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第85話 警戒と信頼

連休なのでいくつか連投するかもです。


とりあえず一投目。

 カルトたちにいじめられたが、慣れたものですぐに立ち直ることができた俺は、初めて会ったアーガスと自己紹介することにした。アーガスは見た感じリザードマンだった。


「噂は兼がね聞いとる。わしゃ、アーガスってもんだ。よろしく頼む」


 アーガスとがっしり握手をした。アーガスはドスの効いた低い声と男らしい喋り方が印象的だった。アーガスの獲物はリザードマンに合いそうな槍ではなく、ハンマーを持っていた。


「彼は鍛冶師なんだ。僕の大剣も造ってもらったんだよ」


 カルトは片手に持った大剣を見せてくれた。その細腕でよく持てるものだ。試しに持たせてもらったが、全く持ち上がらなかった。どれだけ力がいる剣なんだよ。


「アーガスは砂漠王殻蠍デザートキングスコーピオンの甲殻を報酬に呼んだんだよね」


「あの甲殻はいい防具になる。是非、スキルのレベル上げに欲しくてな」


 アーガスは興奮しながら言ってきた。なんだ、あれが欲しいのか。それにしても強そうな名前の割に弱かったな。


「蠍の甲殻なら腐るほどあるぞ。先払いで渡しとくか?俺には使う予定ないしな」


「いいの?砂漠は不人気だから高値で売れる筈だよ」


 確認してみると、確かにいい値段がする。甲殻が砂色なだけに隠蔽能力もあるとのことだ。砂漠限定だが、蠍に見つからずに移動できるなら、頷ける価値だ。


「沢山あるから好きなだけあげるよ」


「いいのか!?」


「うん。俺には必要ないものだからな」


 カルトは興奮気味だったが、アーガスはどこか警戒したようだった。カルトはそれに気が付いてスンっと静かになった。


「アーガス。警戒する気持ちはわかるよ。こんなうまい話があってたまるかってね?でもね、八雲にはアーガスが思ってるような裏はないよ」


「そうか……すまぬ」


 どこか納得していない雰囲気があったが、貰えるものは貰うのか、次々とトレードに応えてくれた。蠍の甲殻は丈夫だしいいものだと思う。だが、俺たちには必要ない。というか扱える人がいない。あっても子蜘蛛たちのアスレチック代わりになるだけだ。


「気にするな。俺たちには使い道がないからな。役に立つなら喜んであげるよ。それに量もあるしな」


「そ、そうか。かたじけない……」


 甲殻の代わりにポイントをもらった。最初は遠慮したが、カルトが公平な取引をと、進めてきたので、友達の友達割で安くしたが、量のせいかそれなりに高額になってしまった。


「なんだか悪いな、要らんものを押し付けてるみたいで……」


「そんなことはない!これほど貴重な素材を安価で売ってもらえるなんて嫌なわけないわ!」


 アーガスは声を荒げて言った。顔も真っ赤にして怒鳴っていた。だが、それは俺に対する怒りではあるが、同時に感謝もあった。それだけでアーガスが気のいいやつということがわかった。


「お、おう……」


「わかるよ、わかる。アーガスの気持ちが手に取るように理解できるよ」


 動揺をしめす俺に対してアーガスと同調するようにカルトがうんうん頷いていた。その気持ちがいまひとつ理解できなかった俺は首を傾けるしかできなかった。


 それを目撃したアーガスとカルトは互いを顔を見合わせて溜め息をはいていた。それにより一層困惑した。俺が一体なにしたって言うんだ。


「そんなに持ってたら戦闘中の気掛かりになるから、拠点に預けてくるといいよ。僕たちは待ってるから」


「すまんな……」


 カルトがアーガスに荷物を預けてくるように言うとアーガスは会釈をして去っていった。カルトは見送るとクルリと俺の方を向くとズカズカと迫ってきた。


「もうないよね?」


「ないってなにが?」


「ああいう貴重な素材とか?」


「貴重な素材がどんなものかわからんから、今度持ってる素材持ってくるわ」


「そうしてくれ、ぜひそうしてくれ!僕が適正価格で買い取るからね!」


「頼んだ」


「任された」


 適当に放り込んだせいで溜まりにたまった素材がなくなるなら、嬉しいことこの上ない。あの中には子蜘蛛たちが拾って入れたことすら忘れたものなんかも入ってる。もうどれがどれかなんて覚えていない。


 この前なんか、子蜘蛛たちが前日に持ってきたものをつきだしたら、「なにこれ?ぼくいらないよ!」なんて言ってきて、本当に困ったものだ。まぁ俺も何を入れたかなんて覚えちゃいないが。


 少しするとアーガスが早足で帰ってきた。味噌汁ご飯とも合流して砂漠に向かった。誰か忘れてる気がしなくもないが、おそらく気のせいだろう。


 俺とカルト、味噌汁ご飯とアーガスの四人で向かう場所はボスエリアだ。転移陣を通って最初にたどり着く場所は、俺と味噌汁ご飯とユークの三人で作り上げた秘密基地だ。


「へぇ、こんな場所もあるんだね。来たことないから知らないけど、楽しめそうなところだね」


 カルトはワクワクしているのか、辺りをそわそわ眺めていた。


「これほどの岩があるのか。鉱石に混ぜれば強化できそうだが……また来れるのだ。今はエリアボスのことを考えておこう……」


 アーガスは職人の顔をして岩を触っていた。それぞれの楽しみ方を垣間見たところで、この洞窟を造ったことを教えてみた。


「へぇ!そうなの?すごいね!今度、僕の家もつくってもらおうかな?」


「むぅ……これが他にもあるのか。採掘に来ないといかんな」


 思ってた反応はなかった。とりあえずPMはマイペースな人間が多いってことがわかった。


「採掘もいいけど、目的のエリアボス討伐に行こう。ここにいすぎるのも暑いからな」


 岩の検分をし始めたアーガスを引き摺って洞窟を出た。その時、洞窟の中から声がした。振り返るとそこには息を荒立てた少女の姿があった。


「ちょっと待ったぁ!なんで置いていくんですか!」


 その少女は半ギレしているのか、背中から生やした巨大な骨の腕がビクビクと振動しながらこちらに近付いてきていた。俺の目の前まで来ると、巨大な骨の手で逃げ道を塞いだ。


「あ……お、遅かったな。待ってたよ、うん。本当」


「今、『あ』って言いましたよね?八雲さま」


「言ってないかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


「はぐらかさないでください。カルト様も下手くそな口笛を吹いてないで、ちゃんと八雲さまを大人しくさせてくださいよ!」


「おいおい、それじゃあ、俺が落ち着きのない子供みたいじゃないか」


「みたいじゃなくてそうなんです」


「……え、そうなの?」


「うん」


 ユークに肯定されて、カルトに確認を取ると大きく頷かれた。馬鹿な、俺はこれでも百人以上の父親なんだぞ。


「八雲さまはすぐどっか行ってしまわれるから、こうやって私が監視しとかないといけませんね!本当にどうしようもない御方です……」


 ユークはそう言って、俺の手を握った。これさ、俺と手を繋ぎたいだけだよね?さすがの俺でもこれはわかった。


「ユーク、これから戦いに行くんだけど、危なくない?」


「問題ありません。私が守りますから!」


「いやぁ……俺も前衛で戦いたいんだけど」


「このまま戦えばいいじゃないですか!このレベルのエリアボスなら余裕ですよ。レベル差考えてください」


 ユークの言う通りだが、不測の事態なんてよく起こることだ。これがなにかしらのフラグにならないことを祈るばかりだ。


 カルトたちを引き連れて向かう先はボスエリアなのだが、岩場が段々減ってきている気がする。砂漠への逆戻りをしてしまったかと思った。


「この感じ……そろそろだね」


「そうだな。おそらくあの辺りがそうじゃな」


「行こう」


 カルトが何かを感じ、それに同意する形でアーガスが前に出た。一体、なにを感じ取ったのやら。俺には見当もつかない。なにせ、この暑い中で、幼女、もとい、ユークと手を繋いで歩いているのだ。


 ユークは元アンデッドなだけあって身体がひんやりしているのか、暑さを物ともしていなかった。俺もカルトに冷たくなる服を貰ったから、前よりはマシだ。なら、なにが原因か。それはユークが片手で抱き締めているどろどろとしたスライムにある。


「あ゛っづいわねぇ~。なんで貴方たちは元気なのかしら……」


 オネェスライムは女性らしさをかなぐり捨てて、野太い声で不満を洩らしていた。スライムはひんやりとしたイメージだが、このスライムは普通のスライムとは一癖も二癖も違うらしい。


 すでにオネェ特性と爆弾で二癖くらいはあるが、ひんやりとしないのにもそれなりにわけがありそうだ。


「暑いなら空に行くか?多分、涼しくなれると思うよ」


「やらないわよ!涼しいというか恐ろしくて冷や汗かいちゃうわ!」


 突っ込みをする元気はあるようなのでこのまま放っておくことにした。ユークに抱き締められているので、そこまで暑くないはずだが、エリアボス戦に行く前に溶けていなくなったりしないだろうか。そこだけは心配だ。


 カルトたちが進んだ先で立ち止まっていることに気付いた。なにかを見つけたのか、少し急ぐことにした。


「どうしたの?」


「お、やっときたか。着いたぞ、ここからがエリアボスだ。準備をするといい」


 アーガスは岩に座ってハンマーを磨いていた。その隣で大剣を研磨するカルトの姿があった。二人は念入りに手入れをすると、立ち上がった。


「三人は戦いの前の準備はないのか?」


 アーガスは困惑した表情で尋ねてきた。


「準備運動とか?」


「私はいつも準備万端よ」


「しないですね……」


「僕らと違って武器を使わないからね。準備は必要ないのさ。さて、今回は砂漠なだけあって足場が悪い。砂に気を取られないようにしないとね。最初は僕が突っ込むから、アーガスは三人を守るように布陣して」


「承知した」


「味噌汁ご飯はいつも通り、周囲の探索をお願い。気付いたことがあったら早めに報せてくれ」


「おっけーよ」


 カルトはアーガスと味噌汁ご飯に指示を出すと、ボスエリアの方へと進んでいった。そんなカルトの肩をポンポンと叩くと、「なに?」と振り返った。


「俺たちは?」


 期待を込めた目でキラキラとカルトを見つめていると、カルトは「うっ」と引きつった。しかし、俺たちの圧に負けたのか、苦虫を噛み潰したよう顔をして悩み出した。


「八雲とユークは……」


「俺は……?」


「自由にしてて」


 ワクワクしていると、すっとんきょうな答えが返ってきた。


「は?」


「だって、八雲が僕の言うことまともに聞いてくれたことないじゃん」


 それはひどくないか?これでもカルトとは、それなりに長い時間を過ごしてきた友達だ。カルトの話を一言一句逃したなんてことはないはずだ。


「確かに……」


 ユークよ、なぜそこで同意するんだ。ユークは俺の味方だよね?ねぇねぇ、おかしくない?


「八雲に自由にしてって言ったのは、それだけ信頼があるってことだよ。決してやってほしいことが特にないとかそんなわけはない。八雲のことを信じているからこそ。その時、その時に臨機応変してくれるって僕は考えたわけだよ。わかる?僕の八雲への信頼度がさ!」


「カルト……お前ってやつは……」


「さすがに八雲さまもこれには……」


「さすがカルトだ。俺もカルトのこと信じてるぞ」


「え、ちょ、八雲さま?」


「だよね、僕たちって親友だから、信頼し合えるほど仲が良いんだよね!」


「だな」


「よし!作戦は決まったことだし、行こう」


 カルトがボスエリアに入っていくと、それに続いて俺たちも入っていった。ユークは少しだけむくれていたが、手をぎゅっと握ることで機嫌が回復した。


 ボスエリアに入ると、そこにはオアシスがあった。砂漠にポツンと突如と現れた泉には島があった。カルトはそこへなんの警戒もなしに真っ直ぐ進んでいく。その表情はどこか楽しげで、いつでも動けるように磨かれて光を帯びた大剣を抜いている。


「……来る」


 カルトが呟いた。その瞬間、泉の島を中心に波がたってきた。波は次第大きくなり、島も段々と浮かび上がってきた。島の周りには小さな浮島が現れ、それが姿を現していった。


「これは……(かに)か?」


 泉の水位を半分以上下げて現れたそれは砂色の身体に水苔(みずこけ)を敷き詰め、巨大なハサミを二つ持ち、八本の足が身体を支えた巨大な蟹だった。よくみると口元に小さなハサミを六つ持っている。


 おそらく巨大なハサミは叩き潰し、小さなハサミは器用な作業を行う際のものだ。


「まずは小手調べだ」


 カルトは片手に持った大剣を後ろに構えて、カニに駆け寄った。それにカニは直ぐ様、巨大なハサミを振り下ろして反応した。カルトの位置はハサミの真下だ。一体どう避ける?


「いきなりだねっ!……でも、遅いよ」


 カルトは大剣を誰もいない場所へ放り投げると、その遠心力を使ってハサミを上手く避けた。無手になったカルトはハサミを伝ってカニの目元まで駆け上がっていった。


「ここが弱点かな?」


 拳を握りしめたカルトは躊躇なくカニの目玉を殴り付ける。しかし、目蓋を閉じることでカニは見事防いで見せた。今度はカニからの反撃とばかりに小さなハサミでカルトを追い詰める。


 小さいハサミといっても、大きさはカルトの身体と同等の大きさだ。あくまでもカニの巨大なハサミとの比較だ。小さなハサミでも十分に巨大だ。


 押し付けられたハサミに合わせるように手を置いたカルトは、その力の方向に合わせて自ら飛んでいった。カニのハサミの力とカルトに逃げる力が合わさることで、カニの猛威から逃げ切った。


「ふぅ……案外強敵かもしれないね……」


 その割に随分余裕そうに見えた。


 それに対して、獲物に逃げられたカニは、口元をブクブクとさせて悔しがっていた。

次回の戦闘回の布石。


なんだかんだ、ここのエリアボスは五話前くらいから考えてた。それなりに温められたカニさんです。なんだかカニを食べたくなってきましたね。


ブクブク.。o○

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