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第82話 異色のパーティー

仕事が忙しく、土日にしか書けないので、頑張って複数話書く予定です。この話も3時から書いたので、できれば楽しんでいただければ幸いです。

 八雲様は私に膝枕されて慌てふためいていたが、すぐに調子を取り戻していた。残念だと思いつつも、八雲様は鈍感だからとわかりきったことなので、すぐに諦めがついた。


 その八雲はというと、腰に手を当ててぐびぐびと牛乳を飲んでいた。


「んくっんくっ……ぷはぁ。やっぱり風呂上がりの牛乳は最高だな。背が伸びそうな気がするぜ」


 風呂上がりの一杯を飲んで、至福の表情をする八雲にほっこりしたユークは頬を緩ませていた。可愛いものを見ると、ついついにやけてしまうのは仕方がないことだ。特に女の子であるユークからしても、かわいい八雲は癒し対象である。


「八雲様、そろそろ……」


「あ、そうだな。じゃ、カレー炒飯とカルトによろしく言っておいてくれ」


「「かしこまりました」」


 二人が俺のために残してくれた介抱者にお礼を言って、急ぎ足でその場を離れた。


 ちらっと振り返ると一瞬黒い笑みを浮かべていた。すぐに元の笑顔に戻していたが、その一瞬の表情にゾッとした。やはりか、と思いつつ、ユークの手を引っ張りながら離れた。


「あ、あの、八雲様……どうしてそんなに急がれるのですか?」


「あの二人はまずい気がする……なんだか俺の身に危険が訪れそうな予感がしたんだ……」


「そうでしょうか……?」


「あぁ……あの予感は間違いない。あれは文化祭でのことだ……」


 文化祭、それはまさしく学生主役の祭り。誰もが働き、誰もが楽しめる、人生で限りなく短いイベントだ。


 俺がいたクラスはカルトとユッケ、雪と裕貴の二人がいたため、執事喫茶とメイド喫茶のどちらかをやろうという話になった。


 裕貴は顔はいいが、性格が残念と好評で、雪は顔も性格もいいパーフェクトな存在だ。その二人がいるのだから、執事かメイドは映えると女子が騒いでいた。そしてその二人にどんなコスプレをさせるのかと騒ぎ始めたところで、論争を止めるものが現れた。


 残念イケメンの裕貴と美少女の雪だ。


 裕貴は言った、「醜い争いはよせ!」と、雪は言った、「僕がかわいいのはわかるけど、もっと相応しい人がいるでしょ」と。俺は困惑した。そんな人は一体どこにいるのかと。


 そうして悩んでいるうちに、あれよあれよと、俺は……メイド服を着ることになっていた。「いや、なんで?」と雪に聞くと、雪は嬉しそうに、「かわいいから」と言った。


 いや、待って。なんで、俺?そこは雪でしょ、というと、女子たちに押し切られ、あやふやにされてしまった。雪もその勢いに負けてメイド服を着こなしていた。


 やっぱり雪は可愛いと改めて思った。そして俺は「いやいや、嫌い!」って言ってたら執事服にしてもらえた。なぜか急に態度が変わって、俺のことを擁護するような立ち回りをし始めたので驚いた。


 それでも俺にメイド服を着させようとする人はいた。その人等と介抱者の二人は同じにおいがした。だから、あの場から逃げたかったのだとユークに説明した。


 すると、ユークは「わかる」と呟いた。それを不審げに見ていると、ユークは慌てて「違いますよ!」と弁明してきた。さすがにユークはあんなんじゃないので、信じることにした。


 ユークと二人で拠点に向けて歩いていると、こちらに向かってスライムが歩いてきた。スライムが歩くという表現はおかしいかもしれないが、スライムに脚の概念がないかは俺には否定することができないので、歩くで正しいはずだ。


「あら、こんにちは」


 スライムは俺に向かって挨拶してきた。その声は少女のような声だが、聞き覚えのある声だったので、すぐに誰かわかった。


「こんにちは、味噌汁ご飯」


「こんにちはです、味噌汁ご飯様」


 俺たちは味噌汁ご飯に向かってしゃがみながら挨拶すると、味噌汁ご飯は「その姿勢は辛そうね、私が合わせるわ」と言って人型の少女に変形した。


「これなら話しやすいでしょ。二人はこれから何処かへ行くのかしら?」


「拠点に戻ろうかと思っていたところです」


「そうなのぉ。時間があればいいのだけど、付き合って欲しい場所があるのだけど、いいかしら?」


「というと?」


「東の第二エリアに欲しい素材があってね。あそこに行きたいのよ。でも、この身体でしょ?砂が身体に引っ付いてうまく動けないのよね……真ん中の辺りまで行ければ、岩石で凌げるのだけど、そこにキョテントを張ってる人がいないのよね……本当に困ったわ」


 確かにスライムの身体はベトベトしている。スラマを抱き締めたときに吸い付くような感覚があり、そのせいもあって、時々変なゴミみたいなものを身体に着けているときがあった。


 俺たち蜘蛛やユークのような人型ではそんなことを気にすることはないが、魔物の体質によってはそういう不具合も生じることがあるのだな。


 身体にはないが、蜘蛛の糸にゴミが付着していて、真っ白な糸に異物が紛れ込んでいるときがある。それが常時、身体に起きていると思えば、砂漠なんて悪夢のような不愉快さがあるのだろう。


「それなら、俺がさっきしてきたところだぞ?」


「それ、本当なの!?案内してくれないかしら!」


 急に荒ぶり出した味噌汁ご飯を「どーどー」と窘めて落ち着かせると、詳しく話を聞いた。すると、あのエリアにある岩場には希少な薬草なんかが生えていて、ちょうど欲しいものがあるとかなんとかで、行きたいそうだ。


 第一エリアボスは倒したものの、戦闘中にもあったがやはり砂漠はつらいそうだ。なので、俺たちに一緒に来てもらいたいそうだ。ついでに第二エリアボスも倒せるのなら御の字だとも言っていた。


「俺の目的はエリアボス周回だから、先にエリアボスでもいいか?採取については適宜やってもらう形でどうだ?」


「それでいいわよ。そんなに量が欲しいってわけでもないのよね。少し実験用に欲しいくらいなのよ」


 というわけで、やって来ました、岩石砂漠へ。広場を経由していったのだが、珍しく子蜘蛛たちに遭遇しなかったので、屋台の鬼に伝言を頼んでおいた。


 俺とユークと味噌汁ご飯という異色のパーティーでエリアボスに挑むことになるのだが、連携については行きながら慣らしていく即興っぷりだ。


 俺は主に前衛で、ユークは後衛、味噌汁ご飯には遊撃を頼んだ。味噌汁ご飯が地面を歩くのは不快だというので、俺の背中に乗せようかと思ったが、なぜかユークが拒絶したので、ユークが持つことになった。


 その時にそれも本当になぜか、味噌汁ご飯が「チッ」と舌打ちをしたので何事かと凝視したら、無視を決め込まれた。なにか企んでいたことは間違いないのだが、二人とも喧嘩するなら置いていくぞ?


 転移した先は、風が吹けば砂が舞い、照り付ける太陽が眩しい砂漠ではなく、岩石砂漠。日陰があるものの、その分、岩に隠れた魔物に襲われるリスクがあり、警戒が必要になってくる。


 暑さはないが警戒を解けない。緊張感が高まり、心の休まる暇がない。


「そこで私の出番ですよ」


 ユークは聖骸の霊魂術師(レリックジャーマン)という種族で、蜘蛛聖霊を従える幼女だ。最近まで複数の人格を拗らせていたが、無事一つに統率できたらしい。自信満々に言うのだ、期待以上の事をやってくれそうだ。


「あの、そこまで期待するものでもないので、ハードルあげないでください」


 喋ってないのに、なにかを察せられたみたいだ。


「蜘蛛聖霊ってPHを押し潰すとこしか、見たことないけど、他にもあったのか」


「馬鹿にしてます?」


「するわけがない。PHを倒せるのはいいこと。PHは悪いやつだ」


「まぁ、いいでしょう。毎回、八雲様を説教すると、子蜘蛛たちに嫌われてしまいます。それで、話は戻りますが、蜘蛛聖霊だってすごいんですよ」


 蜘蛛聖霊がポンッと現れて、顔を赤らめてそわそわしていた。かわいい。なんだか久しぶりにあった気がする。頭を撫でてスキンシップをはかる。幼子蜘蛛と一緒に遊ぶだけあって、感情が豊かだ。


「うらやま……あ、違いますよ。撫でられるのいいなぁ……なんて……」


「ん?撫でられたいのか?」


 俺はユークの頭をポンポンした後、優しく撫で付けた。すると、ユークは頬を緩ませて、ニマニマとにやけ出した。それだけ嬉しかったってことだろう。


 そのユークに抱き締められていた味噌汁ご飯は「なんだ、こいつら」という目で見てきたが、敢えて無視をしよう。さっき、無視されたお返しだ。


「その蜘蛛聖霊だったかしら、どのようにすごいのかしら?」


 蜘蛛聖霊を知らない味噌汁ご飯は、ユークの至福のひとときをぶち破るタイミングで言ったため、力強く抱き締められていた。腕が食い込んで瓢箪(ひょうたん)の形に変形した味噌汁ご飯だったが、スライムなだけあって、物ともしていなかった。


「はぁ……せっかくの八雲様との時間が……」


「それはごめんなさいね。でも、ここは一応戦場よ。甘えるのも時と場合を考えなさい」


 ユークに注意をしつつ説明を求める味噌汁ご飯に、若干睨めつつもユークは説明を始めた。


 まず、蜘蛛聖霊は実体を持たない。壁も容易にすり抜けられるし、物理攻撃も避けられる。つまり、偵察には持って来いの能力を持っている。それについては「クロードの同じ存在かしら」と味噌汁ご飯は納得していた。


 それはあまりにも強すぎると思っていたが、魔法は受けてしまうので注意が必要だそうだ。あのPHを捻り潰すのはどうなのかというと、そのときは実体化していたのだとか。実体のオンオフができるので、子蜘蛛たちと遊ぶときと必要なときは実体化しているそうだ。


 蜘蛛聖霊の有能さを証明すべく、早速偵察に向かっていった。俺も常時、気配探知を張るのは気が休まらないので助かる。蜘蛛聖霊が偵察に行っている間に、それぞれの得意分野と戦闘方法について共有しておく。


「まず俺からだけど、基本的になんでもやるけど、今は今後のことを考えて格闘に力を入れてるかな。もちろん、糸と魔法も併用するけど、せっかくの機会だし前衛の立ち回りを理解していきたいところだな」


「私は蜘蛛聖霊に指示を出すのがほとんどですが、元々の種族のこともあって、こんな風に身体から霊体を生やすこともできます」


 そう言うと、ユークの身体から人の手が数十本と生やして、それぞれが狐の構えをした。他の人格が操作しているのだろう。俺の頭を撫でてくる手もいた。それを見たユークはすぐに引っ込めていたが、ユークの口元が緩んでいることは見逃さなかった。


「それから、こんな風に吸収した魔物の一部を生やすこともできます」


 ユークの身体から生えたのは見覚えのある尻尾と耳を生やした。狼の耳と尻尾はユークの幼さに合わさったのか、異常に軟らかな手触りだった。触る度にユークが口を押さえてもなお、「んっんっ」と我慢するような声を出していたので、今はやめることにした。


 ユークの能力に俺以上に度肝を抜かれた味噌汁ご飯だったが、ユークに対して「見直したわ。貴方は私のライバルに相応しいわね……」と謎の言動を口走っていたが、それに関してはスルーして味噌汁ご飯の能力について聞いた。


「私はそうね……この身体を使う場合はユークちゃんとそう変わらないわね。でも、ユークちゃんよりはもっと変幻自在よ。だって私はスライムだもの」


 そう言って、実演はしなかったものの、襲撃イベントの時に戦闘はそれなりに見ているので、問題なしとした。


「あとはそうね。私がつくった武具やら爆弾かしら?」


「爆弾?」


「ええ、でも今回はパーティーを組んでるからあまり出番はないでしょうけど、威力だけはすごいわよ。被害を考えなければ……」


 そういえばユッケから聞いた覚えがある。βテストのときに町の前に地雷を敷き詰めて爆破した人がいるとかいないとか。凶悪な武器については機会があれば見せてもらうことにして、味噌汁ご飯には俺とユークのカバーに入ってもらうことにした。


 それとなく戦闘方法については決まった。ちょうどいいことに蜘蛛聖霊が偵察から帰ってきたので、ユークから説明を聞くことにした。


「それで?ふむふむ……うん。そっか……それは大変そう……」


 なにやら蜘蛛聖霊と話し込んだユークはこっちに詳細を教えてくれた。まず、この岩石はただの岩ではない。これは巨大な貝殻のような存在だそうだ。これはこの岩石砂漠に住まう魔物の家だという。


 それは海にいるヤドカリと同じ習性を持っていて、この巨大な岩石に住んで生活しているそうだ。詳しくはわからないが、動いていない岩石は宿主がいなくなったもので、中には味噌汁ご飯が言っていた薬草があるとのこと。


 それから、この岩石砂漠にはヤドカリ以外にも、もう一体、強力な魔物がいるそうだ。それが砂漠でぷりっとしたお肉様をもつ大蠍だ。それが岩石の上にたくさんいて、上を通っていくのは厳しく、見つかると視界内にいる大蠍が岩石を砕きながら襲ってくるそうだ。


「なるほど、なるほど……うん?なんで蜘蛛聖霊はそこまで詳しい話を知っているんだ?」


 ユークに疑問をぶつけると、蜘蛛聖霊があらぬ方向を向いた。明らかになにかを隠している。そしてそれをユークはわかっているのか、教えてくれた。


「それはですね……絶賛逃げてきたところだそうです」


「つまり?」


「つまり……」


 ユークが言う前にそれは現れた。それも複数体。岩石の隙間から覗き込むように現れたそれは巨大なハサミを岩石を気にすることなく叩きつけてきた。

密には気を付けましょう!ってテレビで言ってますが、個人的には居酒屋に行くより電車に乗る方が密度が高いので、危険だと思っています。なので、土日だからと羽目を外しすぎないようにしましょう。


まぁ……雨降ってるから外に行かないだろうけど……。

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