解が及び、後悔した。もし、その鋼を持って母が傷ついたとなれば・・・炉を潰し、鍛冶など辞めてしまっていただろう。
だが、その感傷は2つ目に拭い・・・洗われる。
母を救ってくれたのは、風変りな背格好をした黒髪の少女だったのだ。
涙を流す母の話からすれば幼児とも取れる背丈をした子供が盗人を不思議な力で倒し、闇へと消えるはずだった手荷物をも取り返してくれたという。
神がいるのなら、恐らく彼女がそうに違いない。
聞けば教会ではどんな傷をも治す白髪の少女が誕生したらしく、その子の友達なようだ。
居所を知って相方と教会に赴いた時、本当に幼児だったのは驚いて言葉がでなかった。こんな小さな子供が母を助けたのだと。
そして、凶刃にも恐れず立ち向かったのだと。
まだ子供だ。馬鹿な噂でこの子を恐れる連中もどうかしている。俺の母を救ったのに、ふざけるな。
・・・お菓子を持っていけば、この子は喜んでくれるだろうか? 食べてはくれるが、そんな小さな体で喉が詰まったりはしないか?不安だ。 今度は水も持ってきてあげよう。
怪我?相方に言ってやれ。
俺はこの子達に菓子を届けたいだけだ。
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森の中の修道院。
ぬしちゃんを取り囲む者達の姿があった。
「コシコシなんだ」
「そうそう!スリスリーってぬしちゃんどんどんやっちゃって!」
「がんばるんだ」
絶賛砂遊びに勤しんでいる黒髪の少女の力を含んだ細かな土や砂利が風使いの魔の力に導かれ、修道院へと降りかかる。
「辺りに兵士は・・・来ていません!」
「・・・わかった・・・」
いつでも子供を運べるように屈んでいる聖女の言葉に岩のような外装を施された重装を全身に身に付けた熊男が答えてくれる。
城の城門で取った構えと変わらぬ不動の姿勢で盾となる彼の背後は咲ちゃんの守護の奇跡とはまた違う安心を与えてくれる。
「あの・・・子供達の為に、本当にありがとうございます」
背を向けたまま壁となってくれる男へと胸へと手を当て心からの礼を述べる。
「・・・好きでやっているだけだ・・・それに・・・」
「それに?」
肩からのしかかるような深い声。決して怒っているわけでも、落ち込んでいるわけでもない彼の素であり、単に口下手なだけな鍛冶屋を営む大男。
「俺の作った物が、子供に振るわれるなど・・・俺は許せん」
だからこそ、彼はこの場にやって来た。
「・・・その子には恩がある・・・刃の使い捨てになど、俺がさせてなるものか」
結んだ縁・・・幾重にも重なった線が彼の心に届いてくれたのだろう。
少女の身を案じる彼の言葉に聖女は深く、深く感謝の意を示す。
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